20.デスリッチ

先代魔王であるルシファーの戦闘力は圧倒的だ。おそらくまともな方法では勝てないだろう。だけど、こいつには致命的な弱点がある。

 そこさえつけばあるいは……



「サティさん、まだ、攻撃魔術は使えますか?」

「あ、はい、もちろんです!!」

「では俺が合図した時に最大級の攻撃をだせるようにしておいてください」



 俺が彼女の肩を叩いて、一言聞くとこの世の終わりのような顔をしていたサティさんは正気に戻ってうなづいた。どうやらまだ戦意は失っていないようだ。俺は安堵の吐息を漏らす。



『フハハハハハ、人間よ!! 貴様が何を考えていても無駄だ。ルシファーは史上最強の魔王だぞ。勇者や、魔王ですら勝てない相手に貴様が何をできる』

「何をできるって? 鑑定だよ!! 俺の大切な友人のサティさんや、幼馴染のアリシアを傷つけやがって!! 絶対許さないぞ、デスリッチ……いや、オベロン=アンダーテイカー!!」

『な……』



 得意げに笑うデスリッチに俺は言い返す。本名を言われたデスリッチは明らかに動揺した様子で呻く。もっともっとだ。相手を動揺させろ……魔術は精神集中が大事だ。サティさんが集中する時間をつくり、デスリッチの集中力を乱すのだ。



『貴様がなぜそれを……鑑定スキル? まさか、貴様物だけではなく人や魔物も鑑定できるのか!?』

「ああ、そうだ。だから、お前の目的だってわかってるぜ!! 初恋の幼馴染を奪われたからって関係のない人々を巻き込んで戦争をするつもりかよ!!」

『貴様に何がわかる!! 私は両想いだった初恋の人を親友だと思っていたあの勇者に奪われたのだぞ!!』

「え? それは本当なのか……?」



 デスリッチの言葉に俺は思わず聞き返す。俺だって男の子だったんだ。勇者にあこがれたこともあった。そりゃあ、人間だ悪い事だってするだろう。でもさ、勇者だぜ、親友の想い人を奪う事をするなんて……

 でも、もし、本当にそうなのだったら、少しデスリッチが可哀そうになってしまう。



『カレンは三人で一緒に冒険をしていた時に我が転んだ時に、大丈夫と聞いてくれたし、手料理だって振舞ってくれた。そして、戦闘中に時々アイコンタクトをしてくれたのだ。彼女の気持ちは聞いたことはないが両想いだったに違いないのに、それを勇者は……』

「ねえ、アルト兄……それって……」

「ああ……」



 あきれた様子のアリシアが俺にどうしようとばかりに そりゃあ、パーティーメンバーが転んだんだ安否確認くらいするし、一緒に旅をしていれば料理くらい振舞うだろう。パーティーだったらアイコンタクトをする。

 俺はおそるおそる恐ろしい真実を確認する。



「その……デートとかはしたのか?」

『愚かな。そんな恥ずかしい事できるはずがないだろう。カレンは照れ屋だしな。デートなんて……」

「うわぁ……」



 アリシアがドン引きした声をあげている。こいつもブラッディクロスさんみたいにこじらせた系かよぉぉぉぉぉ!!!!

 幼馴染じゃん、マジでただの異性の友人じゃん。これ、絶対勇者と聖女は二人で影でイチャイチャしてるやつじゃん。



「アリシア……現実を教えてやってくれ……」

「うん……あのね、デスリッチ……それは両想いじゃなくて、ただの片思いだよ……あのさ、思い出してみて、三人で冒険していた時になんかやたら勇者と聖女が二人っきりになっている時とかなかった……?」

『貴様何を……いや、そういえば我には宿で休んでいるように言って、いつも買い出しは二人で行ってたな。それに、時々治療と称して、勇者が聖女の部屋に行っていた気が……』



 それ絶対イチャイチャしてるじゃん!! 治療という名のプレイだよ!! デスリッチもその事実に気づいてしまったのか、呆然とした顔をする。




『そんな……じゃあ……我は道化だったという事か……なんのためにアンデッドになってまで復讐を……』



 悲しすぎる現実を知ったデスリッチが、この世全てに絶望したかのような苦痛に満ちた声を漏らす。なんかすごい罪悪感が出てきたんだが……

 鑑定しなくてもわかる、無茶苦茶精神状態が乱れている。いまだ!! デスリッチのルシファーへの支配が弱まった。



「アリシア!! いますぐここで素振りをしろ!!」

「うん、わかったよ、アルト兄……え、素振り? 斬りかかるんじゃなくて?」

「いいから早く!! 間に合わなくなる!!」

「なんだかわからないけどわかったよ!!」



 俺の言葉に一瞬怪訝な顔をしたがアリシアが素振りを始める。王都で習ったであろう、綺麗なフォームで剣を振るう姿は美しく、そして、おっぱいがバルンバルンと揺れる。やっぱりやばいな!! そのおっぱいで勇者は無理ですよ。

 そして、俺の計算通り、ルシファーの視線はアリシアの胸へと注がれる。



『ええい、もうよい!! こんな世界滅んでしまえばいい!! ルシファーよ、その力をもってして勇者と魔王、ついでにそこの男を倒すのだ!! 我は間違ってない!! 我と聖女は両想いだったのだ!!』

「……」

『ルシファー?』



 返事はないただの屍のようだ。まあ、実際屍なんだけどな。そして、ルシファーは相も変わらず、アリシアの胸をじっと見て微動だにしない。いや、口を開いて一言ぼそりといった。



「ナイスおっぱい……」

『馬鹿な我の執念よりも煩悩が勝ったという事か!!』

「いまだ、サティさん!! 大きな一撃をぶちかましてください!!」

「任せてください!!」



 俺の一言でそれまで集中していたサティが返事をする。その右手には見たこともないほどの、圧倒的な魔力が籠った漆黒の球体が作られていた。



「みんなみんな、おっぱいおっぱいってそんなに巨乳がいいんですかぁぁぁぁぁ!!!」

『ルシファーよ、動け、なぜ、動かん。いやマジでやばいって!! ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』



 サティさんの悲痛な叫び声と同時に放たれた一撃によってアリシアの胸に集中していて盾を使う事もしなかったルシファーごとデスリッチは吹き飛ばされて洞窟の壁にすさまじい音を立てて、吹き飛んだ。

 土煙がはれて見えたものは、気を失ったルシファーと、悔しそうにこちらを睨んでいるデスリッチだった。



『そんな……歴代最強の魔王が敗れるだと……』

「魔王と勇者の力を甘く見たな!! デスリッチ。これで世界の平和は守られた。流石です、サティさん!! アリシアもよくやったな!! 王都での修業の成果が出たじゃないか。流石勇者だぜ!!」

「我が家の恥をアルトさんにさらしてしまいました……死にたい……」

「うう……褒められてもうれしくない……素振りをしていただけだし、何かすごいむなしくなったよう……」



 俺は歴代最強の魔王を倒したという事で、二人を褒めたたえたがなぜか、サティさんもアリシアも元気がない。せっかくの勝利なんだからもっと喜ぼうぜ!!

 どう元気づけようかと思っていると、俺は器用に頭だけでぴょんぴょんとカエルのように跳ねているデスリッチを見つけたので捕える。



『クソ人間がぁぁぁぁぁ!! 貴様のせいで我の完全な策略が狂ったではないか!! 女の子と二人っきりになっても全然手を出さないヘタレめ!!』

「うるせえ、俺は紳士なんだよ!! 初恋こじらせてるお前にだけは言われたくねーー!! 俺の大切な友人のサティさんや、大事な妹のアリシアに迷惑をかけやがって!! 絶対許さねえからな!!」

「アルトさん……ソレの処罰は私に任せていただけないでしょうか? 色々とお話をしたいんですよ、ね、デスリッチ」

『ひぃぃぃぃぃぃ!!』

「はい、どうぞぉぉぉぉ!!」



 いやいや、マジでこわいよぉぉぉぉぉ。サティさんから凄まじい殺気を感じて俺は秒でデスリッチを売った。デスリッチがこの世の終わりのような顔をしているがまあ、いいか。

 


「それで……誰がスライムパッドですか?」

『あれは小粋なジョークですぅぅぅぅ!! サティ様は巨乳でお美しい最高の魔王様ですぅぅぅぅぅ!!』

「わかればいいんです。それはさておき、あなたは度重なる反逆の罰として、四天王からの一般兵への降格、また、あなたの魔力も奪わせていただきます。そうですね……ごく一般的なスケルトンくらいまで戦闘力は落ちますが文句はないですね?」

『はい、もちろんです……私がサティ様に逆らうなんてとんでもない……』

「あとはそうですね……ウィンディーネの元で働いてもらいましょうか。彼女は真面目でしっかりした女性ですから、あなたのその腐った性根も少しはマシになるでしょう」

『ウィンディーネだと……いやだぁぁぁぁ、あいつの元だけは勘弁してください、あいつが一番やばいんですぅぅぅぅ!!』


 

 デスリッチの悲痛な叫び声が洞窟内に響く。待って、一番やばいウィンディーネってどんだけだよ……俺はちょっと想像してこわくなった。



「それにしても、ルシファー……恐ろしい相手だった、まともに戦ったらやばかったな……」

「そうだね、私もまだまだってことに気づいたよ……四天王を倒しただけで調子に乗ってる場合じゃなかったね」



 騒いでいるサティさんとデスリッチは放っておいて俺はアリシアと一緒に顔を見合わせながら、ルシファーを眺めていると、パチリと目を開いた彼と目が合った。

 まだ生きているのかよ!?

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