10.勇者と魔王3

「それじゃあ、よかったら私のお勧めのお店に……」

「あ、実は俺のお勧めのお店があるんですよ。よかったら友人のサティさんにも紹介したいなと……」

「友人……うふふ、私もアルトさんのお勧めのお店に行ってみたくなりました。そっちにしましょう」



 俺が咄嗟に友人を強調するとサティさんは嬉しそうにうなづいた。あっぶねー、魔物達がいる店につれていかれるところだった。あんな所に連れて行ったらアリシアによる虐殺がおきるわ!!



「へぇー、二人は結構食事とか行くの?」

「そうですね、この前晩御飯をご一緒させてもらいましたよ」

「ふーん、まあ、私はアルト兄に朝ごはんをごちそうしたけどね」



 サティさんの言葉に一瞬不満そうな顔をしたアリシアだったが、すぐに得意げに言い返す。



「サティさん、勘違いしないでくださいね、俺とこいつは家族みたいなものなんで、昔っから一緒に寝泊まりしているだけですからね!!」

「え……手料理を披露……? 私なんてこの前酔いつぶれていただけなのに……やはり私も料理とか覚えた方がいいんでしょうか?」

「サティーさーん、どうしました? こっちに戻ってきてください」



 俺は何やら呆然とした表情でぶつぶつと言っているサティさんに声をかけながら店へと進む。そこはこの近くの牧場が直接経営しているというお肉に自信ありと謳っているお店だ。

 まだ夕方だというのに、席はほとんど埋まっていた。てか、冒険者達の一部が入ってきて、こそこそこっちをみてるんだけど!! こいつらつけてきやがったな。

 それはさておき、焼かれた肉の香ばしい匂いが俺達の鼻腔をくすぐる。



「わー結構繁盛してるんだね、アルト兄、結構いい店知ってるね。お肉とチーズのいい匂いがするよ!! 私お肉料理大好きなんだよね」

「そりゃあそうだろ、アリシアが帰ってきたら連れてこようって思ってお前が好きそうな店を探しといたんだからさ」

「アルト兄……」



 俺の言葉にアリシアは何やら感極まったようにこちらを見つめた後に、満面の笑みを浮かべて抱き着いてきた。ポヨンとノースライムな感触が俺の腕を襲う。



「アルト兄、だーいすき!!」

「うおおおお、アリシアお前ももう大人なんだから、簡単に男にだきつくなっての!!」



 俺はアリシアを振り払おうとするが、マジで微動だにしないんだけど……何この力? 勇者やばくない? 別に嫌って言うわけじゃないが、何ていうか恥ずかしいし、サティさんに無茶苦茶誤解されそうじゃない?

 そう思って俺が彼女の方を見るとなんか無茶苦茶嬉しそうな顔でぶつぶつとつぶやいていた。



「友達とご飯……しかも、いつものお店じゃなくて、人間がやっているお店で……それに、グレイってば最近「サティは太ってきたわね」っていって野菜料理ばかりしかくれないんですよね、久しぶりのお肉嬉しいなぁ」



 あ、大丈夫そうだ。なんか自分の世界に入っているわ。

 そうか……この人、正体がばれるのがこわいからか、あの店でしかご飯をたべていないんだ。それにしてもちょっと太ったのか? ぱっと見わからないが……俺は鑑定スキルを使ってみようかなと思ったがばれたらマジで殺されそうだからやめた。



 そして、席に着いた俺達はご飯を注文する。名物のブタの丸焼きやチーズの盛り合わせなどと赤ワインを注文する。中々のボリュームだが、アリシアの奴は結構食べるから大丈夫だろ。



「へぇー、アリシアさんは王都で冒険者をやっているんですか?」

「うん、私は結構珍しいスキルに目覚めてね、王都に呼ばれたんだよ、アルト兄も一緒に行こうよ!! って誘ったのに来てくれないんだもん」

「いや、俺のスキルじゃ王都でなんてやっていけないっての……」



 食事会は想像と違い平和的に進む。サティさん結構お酒を頼んでいるけど、大丈夫かな? この前みたいに酔っ払わないといいんだけど……



「そういえばさ、アルト兄が私にサティさんを紹介したいって言われたんだけど何でなの?」



 会話の切れ目にずっと疑問に思っていたのだろう、アリシアの言葉にどう答えようか悩む。当初は魔王であるサティさんが勇者と会いたがっていたので勇者であるアリシアを紹介する目的だったが、アリシアが魔物を絶対殺すモードになっているのでやめようとしたんだが……

 しかもその事情をサティさんに詳しく説明する前に中断されてしまったし……



「はい……実は私はまお……」

「ああ、実は俺とサティさんは付き合い始めたんだよぉぉぉぉ!!」

「え?」

「は?」


 サティさんの言葉を俺はとっさに遮って適当な言い訳を言う。案の定サティさんとアリシアが信じられないという声をあげる。

 それと同時に背後で誰かが倒れる音と「ブラッディクロス死ぬなぁぁぁぁ!!」という叫び声が響く。



 さーてこっから、どうしよう……



 俺は驚いた顔をしている二人を見ながら必死に考えるのだった。

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