第2話 受付嬢は魔王様
「さーてどうすっかなぁ……」
翌日朝早く冒険者ギルドでモーニングのトーストとコーヒーを口に入れ俺は予想外のことに頭を悩ませていた。いや、あのポヨンポヨンと上下に動いて俺達に夢と希望を与えてくれていたおっぱいが本物じゃなくてスライムってどういうことだよ……俺は今までスライムで興奮していたという事なのか……
「って、そーじゃねーーーー!!」
俺が壁に頭をぶつけて正気を戻していると周囲から「なんだこいつ、やべえな」って視線で見られてしまった。注目を集めてしまったのを誤魔化すように、俺が愛想笑いをするとさっと視線をそらされる。やばい人間扱いされてるじゃん。
「受付嬢が魔王なんだよって言っても誰も信じてなんてくれないよなぁ……」
俺が冒険者ギルドの受付を何気なく見るとサティさんと目が合ってしまった。彼女は一瞬周囲を見回した後こっそり俺に手を振ってくれた。可愛いな、おい!! 思わず魔王だという事を忘れてしまいそうである。
今のところ害はないが、魔王がこの街に住んでいる理由は大体予想がつく。なぜならこの街は勇者の出身地なのである。今はまだ王都で極秘の修行中だが、里帰りのタイミングでも狙っているのかもしれない。何で俺がそんなことを知っているのかって? 俺の幼馴染が勇者なんだよ。
「仲間を探すか……? でもなぁ……」
俺はこのギルド最強の冒険者であるブラッディクロスさんを鑑定する。彼が勝てなければ冒険者ギルドの誰も勝つことはできないだろう。
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名前:ジョン=カルデック
職業:冒険者
戦闘能力:150
スキル:聖魔術・上級剣術・闇魔術
厨二度:9999
備考:平凡な名前にコンプレックスをもっており、普段はブラッディクロスと名乗っている。思い込みが強く自分を勇者の生まれ変わりだと思っている。サティに淡い恋心を抱いている。
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「情報量の洪水かよぉぉぉぉ」
待って、ブラッディクロスさんって本名ジョンなのかよ。いや、両親もどういうセンスでブラッディクロス何て名前を付けたんだとは思っていたけどさぁ……てか、この人サティさん好きなのかよ!!
予想外の事を知ってしまったようだ。ていうか魔王やべえわ。なんだよ、戦闘力99999って。別にブラッディクロスさんが弱いわけではない。俺なんて52だしな。何かアイテムとか、勇者とかが持ってそうなすげースキルを使って弱体化させないと絶対勝てない奴じゃん。どーすんだよぉぉぉぉ!!
しかもだ、サティさんの仕事ぶりをさりげなく見ていても、何の不審な点はないのだ。
無遅刻無欠勤だし、他の冒険者達も仕事が丁寧で評判が良い。しかも、字を書けない依頼主のために、依頼書を書いたり、腰の悪いギルド職員の代わりに荷物を持ったりと、良い人エピソードで溢れているのだ。
「おいおい、ねーちゃん。俺はあんたらギルドのミスで死にかけたんだぜ、もっと誠意を見せてくれてもいいんじゃないか?」
「依頼内容は事前に説明していた通りです。確認ミスをしたのはあなたでしょう」
俺が頭を抱えていると、受付の方で、ドスの聞いた声が聞こえてきた。なにやら問題があったのかと思って、見てみると冒険者が受付嬢に絡んでいるようだ。
冒険者にはガラの悪いやつはいるからな。俺があんまりタチが悪ければ仲裁に入ろうと思っていると信じられないものを見てしまった。
「なあ、ねーちゃん。あんたが今晩俺の相手をしてくれるっていうのでもいいんだぜ」
「なっ……あなたという人は……何をいっているんですか!!」
冒険者のイヤラシイ手が、一見豊満な胸元に届きそうになる瞬間だった。
「サティーさーん、そろそろあいつから手紙が来てませんか!!」
「アルトさん……?」
俺は偽りの乳に触れそうな冒険者の手をはじくように二人の間に入る。こいつまじで頭おかしいんじゃないか? この人を怒らしたらこの街が滅ぶんだよぉぉぉぉぉぉ!!! いや、正体知らんのだから仕方ないけど……
「てめえ、俺はBランクのノイズ様だぞ。わかって喧嘩をうって……」
「うっせえ、死ね!! お前こそ喧嘩を売る相手を考えろよぉぉぉぉぉ!!」
俺はノイズとかいう冒険者が何かを言っているが、絶叫しながら必死に受付から距離を取らせる。こいつの事はよそ者だから知らなかったが、俺はCランクのなのでこいつの方が格上みたいだ。てか、命をすくってやったんだから感謝してほしいくらいである。
ちなみに冒険者ランクはAからEまであり、Cランクは中堅でBランクはそこそこ優秀である。まあ、魔王に比べたらゴミカスみたいなんだけどな……
「なんでお前そんなに必死なんだよ、きもちわりいな。一発殴らせ……」
「よくやったな、グレイス!! あとはこのAランク冒険者であるブラッディクロスにまかせておくがいい。サティさんを傷つけたやつは私が裁こう!!」
「なんだこいつ……おい、やめ……」
俺がノイズに殴られそうになると今度はブラッディクロスさんが助けてくれた。ああ、この人サティさんの事好きだもんな。とにかく助かった……あとは、サティさんのフォローをしなければ……今のノイズとかいう冒険者のせいで『人間を滅ぼそう』とか思われたらやばいしな。
「サティさん大丈夫ですか? アホな冒険者が迷惑をかけました」
「もう、アルトさんこそ気を付けてください。相手は格上の冒険者だったんですよ。私達受付嬢はこういう事には馴れてるんですから!! でも……嬉しかったです」
「いやぁ……」
俺がサティさんに声をかけると彼女は少しに目に涙を溜めて、俺の手を両手で握ってそんなことをいってくれる。うおおおおお、可愛いし、魔王なのに手が柔らかいし、いい匂いがするよぉぉぉぉ。
「ああ、すいません、お手紙でしたね……幼馴染さんは本当にアルトさんの事がお好きなんですね。やはり、もしかしてお二人は付き合っていたり……」
「いえ、あいつはただの幼馴染ですよ、まあ、家族になるって昔約束したんで妹みたいなものですよ、あいつは……」
サティさんに声をかける方便だったが本当に手紙が来ていたらしい。あいつは筆がまめなのか、王都に行ってもしょっちゅう手紙を送ってくるのである。
「じゃあ、私にもまだチャンスはありますかね……なんちゃって」
「ははは、からかわないでくださいよ」
そう言って少し恥ずかしそうにはにかむサティさんはとても可愛らしい。くっそ、魔王だって知らなければ、フラグだって思えるのに……もしかして、俺の幼馴染が勇者だってばれたのか? チャンスって人質にするチャンスですかね……
とりあえず昨日のポーションも普通のポーションだったし俺が、彼女の正体に気づいていることはばれてないよな……そんな風に思っていた時だった。
「大変だぁぁぁーー近くの山に魔王四天王の魔竜アグニがやってきたぞぉぉぉぉ」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!???」
その一言で平穏だった冒険者ギルド中が、蜂の巣をつついたかのように混乱に包まれる。四天王ってマジかよ、やっぱり、さっきのでサティさんがぶちぎれて呼んだとかないよね?
そんなことを思っていたからだろう、俺は彼女が「なんでアグニが……」とつぶやいていたのを聞き逃していたのだ。
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