第3話 魔竜アグニ
「どうする? 四天王何て勝てるわけないだろ!! 」
「ふざけんな、俺はとっとと逃げるぜ!! こんなところで死んでられるかよ」
冒険者ギルドが騒然となるなか、いち早く逃げだろうとしたのは先ほどサティさんに絡んでいたノイズと言う冒険者だ。ブラッディクロスさんとお話をしたせいだろうか、頭に包帯をしている。
「これから緊急でミッションが依頼されると思います……アルトさんはどうするおつもりですか?」
「どうって……そりゃあ、参加しますよ。この街は俺の故郷ですし、倒せなくても住人がにげるくらいの時間を稼ぐことくらいはできると思いますし……」
できるかな? いや、できなそうなんだよなぁ。だって、四天王だよ。ボスキャラじゃん。幼馴染のあいつならともかく、俺では歯が立たないだろう。
俺が周囲を見回すと、ノイズのようなよそ者の冒険者を除いて、ほとんどの冒険者たちはギルドに残っている。そして、みんなはどうしようかと様子を見ている。まるで誰かが声を上げるのを待っているかのように……
「はっはっはー、皆の物安心するがいい!! このノーグタウン最強の冒険者であるブラッディクロスが、魔竜アグニを倒してこようではないか!! 竜殺しの名誉は私のものだ!!」
最初に声をあげたのはブラッディクロスさんだった。そして、その言葉に呼応するようにみんなも騒ぎ始める。
「おお、さすがブラッディクロスさんだ!! 俺もついていくぜ!!」
「ブラッディ!! ブラッディ!!」
「はっはっはー、明日の夕ご飯はドラゴンステーキだな。職員のみんな、念のために住民たちの避難の準備はしておいてくれたまえ」
ギルド中の冒険者がブラッディクロスさんを激励する声で支配される。我がノーグタウン最強のソロ冒険者であるブラッディクロスさんなら……確かにそう思われているのだろう。だけど、鑑定スキルを持っている俺だけが気づいた。
実は彼が震えていることを……彼の心が恐怖に支配されていることを……だけど彼はそんな事はおくびにもださない。ああ、くそ、かっこいいな……あんたは本当にノーグタウンの英雄だよ。
「このままじゃ……だめですよね……」
小さい声でつぶやいたのはサティさんだった。何がだめなんだ? そう思いサティさんの方を振り向くと彼女は、微笑ましいものを見るような、まぶしいようなものをみるような、そんな目でブラッディクロスさんを見ていて……何かを決意したように頷いたのだった。
冒険者ギルドで明日の打ち合わせを終えた俺は急いで自宅に戻り、姿を隠すローブを身に纏ってサティさんの家の前を監視していた。
どうも気になるんだよな……あの時の表情と、言動がどうもひっかかかるのだ。
『このままじゃ……だめですよね……』
と言っていたが魔王の戦闘力が99999なのだ。四天王がそこまで強いとは思わないが、半分くらいの戦闘力はあるのではないだろうか? だったらブラッディクロスさんではやはり相手にならないだろう。なのに、彼女はなぜあんなことをいったのだろう? なにがダメなのだろう?
そんな事を考えていると、人影がサティさんの家から出てきた。うおおおおお、なんかくっそ高そうで、禍々しい感じの漆黒のローブを着こんでいる。いつものように胸元は膨らんでいるが、谷間は見えていない。まあ、中身はスライムだもんな。
闇夜を、漆黒のローブで歩く姿はどこか神秘的で、いつものサティさんとは違い、魔王と言われても信じてしまうそうなくらいである。彼女は警戒するようにあたりを見回して、その視線が俺の方へと向いた。
「視線を感じた気がしたのですが……」
あっぶねー、心臓が止まるかと思った。一瞬目が合った気がしたが姿を消すローブのおかげでなんとかばれずに済んだようだ。俺はぶわっと流れた冷や汗を拭く。
そして、彼女はそのまま魔竜アグニがやってきたという山の方へと向かっていった。もちろん俺もついていく。
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