11.勇者と魔王4

「ああ、実は俺とサティさんは付き合い始めたんだよぉぉぉぉ!!」

「え?」

「は?」



 俺のその一言で場の空気が止まったのは気のせいではないだろう。だが、ただの友人であるサティさんを家族同然のアリシアに紹介する理由としてはぴったりではないだろうか?

 後はなんとか口裏を合わせて……



「あ……う……あ……」

「ふーん、そうなんだぁ」



 俺は目で話を合わせてくださいと合図をするが、サティさんは顔をトマトのように真っ赤にして口をパクパクとしていて、アリシアは一瞬昨日の夜のような何の感情も感じれない怖い顔になって俺を凝視する。



 あれ、俺なんかやっちゃいました? やっちゃいましたね、これ……



 おい、エルダースライム!! 今こそ俺のピンチだぞ。助けてくれ、俺の意図をサティさんに伝えてくれ!! 心の中でツッコミをいれるが、返事はない。ただのスライムのようだ。

 時が止まった二人だったが最初に反応を返したのはアリシアだった。



「びっくりしたなぁ、アルト兄に彼女ができたなんて……だったら手紙で教えてくれればいいのに……それじゃあさ、聞いてもいいかな。サティさんはアルト兄に何て言う風に告白されたの? それとアルト兄のどこが好きになったのかな?」

「いや、アリシア……そう言う事を聞くのは……」

「アルト兄は黙ってて!!」



 いきなりやべえ質問がきたぁぁぁぁぁ。告白もしてねえし、両想いでもねえんだよぉぉぉぉ。俺がたしなめようとするが、アリシアのすさまじい迫力に俺は言葉を発せなくなった。このプレッシャーさてはスキルを使いやがったな!!



 絶体絶命の状況に絶望する俺はどうしようとサティさんを見つめるが、少し耳が赤いものの、その表情は魔王城で問題を解決したのような凛としたものだった。



「アルトさん、大丈夫ですよ。ちゃんとわかっていますから……アリシアさんは優しいですね。幼馴染が悪い女の人に騙されていないか不安なんですよね? わかりました。ちょっと恥ずかしいですが答えますね」



 そう言うとサティさんは笑顔を浮かべて俺にウインクをする。そんな彼女にアリシアは眉を顰める。



 え……なんで……? 



 俺の疑問に答えるようにサティさんの胸が少し動く。まさか、エルダースライムか!!彼女がサティさんに何かアドバイスをしてくれたのだろう。 流石四天王だぜ!! エルダースライム最高!!



「そうですね、告白をされたのは一緒にご飯に行って……恥ずかしながら私が酔っ払って、部屋に送ってもらった時のことですね。その時にちょっと良い雰囲気になって、私の事をもっと知りたいって言ってくれたんです。そんな風に言ってもらえたのは初めてで……、私も恥ずかしかったけど、すごい嬉しかったのを今でも覚えてます。それが実質告白のようなものでしょうか」

「ふぅん、アルト兄が、あなたの家に……」


  

 突如と語られる存在しない記憶ぅぅぅぅぅ!! てか、エルダースライムに俺が言ったこととかぶってない? あのくそパッドスライム、まさかサティさんに言ったんじゃねえだろうな。聞かれてたら恥ずかしくて二度と顔を見れないんだけど……

 そんなことを思っているとベキッッという音がしてアリシアの持っていたスプーンが曲がる。ちょっとまって、あれ銀なんだけど!? なんでそんな簡単にまがるんだよぉぉぉぉぉ?



「あとは……アルトさんの好きな所ですね。沢山あるんですが、最初はそうですね、みんながめんどうくさがる仕事だって色々やってくれますし、どんなクエストも一生懸命で、真面目な人だなぁって気になって、ちょっとずつ話すようになって、私の愚痴も結構聞いてくれたりして……そして、私の事を本気でわかってくれて、そのうえで自然体でいてくれるところです。そんな人は初めてでしたから……」


 

 サティさんは表情こそ穏やかに微笑んでいるが耳元まで真っ赤だ。そして、こちらを見つめる視線にはどこか熱を帯びている気がする。

 なにこれ、本気で告白されているみたいじゃない? 落ち着け、アルトォォォォォォ!! これは演技だぁぁぁぁぁ!! ここで俺が本気になったら、せっかくあわせてくれたサティさんに申し訳なさすぎるだろぉぉぉぉぉぉ!!

 でもさぁ、憧れの女性にこんなふうに言われたらドキッとしちゃうんだよぉぉぉぉぉ!! 勘違いしちゃうんだよぉぉぉぉ!!



「へぇー、まあ、アルト兄は魅力的だしね……アルト兄がサティさんを好きになった理由は……別にいいかな……昔から巨乳が好きだもんね」

「ぶふぁ、アリシア、マジでふざけんな!! 今それを言うなよぉぉぉぉぉ!!」

「へー、アリシアさん、その話を詳しく教えてもらえますか?」


 

 アリシアの言葉でサティさんの瞳に宿っていた先ほどまでの熱を帯びていた視線は消え失せて、まるでゴミを見るような絶対零度の視線をへと変わった。

 うおおおおおお、やめてくれ!! サティさんの好感度がどんどん下がってくるじゃねえか。別に俺は胸でサティさんを選んだわけじゃ……ないよ……? だからそんなアグニを見るような目で見ないでくれ……



「うん、一緒に暮らしていたところの近所にアンジェリーナさんってお姉さんがいたんだけど、いつも胸を見ていたって私によく苦笑して言ってたよ」

「見てたのばれてたのかよぉぉぉぉぉぉぉ!!」



 しょうがないじゃん、俺だって思春期だったんだよ、その時に服の下であんなにバルンバルン動くおっぱいを見せられたら性癖だって歪むわ!! てか、今度あった時どんな顔して話せばいいんだよぉぉぉぉ。

 その時、心臓をわしづかみにされるようなプレッシャーに襲われた。



「へー、アルトさんは本当に大きな胸がお好きなんですね」

「いや……これはですね……」

「でも、サティさんは大丈夫じゃないかな? 結構大きいし、私もアルト兄が好きだからって毎日色々がんばっても、これくらいしか大きくならなかったんだ」



 そう言ってアリシアは残念そうに自分の胸を指さす。いやいや、十分アリシアのも凄いんだけど、パッド状態のサティさんが、魔王なら四天王くらい凄いって……ああ、でも、四天王ってろくな奴らいねーな……



「ちなみにがんばるってどんなことを……?」

「え、毎日牛乳のんだり、体操したりだけど……」

「私もやってるのに……うう……素質の違いを感じます……」



 アリシアの言葉にサティさんが小声で呻く。あれですよ……アリシアはまだ成長期なんですよ……とは言えず俺は苦笑することしかできなかった。



「なんでそんなへこんだ顔をしているの? サティさんは巨乳じゃん、その反応まるで……スライムでもパッドにしているみたいな反応だね」

「「なっ」」



 その一言で俺とサティさんは驚愕の声を漏らす。そして、サティさんがすさまじい殺気のこもった眼で睨みつけてくる。こええええええ!! なにこれ、体が凍てついたんだけど……いてつく視線かよぉぉぉぉ!!

 俺は必死に首を振って言っていないと伝える。



「あれ、知らない? 王都では結構流行ってるんだよ、スライムパッド。それよりさ、ご飯も食べたしそろそろ出る?」

「ああ、そうなのか、中々すげえのが流行るな」



 よかった……どうやらスライムパッドを使っているのはサティさんだけではないということか、てかスライムパッドってそんなに流行るもんなの? スライムって魔物だぜ、頭おかしいんじゃねーのか。

 アリシアの言う通り、良い感じに誤魔化せたし、これ以上三人でいてぼろが出てばれるのもまずいし、解散することにするか。俺は話の流れが変わらないうちにさっさとお会計を済ます。結構な額だったがアグニ貯金のおかげで懐は暖かい。



「じゃあ、サティさん、また冒険者ギルドで」

「はい、アルトさんもアリシアさんも今日はありがとうございました」

「うん、私も、アルト兄の彼女と会えてうれしかったよ」



 そうして別れを告げて俺とアリシアは宿へと戻る。結局別に部屋を取ろうかと聞いたが、アリシアが一緒にいたいと駄々をこねたので一緒の部屋のままだ。

 こいつは平気で薄着で部屋の中を歩くから、目の毒なんだよな。



「それにしても、彼女ができたなら手紙で教えてくれればいいのに……はい、お水」

「悪い悪い、俺なりのサプライズだよ。ありがとう」



 唇を尖らせて抗議をするアリシアに俺は返事をしてコップの水に手を付ける。無茶苦茶言うなよ……だって、俺に彼女なんていないんだよ。

 あとは明日ギルドに行って、サティさんに謝ってから事情を説明して口裏を合わせないと……ああ、冒険者のやつら絶対噂するよなぁ……サティさんに迷惑かからなければいいが……そう思った直後だった。いきなり意識が遠のいていく。確かに緊張の連続だったけど、そんなに疲れていたか?

 そんな風に倒れる俺を柔らかいものが抱きとめる。



「大丈夫、アルト兄?」

「ああ、悪い……いきなり意識が……」

「疲れているんじゃない? そのまま寝ちゃいなよ」

「ああ……そうだな……」



 彼女の言葉に従うように俺の意識がまどろんでいく。もう限界だ……アリシアの体温と甘い匂いが何とも心地よい……



「ああ、それにしても、デスリッチのやつの言うとおりだったね、アルト兄が魔王に魅了されているなんて……大丈夫、アルト兄は私が守るからね……」



 こいつは何を言っているんだ? 俺は彼女に聞き返す前にそのまま意識が沈んでいった。

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