17 魔王VS勇者


「光り輝けエクスカリバー!!」

「くっ!? なんという光!! ですが、この程度では私の守りは突破できませんよ!!」



 アリシアの持つ聖剣の刀身が輝きを帯びたと思うと彼女が剣を振るうたびに光刃がサティさんに襲い掛かる。

 しかし、その攻撃が届くことはない。彼女を覆う闇のオーラのようなものが光刃をはじいているのだ。



 いやいやいや、何がおきてんだよ、ってか、何あの聖剣? 何で剣で遠距離攻撃できんだよ。ずるくない?



「アルト兄を返せ! 魅了した上に彼女を騙るなんて卑怯じゃないか!!」

「なんの事ですか!? 魅了なんて出来たら苦労しませんよ!! 私とアルトさんは、その……色々とあって、仲を深めたんです! 魅了なんてしてません!」

「じゃあ、なんでこんなことになってるのさ!? 私の方が仲は良いし、付き合いも長いもん! お風呂だって一緒に入ったことあるんだよ!!」

「一緒にお風呂……ですか? うう、それくらい……私なんて、実家を案内しましたし、親代わりとも挨拶を済ませましたよーだ」



 ねえ、ちょっと待って!? なんの話をしているんだ? お風呂ってマジで子供の時の話じゃねーかよ。

 というかさ、もしかしてと思ったが、アリシアって俺の事を好きなのか? しかも、異性として……

 そんなことが頭をよぎった瞬間だった。




『勇者よ、魔王は攻撃と防御は同時にできん、その隙をつくのだ!!』



 俺が二人の戦いを見ていると、アリシアの左手に握られた箱の中から声が響く。なんだあれ? ってか中身頭蓋骨じゃん。きっしょ!! アリシアのやつ何持ってんの? 落ちたもんひろっちゃダメって今度言わなきゃ……



「デスリッチ!? あなたは何をやっているのですか? なぜ、勇者といるのですか?」

『魔王よ、あなたの考えでは我が願いはかなわない。ゆえに裏切らせていただく』

「こいつは私が倒したんだけど、泣きながら土下座をして、魔王軍の情報を言うから命だけは助けてくれていうから利用することにしたんだ」

『言い方ぁぁぁぁぁ!! 我の巧妙なる交渉の結果と言わんか、クソ負けヒロイン勇者……あ、ごめんなさい、クソじゃないです。負けヒロインじゃないです。痛いから封印を強めるのをやめんかぁぁぁぁぁぁ』

「この男は……どうやら四天王追放だけでは済ませられませんね……」



 情けない声を上げるデスリッチにサティさんが呆れたように言う。いや、こいつ四天王のデスリッチなのかよ……マジで四天王ろくなやついねーんだけど……


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名前:デスリッチ(生前:オベロン=アンダーテイカー ) 


 職業:四天王(リストラ寸前、元先代勇者の仲間

 戦闘能力:999

 スキル:死霊魔術・策略・精霊魔術

 性癖:幼馴染萌え

 備考:かつては先代勇者と親友だったが、魔王を倒した後に、同じパーティーの初恋の幼馴染の聖女が勇者とキスをしたのを見たことによって自分の初恋が破れたことに気づきショック死した。勇者と聖女が作った国を亡ぼすためにリッチとして生き返ったが現在の魔王が人と共存しようとしているため、反旗を翻そうとしている。

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 いやいやいや、ちょっと待って!! 情報量が多すぎるんだけど!! こいつ先代勇者の仲間だったのかよ。しかも、初恋をこじらせて国を滅ぼそうとしてんのかよ!! この事をサティさんは知ってるのだろうか?



「サティさん、デスリッチの正体って……」

「あー、もう、うるさいし邪魔だなぁ、ぽーいっと」

『にぎゃぁぁぁぁぁ、クソ勇者ぁぁぁ……』



 俺がデスリッチの事を伝える前にアリシアが箱をしめて後ろに放り投げて、何事もなかったように剣を両手に持ち帰る。

 うん、そうだよね、戦うのには邪魔だよな……俺は乾いた音をして床に落ちるデスリッチの箱を見て思う。何か勝手に封印されたし、あいつはもういいか……



 それよりも問題はこっちだよな……



 闇の力と光の力がぶつかりあうのを俺を見ているとエルダースライムが話かけてきた



『それで……どうしますか、アルトさん? サティとしてはあなたには逃げてほしいそうですが……』

「いやいや、それはダメでしょ……サティさんを巻き込んじゃったのは俺で、アリシアは勘違いをしているとはいえ、俺のために戦ってるんですよ、これで逃げちゃったら、俺はサティさんの友人でも、アリシアの兄としても失格じゃないですか」

『ですがあなたでは足手まといですよ。あの二人の戦いにはあなたごときでは入れない』



 俺の言葉にエルダーは感心したように、だけど現実的な事を言う。ああ、わかってるよ、俺はただの中堅冒険者で、スキルも鑑定しかない。間違っても魔王や、勇者と戦って勝てるような男じゃない。だけど、俺にだって意地と鑑定のスキルがある。


 アリシアのメインの攻撃はこの国に伝わる有名な剣術だ。ブラッディクロスさんが使っているのを見たことがある。とは言ってもレベルは違いすぎるが……

 そして、サティさんの攻撃は闇の魔術であるあの漆黒の刃と、漆黒の盾だ。デスリッチの言うように攻撃と防御両方はできないようである。だが、盾の防御力が高いためアリシアも突破できないのだ。



「なあエルダースライムさん、あんたを飲んだら俺の身体能力が上がるんだよな」

『ええ、その代わり終わった後に三日三晩激痛に苦しみますが……』



 ちょっと待って、前はそんなこと言ってなかったよな? 後だしするなよぉぉぉぉぉ!! だけど、俺は決めたのだ。

 俺は勇者でも魔王でもないただの中級冒険者だけど、大切な二人を守りたいんだ。



「エルダースライムさん、あんたの力を俺に貸してくれ」


 

 後戻りはできない、俺はわかっていながら決定的な一言を言った。

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