6二つの大きな山
俺は彼女に抱き着かれたままの状態で言葉を失う。なんだろう、無茶苦茶怖いんだけど……てか、なんなのこの家に彼女がいるのに、風俗にいったのが香水の匂いでばれたクソ男みたいな状況は……
俺はすっかりハイライトの消えた彼女の瞳を見ながら、何とも言えない恐怖に襲われていた。
彼女は俺の幼馴染だが勇者だ。流石に魔王城に行ったと知られたらなんと言われるかわからない。例えば、サティさんがいい人だと知ってもらってから彼女が魔王だとばらして、魔王が人との共存を望んでいるんだと段階的に情報を開示すべきだろう。
アリシアは話せばわかるし、わりかし俺の言う事は無条件に信じてくれるからな。
「ああ、ちょっと厄介なクエストを受けてな。魔物が沢山いたんだよ」
「そうなんだ? でも、アルト兄のスキルって鑑定だよね? いつもは薬草の採取クエストとか、そういうのを受けてるって手紙に書いてなかった? それに、その格好は何かデートするみたいなちょっとおしゃれな感じだけどそれでクエストに行ったの? 汚れちゃわない?」
「んんんーーーーー!?」
やっべえぇぇぇぇ、速攻で嘘がばれたぁぁぁぁぁぁ。こいつ王都に行ってから頭が良くなっている!! てか、アリシアの握力何なの? マジで抱き着かれたまま体が動かないんだけど!!
俺が冷や汗をかきながら必死に言い訳を考えていると、「やっぱり……」と小さい声で呟いた後に、瞳のハイライトが戻り、体が解放された。
「アルト兄成分補給完了!! まあ、いいかな、アルト兄も冒険者だし、色々言えない事もあるよね。ちょっと魔物とばかり戦っているからさ、過敏になっちゃたんだよ。それでさ……実は宿がないんだけど、泊めてくれないかな?」
「別に構わないが……ちゃんと荷物は整理しとけよ。アリシアはだらしない所があるんだからさ」
「えへへへ、そんなところを見せるのはアルト兄にだけだよ」
「嬉しくねえよ、そんな特別」
何かわからないが彼女から先ほどまでのプレッシャーは消えていた。昔の様に悪戯がばれたかのように笑う彼女を見て安心をする。
俺が部屋に乱雑に置かれている彼女の荷物を片付けようとすると、やたらと物々しい外見の箱が目についた。
「あー、アルト兄、それはだめー。大事な戦利品だからね、私以外触れたらいけないんだ」
「お前、そんなもの雑に置くんじゃねえよ!!」
俺が文句を言うために振り向くと、アリシアが寝間着に着替えているところだった。一瞬だが、彼女の下着姿の上半身が目に焼き付いてしまった。二つの山がぼよんぽよんとその存在を主張してらっしゃる!!
うおおおおおおおお!!! パッドじゃない!! 本物だぁぁぁぁぁ!!
落ち着け俺よ、アリシアは妹みたいなもんだぞ。「俺はお兄ちゃんだぞ!!」自分に必死に言い聞かせて、深呼吸をして精神を落ち着かせる。スライムじゃない本物のおっぱいに思わず興奮しかけて頭がおかしくなりそうになったが冷静になれた。
「じゃあ、俺は椅子で寝るからお前はベッドを使っていいぞ、王都から急いでき来たんだ疲れるんだろ」
「ダメだよ、アルト兄は私と一緒に寝るの」
「へ?」
俺が上着を脱ぎ捨てながら言うと凄まじい力で引っ張られてベットに押し倒された。いきなりの事に呆然としていると。そして、そのまま寝間着姿のアリシアに抱き着かれる。なにやってんの、こいつ?
「いや、お前ももう子供じゃないんだから……」
「嫌だよ、アルト兄……昔みたいに一緒に寝よ」
「いやでも……」
俺が文句を言うと、アリシアは先ほどまでのふざけた態度が嘘のように、少し拗ねたように俺を見つめて言う。
「私が王都に旅立つ前日の夜も、こうして一緒に寝てくれたよね。私はすっごい嬉しかったんだよ。久々に会ったから甘えたいんだけど、ダメかな……?」
「全くアリシアは甘えん坊だな……」
そんな風に寂しそうな顔をされたら逆らえるはずもない。そう言って俺に甘えてくる彼女の表情は魔物を倒しまくる強い勇者ではなく、ただ温もりを求める甘えん坊の少女だった。
俺が昔の様に彼女の頭を撫でていると、彼女はしばらく俺の胸元の匂いを嗅いでいたかと思うと、すーすーと可愛らしい寝息を立てた。
「大丈夫、私がアルト兄は守るから……」
そう言う風に言う彼女を微笑ましく思う。だけどさ……まじでがっつり抱き着いてるもんだから、身動き取れないし、昔はなかった胸が当たって色々ヤバイ。だってパッドじゃないんだぜ、本物なんだぜ!! しかも、さっき上着を脱いで今は俺も肌着しかきていないから感触がむっちゃ生々しい。
「落ち着け、俺はお兄ちゃんだぞ!!」
俺は必死に自分に言い聞かせるのだった。だからだろう、俺は気づかなかったのだ。アリシアが戦利品を入れているという箱の中で何か変な音がしていたのを……
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体調はよくなりました。ご心配おかけしました。
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