2.ワイバーンデート

魔王城……そこは常に超魔結界が張られており、何人も近づくことができなかったという。先代勇者は世界中に散らばる神々の力を持つ宝珠(オーブ)を使いようやくその結界を壊して、魔王城へと入ることができたのだと言われている。

 そして、魔王城で、勇者たちが戦い、四天王最後の一匹と、魔王の二体を相手に三日三晩の激闘の末ようやく勝利して、世界に平和が戻ったと言われているのだ。



「そんなすごい所に俺ごときが行っていいんだろうか……?」

「あ、いえ、違うんですよ。いきなり実家に連れて行って重いとか思わないでくださいね、ただ私の事を知ってもらうにはここが一番いいんだなって思っただけです。いつか友達を連れて行きたかったから夢がかなった―とか思ってませんから」



 俺の言葉に慌てて、サティさんが言い訳をする。

 いや、別にそういう意味じゃないよ? 先代勇者が無茶苦茶苦労して行った魔王城に俺ごとき中級冒険者が、友達の家に遊びに行くノリでいっていいんだろうかって意味だよ。

 まあ、いいんだろうなぁ……ちょっと嬉しそうな様子のサティさんを見て思う。俺達人類からすればラスボスの拠点だが、彼女からしたら自分の家だもんな。



「じゃあ、行きましょう。ワイバーンに乗るのは初めてですよね、結構揺れるんでしっかりと腰に捕まってくださいね」



 彼女は口笛でよんだワイバーンに馬にでも乗るかのようになれた感じで騎乗すると、こちらに微笑みながら自分の後ろを叩いて、俺にも乗れと誘導する。


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名前:ファフニール=エンドフレイム

 職業:アグニの部下兼バイト

 戦闘能力:62

 スキル:騎乗、火のブレス

 メンタル:最悪。ぶっちゃけリスカしたい。鬱だ死のう。

 備考:普段は魔物を載せてドラゴンライダーの乗り物として拠点の警備をしているが、浮気がばれて離婚したため、慰謝料の支払いをするために、休日はワイバーン便の副業をしている。最近娘にあわせてもらえない。

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 よかった……久々にまともな戦闘力だ……ここ最近異常な数値ばかりみていたがこれが本来の魔物の戦闘力である。まあ、俺より強いんだが……複雑そうな家庭環境はスルーしよう。てか竜族って奥さんと仲悪い奴らばっかりだな。ストレスたまるんだろうか……

 それにしてもワイバーンに乗るなんて初めてだなぁと思いながら、座ると意外と乗り心地は悪くなかった。



 でも、しっかり捕まってって……サティさんに捕まってって事だよな……こういうのでありがちなのは胸を触ってしまうケースだが……サティさんなら大丈夫だな。事故ってもせいぜいエルダースライムを掴むくらいだろう。ナイスパット!!


 俺は安心して彼女の腰に手を回す。質の良いローブの感触が何とも心地よい。背中につかまると彼女の髪の毛から甘い匂いがする。てかこんなに密着してるのってカップルみたいじゃない? やっべえ、どきどきしてきた。だが、そんなのは一瞬だった。



「じゃあ、行きますよ。ファフニール飛んでください!!」

「うおおおおおお!!」



 すさまじい浮遊感に襲われ俺は振り落とされまいと必死にしがみつく。痛くないかなと思ってサティさんを見ると「ふふふ」とどこか闇のある笑いを浮かべていた。



「友達を家に連れていくなんて夢みたい……」

「うわぁ……」



 と呟いている。大分闇深いな。さすが闇魔術のプロフェッショナルの魔王である。痛みは感じないようだし、俺は遠慮なく全力で彼女にしがみつくことにした。弁解するとラッキースケベ狙いじゃない。まじでおちそうなんだよぉぉぉ。ちょっとこの乗り物人類には早すぎるんだが!!




「アルトさん、アルトさん目を開けてください。見せたいものがあるんです」

「え、なんでしょうか、目をあけたら死ぬとかないですよね。高い所怖いんですが!!」

「なにを言っているんですか、それより、ほら、ここからあの湖を見てください」



 俺が彼女の言葉に従って恐る恐る目を開くと、湖に朝日が反射していてまるで宝石箱のように煌びやかに光っていた。その姿は物語の世界の様でなんとも幻想的で……美しかった。



「すごい綺麗だ……」

「ここは私が見つけたんですよ、大切な人に……アルトさんにも見て欲しかったんです。だから喜んでもらえて嬉しいです」



 そういうと彼女は得意げな笑みを浮かべてはにかんだ。確かにこれだけ綺麗なものだ。誰かにみせたくもなるだろう。彼女が綺麗だと思ったものや、見せたいものを共有するというのも彼女を知るという事なのだろう。そして、彼女がその相手に俺を選んでくれたのがとても嬉しかった。



「サティさん、ありがとうございます」

「どういたしまして、さあ、見えてましたよ、あれが魔王城です」

「あれがか……」



 彼女が示す先にはレンガで作られた大きな城があり、その下には城下町が広がっている。それだけならば王都と同じなのだが、一つだけ例外があった。その存在を主張するかのように中心に建っているのは巨大な石像だ。

 おそらくサティさんを模して造られたのだろう。巨大な像が全てを見下ろすように建てられていた。



「ああ、あれは魔王像と言って、現役の魔王の石像をドワーフたちが作るんです。その……友人に見られるのは恥ずかしいんであんまり凝視しないでください」



 そうは言われてもこれだけの存在感だ。つい目に入ってしまう。そして、これをみると彼女は本当に魔王なんだなとあらためて実感する。そして……俺の目はつい石像の胸元で止まった。

 石像も盛られてるな……



「アルトさん、何か言いたいことがあったら言ってくれていいんですよ」

「ひぇ、なんでもないですぅぅぅぅ」



 途端に殺気を放つサティさんに俺は即答をする。彼女は頬を膨らまして拗ねた顔をしながら、ワイバーンに指示をして城の上に着地をさせた。



「さて、着きましたよ」

「あれ、そういえば超魔結界は?」

「ああ、あれは城全体を覆うのはコスパ悪いんで、今は畑を守るのに使ってますよ。あれがあると獣が寄ってこないから便利なんですよね」


 

 あっさり入ったことに疑問を持った俺の質問に彼女は当たり前のように答える。いや、確かに戦時中じゃないし、不要だと思うが……伝説の勇者が破ったという結界がどんなものなのかちょっとわくわくしていたのに、ちょっと残念である。



「おかえりなさい、サティ、魔王城は中々のものでしょう、アルトさん」



 そう言って出迎えてくれたのは妙齢の女性の形をした半透明の水色の魔物だ。でも、彼女はなんで俺の名前を知っているんだろうか……しかもやたら親し気だし……もちろん俺には魔物に知り合いなんてサティさん以外いないんだが……

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