4.サティさんのお父さん
着替えてやってきたサティさんの服装はレースをあしらった真っ黒な可愛らしいワンピースを着ている。服装が黒いのは魔王の決まりとかなのだろうか? 俺は彼女にばれないようにとある部分をチラ見すると、やはり胸にはスライムがいるようだ。さっきの事があったからか監視されているような気分になる。
てか、なんで普通にデートっぽい事をしにきたのに命の危機を感じなきゃいけないんだよぉぉぉぉ!!!
「では、行きましょう。ここが私が育った街なんです。魔物たちが住んでいる街ですが、意外と人間達の街と変わらないんですよ」
そう言って楽しそうに微笑むサティさんは少々浮かれているのか、焦っている俺の様子に気づかないようだ。そうだよな……俺はいつも通りの俺でいよう、だって、サティさんはいつもの俺を信用して街を案内してくれるんだから。
城を出て街を歩くとダークエルフや、ドワーフ、人狼などの様々な魔物が歩いている。中には少数だが商人らしき人間や、屈強な体つきの人間も歩いている。
「ふふふ、驚きましたか? この街には少数ですが人間も住んでいるんですよ、大抵は難民などですね、彼らは住む場所がないというので、色々と仕事をしてもらっています。力などは魔物の方が強いですが、色々な知識は人間の方が優れている場合もありますからね」
「なんか魔王城ってもっと怖いところだと思っていました。こう……城とかももっとおどろおどろしい感じで、街中は強そうな魔物がうろうろしていて、人間がなんてすぐ襲われちゃうみたいな……」
俺が冗談っぽく言うとなぜかサティさんは神妙な表情でうなづいた。え? もしかして怒っちゃった? 冗談だったんだけど……今のでエルダースライムに殺されたりしないよな?
「そうですね……祖父の時はそうだったそうです。もっと強い魔物だけがここをうろついていて、こんな風な街ではなく、防衛施設だったそうです。ですが、祖父が勇者に敗れた後に、父は人間の凄さを知り、人と共存する気のある魔物を集めて魔王城の下にこの城下町をつくったんです。そんな父の背中を見ていたからですかね、私はこの街が大好きなんですよ」
そう言う彼女はどこか誇らしげに、街を見ながら言った。彼女は人と敵対する祖父ではなく、人と共存する父の背を見て育ったからこそ今の彼女がいるのだろう。
勇者たちは魔物の考え方すらも変えたのか……本当にすごいな……勇者カーマイン、彼を支えて魔王討伐後は結ばれた聖女カレン、魔王と刺し違えた魔術師オベロンの三人の話は俺達人間なら誰でも知っている。
しかし、話を聞いていて気になった事が一つあった。
「そうなんですか……でも、今の魔王はサティさんなんですよね? そのお父さんは……」
『はい、マイナス1ポイントです』
うおおおおおお、今のなに? 脳内に直接響いてきたんだけど、こわ!!
確かに、聞いてから己の失言に気づくと共に腹から響く声に俺は冷や汗を流す。てかさ、マイナスポイントがたまるとどうなんの? やっぱり俺殺されんの?
「父ですか……そうですね……」
「あ、いえ、こちらこそすいません、無遠慮な質問をしてしまって……」
「いえ、構いませんよ、父は人間達と交渉をしている間に、その……人間達の接待で連れていかれた「おっぱぶ」とやらにはまってしまいまして……『エッチな夢をみせるだけのサキュバスと違って本物だーー!! 私は理想の乳をさがす』と興奮した様子で叫んで、私にすべてを託して放浪の旅にでてしまいました……」
「うわぁ……」
予想以上にしょーもない理由だった。いや、気持ちはわかるけど……おっぱいには不思議な魅力があるよな……しかし、サティさんは仕事を押し付けられた怒りを思い出したのか、唇を尖らせている。
その目はどこかうつろな目で俺に聞いてきた。
「ねえ、アルトさん……なんで男の人は女性の胸が好きなんでしょうね……ブラッディクロスさんとかも私の顔をみないで胸を見て話しかけてくるんですよ」
ブラッディクロスさーん!! 何やってんだよ、少しは誤魔化せよ、いや、俺もそりゃあ、鑑定スキルを使う前はこっそり胸を見てたけどさぁ……
とはいえ、こういう時なんて返せばいいんだ? 俺も胸は見ていたから正直説得力がないんだよな……まあ、ここは和ますために軽い冗談でも言うか……
「男がみんな胸を好きってわけじゃないですよ、サティさんのお父さんはその……特別に乳(ちち)が好きだったんですよ、父(ちち)だけにね」
「……」
『意味不明ですね、はい、マイナス10点です』
うおおおおおおお、死にてええ!! 何とも言えない表情のサティさんの愛想笑いもきついし、なんかポイントがむっちゃ溜まったんだが……じゃあ、何ていえばいいんだよぉぉぉぉ!!
少し気まずい雰囲気の中歩いていると魔王像の足元につく。
「なんというか……自分の石像の前を案内するのはちょっと恥ずかしいですね」
そんな事をいいながらちょっと気恥しそうに笑うサティさんに可愛らしい声で話しかけるものがいた。
「あ、魔王様だー、こんにちはー」
「本当だー、魔王様!! よかったらこれを受け取って!! この前お話を聞かせてくれたお礼だよー」
「お二人とも元気そうで何よりです。今度また面白い話を聞いてきたら聞かせますね。ふふ、上手にできましたね、ありがとうございます」
俺と歩いているサティさんを見かけたダークエルフと人狼の子供たちが駆け寄ってきたかと思うと、何やら花でできた草冠を渡している。
サティさんは子供たちにあわせるようにしゃがんで、草冠を受け取ってつける。
なんというか……こうして子供をみると人と魔物もあまり変わらないなと思う。俺も昔は幼馴染のあいつと一緒に草冠を作って母さんに渡したりしてたなぁ……
「ねー、人間のおにーちゃん。魔王様似合ってるでしょ、お姫様みたいじゃない?」
「お、ああ、そうだな。てか、君は俺がこわくないのか? 人間だぞ」
「うん、普通の人間はちょっとこわいけど、お兄ちゃんは魔王様がつれてきた人間だもん。大丈夫だよ。魔王様は強いし、優しいんだよ。だからね、私もいつか四天王になって魔王様と一緒にお仕事するんだ」
そういうとダークエルフの子はにぱぁーとこちらまで笑顔になるくらいまぶしい笑顔を俺に見せた。ダークエルフと言えば世間一般では残酷で欲深いと言われているが、彼女からはそんな様子は見られなかった。
「あとね、これは秘密の呪文なんだけど、タイミングを見て魔王様にこういってあげてね。うちのお父さんが言うとお母さんはすごい機嫌よくなるし嬉しそうな顔をするんだよ」
そういうと彼女は俺の耳元でささやく。それを聞いてこの子ませているなと思うと同時に確かに効果はあるかもしれないと思った。
「すいません、案内の途中だったのに……」
「いえいえ、楽しい時間でしたよ。サティさんは慕われていますね」
「ふふ、ありがとうございます」
子供たちと別れ俺達は再び街の中を歩き始めた。その間にもサティさんは色々な魔物に親し気に話しかけられていた。そして、俺はついでとばかりに渡された肉串にかぶりつく。
「あ、結構うまいな」
「そうでしょう、それはガルーダの串焼きですからね、あの店の名物なんですよ」
俺が思わずつぶやいた言葉に彼女は誇らしげに言った。ていうかガルーダって結構強い魔物なんだけど……多分0.8ブラッディクロスくらいの……まあ、ここの人たちは戦闘力も高いんだろうな。
そんな事を思っていながら市場に到着すると、何やら少し様子がおかしいことに気づく。何やら人だかりができており、そこから怒号が聞こえてくる。
「金返せ!」、「なにをいってやがる、ちゃんと商品は渡しただろうが!!」と魔物と人間の口汚い罵り合いが始まっている。一歩間違ったら、乱闘になりかねない勢いだ。
「一体何が……」
「アルトさん、すいません、ちょっと見てきてもいいでしょうか」
「もちろんです」
そうして、俺達は騒動のところへと向かうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます