1.新しい距離
お、回復のポーションの薬草の採取クエストがまたきている。鑑定のレベルが上がったとはいえいつも受けていた依頼だ。やはりこれを受けないと落ち着かないのである。
決してサティさんに褒めて欲しいとかではない。
「アルトよ、少しいいか?」
「ん? ああ、ブラッディクロスさんか、一体どうしたんだ?」
俺がいつものように依頼の貼ってあるクエストボードを見ていると声をかけられた。きょろきょろと少し挙動不審なブラッディクロスさんに声をかけられた。
「なあ……アルトよ……貴公はサティさんの事をどう思う?」
「え……ああいつも優しい虚乳な受付嬢さんだけど……」
神妙な顔をしているブラッディクロスさんに俺はちょっと警戒しながら答える。この人まさか、サティさんの正体に気付いたんじゃ……
俺はそう思いながら冒険者ギルドの受付で作業をしているサティさんにどうしようかと視線を送ると何を勘違いしたのか、彼女は周囲を見回してから可愛らしく微笑んで手を振ってきた。
可愛いな、おい!!
だけど、彼女はただの少女ではない、なぜなら魔王でパットなのだ。あの手を振るたびに揺れているおっぱいも中身はスライムである。男の夢を欺く罪なスライムだぜ。でも、可愛いんだよなぁ……
「だから、なんなのだ、その貴公とサティさんのそのやりとりは!! カップルか、お前らカップルなのか!! リア獣は死ね!!」
「いや、そういうわけじゃないけど……」
俺とサティさんのやり取りを見て、激高したブラッディクロスさんが声を荒げる。確かに彼女の秘密を知ったことにより俺達の距離は縮まったのは間違いない。だが、ようやく、冒険者と受付嬢という関係から、友人になったくらいだろう。
まあ、個人的にはもっと仲良くなりたいが……それには魔王としての彼女をもっと知る必要があるだろう。
「ふむ、ならば私にもまだチャンスはあるという事だな!! このブラッディクロスは、冒険者としての実力だけでなく、女性の扱いもこの街で一番だという事をみせてやろう!!」
よかった、別にサティさんの正体がばれたわけではないようだ。てか、ブラッディクロスさんてモテるのか……男の冒険者には無茶苦茶慕われているが……俺も結構好きだしな。
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名前:ジョン=カルデック
職業:冒険者
戦闘能力:158
スキル:聖魔術・上級剣術・闇魔術
妄想力:9999
備考:平凡な名前にコンプレックスをもっており、普段はブラッディクロスと名乗っている。思い込みが強く自分を勇者の生まれ変わりだと思っている。サティに淡い恋心を抱いているが最近親しい感じの冒険者が現れたため焦っている。
最近『これを読んだらモテモテに!! 聖女も口説ける恋愛教本』という本を愛読している。
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妄想力? モテ力じゃなくて? 俺は一つの事に気づく
「そういえば、ブラッディクロスさんが女性と一緒にいるところ見たことないんだけど……」
「ふははは、心配は不要だ。確かにリアルの女性とデートをしたことはないが、模擬戦ならば、三千人の女性とデートをしている!!」
得意げな顔をするブラッディクロスさんに「それって妄想してるだけだよな?」と突っ込む前に、行ってしまった。
そういえばあの人はサティさんの事が大好きなんだよな……そう思うと俺の胸の中で何かがもやもやとしてくるのを感じる。
「サティさん、お仕事が終わった後に良かったら食事でもいきませんか!? 夜景がきれいな美味しいお店を予約してあるんです!!」
ブラッディクロスさんはギルド中の響き渡る声でデートに誘いやがった。え、まじでこの人何考えてんの? デートってなんか、もっとこうこっそりと誘ったりするもんじゃないの? しかも決め顏のつもりか慣れないウインクをしている。
そして、そんなことをすれば、ギルド中の注目がサティさんとブラッディクロスさんにあつまるわけで……みんなの注目が集まる中、サティさんは営業スマイルを浮かべたまま一言。
「ごめんなさい、仕事の方とはプライベートではお会いしないようにしているんです」
「バカな……この私がフラれるだと? 想定外だ……いや、あれですね、一回断って、もう一度誘うのを待つという小悪魔プレイですね。サティさん私と食事を……」
「ごめんなさい、仕事の方とはプライベートではお会いしないようにしているんです」
「そんな……私は……模擬戦で……三千人なのにぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
無限ループってこわいな。サティさんに営業スマイルを崩さずに、一度目と一切変わらないトーンで断られたブラッディククロスさんは泣き叫ぶ。
「どんまい、ブラッディクロス!! 奢ってやるよ!! 一緒に夜景を見ようぜ(笑」
「サティさんは仕方ねえって!! あの人おっぱいは柔らかそうだけど性格は固いからさ」
「くそがぁ!! 酒を頼む!! 飲まねばやってられん!! 心配するな、金ならアグニ貯金がある!!」
そう言うとブラッディクロスさんは叫びながら大量の酒を頼み、それを慰めるものや、あやかろうとする冒険者たちが声をかける。なんだかんだ人望はあるんだよなぁ……
でも、俺はサティさんがブラッディクロスさんのお誘いを断ってくれた事にちょっと安心した自分がいることに気づく。俺はそんな自分の気持ちを誤魔化すように幼馴染からもらった手紙に目を通す。
『勇者の訓練は相変わらず厳しいよ。でもね、強い魔物達も倒せるようになったしアルト兄に色々と報告もあるんだ。久々に休暇をもらったし、アルト兄の元に帰れそうだよ、私がいなくて寂しいからってやけ酒とかしたらだめだからね』
どうやらアリシアのやつ久々に帰ってくるらしい。だいたい二年ぶりくらいだろうか。王都から手紙が来たってことは大体一週間後くらいにこっちに来るのかな?
俺は久々に幼馴染に会えることを嬉しく思いながら手紙をしまうのだった。
その次の日の早朝俺は、とある人物と待ち合わせをしていた。まだ薄暗いためか人気のない町はずれの食堂前はどこか不気味である。
「待たせましたね、アルトさん」
「いや、今来たところですよ」
「ふふ、なんかこのやりとりって恋愛小説のデートみたいですね」
そういうとサティさんはいつもとは違う恰好でいつものように笑った。そう、彼女はいつか見た高そうな漆黒のローブを着て俺の前に立っていた。これが魔王の正装なのだろうか、どこか禍々しいが、サティさんが着ているせいか恐怖は感じなかった。
「いつもと違う恰好なんですね」
「ええ、今日は魔王としての私をお見せする約束ですから」
そう言うと彼女は優しく微笑む。そう、今日は魔王としてのサティさんを知りたい言っていたら、「いい場所がありますよ」と言われ軽く街を出ることになったのだ。
でも、魔王としてのサティさんか……やっぱり魔王の時でもパットはつけるんだなと俺は彼女の膨らんだ谷間を見ながら思う。
その時すさまじい殺気が、俺の心臓をわしづかみにした。
「アルトさん……何か言いたそうですね」
「ひえ、なんでもないですぅぅぅぅぅぅ」
俺の視線に気づいたサティさんが氷のような目で俺を見つめ返す。この魔王怖すぎる……比喩じゃなく死ぬかと思ったぞ。迂闊に視線を胸元に送らない様に心がけよう。
「そういえば、ギルドで言っていましたが、仕事の方とはプライベートでは会わないようにしているんじゃないんですか? 俺とこんな風に出かけていいんですか」
「何を言っているんですか、アルトさんと私は友達じゃないですか、それともこの前の食堂での言葉は嘘だったんですか?」
そう言うと彼女は拗ねたように頬を膨らませる。その言葉で俺は少し胸が熱くなるのを感じる。そうだよな……俺と彼女は友人だもんな。改めてそう言ってもらえるとちょっと……いや、すごい嬉しい。
「そういえばどこへいくんですか? 日帰りって聞いてましたけど」
「ああ、魔王城ですよ。私の事を知ってもらうなら私が暮らしていたところがいいかなって思いまして」
「あー、魔王城……は? 魔王城ってあの? え、いやマジで!?」
驚く俺をよそに彼女が口笛を吹くとどこからか、漆黒のワイバーンがやってくる。俺はその光景を呆然とした表情で見るのだった
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