第8話 食事

奥へと入った俺が見たのは予想もしない世界だった。人狼や、ダークエルフ、様々な亜人と言われる魔物が食事をしていた。中には俺達の様に人間と一緒に食事に来ているものもいるようだ。

 そして、気になるのは人間も決して嫌がる様子はなく、むしろ普通の友人や恋人相手に接するような態度である。



「サティさん……ここは?」

「はい、ここは人の街に住む魔物達の憩いの場なんです。アルトさんはご存じないかもしれませんが、人間の街にも意外と魔物はいるんですよ。そして、彼らは人と共存しているんです」


 

 彼女は少し誇らしげに、そう言った。確かに冒険者ギルドなどでも街中で亜人の目撃情報はあった。俺も鍛冶屋で働ているドワーフなど、亜人と呼ばれる連中がいる事は知っている。だけど……こんなにいたなんて……。

 まあ、冷静に考えれば王都や神殿の様に結界でもあるわけでもないので、こんな田舎町侵入しようと思えば侵入し放題なんだよな。特に亜人と呼ばれる人型の魔物はぱっと見人間と区別がつかないのもいるし……

 


「彼らは人と共存を望む魔物達です。私は、そんな彼らが安心して過ごせるような世界を作りたいんです。それにはまず人の事を知らなきゃなって思って、正体を隠して人と接する機会の多い冒険者ギルドの受付をやっているんですよ」

「そうだったんですね……」



 彼女の言葉で俺の中にわずかに残っていた疑惑がはれるのを感じた。鑑定を使わなくてもわかる。彼女は嘘をついていないだろう。そもそもだ、本気で彼女が俺を口封じするつもりだったらもっと簡単な方法だってあったのだから。

 彼女は俺を信用して、秘密の場所を教えてくれたのだ。だったら俺も信頼にこたえたいし、サティさんの事を知りたい。だから少し不快に思うかもしれない質問をする事にする。これは彼女の事を知るには避けては通れない質問だからだ。



「サティさんは何で人と魔物が和解をできると思ったんですか? 失礼ですが、魔王は先代の勇者に……」

「そうですね……私の祖父が、あなたたち人類と戦い勇者に倒された魔王なんですが、彼が死んだ後に魔王を継いだ父が水面下で色々と人間達と交流をしているのを見て、人間もちゃんと話せばわかるんだって思って興味をもったのがきっかけですね。中には私にお菓子や絵本をくれたり優しくしてくれた人もいたんです。それまでの人間のイメージは出会ったら襲い掛かってくるし、勝手にダンジョンに入ってきて部下の魔物を殺して、宝箱の中身を奪うやべーやつらって印象でしたから」

「ああ、確かに魔物からしたらそうですよね……」


 

 そう言って彼女は少し苦笑しながら言った。まあ、俺達人類からしたら、魔物は見つけたらこっちを襲ってくるやばいやつらだが、あっちからしたら確かにそうだよなぁ……ゴブリンとか巣があったら壊滅して、やつらが集めていた宝物とか奪ってるしな……そう考えるとどっちもどっちなのかもしれない。



「もちろん、あなたたちのような冒険者が魔物を襲う事を咎める事はしませんよ。魔物の大半はアグニのように人を獲物だと思っていますし……ですが、ここにいる魔物のように人と共存を望む魔物もいるんです。彼等のような魔物は人と手をとりあえたらいいなって思っているんですよ。そして、そうすることによって今までの私達魔物だけでは見れなかった世界が見れると思ったんです」



 彼女はどこか夢物語を語るように憧れに満ちた目で言った。確かにこうして彼らのように人と魔物が一緒に食卓を囲んでいるのをみるとそれも不可能ではないと思えてくる。きっとここまで来るのに色々と大変なことはあったんだろう。だけど……きっと一歩ずつだけど進んでいるのではないだろうか?



「今度は私の質問です……アルトさんはさっきなんで私を助けてくれたんですか? 私が魔王っていう事を知っていたんですよね? ならあんな風にアルトさんが格上の冒険者と戦うような危険を冒さなくてもよかったじゃないですか」

「あー、それはですね……あそこでサティさんが魔王の力を使ったのがばれたら、もう受付嬢はできなくなる可能性があったじゃないですか? それに……普段お世話になっている女の子を守るのは男のロマンなんですよ」

「それが……その少女が……魔王でもですか?」

「はい、魔王の前に、俺にとってはいつも優しくしてくれる受付嬢のサティさんですからね」

「あーもう、さっきといい、本当にこの人は……」



 俺の言葉にサティさんはぽっと出そうなくらい顔を真っ赤にして、それを隠すようにして手で自分の顔を覆った。確かにちょっと気障っぽかっただろうか……俺も自分で言ってて無茶苦茶恥ずかしくなってきたぞ。



「ほらほらに夢中になるのもいいけど料理もたべなさいな。冷めちゃうじゃないか。全く青春だねぇ」



 なんか変な空気になった時にグレイさんが料理を持ってきた。念のために鑑定をしてみたが、本当に人間用の料理で……しかも、俺の好物だった。そして、俺達は恥ずかしさを誤魔化すように酒の力も借りて、談笑をするのだった。 お互いプライベートで会うのは初めてだったけどすごい新鮮で楽しかった。

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