りくがめローリーとこねこたち

古狸杢兵衛

第1話

 気持ちの良い午後でした。 

 レタスを食べた後でおうちの中を散歩していたりくがめのローリーくんは、部屋の真ん中に見慣れない水色の箱を見つけました。箱の中では何かがゴソゴソ動いているようです。何だろう?と思ってローリーくんは首を伸ばしました。

 すると、茶とらの子猫が箱から飛び出して来ました。勢い余って転んでいます。ローリーくんはびっくりして頭を引っ込めました。続いて三毛の子猫がニャーニャー鳴きながら、さらにはち割れの子猫が鼻をくんくんさせながら、最後に毛足の長い子猫が怯えたように体を低くしながら出て来ました。

 ローリーくんは子猫たちのかわいらしい様子に目を輝かせました。

 ところがそれからが大変です。四匹が部屋中を駆け回り、まるで竜巻か何かのようです。ローリーくんは子猫たちがけがでもしないかと心配であわてますが、どうにもなりません。

 茶とらがカーテンをかきのぼり、一番高いところからジャンプ、三毛が棚に飛び上がり、写真立てやらなにやらをぱたぱた倒し、はち割れがかばんに飛び込んで、底をがりがり、毛足は自分のしっぽを追いかけてぐるぐる、ローリーくんは目をふさいだり首を引っ込めたりして「ああ!」「うう!」。

 やがて子猫たちは遊び疲れてパタン、と倒れるように寝てしまいました。ローリーくんもへとへとになってぐったり眠りました。


 昼寝の途中で目覚めた子猫たちはローリーくんの側に寄りそうと、また丸まりました。ローリーくんも薄っすらと目を開けましたが、すぐに眠りに落ちました。


「きみたち、名前は?」

 レタスをかじりながらローリーくんが尋ねました。

「ないよ」

 空っぽになった哺乳瓶を弄びながら茶とらが言いました。

「そうよ、あたしたちはここにはすこしの間しかいないんだわ」

 毛づくろいをしながら三毛が続けました。

「ぼくたち、これから別々におうちにもらわれて行くんだよ」

 はち割れが顔を洗いながら言いました。

「そしたら、そのおうちで名前を付けてもらうのよ」

 と毛足はあくびをしました。


 最初に新しいおうちが決まったのは、茶とらでした。優しそうな女の人に迎えに来てもらった茶とらはとても嬉しそうでした。

「よかったね」

 みんなが声をそろえました。

「みんな、元気でね」

 と茶とらが尻尾を振りました。


 次は三毛の番でした。お母さんと元気な女の子が迎えに来てくれました。

「お転婆し過ぎないようにね」

 みんなが声をそろえました。

「わかってるわよ」

 と三毛がつんとして見せました。


 三番目ははち割れです。きちっとした服装をした紳士が迎えに来てくれました。

「お金持ちそうでよかったね」

 ローリーくんと毛足が言いました。

「おいしいものいっぱい食べるんだ」

 はち割れがうっとりと言いました。


 最後に残った毛足には、お迎えは来ませんでした。

「あたし、名前を付けてもらったの」

「え、それじゃ…」

「そうよ、あたしはこのおうちに残るのよ」

 毛足は前足をきちんと揃えました。

「あたしの名前はララて言うのよ。よろしくね!」

 ローリーくんは目を輝かせて、首を目一杯伸ばしました。 

  

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

りくがめローリーとこねこたち 古狸杢兵衛 @1735

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る