第4話 魔王VSアグニ
どれだけ山を登っただろうか? サティさんにばれないようにという気を張っていたためか下手にダンジョンに入るよりも疲れた気がする。
真っ暗な山道をついていって、よくわからない獣道を通りようやく洞窟の前にたどり着いた。
「アグニ、そこにいるのはわかっています、姿を現しなさい」
洞窟に響くのはいつもの優しい声色ではなく、どことなく冷たさを感じさせるサティさんの鋭く威圧感のある声だった。多分、これが俺の知っている受付嬢ではなく、魔王としての彼女なのだろう。
そして、その声に鼓動するかのように洞窟の中から何かがはい出てきた。
『久しいな、魔王よ』
ソレはすさまじい威圧感のある重低音で、声を発するだけで自分の身体が震える。全身を覆う美しい赤色の鱗に、にやりと笑う口から覗く鋭い牙、そこには、魔物の中でもっと力を持つ種族の一つである竜種がいた。
彼がもしも、俺を見つめていたらそれだけで、意識を失ってしまったかもしれない。そう思わせるだけのプレッシャーがあった。
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名前:アグニ=スターロード
職業:四天王兼竜王
戦闘能力:99999
スキル:獄炎のブレス・威圧感(特大)
プライド:無茶苦茶高い
備考:プライドが高く自分以外の全てを見下している。褒められるとすぐ調子に乗る。奥さんと別居中
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いやいやいや、やべえよ、これ、ブラッディクロスさんじゃ歯が立たないよ。というか魔王と同等の戦闘力じゃん。他の四天王もこれくらい強いんだろうか? 確か暴食にて高潔なるエルダースライム、屍界の王デスリッチ、堕ちた精霊ウインディーネだっけな……名前だけでもむっちゃ強そうだよ。やべえよ。
俺があまりの敵の強さに戦慄している間にも二人の会話は進んでいく。
「なぜあなたがここにいるのですか? 私は人間達と和平を結ぶために、彼らの生活を見て、彼らを知り、この街に生まれたという勇者と交渉をするために潜伏していると言ったでしょう」
『甘い、甘いぞ。魔王よ。なぜ我々魔物が下等な人間なんぞと和平を結ぶ必要があるのだ!! 奴らなんぞ所詮贄にすぎんのだ。逆らうならば殺してしまえばいいだろうが!! 勇者なんぞ我が力ならば恐るに足りん!!』
アグニの吠えるような激しい言葉にサティさんはフッと失笑する。その表情はまるで何も知らない赤子に対するようで……
「あなたは何もわかっていませんね、そうして、彼らを馬鹿にしていたから祖父は先代の勇者に討たれたのですよ。勇者は私たちの想像を超えるレベルで成長しますし、スキルもすさまじく強力なものを持ってるんです。そうでなければ、私の祖父が負けるはずがないでしょう。それに……人には悪い奴もいれば良い奴もいます。最初っから話し合う気も無ければ、私たちは一生いがみ合って殺しあうだけになってしまうんですよ。私の言葉では説得力がなくとも、祖父の代から仕えているエルダースライムも和平を結ぶべきと言っていたはずですが……」
『くだらん!! そんな事だから我々魔物が舐められるのだ!! 我の意志にデスリッチも賛成してくれているぞ。貴様の様なふぬけは魔王軍のトップにはふさわしくない。焼け死ぬがいい!! 滅炎息!!」
アグニの口からすさまじい勢いの炎のブレスが解き放たれ、サティさんを襲う。あまりの事に俺は何もできなかった。
いや、そりゃあさ、サティさんは魔王だけど、結構親しくしてたんだ。だからピンチになったらこのマントを使って助けようって思ってたんだよ。だけど……俺ごときが助けれるレベルの戦闘じゃなかったんだ……
だけど……だからって何もしないままで入れるかよ。俺は自分の持つ最高級ポーションをカバンから取り出して、彼女に駆け寄ろうとしたその時だった。
『はっはっはー、所詮は血筋で魔王になっただけの小娘よ!! 魔王にふさわしいのはこの我だ!! 胸だけではなく戦闘力も大したことがないな、パットの貧乳魔王が!! 己の愚かさを……ひぎゃぁぁぁぁぁ!!!」
高笑いするアグニの腕を漆黒の刃が真っ二つに切断をした。アグニが驚愕の表情をすると同時に土煙がはれ、火傷どころか、埃一つないサティさんが氷のように冷徹な目でアグニを見つめていた。
「で? 誰がパットですって?」
『貴様生きて……ひぎゃ!!』
漆黒の刃が再びアグニを襲い鱗を傷つける。
「で? 誰が貧乳魔王ですって?」
『くそ……やるな、だが、我とて……ひぐぅぅ!!』
そこからはもう戦闘ではなかった。まるで聞き分けの悪いペットをしつけるがごとく一方的な展開だった。アグニが何かしゃべるたびに、何か動くたびに漆黒の刃が彼を傷つける。
しばらくしてそこにいるのは冷徹な目のサティさんと、呆然自失とした顔で全身を切り刻まれたアグニだった。
「戦闘力が全てではなく、スキルも大事だとわかったでしょうか? そして、それが人間の……勇者の強さなんですよ。それで、なにか私に言いたいことがあるようでしたが……もう一度いってくれますか?」
『サティ様は巨乳で素敵な魔王様です……私はサティ様に一生従います……』
「わかればいいんです、それと……私がパットなどと偽りの情報をあなたに与えたのはは誰でしょうか? 一回その方とはじっくりとお話をしないといけませんね」
『ひぃぃぃ!!』
サティさんが微笑みながらそう言うとアグニは、涙目になって悲鳴を上げた。わかるよ、笑顔なのにすっごいこわいし、さっきのアグニよりも圧倒的に威圧感があるんだが……
『それは……デスリッチのアホですぅぅぅ、あいつが魔王様のお風呂を覗いた時に実は貧乳でパットだといってましたぁぁぁぁ。あいつは魔王様の事を陰でパット姫とか呼んで馬鹿にしてましたぁぁぁぁ』
「ほう……魔王城に帰ったら彼とは色々とお話をする必要があるようですね……場合によっては四天王の一人がかわってしまうが、構いませんよね」
最初に登場した時の威厳はどこにいったやら、アグニがどんどん味方を売りやがった。ああ、デスリッチとかいうやつ死んだな……俺は顔も知らないデスリッチの冥福を祈る……っていうかリッチだからもう死んでんのか……
「それと……アグニにはもう一つお願いがあります。明日の朝、冒険者達が来ると思うので、彼らが来たら適当な言い訳を言って逃げてください。もちろん、私の存在は絶対に気づかせないようにしてくださいね」
『はい、わかりました!!』
「あと……私がパットとかいう虚偽の噂も絶対他の魔物達には流れないようにしてください」
『はいぃぃぃぃ。わかりました!!』
一回目よりも二回目の方が迫力がやばかった……正体がばれる時よりパットとばれる方が嫌らしい。乙女だな……てか、俺が魔王であることもパットであることも知っているしばれたらまずいんじゃ……
俺は自分の命の危機を感じさっさとこの場から逃げることにした。アグニの問題は解決したみたいだしな。
ようやく、帰宅した俺は自分のベットに潜って考え事をする。サティさんはどうやら俺達人間に害をなすつもりはないようだ。だったら……別に気にしなくてもいいんじゃないかなって思う。彼女が魔王だという事は忘れて、これまで通り接しよう。
そうだ、俺にとってサティさんは美人で優しいパットな憧れの受付嬢に過ぎないのだ。俺は何も知らなかった。それでいこう。
自分の中での考えを整理した俺は、気分転換にでもと寝る前に幼馴染からもらった手紙をみようと普段使っている鞄を漁った。
「ない?」
どこでなくした? まあ、宛名は書いてあるし、だれか届けてくれるだろう。俺はそう思って眠りにつくのだった。それが運命を変える選択肢だったとも知らずに……
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