9.勇者と魔王2

「それで、アルトさん……事情を説明してくれますか? ギルドはデートをする場所ではありませんよ」



 あの後、俺はしばらくアリシアと街をぶらついた後、サティさんを呼んでくると言って、別行動をとらせてもらったのだ。

 そして、事情を説明するために仕事終わりのサティさんと冒険者ギルドの裏手にいるのだが……



 無茶苦茶機嫌悪そうなんだけど!? あれ俺なんかやっちゃいました? この目知ってるぅぅぅぅ、あれじゃん!! アグニに対してぶちぎれてた時の魔王モードじゃん。目の前に立ってるだけで、膝が震えているんだけど!!



「違うんですよ、あれはデートじゃないです。あいつとはただの幼馴染で、別にカップルとかじゃないんですって……」

「ふーん、それにしては随分と仲良さげでしたし、胸を押し付けられてニヤニヤとしてたように見えましたけどね」



 そう言ってサティさんは唇を尖らせながら、こちらを睨みつける。やっべえぇぇぇ、怒ってるじゃん。胸のスライムも不満そうにブーイングをするかのように動いている。

 だから胸パッドがそんなに主張するんじゃねえよ、こわいっての……いくらギルドの裏手とはいえ目撃者がいるかもしれないんだからさ……


 あれ、でもさ、嫉妬してくれてるってことは俺の事をちょっとは意識してくれているってことなのだろうか? そう思うと、ちょっと恐怖も薄れてきたな。



「何をにやにやしているんですか!! 私は怒っているんですよ!!」

「すいません、その……拗ねているサティさんが可愛くて……本当にアリシアとは何でもないんですって。どうしたら許してくれますか?」

「全くもう可愛いって言えば許すと思っていませんか? そうですね、じゃあ、今度はアルトさんの故郷を案内してください」

「何もない所ですよ、いやマジで……」

「それでもいいんです、アルトさんが育ったところに興味があるんですよ、私ばっか知ってもらって……そのなんかずるいじゃないですか」



 そう言ってちょっと照れ臭そうに笑うサティさんが可愛らしくて、俺は自分の胸の動悸が激しくなる。さっきの拗ねた顔からのこの笑顔ずるくないですか?



「そういえば、元々はなんで、アリシアさんを冒険者ギルドに連れてきたんですか?」

「ああ、そうだ。実はあいつ勇者なんですよ。サティさんがいつか勇者と話がしたいって言っていたじゃないですか。だから紹介しようと思ったんですが……」



 俺はサティさんのあまりの可愛らしさに、肝心な事を説明しようとするのを忘れていたことに気づいて慌てて話し始める。



「ああ、そう言う事だったんですね……じゃあ、先ほどのやり取りは失敗でしたね、すいません。でも、私にも譲れないものがあったので……というか、私のためだったんですね……」

「でも、ちょっと予想外な事があったんです。その……魔王だっていうことは……」

「アルト兄ーー!! いつまで待たせるのさ。サティさん今日はよろしくね」

「うおおおおおお!!」



 俺が魔王だって言う事は言わないでくれとサティさんに伝える前に、乱入してきたアリシアの存在によって会話を中断をしなければならなくなった。

 やべえよ、伝えたいことを伝えられなかったじゃん!! てか、サティさんも譲れないものってなんなんだろう。



「ふふ、アリシアさん、今日はよろしくお願いしますね」

「うん、よろしくね、アルト兄がどんな冒険者なのかとか聞かせてくれると嬉しいな」



 俺は世間話を始める二人を見て思う。かつての先代勇者と先代魔王の戦いで魔王城は半壊したらしい。絶対サティさんが魔王だと知られてはいけない……この街に血の雨がふるぞ……

 俺は決意しながら一緒に歩くのだった。

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