3.魔王像の秘密
「えーあー、そうですね……あはははは」
何やら親し気に話しかけてくる水色の女性に俺は咄嗟に鑑定スキルを使う。誰だか知らないが、ここは魔王城だ。失礼な事を言ったら死につながりそうだからな。
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名前:エルダースライム=エバーランド
職業:四天王兼スライムキング
戦闘能力:99999
スキル:無限増殖・威圧感(特大)
胸のサイズ:G
備考:最近アグニの奥さんに離婚すべきか相談をされており、どう答えようか悩んでいる。
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えーーー、この人パッドスライムだったの? じゃあ、サティさんのパットをやっているスライムは何だったんだ? 俺が驚愕の視線を送っている間にもサティさんとエルダースライムの会話は進んでいく。
「サティ、せっかく友人と遊ぶのに、その恰好はどうかと思いますよ。城下町を案内するのでしょう? 着替えてから行きなさい」
「でも、魔王としての私をアルトさんに見てもらうんですよ、だったらこの格好の方が……」
「何を言っているんですか? せっかくのデートだというのにそんなクソださコーデだと嫌われてしまいますよ。この前ウィンディーネにもらった服があるでしょう、それにしなさい」
「クソださコーデ……魔王家代々伝わるローブをクソださコーデって……でも、そこまでいうなら……アルトさんちょっと待っててください、着替えてきますね。少し待っていてください」
エルダースライムにファッションセンスをぼこぼこに否定されたサティさんはちょっとへこんだ様子で、城内へと入っていった。
そして、その場には俺とエルダースライムが残される。正直何を話せばいいんだ? 彼女? とはサティさんが酔っぱらった時に会話したくらいで共通の話題はないんだよな。
普段サティさんのパットをしている時ってどんな気持ちですか? とか聞いてみようか?
「この体で会うのは初めてですね、この前は分裂体で失礼いたしました。サティと仲良くしてくれているようで何よりです。ああ、分裂体とも記憶は共有していますのでご安心を」
そう言うとエルダースライムは綺麗な姿勢でお辞儀をする。さすがはエルダースライムというべきか、ただのスライムと違い、その仕草には気品と知性が感じられた。
まあ、そもそも、普通のスライムはこんな風に人型にはなれないのだ。彼女はかなり特殊で強力なのだろう。
「空の旅で疲れたでしょう? 飲み物を用意いたしましたのでお飲みください」
「いえ……こちらこそ、いきなり来たのにありがとうございます」
俺は手渡された水色の液体の入ったコップを一瞥してから飲み干す。ちょうど喉が渇いていたのでありがたい。その液体はどろりとしてのど越しはあまりよくなかったが、不思議と疲労感を回復させてくれた。魔物たちのポーションのようなものだろうか。
「魔王城はあなたからみてどうでしょうか?」
「中々すごいですね、俺達の国の王都とあまり変わらなくてびっくりしました。あと、あの像はなんというかすごいですね」
俺が少し苦笑しながらサティさんの石像を指さすと、エルダースライムはどこか誇らしげに言った。
「わが国では代々現役の魔王の石像をああやって建てるんですよ、我々はあなた方人間よりも多種多様ですからね、どんな外見をしているのか覚えてもらうにはああするのが一番いいんです。それに……彼女は結構人望があるんですよ、現にあの石像もけっこう親しみをもたれています」
「なるほど……」
そう言って眺めていると、確かに凛々しい表情をしてはいるけれど、心優しい瞳が表現されており、親しみを感じる。これを作ったドワーフとやらが彼女をどう思っているか伝わってくるようだ。
そう、俺が感心していると、エルダースライムが耳元で囁く。
「ちなみに、いざというときはあの胸が、大砲の玉の様に飛んで敵を撃退するんですよ、魔法防御力がある敵には、物理攻撃が有効ですからね。ああ、これはサティには内緒ですよ」
「ぶっ……まあ、言ったらぶちぎれるでしょうね……」
絶対パットだという事を知っているやつの仕業じゃん……もしかしてそれを指示したのはエルダースライムなのだろうか……普段パットをさせられている怒りだったりとか……
「それとあなたが先ほど飲んだものは私の体の一部になります。ああ、ご安心を、体に害はありませんし、むしろ身体能力が少し向上していると思います。それに、ピンチの時は私の分裂体があなたの助けになると思いますよ」
「はぁぁぁぁぁ!!」
俺は驚愕の声をあげならがら先ほど口をつけたコップを鑑定する。まじだ……エルダースライムの一部じゃん……完全に飲んじゃったんだが……
てか、この人目の前で自分の体の一部が飲まれているのにあんな涼しい顔をしていたのかよ……頭おかしいんじゃないか? どんなマニアックなプレイだよ……
「それと……ありえないと思いますが一応言っておきますね。あなたがもしもサティを傷つけることがあったら体内の私が何をするかは……わかってますね?」
「え……あ、はい……」
「ほら、サティの準備ができたようですよ、女性を待たせるのは失礼にあたりますからね。ではいってらっしゃい」
相も変わらず涼しい表情のエルダースライムの言葉に、俺は死刑宣告をされた気分で、こちらに満面の笑みを浮かべて手を振っているサティさんのほうへと歩いて行くのだった。
生殺与奪の権を他人に握らせてしまった……
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