18.修羅場を救うもの
聖剣が放つ光の刃と、魔王の放つ闇魔術のがぶつかり合う。目の前で何度も繰り返される光景を俺はずっと鑑定していた。
アリシアが放つ光刃を魔王の漆黒の盾が防ぎ、魔王が漆黒の刃を放てば、アリシアは聖剣でそれをはじく。一進一退の攻防が続く。
「聖剣の力を使っても攻撃が通らないなんて……」
「たった一人相手に私がこんなに苦戦するなんて……」
アリシアとサティさんはお互いに相手の強さに驚いているようだ。身体能力こそサティさんが上だが、格上との戦闘経験の多いアリシアがその不利を帳消しにしているのである。
そして、しびれを切らしたのか、アリシアは遂に聖剣の光刃を凝縮し刀身に纏わせる。おそらく接近戦で決めるつもりだろう。
「これで決める。喰らえ、魔王!! 君がアルト兄を狂わしたんだぁぁぁぁ!! アルト兄を解放しろぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「何の話を!! 私とアルトさんは友達……じゃなかった、恋人なんですよ!! その……ラブラブなんですよ!! 絶対に解放なんかしません!!」
「うわーん、ずるいよぉぉぉ、やっちゃえ、エクスカリバー!!」
「そう来ると思ったよ、アリシア、お前はジリ貧になると昔から一気に決めようとするよなぁぁぁ!!」
サティさんが漆黒の盾をつくり、アリシアがそこにつっ込もうとする。その瞬間にエルダースライムを飲んで身体能力が上がった俺は割り込む。
正気を失うような行動だが、俺には勝算があった。ひたすらアリシアの使用しているスキルを鑑定し、あいつがこのタイミングで使うであろうスキルを絞ったのだ。
「俺のために争わないでぇぇぇぇぇ!!」
「アルトさん!?」
「アルト兄!?」
一回言ってみたかったんだよな、このセリフ。俺は漆黒の盾で身を守っているサティさんと、ちょうど聖剣を振り上げて、スキルを使用しようとしている二人にそれぞれに手を突き出して割り込んだ。
「きゃぁぁぁぁぁ」
「ごはぁ!!」
「アルトさーーん!!」
知ってるか? 勇者は急には止まれない。アリシアが剣を振りかぶったまま止まる事ができずに俺に衝突する。
そして、俺はすさまじい勢いのアリシアを受け止めようとしたがそのまま、勢いを消しきれず、漆黒の盾に衝突した。咄嗟に、アリシアが頭をぶつけないように抱きかかえて庇う。なにこの漆黒の盾、体力が奪われるんだけどぉぉぉぉぉぉ……
てか、アリシアのおっぱいが顔に当たって、幸せだけど、サティさんの盾によって生命力を奪われているのでまさに、天国と地獄である。
「アルト兄……なんで私を守って……? 魔王に魅了されているんじゃ……」
「いや、だからさっきから何の話だよ、俺はサティさんに魅了なんてされてないぞ。正気だっての!!」
「そんな……ちょっと調べさせて!! 光の精霊よ」
アリシアの言葉と共に俺の身体が光輝く。なんかちょっと気持ちいいな、これ。てか、こんなことできるなら最初からやれば、解決してたんじゃ……まあ、デスリッチに何か言われてたんだろうけど……
「本当だ……魅了されていない……」
「おそらくデスリッチの仕業でしょうね。彼は虚言を得意とします。以前もねずみ講を広めようとして、エルダーに説教されて、泣きながら土下座してましたし……アリシアさんはデスリッチに騙されたのでしょうね」
デスリッチのやつ、泣きながら土下座しすぎじゃない? それはさておき、サティさんの言葉にアリシアがショックを受けたように
「そんな……でも、サティさんは本当にスライムパッドだったよ!!」
「くはぁ!!」
「サティさーーん、大丈夫ですかぁぁぁぁぁ?」
「大丈夫です……ただの致命傷です」
アリシアの心無い一言で胸を押さえながらうずくまるサティさんに俺は声をかける。多分これまでのアリシアの攻撃で一番ダメージ与えたんじゃないかな?
「でも、魅了されてないんだったら、、なんでアルト兄はサティさんと付き合っているのさ。私と婚約をしているっていうのに!!」
「「は?」」
アリシアのよくわからない言葉に俺とサティさんは同時に間の抜けた声を出す。そして、俺が言い訳をする前に、サティさんの手が俺の腕を掴んだ。
うおおおおおおおお。エルダースライムのおかげで身体能力が上がっているはずなのに、まじで体が微動だにしない。まじで魔王からは逃げられない。
そして、サティさんはにっこりと、だけど、目には一切感情の無いまま聞いてきた。
「アルトさん、どういう事か説明してくれますか? 嘘ですよね……それとも……私の事を弄んだんですか?」
「いやいや、マジで俺もわからないですってば!! サティさんこわいよぉぉぉぉぉぉぉ!!」
今ならアグニの気持ちもわかるわ。マジでプレッシャーがやべえんだよぉぉぉ。サティさんだけではなく、胸のスライムも抗議とばかりか激しく動く。
『ふむ、どちらかはもっと負傷するかと思いきや予想外だったな。中々やるではないか人間よ』
そんな俺達に声をかけたのはデスリッチが入った箱を持った白骨死体だった。あれだ、洞窟にあった白骨死体じゃん。ただの屍じゃないのかよ。ちなみに喋っているのは箱に入っているデスリッチである。
でも、助かったわ。ありがとうございます!!
「デスリッチ? そんな、その箱に入っている限りは魔術は使えないはず……」
『ああ、そうだ勇者よ、貴様のいう通りだ。我はまだ魔術は使えぬ。この屍にはアグニに運ばせる前に元から死霊魔術をかけていたのだよ、私が近くに来たら言う事を聞くようにな!!』
「そう……だけど、その箱の封印は君じゃあ壊せないよ。四天王の力にだって耐えるように聖女が作った箱だからね」
『ああ、そうだ、この箱の封印は強力で、私はもちろん、ウィンディーネや、アグニ、エルダースライムですら無理だろうよ、だが、魔王ならばどうかな?』
「え、私……ですか?」
デスリッチの言葉に俺の腕を掴んだままのサティさんが疑問符を浮かべる。そうだよ、この状況でサティさんがデスリッチの封印を解くはずが……まさか、デスリッチは魔物たちに、サティさんがパッドだとばらすつもりなのか? くそ、ゆるせねえ!!
だけど、それは俺の勘違いだった。デスリッチを持っている白骨死体がそのまま箱を手に取り何やら力を込め始めたのだ。
『いいや、サティではないよ、我が封印を解くのはこいつだ』
ピシリピシリと封印の箱にひびが入り、まるでおもちゃのように砕け散った。そして、自由になったデスリッチはこちらを嘲笑うかのように声を上げる。
「そんな……あの箱を壊す事を壊すなんて……ありえないよ……この骨の正体ってまさか……」
『そう、この死体こそ、最強の魔物なのである!! かつて我々のパーティーを苦しめた魔王すら凌駕すると言われたその本来の姿をみせよ!! 受肉するのだ、ルシファー=エスタークよ」
箱から解放され、魔術の使えるようになったデスリッチの言葉と共に白骨死体が禍々しい光を放ったかと思うと、白骨死体の姿が変化する。まるでミスリルのような煌びやかな銀髪に、どこか神々しくも禍々しい金色の眼、そして、見るものを震わす美貌の男が現れた。
その何とも言えない威圧感に俺は恐怖を感じる。
「きゃあ」
アリシアが悲鳴をあげるのも無理はないだろう。ただそこにいるだけですさまじいプレッシャーを……って違うわ、アリシアが悲鳴あげた理由わかったわ。
こいつフル〇ンなんだよ、そりゃあそうだよ、受肉しても服はないもんな!!
「アリシア、指と指の間からみないの!! お兄ちゃん怒るよ」
「見てないもん!! 別にアルト兄の以外には興味ないから!!」
いや、俺のにも興味もってもらっても困るんだが……サティさんはと思うと彼女はルシファーをじっくり見て呆然とした表情をしてる。
そんな風に裸の男を見るなんて少し嫉妬してしまう……もしかして、むっつり魔王なのだろうか?
「そんな……お父様……」
え、このフル〇ンのイケメンがサティさんのお父さんなの?
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