21.ルシファーの言葉
「アルト兄!! 私の後ろに……」
「ふざけんな、妹に守られる兄がいるかよ、俺は……お兄ちゃんだぞ!!」
「静かに……サティに気づかれる」
たった一言だった。その一言で俺とアリシアは微動だにできなくなった。これはまずいんじゃ……そう思った直後だった。彼は……ルシファーは暖かい目をして微笑んだ。
「アルト君でいいのかな? 君は私の娘のサティと仲良くしてくれているようだね。あの子は魔王の娘という立場だったからかな。あまり友達ができなかったんだ。私もその事にはエルダースライムと一緒に頭を悩ませていたんだ……だからね、あの子があんなに自然な顔で、楽しそうに手をつないで喋っていたのを見て私は安心したんだ」
「ルシファーさん……あなた正気に戻って……ていうかどこから聞いていたんですか?」
「ああ、君がサティの事を知りたいって言う風に言っていたあたりからかな。白骨死体状態だったから身動きはできなかったけど、自我はあってね……肝試しきぶんかもしれないけど、ああいうことは誰もいないところで言った方がいいよ」
「全部じゃねえかよぉぉぉぉ!!」
「アルト兄はサティさんと手をつなげて随分とたのしそうだったもんね……」
暖かい目で見るルシファーさんと、ジト目なアリシアを横目に、俺は思わず顔を真っ赤にしながら絶叫をする。ちょっと待ってよ。口説いたようなセリフももちろんのこと、初めて手をつないでいた時のドキドキとしていた事とか、全部サティさんの父と、妹みたいなアリシアに見られていたという事なのだろうか。
家族に見られたくない場面NO1じゃん。マジで死にたいんだけど……
「気にしなくてもいいさ、ただ君に感謝の言葉を言いたかったんだ……私の可愛いサティの友人にね……君といる時は魔王としての重圧も忘れて楽しそうだった。エルダーも君の事を信頼しているようだし、安心してサティの事は君に任せられる。これで思い残すことはないよ。まあ、魔王としての重圧に耐えられなくて逃げ出してしまった愚かな私にそんな事をいう資格はないし、彼女は私を憎んでいるだろう。そんなクズな父に何を言われても嬉しくはないだろうけどね……」
そう言うとルシファーさんは悲しそうに、目を伏せる。俺はルシファーさんとサティさんの間に何があったのかは知らない。魔王の仕事がどんなことをするかだって正直あまり知らない。だから魔王の重圧っていうのはよくわからない。
だけど……そんな俺でもわかることがある。サティさんと一緒に魔王城へ行った俺にはわかることがあるのだ。
「サティさんが俺を魔王城に連れてきてくれた時のことです。彼女は魔物と人が一緒に住んでいる街を歩きながら、この街が好きって言っていたんです。祖父の時のような戦いばかりの街よりも、ルシファーさんが作った魔物と人が共存する街が好きだって誇らしげに好きだって言っていたんですよ。だから、話したくないなんてことは無いと思います」
「アルト君……そうか……サティはそんなことを……ふふ、ありがとう。だけど、私もそろそろ時間のようだ……所詮私は死んだ身だ。これ以上彼女の心を煩わせるのもあれだしね……最後にサティの理解者になってくれた君に一言だけ伝えたいことがある。ちょっと失礼」
そう言うと、彼は俺の耳元で囁く。
「『巨乳美少女ファンタジー王国』には裏オプションがある。私の名前を出せば案内してくれるよ。ストレスがたまった時は活用してくれ」
「え、あ、は?」
そう言ってニヤッと笑うと彼の体が顔が真っ黒な塵と化していく。いやいや、これが最期の言葉でいいのかよぉぉぉぉぉぉ。
そして、気づくと俺の体が自由になっているのに気づく。アリシアはどうだろうと思い振り向くと、彼女はなぜか胸元を必死に隠していた。
「一体どうしたんだ、アリシア?」
「あの人ちらちら私の胸元を見てきてキモかったよ、アルト兄……」
マジでぶれねえな!! ルシファーさん!!! 俺はどこまでも自分の本能に忠実だったルシファーさんに畏敬の念を抱きながら、フルチ〇のイケメンに胸をちらちら見られていたアリシアを慰めるために頭をなでてやるのだった。
「アルトさん、こっちは終わりましたよ。ほら、デスリッチうるさいですよ!!」
『サティ様、どうかお許しをーーー!!』
「あ、これは私が封印しておくね」
「どうぞ、つまらないものですが」
器用に涙を流しながら何やら叫んでいるデスリッチをアリシアにサティさんが渡す。そんな彼女を見つめていると彼女はどうしたんですか? とばかりに首をかしげる。
「サティさんは……お父さんの事をどう思っていますか? 容赦なく攻撃をしていましたが……」
「ええ、まあ、あれはアンデッドでしたしね、自我がないゾンビはただの敵ですよ。それに、本当の父なら私ごときの攻撃なんて絶対くらわないでしょうし……そりゃあ、ちょっとは恨んでいますけど……」
そして、言葉を一言切って、ルシファーさんが倒れていた位置を見つめながら彼女は言った。
「だけど、父は魔物と人の共存への道を作ってくれました。魔王の仕事をほっぽり出してどこかへ行ったあげくに、勝手に死んでいたのはどうかと思いますが、でも、父もエルダーや私に色々と託して問題ないと思ったから、旅立ったんだと思います。私はまだまだ未熟ですが、エルダーや他の魔物と一緒に街を発展させていくことや、冒険者ギルドの受付嬢をやったこと……そして、アルトさんに会う事が出来たのは父のおかげです。だから嫌いだなんて思っていませんよ」
「そうですか……」
そう言ってちょっと恥ずかしそうにはにかむ。でも、この感じなら伝えても大丈夫だろう。
「ルシファーさんはサティさんの事を心配していましたよ。それで……サティさんに申し訳ないって思っていると、そして……俺にサティさんをよろしく頼むって言ってました」
「ふーん、そうですか……だったら直接言ってくれれば、ちゃんと聞いたのに……だけど、アルトさんありがとうございます。その……父の……気持ちを伝えてくれて。でも、父が私を頼むだなんて、どんな説明をしたんですか」
「いや、違うんですよ、ちょっと何か言い方がまずかったですかね?」
ちょっと恥ずかしくなって、俺が頭をかいているとサティさんは俺のそばによってにっこりとほほ笑む。そして、なぜか俺の腕を掴んで一言。
「ええ、まずいですよ、だって、アルトさんはアリシアさんっていう巨乳の婚約者がいるんですから」
ああ、そうだ。この誤解がとけてなかったぁぁぁぁぁぁ!! てかサティさんむちゃくちゃこわいんですけどぉぉぉぉぉ!!
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