16.襲撃者
「ここに私の正体がわかるものがあるって本当ですか?」
「ええ、アグニが何かを置いていったらしいんですよ。山の夜って暗いですが大丈夫ですか?」
「あのトカゲはロクな事しませんね……またおしおきが必要でしょうか。問題はありませんよ、暗視のスキルがあるんで昼間と同じくらい見えるんです」
その日の夜、俺とサティさんは二人でアグニがやってきた山を登っていた。サティさんはいつぞやのクソださコーデとエルダースライムに言われた漆黒のローブだ。話を聞くと無茶苦茶防御力が高いらしい。
あの日と同じ場所だけど、違うところもある。それは俺達の距離だ。かつてはこそこそとつけていたが、今は友人として共に歩いている。なんかいいよな。こういうのさ。
「そういえば、酒場では話をあわせてくれて助かりました」
「ええ、エルダーが、アルトさんに渡してある分裂体と連絡が取れないし、アルトさんなら意味のない嘘はつかないだろう、だから話を合わせろって言ってくれて……それで咄嗟にアルトさんの話に乗ったんですよ。でも、他の方にも勘違いされちゃいましたね」
そう言って少し、恥ずかしそうにはにかむサティさんは無茶苦茶可愛い。っていうかエルダースライムのやつ、俺に分裂体を渡したって言っているけどさ、無理やり飲ませたんじゃねーかよ。サティさんに言いつけるぞ。
そう思いながら得意げにガッツポーズをしているサティさんの胸部を睨みつける。
「そこは後で俺が何とかしますよ、冒険者達の誤解は頑張れば解けると思いますし……でも、サティさんすごいですね、その……よくあんな風に俺の褒め言葉が出てきましたね、思わず本気でサティさんが彼女になってくれて、俺の好きな所を言ってるかのように思っちゃいましたよ」
俺はあの時の事を思い出して、恥ずかしさを誤魔化すように笑う。本当にあの時のサティさんの演技はすごかった。まるで本当に告白されているようで、この人は俺の事を好きなのかな? って勘違いしそうになったくらいだ。
「何を言っているんですか? アルトさん」って言う風に苦笑しながら返されるかなと思っていたがなぜかサティさんは無言だった。あれ? しかも顔がりんごみたいに真っ赤なんだけど……
「あの……サティさん?」
「……私は本気で言ったんですよ」
「え?」
無言のサティさんに恐る恐る声をかけると彼女はこちらを見ないで、まるで顔を隠すかのようにして少し早歩きになってから深呼吸をする。まるで心を落ち着かせるかのように……
そして、彼女は俺の方を振り向いて、まっすぐとこちらを見つめる。
「私は……アルトさんの人が嫌がる事も一生懸命やるところとか、普段は軽口を叩いているくせに実は真面目な所とか、私が魔王だって知っているのに、私を守るために格上の冒険者と戦って勝っちゃうところとか、魔王としての私も知りたいって言ってくれるところとかぜーんぶ本気でいいなって思っているんですよ」
「サティさん……」
彼女の言葉が俺の胸を貫く。なにこれ、え? まじ? なんかムチャクチャいい雰囲気じゃない? てか、なんか恥ずかしいんですけどぉぉぉぉぉ。
だけど、俺も視線はそらさない。人を褒めたりさ、真面目に話すのって結構度胸いるよな。それなのに彼女は真剣に話してくれているのだ。だったら俺だって逃げるわけにはいかない。
「だから、私はもっとアルトさんの事を知りたいです。アリシアさんが昔のアルトさんを色々と知っていて得意気に話すのを聞いて、羨ましいなーって思ったんです。私だって、アルトさんのダメな所も良い所も、もっともっと知りたいし、私の事ももっともっと知ってほしいです。だからこれからも、もっと仲良くしてくれたら嬉しいなって思ってるんです。アルトさんはどうですか?」
「もちろん、俺もです。俺もサティさんの事をもっと知りたいです。色々教えてください。受付嬢のサティさんも、魔王のサティさんも、そして、女の子としてのサティさんも知りたいです!!」
「女の子としてのって何かエッチですね」
「え? いや、そういう意味では……あー、何て言えばよかったんだ。くっそわからねぇぇぇぇ」
テンパる俺を見てサティさんはクスクスと楽しそうに笑う。そして少し恥ずかしそうに頬をかいて彼女は言った。
「冗談ですよ、アルトさんの言いたいことはわかってますよ。さて……それでは行きましょうか? その……道が暗いんで良かったら手をつなぎませんか?」
「え? でも……いや……もちろんです!!」
俺は恐る恐る差し出されたであろう彼女の手を握る。その手は柔らかく、何とも温かかった。そして俺達は無言のまま歩き始める。
暗視のスキルがあるんじゃ……何て無粋な事は言わない。会話はなかったけれど、なぜか気まずい感じはしなかった。
そして、アグニのいた洞穴へとつく。中は意外と大きく広がっており、その中心部には一体の白骨死体があるだけだった。俺達はその白骨死体の元へと進む。
「これは……?」
返事はないただの屍のようだ。まあ、屍だしな。これとサティさんの正体とどう関係が……サティさんに訊ねようとした瞬間だった。
突然すさまじい力で吹き飛ばされる。
「アルトさん、危ないです!!」
「へえー、姿隠しのローブを使っていても気づくんだ。さすが魔王だね」
「それだけ殺気を放っていれば馬鹿でも気づきますよ」
先ほどまで俺とサティさんがいたところに光り輝く光刃が炸裂し爆発する。ごめんなさい。サティさんの手のひら柔らかいなぁーーーとか思ってて全然気づきませんでしたぁぁぁぁぁ!!
てか、襲撃者はだれだよ。まじ肝試しみたいで無茶苦茶いい雰囲気だったのにぃぃぃ。俺は嫌な予感がしつつも声の方を見つめる。
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名前:アリシア=ペンドラゴン
職業:勇者
戦闘能力:999
スキル:魔物感知・精霊魔術・聖魔術・神級剣術・聖剣使い・対魔物特攻 etc
嫉妬:99999
備考:王都にて勇者として必要な魔術や剣術を教え込まれた人類最強の現勇者。実はアルト兄の使い古しの服を回収して勝手にハンカチにして持ち歩いている。
装備:
聖剣エクスカリバー 放たれる光刃は魔物だけにしか効果はない。
勇者しか鞘から抜けない聖剣であり、城に保管されていた。実はホーリークロスやブラッディクロスが幼少の時によく、勇者ごっこで使っていた。王国に伝わる最強の聖剣。
姿隠しのローブ:先代勇者が同じパーティーの聖女の風呂をのぞくために、エルフに土下座して頼んで作った。金に糸目をつけずに作ったため効果はかなり高性能。
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やっぱりかよぉぉぉぉ。声でそんな気はしたんだよ。てか、なんでここにいるんだ?
「アリシア何を考えてんだよ!!」
「お兄ちゃん、どいてそいつを殺せない!! アルト兄を解放しろ、魔王め!!」
「解放って何のことですか? エルダー!! アルトさんを守ってください」
その一言と共にローブを脱ぎ捨てて姿を現するアリシア、しかもその左腕には戦利品が入っていると言っていた箱を持っている。そして、それに対峙するサティさんのローブの隙間からエルダースライムの一部がこちらへとやってきて俺を隅の方へと押しやった。
うおおおおお、サティさんの偽乳が推定Gから推定Cになったぁぁぁぁぁ!!
そして、サティさんとアリシアは対峙するのだった。え、待って? 魔王と勇者がこんなところで戦うの?
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魔王と勇者の戦いがこんなとこで……
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