幕間 勇者アリシア
「ふふふ、アルト兄元気かなぁ……」
「あらあら、今日のアリシアは御機嫌ね」
馬車の上で私が鼻歌交じりに、戦利品をいじっていると同じ勇者のパーティーのモナが話しかけてきた。
彼女は私のパーティーで魔術師をやってくれている少女だ。同い年だという事もあって色々と相談もさせてもらっている。せっかくだし、彼女にもこの嬉しさを共有しておこうかな。
「うん、今回のクエストで四天王の一人デスリッチを倒したでしょ。その褒賞としてお金と休暇をもらえることになったからさ、久々に幼馴染に会いに行こうと思って………」
「いつも手紙のやりとりをしているアルト君だっけ? 本当にアリシアはその人の事が好きだよね。あんたに言い寄る男なんてそれこそ腐るほどいるのにさ……それに、彼と王都で暮らすために屋敷まで買おうとしているんでしょう?」
「えへへへ、そうなんだ。アルト兄喜んでくれるといいな」
彼と再び暮らせる日を思うと思わず笑みがこぼれてしまう。優しいアルト兄、私の大切なアルト兄、私を救ってくれたアルト兄……
「でも、一緒に暮らすってことは結婚でもするの? 流石に婚姻前の男女が一緒に暮らすのはあなたの評判にも関わるわよ」
「そんなことはわかってるよ、モナ。私たちは結婚の約束をしているからね、問題なんてないんだよ」
「へぇー、でも、故郷の幼馴染と結婚なんて物語みたいでいいわね。こっちにきたら紹介してね。あんたを泣かせたら絶対に許さないって言っとかなきゃ」
「ふふふ、モナは優しいね。うん、ありがとう。絶対紹介するよ」
私の言葉に自分のことの様に喜んでくれるモナに私は笑顔で返す。そう、私とアルト兄は婚約者だ。五歳の時に、私の両親が盗賊に殺されて泣いている私に彼は言ってくれたのだ。
「俺がお前の家族になってやるよ」って……本当に嬉しかった。そして、その言葉の通り、彼は両親を説得して、身寄りのなくなった私を彼の家に迎え入れてくれたのだ。世間は私を勇者と言うけれど……私も勇者として色々と心掛けているけれど……私にとっての勇者は彼だった。
「家族っていう事は……つまりそういう事だよね……」
私は彼が言ってくれた言葉を思い出してついにやけてしまう。彼の事を思い出すだけで胸がドキドキする。私はアルト兄が別れるときに渡してくれたボロボロのスカーフを握りしめて匂いを嗅ぐ。彼の匂いはだいぶ薄れてしまったけれどこうしているだけで心が安らぐ。
勇者として力に目覚めて強制的に王都に連れてこられきつい修行に耐えれたのもいつの日か、彼にまた会えるから頑張れたのだ。
『ぐうぅぅぅ、人間が……我をこんな目にあわせるとは……』
「もう、せっかくいい気分だったのにうるさいなぁ……」
『うぎゃぁぁぁぁぁ』
私はさっきから握っている戦利品が喋りはじめたので、聖なる力を込めると悲鳴をあげて黙った。
「さすがは四天王のデスリッチね。頭だけになっても、まだ結界のなかで抵抗するだけの力があるなんて……」
「そうだね、でも、もう喋るだけしかできないよ。彼にはこれから他の四天王の場所や、魔王の場所を教えてもらわないと……それでいっぱい報奨金と休暇をもらってアルト兄と一緒に暮らすんだ。魔物は悪い生き物だから沢山狩らないとね」
私は戦利品であるデスリッチの頭蓋骨に力を込めながら呟く。魔物は狩るべき存在だ。魔物は百害あって一利なしだ。城の人たちはそう言っていたし、こいつだって、街を一つ滅ぼしてアンデットだけの都市を造っていたのだから……
ああ、でも、一つだけ利があった。こいつら魔物を倒せば報奨金や休暇がもらえて、アルト兄とたくさん一緒に過ごせるようになるのだ。
「ふふふ、待っててね、アルト兄。もう少しでまた会えるからね」
私は戦利品を握りしめながら故郷の街の方を見つめて微笑むのだった。
--------------------------------------------------------------------------------
これで一区切りで次の話から勇者アリシア編になります。
よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます