十一章 希望の足音

 別動隊と合流を果たした後、刹那が語る物語を聞きながら帝王の居城へと向けて足を進める。


「かくして時の使者が世界を旅していた時代は終わりを告げました。しかしその後まるで入れ替わるかのように吟遊詩人が世界中へとこの歌を歌い広めていく事となったのです。そしてこの話を聞いた誰もがこの真実の物語の事を忘れてはならないのです。聞いたものは語り継ぎ正しく伝承していくように。もしもこの物語の真実が途絶えてしまったら、その時はこの世界は再び「闇」に包まれるであろう。ゆえに皆忘れぬようにと戒められたし。……これで僕のお話はお仕舞だよ」


「……とても長い物語だったわね。何だか終わってしまったのがもったいないくらいだわ」


「なんだかとても心が締め付けられるお話でしたね」


たき火を囲い彼女の話を聞き終えるとアオイがほぅっと溜息を吐き出し話す。


ハヤトもなんとも言えない寂しげな表情になるとそう呟く。


「ですが真実の物語とはいったい?」


「昔語りは尾びれ背びれがついていく物ですからね。ですから正しく伝え広めていかなくてはならないという戒めでしょう」


イカリが疑問に思った事を尋ねるとトウヤがそう言って答えた。


「ですが、なんともすっきりしない終わり方でしたね。その後はどうなってしまったのでしょうか」


「さあね。でも今も物語は続いてるんじゃないかな。彼女達の贖罪の物語はきっとまだ本当の結末おわりは訪れてはいないんだと思うよ」


麗奈の問いかけに刹那は素知らぬ顔で答える。


「彼女達が生きて存在し続ける限り彼女達の物語は終わらない……セツナはそう言いたいんだね」


「……そう捉えてくれても構わない。さあ、僕の話は終わったんだ。それよりも明日はいよいよ帝王の居城に潜入する。作戦をちゃんと考えていかないとやられるよ」


「それならば問題はない。アレクが描いてくれた城の構図のおかげで、何処から攻め込めば一番安全なのかを考えておいたからな」


アレクの言葉に彼女は淡泊に返すと話を帝王のいる居城について尋ねる。それにキリトが心配はいらないと言いたげに口を開いた。


「さすがはキリトさん。私も考えがあるの。別動隊の人達を宮殿に先に送り込み近くで忍ばせておいて、城全体を囲い込み逃げ道を封じてもらうって感じは如何かなって」


「つまり、攻め込むのは少人数だがもし何かあった場合は別動隊の奴等に指示を出し攻め入ってもらうって事だな」


「うん。相手が私達だけに意識している間に城を包囲している別動隊の人達が後から攻め入ってきたら相手はこちらにばかり意識を向けてられないでしょ」


アオイが彼を褒めると自分の考えを伝える。それにユキがなるほどといった顔で話すと姫は大きく頷き答えた。


「父上……いやルシフェルがいるのは玉座の間だと思う。いつもそこにいるから。そして四天王達もそこにいると思う。だからそこまで行くのに一番安全な道をぼくが教えるからアオイ達は着いてきて」


「分かった。それじゃあ明日に備えて今日はもう休みましょう」


アレクの言葉にアオイは返事をすると皆明日の接戦のために少しでも万全の状態で向かおうと眠りについた。


「……分かっているさ。もう直ぐ君との決着がつく。だけど力をその身に溜め込んだ君は簡単には倒すことはできないのだろう。それでも必ず訪れるさ。勝利と共に君がこの世界に与えた影響も消え失せるという日が、ね」


皆が寝静まった後刹那は夜空を眺めながらそっと独り言を呟くと胸元に揺れる緑石へと手を宛がう。


「その時が来たら……僕はこの世界にいた事さえも忘れられるのだろう。最初からいなかったのだから、最初からいない人としてそっと別れを告げるだけだ。だから……アオイ達と仲良くなってはいけなかったんだ。いつか来る別れの日に寂しいなんて思わないようにするために、悲しみを心に残してぽっかりと穴をあけたまま去ることなんて、もう二度としてはいけなかったのに。どうして君達はそっとしておいてくれなかったんだい」


たき火の周りで眠るアオイ達へとそっと視線を向けると寂しげな眼差しで彼女は言う。言葉では皆を責めているように聞こえるがそれは自分自身へ向けてのものであった。


「こうなってしまったからにはもう遅い。せめて彼女等の記憶の欠片にも僕という存在が残らないことを祈るだけだね」


そう呟くと静寂がこの場に押し寄せる。哀愁漂う刹那の姿をただ夜空にきらめく星々だけが見ていた。


翌日。アレクの案内により守りの薄い裏側の門の近くへと到着する。


「いよいよだね。皆準備は良い?」


「こちらはいつでも大丈夫ですよ」


真剣な表情でアオイが尋ねるとそれにハヤトが代表するかのように答えた。


「それじゃあ……行くよ!」


小さく頷き緊張した様子でそう宣言するとアレクと彼女を筆頭に裏門からそっと中へと進軍していく。


「私達の事知られているから警戒していたけど……兵士達の姿がどこにもないね」


「罠が仕掛けられているかもしれません。姫、気を付けて進みましょう」


(……静かすぎる。これは何かあるな。きっとアレクが案内してくれる道以外で行けば兵士達が隠れて待ち構えていて取り囲まれて接戦を余儀なくされるといった所だろう)


不気味なほどに静まり返った宮殿の中では兵士の姿もなければ官僚やここで働いている女達の姿もない。


その状況にアオイが訝しげに呟くとイカリがそっと注意を促す。


刹那も周囲の様子に違和感を覚え何かあると思い内心で考えを巡らせた。


そうして誰ともすれ違うことなくアレクの後についていき城攻めから数時間が経過したころに中庭から回廊へと移る。


「ここまで人がいないとはおかしい。このまま玉座の間へと向かうのは危険だと思うが」


「そうだね。兵士が一人もいないなんて何だか変だもの」


その時待ったといった感じでキリトが声をあげるとアオイも立ち止まり考え深げな顔で呟く。


「そう思わせる事こそ帝王の作戦かもしれませんよ。ここで別の道を行き玉座の間へと向かったとしましょう。そうすると兵士達に周囲を取り囲まれ一斉攻撃を受けるかもしれません。姫様、ここはこのまま進軍を続けた方のが安全かと思われますよ」


「こいつの言うことは信用できない。俺もキリトの意見に賛成だな」


「いや、トウヤの言う通りだよ。玉座へと続く道は他にもあるけどその道はとても障害物が多くてどこに兵士が潜んでいてもおかしくはない。この道は開けているからもし兵士が潜んでいたとしても直ぐに見つけられる」


トウヤがそう話すとユキがきつい口調で言い放つ。それにアレクが待ってといった感じに首を振って答えた。


「この城の中で生活していたアレクがそう言うのならば間違いはないでしょう。このまま進みましょう」


「僕もトウヤの意見に賛成だね。ここまで静かだってことはどこかで待ち伏せて僕達のことを狙っているとしか思えない。袋小路の中での戦闘を余儀なくされた場合僕達に勝ち目はないと思う。だからアレクの案内のままに進軍した方が安全だろう。それに同じ危険ならどの道を通ったとしても同じこと。だったら今進んでいる道を行くしかない。そうでしょ」


ハヤトがアレクの言葉に賛成すると刹那も口を開き語る。


「そうだな。セツナがいうとなんか説得力があるな……ってことで姫さんこのまま進んじゃおうぜ」


「そうだね。行こう」


キイチが言った言葉にアオイも頷くと再び足を進める。


「「……」」


(不服気な顔してるね。だけど、僕が言ったことは間違いではない。あっちの方から大量の兵士達の殺気を感じるからね。しかも何者かによって操られた状態でね。「影」とは違う魔力を感じる。帝王は普通の人間だからこんな術を使えるわけがないとなると奴の中に「影」とは別の存在が憑りついているってことだ。そう邪神……君の力だろう。だけど君の思惑通りになんてさせやしないよ)


不満げな顔をするキリトとユキの様子に刹那は内心で声をあげると遠くから感じる殺気の方へと視線を向ける。そして近づくにつれてたしかに感じる「影」と邪神の気配に彼女は薄い笑みを浮かべた。


ついに玉座の間の前までくるとその扉を開け放ち警戒したままの状態で前へと進む。


そうして辿り着いた玉座にはこちらに背を向けて立っている帝王とその側には四天王の姿があった。


(完全に操られちゃってるね)


無言で佇む四天王の瞳が魔力を帯びたように赤く光っている様子に、操られてしまっていることに気付き刹那はやれやれといった感じで溜息を吐き出す。


「ここまでよく来る事ができたな反徒ども。そして瑠璃王国の姫よ。だが貴様等の命運もここまで。貴様等の命ここで尽き果てようぞ」


「父上……」


威厳のある声でそう宣言するルシフェルへとアレクがそっと一歩踏み出し声をかける。


「アレクシル。反徒どもとともに行動するとは国に仇なす行為だぞ。今すぐこの娘を切り捨てるならば、お前のした行いを許してやろう」


「父上……ぼくがアオイに刃を向けることはないよ。ぼくが刃を向けるのは……ルシフェル、貴方だ」


今ならまだ間に合う。だからこんなことはもう止めてくれと言いたげな顔で見つめる息子へと帝王が冷たい眼差しで見やるとそう言い放った。


その言葉に悲しそうな顔をしたアレクだったがきっと父親を睨み付けそう宣言する。


「愚か者め。我に歯向かうならば仕方ない、瑠璃王国の姫もろとも殺してくれる。四天王よそいつらを殺すのだ」


「「「「御意」」」」


大きな声で言うと帝王が四天王に命令を下す。それに感情のこもらぬ声で返事をすると武器を手にアオイ達の方へと進み出てくる。


「っ」


(腕輪の力か……僕も今回ばかりは解き放とう。この『時の使者』の力を。そして精霊となり「影」を眠らせよう)


麗奈が腕輪をはめているほうの腕を強く握りしめると皆を守る様に輝きが放たれた。


その様子に刹那は内心で呟くとそっと力を開放し『時の使者』となる。瞬間彼女の気配が「人」から「精霊」へと変わった。


「!? その腕輪は……そうか、女。貴様が腕輪を持ちし者か」


「え?」


腕輪を見て瞳を大きく見開く帝王の言葉が聞こえなかった様子で麗奈は不思議そうに首を傾げる。


「その腕輪を持ちし者は危険だ。四天王よまずはその女を消し去るのだ」


「「「「御意」」」」


ルシフェルの瞳が赤く輝くと共に四天王達が彼女目掛けて駆け込む。


「レナ」


「きゃっ……」


アオイが慌てた声をあげて駆け寄ろうとするも四天王達の持つ武器の刃が麗奈を狙う方が早く彼女はやられると思い瞳を閉ざした。


『まったく。世話の焼ける……ちょっと派手に行くよ』


『!?』


刹那はそう呟くと右手を四天王達へと向ける。すると麗奈の腕輪と呼応して金色の波動で相手の剣をはじき返した。


「……これが腕輪の力か。忌々しい」


(邪神はそれほどまでに腕輪を恐れてるんだね。だけど君の思い通りになんてさせやしないよ。さあ、そろそろ来るころかな)


帝王が憎々し気に呟くが皆は麗奈の事に意識が向いておりそれは刹那以外の誰の耳にも届かなかった。


彼女は内心で呟くと遠くからこちらへと駆けてくる複数の気配の方へと意識を向ける。


「レナ、大丈夫か」


「う、うん」


「レナに手を出すなんて許せない。ルシフェル、貴方が殺したいのは私のはず。なら、レナに手を出さないで」


ユキが麗奈の前へと駆けこむとそう尋ねる。それに彼女が答える横でアオイが弓矢をひき絞るとルシフェルへと言い放つ。


「瑠璃王国の姫とその女が我を滅ぼす。ゆえに貴様等を消し去る。その腕輪さえなければ貴様等など簡単に殺せる。四天王よ、邪魔する奴等を排除せよ」


「「「「御意」」」」


帝王がそう言い放つと周りの奴等が邪魔だとばかりに排除しろと命令する。それに四天王の瞳の色が赤く光ると武器を手にこちらへと突っ込んできた。


『ちょっとだけ暴れるよ』


「!?」


刹那はそう呟くと鋭い眼差しへと変わり一瞬でイカリを狙うアイクの前へと立ちはだかり精霊の力が付属された短剣で相手の武器をはじき返す。


自分が押されている状況に彼が訝し気な顔で彼女を見やった。


『君の力で僕に適うとでも思った。君の中には「影」はいないようだね。なら他の四天王も影響は受けてないだろう。それが分かれば上等だ』


「っ」


そう独り言をつぶやくと刹那は相手の懐へと手を当てる。すると彼は瞳を大きく見開き崩れるようにしてその場へと倒れ込む。


『君はちょっとそこで寝てて。すぐに目が覚めると思うけどね』


「セツナ殿?」


アイクを見下ろし彼女は淡泊に言葉をかける。そのいつもと違う雰囲気と様子にイカリが不思議そうに声をかけた。


『……イカリ戦闘中に呆けた顔なんかしてないで敵に集中して。じゃないとやられるよ』


「は、はい」


刹那が半眼で睨みやり言った言葉に慌てて返事をすると槍を構えなおし突っ込んできたシェシルと応戦する。


『さて……そろそろかな』


そんなイカリの側からそっと離れると暫く戦闘を傍観して、背後の扉の方へと視線を向けた。


「くっ……アオイ。逃げて下さい」


「へ?」


「アオイちゃん!」


その時切羽詰まったハヤトの声が響く。瞬間アオイの目の前へとジャスティスが剣を振った。それに気づいた麗奈が慌てて彼女をかばうように前へと立ちふさがる。


「っ……」


『……来るのが遅い。待ちくたびれたじゃないか』


瞳を固く瞑り今度こそ覚悟を決める彼女。その前へと瞬時に駆け付けた人物へ向けて刹那は声をかけた。


「すみませんね。これでも急いで向かってきていたのですが、何分兵士達を眠らせるのに時間がかかってしまいましてね」


『ああ、僕達のほうに兵士が向かってこないようにしてたのは知ってたけど、時間がかかりすぎなんじゃないの』


男の言葉に彼女は淡泊に言葉を放つ。


「それがあなた達の方へとこない用に尽力していた俺達への言葉ですか……まったく。あなたという人はとても冷たいですね」


『僕が冷たいのなんか最初からでしょ。それより……麗奈。何か言いたげな顔だね』


彼がそれに溜息交じりに言うと刹那は気にもとめずに麗奈へと声をかけた。


「仁さん?」


「申し訳ございませんお嬢様。俺は仁ではありません」


今にも泣きだしそうな顔でそう尋ねる彼女に男は申し訳なさそうな顔で答える。


「へ?」


「俺はマサヒロと申します。以後お見知りおきを」


意味が解らないといった顔をする麗奈へとマサヒロが答え微笑む。その時彼のナイフでは防ぎきれなくなりこのままでは攻撃を受けるといった状況になるが、二人の人影が前へと躍り出ると剣と槍でジャスティスへと突き攻撃を放った。


「雪彦さん……聡久さん?」


「お嬢様申し訳ございません。俺は雪彦ではありません。俺の名前はタカヒコです」


「そんでオレはその兄のサトルだよ」


再び現れた人物達に驚きと嬉しさの混ざった声で麗奈が呟くと二人は困ったように笑い答える。


「えっと。どういう事ですか」


「誠に申し訳ございませんが今はご説明している時間は御座いません」


ついに疑問符を浮かべて混乱してしまっている彼女へとマサヒロが答えると、目の前にいるジャスティスが再び剣で攻撃してきたのでそれに対応する。


「マ、マサヒロさん。危ないですよ。怪我したりしたらいけないのでやめて下さい」


「……本当に貴女はルナ様そっくりだ。大丈夫ですよ。俺はこれくらいじゃ怪我をしませんし、死んだりしません」


「へ?」


慌てて止める様にと声をかける麗奈へと彼が少し寂しげな眼差しになり独り言を呟くとそう宣言する。


意味が解らないといった顔で固まる彼女の前にまたまた新しい人物達が立ちふさがった。


「レナ。大丈夫。戦いは彼等に任せておきなさい」


「怖かったでしょ。もう大丈夫だからね」


「お父さん……お母さん……」


男の人と女の人が柔らかく微笑み優しい声で語りかけてくると麗奈はもう涙でにじむ瞳でそう声を漏らす。


「ごめんね、レナ。俺は君のお父さんではない」


「私も貴女のお母さんじゃないの」


「で、でも見間違えるはずなんかないです。貴方達はお父さんとお母さん……ですよね」


申し訳なさそうに答える二人へと彼女は信じたくなくて必死にそう尋ねる様に言った。


「俺はカイト。この帝国に住む貴族だ」


「私はサキ。カイトの妻よ」


「カイトさんとサキさん?」


(本当のお父さんとお母さんじゃないって言われても納得してないって顔だね。アオイ達もいきなり現れた彼等のペースに巻き込まれて呆然としてる感じだし、僕もしばらくはこの家族達のやり取りを見守るとしよう)


目の前で繰り広げられているやり取りに刹那は内心で結論付けると再び麗奈達の様子を見守る。


「レナ、大丈夫」


「怪我はしていないな」


「っ? お姉ちゃん……お兄ちゃん」


優しく声をかけてきた男性と女性に目を見開き麗奈が驚く。


「わたしはイヨよ。でも貴女の本当の姉ではない」


「ぼくはお兄ちゃんじゃない。ぼくはマコト。イヨの兄だ」


(そういえば麗奈のお姉さんも壱与っていうんだっけ。同じ響きだけど漢字とカタカナで意味が全然違うよね)


麗奈へと向けて言葉をかける二人を見ながら刹那は内心で思ったことを呟いた。


「えっと……貴方達は?」


「これはご説明もなく大変失礼しました。瑠璃王国の姫アオイ様」


(ようやく我に返ったって顔だね。そりゃいきなり見知らぬ人達が現れて麗奈とやり取りしてたら誰なんだって思うよね)


アオイがようやく我に返ったった様子でそう尋ねる。それにマサヒロが答えている声を聞きながら傍観することに徹している刹那は内心で感想を述べた。


「私のことを知ってるの?」


「はい。もうずっと前から……貴女が御父上を失くされた十一年前からと言えばいいでしょうかね」


(そう、これは十一年前から全て決められていたことだ。その運命から誰も逃れられることはできない。倒される物も倒す者もこの定められた未来を変えることなどできやしないんだ)


姫と話をする彼の言葉に彼女は真っすぐとどこかを見詰めながら内心で独り言をいう。


「それはどういう事?」


「……レナ様。貴女に暗い顔は似合いませんと以前申し上げましたよね」


「へ……それじゃああの仮面の人はまさかマサヒロさん?」


(麗奈は僕とは違う使命を持ちこの星へとやってきた運命の子。そして君はこの世界に愛されその腕輪を手に入れた。その腕輪を持つ君のことをあいつは恐れた。そして奴は君を殺そうとして君の家族達の命を奪ったんだ。それと共にカイト達は全ての真実を知り、君がこの世界へとやってくる日を待ち続けた)


麗奈へと語りかけるマサヒロの言葉を聞きながら刹那は内心で独り言を紡ぐ。


「はい。あの時はああするしかありませんでした。貴女をこの世界へと送るためにとても怖い思いをさせてしまったことは謝っても謝り切れません」


「それじゃああのトラックは……」


『あのトラックはそのきっかけに過ぎない。実際君は撥ねられてはいない。撥ねられる瞬間にこちらへと飛ばされたのさ』


彼が肯定して話した言葉に彼女が呟きを漏らす。それに刹那も答える様に口を開いた。


麗奈が何か聞きたそうな顔をしたが再び四天王の三人が襲い掛かってきたため話を中断させる。


「ゆっくり話してあげたいんだけどね。それはこいつらの目を覚まさせてからの方がよさそう、だ」


「目を覚まさせるとはどういう事ですか?」


サトルがシエルの攻撃を剣で受け止めはじき返しながら言う。その言葉にイカリが首をかしげて尋ねた。


「それはね、四天王は邪神に操られてるんだよ」


「ルシフェルに取りついた邪神を倒さないとこの国の未来はないんだよ」


「!? 誰」


少年と少女の声にアオイが驚き尋ねる。


『これまた遅い登場だね』


「ひどいな~。お父様達に頼まれて外をうろついている連中を倒してきたのに」


「そーよ。そーよ。ワタシ達大活躍してたのよ」


刹那が冷たく言い放つと二人は不服気な顔をして抗議する。


『ああ、あの袋小路の所の兵士達を君たち二人で倒してきたのか。それにしても時間かかりすぎじゃないの』


「もう、君みたいに一瞬でやれるほどボク達は戦闘能力なんかないよ」


「そーよ。ワタシ達は見ての通り機械仕掛けのからくり人形なんだから。あなたみたいに瞬発力なんかないわよ」


彼女は納得したもののそれでもと言いたげな顔で言葉を吐き捨てた。それに二人は怒った様子で答える。


「もういいや。……ボクはケイト」


「ワタシはケイコ。お父様が作ってくれたからくり人形よ」


刹那へと怒りを向けていた少年が名乗ると少女もにこりと笑い話す。


「それじゃああんたもパペット使いって事か」


「君みたいにぬいぐるみではないがね。でもまあ、人形を操るって言うのは同じかな」


キイチが話を聞いて興味を持った様子で口を開くとカイトがそれに小さく笑って答える。


「そんな事よりレナ。貴女の持っている腕輪を天へとかざすのよ」


「こ、こうですか?」


「そして彼等を助けたいと強く願うんだ」


「はい……」


イヨの言葉に戸惑いながら腕輪をつけている手を掲げる。次にマコトが説明すると彼女は祈りを込める。


『!?』


すると眩い光が辺りを照らす。その光を見た四天王が驚きと戸惑いの表情を浮かべて放心状態に佇む。アイクも目を覚ましたが自分がなぜ寝ていたのかよく分かっていない様子で不思議そうにしながら起き上がった。


(さて、これからだよ。邪神。そして「影」君達の茶番劇はここまでだ)


刹那は内心でそう呟くと短剣を構え前へと進み出ていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る