十四章 ~Another story~ 異世界から来た運命の子

 静かな森の中に佇む小さな神殿。そこには「時の使者」として生きている精霊が住んでいる。


「あの星はこれで「影」の影響を受けることはない。だからもう僕がいる必要もない。それなのに……どうしてこうなるかな」


そっと溜息を零すと彼女の体は緑の光に包まれ消えた。


「……」


彼女が次に現れたのは榊の森の中。そこから刹那は迷うことなく歩きある場所を目指す。


「……ふっ」


そして目当ての人物達を見つけると小さく微笑みそっと近寄っていった。


「まったく君達は……とんでもない事をしでかしてくれたね。この星の外で生きている精霊をこの星に呼び出し留めるなんてさ」


「セツナ!」


「セツナさん」


ふうと溜息を吐くと腕を組み言う。彼女の言葉にアオイと麗奈が嬉しそうな笑顔で抱きついてくる。


「……ま、君達の中から「僕」という存在を完全に消し去ることができなかったのは僕の落ち度でもあるからね。仕方ないからしばらくの間はここにいてあげる。この瑠璃王国が再建されて落ち着くまでの間はね」


「瑠璃王国が再建されたら……ってことはそうなったらまた刹那とは二度と会えなくなってしまうの?」


刹那の言葉に姫が悲しそうな顔で尋ねた。


「……この国が落ち着くのに何年かかると思ってるの。少なくとも百年はかかる。その間ここにいてあげるって言ってるんだよ」


「百年て……ようは俺達が生きている間はここにいてくれるって事だな」


彼女が小さく笑い言うとユキが嬉しそうに微笑み話す。


「ま、滞在している間も宇宙せかい中に散らばった「影」を見つけてその脅威から星を守らないとならない。だから時々いなくなるからそのつもりでいてよ」


「それでもいい。セツナといられるだけでいい」


刹那の言葉にアオイが言うとにこりと笑う。


こうして刹那はアオイ達の元で暮らすようになり瑠璃王国再建に力を貸す。


瑠璃王国が出来上がると近くの森の中に時の神殿を建て彼女はそこから時空移動の力を使い星から星へと移り「影」を探すようになる。


「セツナこれなに?」


「見ての通り本だよ」


「それは分かってるけど、この本はいつもセツナが読んでいたものでしょ。これ何が書かれてるの」


時の神殿の書庫に刹那が持ってきた本や巻物を仕舞っているとアオイがある一冊の書に目を留め尋ねる。


それに淡泊な回答が返ってきたので彼女は言い直して聞いた。


「それには世界中で起こった物語が書きだされていくんだ。ま、預言書の様なものだよ」


「~Another story~ 異世界から来た運命の子……ってこれって私達の事が書かれてる」


刹那の言葉を聞きながら書をめくったアオイが驚いて目を瞬く。


「ああ、そうだよ。本当ならその終わりは違うものだったのだけれどね。君達が僕のことを思い出したことにより物語は変わってしまった」


「それって本当は良くない事なの?」


彼女の言葉に姫が困った顔をして尋ねる。


「……いや、そうじゃない。僕達の運命が変わったことによりこの物語は真実の物語へと書き換えられた。だからこれが本当の~Another story~ 異世界から来た運命の子の物語なのさ」


「それじゃあこのお話が後世までずっと伝わっていくんだね。凄い。私達が物語の登場人物になっちゃうなんて……」


刹那が首を振って答えるとアオイが書をじっと見つめて呟く。


「誰であれ自分という人生の主人公であり、その運命はすでに本に記録されている。その出来事にそって僕達は生きている。だけど、この本にだって書かれていないことがある。それは君達が決めた「未来」の出来事。運命はいくらでも変えられる。君達が実際に成し遂げた事さ。本当なら僕という存在はこの世界では異端であり存在してはいけない人物だった。それをこの星に生きて実在する人物にしあげたのは君達だ。君達が僕を思い出したことで本来あった世界とは違った未来を歩み始めた。だからこの物語が最初の結末とは違う結末になった。そう、君達が変えたのさ。本当に願った結末へとね。だから僕にだってもう分からないよ。この後どうなっていくのかなんてね」


「セツナ……私達預言書の未来を変えてしまったのね。そしてそれはきっと良いことなんだわ」


淡々とした口調で話した彼女の言葉に姫が微笑み言った。


「だから僕も見てみたいのさ。運命を変えた未来の出来事をね」


「これからもよろしくね」


刹那が柔らかく微笑み言うとその笑みを始めてみたアオイは驚く。しばらく黙って見詰めていたが我に返ると笑い返す。


こうして~Another story~ 異世界から来た運命の子の物語は幕を閉じる事となった。


「……こうなるだろうという事は薄々は予感していたことだけどね」


夜の星が煌く神殿の書庫の中で本を閉じると刹那は独り言を呟く。


「アオイにはああ言ったけど、この本に刻まれる物語に偽りはない。この本がこうなるだろうと書かれていたのだから予感はしていたさ」


そう言うと夜空にきらめく星へと目を向ける。


「こんなにも星々がうるさく語りかける夜には、僕の新たな運命を告げる日が近いという事を教えてくれている。僕がこの星でなさねばならないことがまだほかに残っているのだと……この本もそして星々も教えてくれているのさ」


そう呟くと本を本棚に戻し書庫を出て神殿の中を歩く。


「アオイ達は僕が精霊であることは理解したみたいだけど、人間と同じように生活するわけじゃないことは理解できていないだろうね」


彼女のためにと寝室や台所なんかも作ってくれたアオイ達には申し訳ないが精霊である彼女は眠ることもなければ食べ物を食べることもない。


「ま、人の目に映る様に姿を現せば食べることはあるけどね」


人間の姿になれば普通に食べることもあるが精霊である彼女は大気に満ちた気を身体に満たし生きているため食べ物からエネルギーをとる必要はないのである。


「この世界から離れるつもりだったから何も教えなかったけど、これからはここに滞在するのだからちゃんと教えないとね」


そう呟くと祈りの間へと入り緑石へと力を込め姿を消す。こうしている間にも宇宙せかい中に散らばっている影が何かしでかしているのだ。だからこそ彼女に休む間などない。新たな「影」を探すため夜はこうして神殿から別の星へと渡り「影」を見つけて消滅させるという日々を繰り返していた。


それが「時の使者」であり時の神殿を守る精霊である刹那の役目。「影」の影響により星の消滅を防ぐために彼女は今日も「影」を探して旅を続ける。


この物語の本当の結末おわりがおとずれる日が来ることを願って。

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