第10話 パットスライム
『サティの寝込みを襲わなかった事は褒めてあげましょう、もしも、我が愛しのサティに手を出していたらあなたは今頃あの世だったでしょうね』
「はぁ……ありがとうございます」
サティさんの胸元から出てきたパットスライムの偉そうな言葉に俺は、適当に返事を返していた。それにしても、あのまま襲っていた俺は殺されていたのかもしれないのか。まじで恐ろしいな、おい。酔った女の子を襲ってスライムに喰われるとか洒落にならんぞ。もはや怪談じゃないか……
『それにしても、魔王の友人がこんなに弱そうな男とは少し残念ですね……』
「そりゃあ、サティさんには負けますけど、俺だってそこそこはやりますよ」
パットスライムの溜息をついたような言い方に少しカチンとくる。そりゃあ、俺は冒険者としては中堅だけど、普段パットをしているスライムに負けるほど弱くないぜ。とはいえ、サティさんの関係者だ。暴力で説得は良くないよな。せめて弱みを握ってお返しをしてやろうと思い鑑定スキルを使う。
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名前:エルダースライム=エバーランド
職業:四天王兼スライムキング
戦闘能力:99999
スキル:無限増殖・威圧感(特大)
肌ざわり:無茶苦茶気持ちいい。
備考:先々代から四天王をしており、みんなのまとめ役。サティを実の孫のように溺愛している。最近の楽しみにはサティの成長を見守る事
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四天王じゃねえかよぉぉぉぉぉぉぉ!! なんでパットなんてしてるんだよ!! しかもまとめ役とか絶対重要なポジションじゃん。誰だよ、パットスライム何て楽勝っていったのは!! こんなのと戦ったら瞬殺されるわ!! イキっててすいませんでしたぁぁぁぁ!!
というか魔王が人間の街で受付嬢をやっていて、四天王の一人がパットをやってるって魔王軍って組織として大丈夫? もはや破綻してない?
『それにしても……この子が自室に呼ぶまで心を開くとは……感慨深いものです。この子は自分の正体を隠して人と接していたからか、中々他人にうちとけられなかったんですよ』
「……そうなんですか」
俺はエルダースライムの言葉に静かにうなづいた。
確かに冒険者ギルドで見た彼女は冒険者とは一線を引いていた気はするが、他の受付嬢やギルド職員とは普通に会話をしていたように思える。だけど……やはり、正体を隠していたのだ。いつばれるか油断はできないし、罪悪感もあっただろう、俺の知らないところでずっと気を張っていたのかもしれない。
『この子は変に真面目過ぎるし、魔王の後継者ということもあり、魔物の中にも気安く話せる友人のような存在はあまりいなかったのです。だから……この子がこうやってだらしない姿をみせることのできる相手が現れたのが素直に嬉しいのですよ。それが例え人間であっても……ね。だからあなたにはこれからも、この子の理解者であってほしいんです……』
そう言うエルダースライムの表情はわからないが、どこか優しい感じの声色で言った。その様子はまるで孫の成長を喜ぶ家族のようだ。ひょっとしたら、このスライムはサティさんのお世話係のようなものなのかもしれない。
「そこまで信頼されているんじゃ裏切れないですね。心配しないでください。俺はサティさんの秘密は誰にも言いませんよ、それに……俺の方もサティさんにお世話になってますし、友達だと思っています。だから、魔王の彼女の事も理解していきたいと思っています」
『ふむ。それはよかったです。何かあったらいってください、アルトさん。私の方でも力をかしましょう。あなたは、この子の数少ない友人ですからね、クエストか何かで死んでもらっては困ります』
どうやら俺の返答がお気に召したようだ。呼び方が少年からアルトさんに昇格したぜ。偶然とはいえ四天王の一人に力を貸してもらえるというのはありがたいな。まあ、そんな無茶なクエストをする気はないけどさ。
「では、サティさんによろしく言っておいてください。俺はもう帰りますんで」
『お待ちなさい、まだ話は終わってませんよ。それで……あなたは友人と言いましたが、この子の番になる気はありませんか? 責任をとるというのなら、私は席を外しますよ』
「ぶっふあ……」
『どうしたんです? いい年をした男女なんです、それくらいおかしいことではないしょう? サティは確かに胸は無いですが、顔はいいし、あなたの事もわるくは思っていない様ですしね。そうでもなければこんな風に隙をみせたりはしないでしょう、腐っても魔王ですからね」
「なっ……」
エルダースライムの予想外の言葉に俺を絶句する。え、付き合うなら手を出していいって事かよ? いや、そりゃあ、いいなぁとは思ってたよ、パットだったのは残念だけど、俺もそれで興味がなくなるほどクソな男ではないし、サティさんは魅力的だ。だけどさ……
「いえ、サティさんに申し訳ないので遠慮しておきますよ」
『ふむぅ、やはりパットの貧乳娘では抱く気がおきませんか……いったぁ』
エルダースライムの言葉にサティさんが寝返りをうって拳が、彼女? にあたった。サティさんおきてないよな? 今から恥ずかしい事をいうんだけど……
「それは違いますよ。正直魔王でパットっていうことで混乱はしています。だけど、本当のサティさんを知れたという点ではよかったなって思ってます。今までは憧れだけで見てましたからね。だけど、俺は鑑定スキルのおかげで魔王としてのサティさんを知る事もできました。そして、俺はこれからもサティさんの事を知って、俺の事も知ってもらっていきたいと思います。そして、覚悟が出来たら、その時は酒の力とかじゃなくて堂々と誘いますよ。だから、その時はそっと席をはずしてもらえるとうれしいです」
『なるほど……わかりました。サティはいい友人を持ちましたね。この子には今日はちゃんと何もなかったと伝えておきますから、明日冒険者ギルドで会ってもこれまでどおり接してやってくれますか?」
「もちろんです」
そうして、俺はエルダースライムに別れを告げる。そりゃあ、据え膳食わぬは男の恥とか言うけどさ、ちゃんと考えたいと思ったんだよ。俺の憧れの人だしさ。なんていうのはかっこつけすぎだっただろうか。でも……サティさん良い匂いだったなぁ……
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