14.勇者アリシア
そうして、今度は半年程魔術を習うことになった。そこで後々パーティー組むことになるモナと出会った。彼女は代々宮廷魔術師をしている由緒正しい家系だそうだ。
貴族の彼女とは、最初こそ、ウマがあわなかったが、私がアルト兄に手紙を書いているところを見られ、何をやっているのか聞かれたことがきっかけで仲良くなった。
「なーに、書いてんの? お母さんやお父さんにでも泣き言でも書いてるのかしら? あなた達平民は知らないかもしれないけれど、勇者に選ばれるのは素晴らしい事なのよ、もっと誇りを持ちなさいな」
「ううん、私はお母さんもお父さんも死んじゃっていないもん。だから大好きな幼馴染に書いてるんだ。それに……泣き言なんて言えないよ、アルト兄に心配をかけちゃうから」
「え? お母さんもお父さんもいないの? その……ごめんなさい、私そうだって知らなくて……」
私の言葉に彼女は素直に謝ってくる。彼女曰く、平民と関わったことがないのでどう接すればよいかわからなくて、へこんでいるようだったから、気合を入れようと声をかけたらこんな言葉になってしまったそうだ。
私も相手が貴族なので緊張していて今まではちゃんと話せなかったけれど、素直に謝罪をしてくれる彼女を見て、ああ同じ人間なんだと、そして、ちょっと不器用だけど優しい子なんだなというのがわかり不思議とそれまでの苦手意識はなくなった。
それから、彼女とは色々とお話をした。それは訓練の愚痴だったり、恋バナだったりと多岐にわたった。
彼女に、今時の女の子は家事くらいできなきゃだめよ。と言われ、彼女の家の使用人さんに色々と教わったりもした。特にアルト兄は半熟のオムレツが好きなので念入りに教えてもらったものだ。
正直、剣術や魔術よりも難しかったけれど、作って食べさせたらアルト兄が喜んでくれるだろうなと思えたら、料理も頑張れた。
それと、恥ずかしいけど、アルト兄が巨乳好きなのだけどどうすればいいのかと聞くとか、私同様に顔を真っ赤にしたモナが他の人には内緒だからねと、誰かから聞いたであろう、色々な知識を教えてくれた。
そんな風に半年ほど過ごして、私は魔術の訓練も終えた。モナという友人とアルト兄の手紙がなかったら私は心折れていただろう。
そして、勇者としての訓練が終わった私は、魔物退治や国の行事に参加したりなど、勇者としての仕事に明け暮れた。
アルト兄のために頑張って身だしなみにも気を遣うようになったためか、何人かの貴族や戦士に言い寄られたがどうでもよかった。私が好きなのはアルト兄だけだし、アルト兄が全てだからだ。
実の所、別に魔物が憎いっていうわけじゃない。ただ、魔物を倒せばお金や休暇がもらえるし、みんなが喜ぶ。それに勇者はそういうものだと言われているので狩っているだけである。
四天王や、魔王を殺したいと思うのも、アルト兄と一緒に暮らすための軍資金や休暇が手に入るからに過ぎない。
そんな風に過ごしていて、ついに私達は、四天王の一人であるデスリッチを倒すことができた。これで多額の報奨金と休暇がもらえるのだ。
今の私ならもうアルト兄と会っても大丈夫だろう。多分会ったら泣いちゃうかもしれないけれど、もう、彼に甘えるだけの私ではない。色々と成長した私をアルト兄は可愛いっていってくれるかなぁと思っていた時だった。
『おい、勇者よ、我の話を聞くのだ。聞かねば一生後悔するぞ』
箱に封印しているデスリッチがやたらと声をかけてくる。私はアルト兄に会えるのだとわくわくしているという気持ちに水を差されて不機嫌になりながらも答える
「うるさいなぁ、君はこれから王都に連れていかれて色々と情報を吐いてもらうんだ。観念しなよ」
『本当にいいのか? 勇者よ、我は貴様の幼馴染であるアルトが魔王に狙われているのを知っているのだぞ』
「なん……だって?」
アルト兄の名前につい封印を強めようとした手が止まる。落ち着いて……まだ、決まったわけじゃない。こいつの……デスリッチの策略かもしれないのだ。
『死体はどこにでもあるだろう? 我の部下のアンデットは世界各地で情報を集めているのだ。そして、貴様の幼馴染であるアルトが我が魔王に魅了をされているという情報が入った。理由はわかるな?』
「私の……弱みを握るため……とか」
『ご名答、このままでは貴様の幼馴染は魔王の手によって、操り人形になるだろうな。それでいいのか?』
デスリッチの目が妖しく光ったような気がする。まあ、私には対魔スキルがあるから何をやっても効かないんだけど……正直信用はできない情報だが、万が一という事もある。
「魔王は君の主でしょ? 裏切っていいの?」
『ああ、どのみちあの魔王と一緒にいては私の願いはかなえられないからな。我々アンデットは生前の未練を執念にしてこの世に縋り付いている。その願いのためになら何でも裏切るさ。貴様にもあるだろう?どうしても譲れないものが……』
どうしても譲れない物……その言葉でアルト兄の顔が思い浮かぶ。彼を守るために私は勇者になったのだ。だったら仮に罠でも行かないわけにはいかない。
だって、私はアルト兄を守るために勇者になったのだから……
「ふぅん、まあ、いいや。君のたわごとにつきあってあげるよ。その代わり、嘘だったらわかるよね」
『ああ、もちろんだ。魔王の名前はサティ=エスターク、冒険者ギルドの受付をしている。胸にスライムのパッドをつけた女だ』
「いやいや、胸にパッドって……しかも、スライムパッドって私を馬鹿にしているの? 封印を強化しようか?」
『いやいや、本当なんだって!! 我を信じろ!! その代わり我が情報が本当だったら……』
「そうだね、利用価値があるっていう事で命だけは許してもらえるように王様にお願いしてあげるよ。もとは拷問した後に浄化する予定だったんだ。それでもうれしいでしょ?」
そうして、私は王都に帰りモナに状況を説明した後、アルト兄に手紙を書いてすぐに旅立った。即座に、王都を旅立ったのには理由がある。
一つはアルト兄が操られていた場合あえて予想よりも早く行くことによって魔王の意表を突くこと。そして……もう一つというか本当に理由はアルト兄が無事かどうか心配で居ても立っても居られなかったからだ。
結果は……最悪だった。最初に会ったアルト兄の体内にはスライムが寄生していた。おそらく逆らったら体内で爆発されて息の根を止めるつもりだったのだろう。
そして、アルト兄の口からでたサティという女はデスリッチの言っていた魔王と特徴が一致していたのだ。実際会っても、魔物とは確信はできないけど、確かに何か違和感があった。多分、事前にデスリッチからの言葉がなければ私も気づかないくらいの違和感だった。
そして、私は回想をやめて、アルト兄を見る。今はスヤスヤと眠っているが彼は魔王によって命を握られているのだ。
「魔王め……絶対許さないからね。それに……魅了しているからってアルト兄に彼女って紹介させるのはずるいよぉぉぉぉ!!! 私が彼女になりたいのにぃぃぃぃぃ!!!」
私は思いっきり頬を膨らませる。モナには子供っぽいからやめろと言われているがどうもやめられないのだ。
そして、私はアルト兄のクローゼットから姿隠しのローブを回収して作戦を開始することにした。
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