九章 たしかな絆

 北の地へと向かう道中も刹那の物語を聞いて過ごす。勇者物語から始まったお話は今は少女の誕生の物語というおとぎ話まできていて、回を増すごとに展開が面白くなりすっかりアオイ達は彼女が話す物語のとりことなってしまっていた。


「本当にセツナの話す物語は面白いわね」


「ええ。オレは東の少女と西の少女が再会する物語が好きですかね」


「ハヤトは穏やかな話がいかにも好きそうだもんな。俺は逆に戦国絵巻みたいな悪の子の話と氷の娘の話が好きだな」


拍手喝采して話すアオイの言葉に同意するとハヤトがそう言う。


それにユキがあんたらしいやといった感じで言うと自分が気に入った物語について語る。


「とても作り話とは思えぬ戦術に手に汗握りましたからね。ですが僕はやはり勇者物語が一番好きです」


「あら、私は定めの物語が好きだわ。紫の使者って少年とてもかっこよさそうだし。それに一人の少女を一途に想う姿に惚れたわ」


「はは。アゲハはカッコいい男が好きだからな。オレは緑の少女物語が好きかな。まさか星に宿る精霊だったなんて凄い展開になるとは思わなくてその意外性が好きだ」


イカリが言うとアゲハが微笑み話す。それに大きな声で笑うとキイチも自分が好きな物語を伝える。


「私は少女の誕生の物語の続きが気になります。この後どうなっていくのかとか勇者物語に繋がる展開も面白かったですしね」


「おれは時の使者と呼ばれる少女がその後どうなったのかとても気になる。今までの物語から考えるに彼女が一番の鍵の人物ではないかと思うのだが」


「ああ、それなら「光の使者」と呼ばれる緑の少女物語の主人公が一番重要な役割を担ってるんじゃないでしょうか」


麗奈が続きが気になって仕方ないといった顔で話すとキリトがそう口を開いた。それにトウヤが一番鍵になっているのはもう一人の人物であろうと語る。


「そんなことより、そろそろ北の地へと入るよ」


話しに区切りがついたところで刹那が言うと村の中へと馬車は進む。


「ここから先は帝王の支配する土地。姫さん気を引き締めていかないといけないよ」


「はい」


馬車を停めるとキイチが真面目な顔で言った。それにアオイが返事をするといよいよかと皆の間に緊迫した空気が流れる。


「馬車はこの村に預けていった方が良いわね。目立ってしまうもの」


「そうですね。いくら旅芸人の馬車と言えどもこの中を調べられ兵士や武器を見られたら帝王を倒す前に捕まってしまいますからね」


(この肌にまとわりつくほどの嫌な気は。これは「影」のものなのかあるいは……)


刹那はアゲハと話すハヤトの言葉を聞き流しながら村に入る前から感じていた気の正体を掴もうと鋭い眼差しでどこか遠くを見やった。


「おれ達が帝国の領域に侵入したことを知られるわけにはいかないからな」


「はい。皆、準備ができたら村を出て帝国を目指すわよ」


「歩きか……アオイもレナも疲れないように適度に声をかけろよ。休憩しながらいかないとこの先辛くなるだろうからな」


「うん。ユキ君有り難う」


(これは「影」とは違う。やつはこんな気を放ちはしない。この気は別のものだ。人でも物の怪でもないモノの気だ)


目の前でやり取りされる会話を聞き流しながら刹那は今までに感じた事のない闇の気に「影」とは別の存在を感じ取る。


彼女達が向かう帝王のいる城にこの気を放つ存在がいるのだとすれば、そいつが「影」と何らかの関係があるのならば放置しておくことはできない。


(鬼が出るか蛇が出るか……望むところだね)


「そう言えばいつの間にかレナとユキって仲良くなったのね」


「なんだよ。俺が他の人と仲良くなっちゃいけないのか」


そっと内心で呟いていると大きな声が聞こえてそちらへと見やる。アオイが何か言った言葉にユキが癇癪を起したようで苛立った顔をしていた。


「別にそういうわけじゃ……ただ私はユキが私達以外の人と仲良くなってくれて嬉しくて」


「はい、はい。仲良しこよし云々はもう結構。それよりどうやって帝王が住んでいる宮殿に忍び込むのかよく考えておけよな。今までみたいに上手くいく相手とは思えねえからよ」


慌てて説明する彼女へと怒りを抑えもういいと言いたげな顔になった彼がそう尋ねる。


「ユキ殿の言う通り、帝王ルシフェルは今までの領主とは違い隙が無い。姫様がこの近くにいると知ればすぐに四天王を送り込んでくるかもしれません」


「そうなる前におれ達で宮殿へと乗り込めば問題はありませんでしょう。おれが宮殿の場所も知っていますし一番安全な道も把握しております。ですから道案内はこのおれにお任せください」


「そうね。トウヤさんお願いするわ」


(さて、トウヤ。どう抗うつもりなのか見届けさせてもらうよ)


イカリの言葉にトウヤが口を開いて任せろといいたげに話す。その言葉にアオイもお願いといった感じで頷く。


刹那は彼を見やりこの前約束した通りに見守る事を固く心の中で誓うと歩き出した彼女達の背についていく。


「アオイ!」


「アレク? どうしてここに?」


しばらく歩いていると切羽詰まった声がアオイにかけられる。振り向くと急いで走って来るアレクの姿があり彼女は驚く。


「はぁ……はぁ……追いつけて良かった。これから街に行くんだよね。ぼくも一緒に行くよ」


「それは構わないけど、アレクも街に用事があるの?」


追いつけたことに安堵する彼の言葉にアオイが不思議そうに尋ねる。


「うん。帝王に会いに行くんだよね。ぼくもちょうど用事があるから一緒に行くよ」


「ってアレクは言うけどどうする?」


「向かうところが同じなら一緒に行ったほうのが安全かもしれない」


「そうだね。アレクは帝国側に住んでいる住人だろう。なら一緒に行動した方のが姫さんにとっても都合が良いかもしれないぜ」


「ですが、僕達が帝王と戦うことになった場合アレク殿を巻き込んでしまうのでは」


彼の言葉に小声で尋ねてくる彼女へとキリトが答えるとキイチも同感だといった感じに言う。そこに待ったといった様子でイカリが口を開いた。


「その時は私が連れ出して逃げるから大丈夫よ」


「旅芸人の一座と一緒に逃げればアレク君も安全って事ですね」


「それにアレクが一緒の方のが何かとうまくいくかもしれないよ」


「どういう事?」


アゲハが言うと麗奈も笑顔で話す。そこに刹那が口を開くとアオイが不思議そうな顔をした。


「以前四天王の二人と出くわした時に彼が助けてくれたでしょ。今回も前回みたいに助けてくれるかもしれないと思ってね」


「確かにセツナさんのいう通りですね。もし四天王との戦いで何か起こったとしてもアレクさんが一緒なら助けてくれるかもしれません」


「なるほど」


彼女が答えるとトウヤもその可能性は十分にあり得るといった感じで話す。それに姫は納得して頷く。


「ねえ、アオイ。何に話してるの?」


「うんん、何でもないの。アレク一緒に行きたいんだよね。皆にも許可をとったから大丈夫よ」


「良かった。それじゃあ一緒に行こう」


話しが全く聞こえていないといった顔を作りアレクが尋ねた言葉にアオイが慌てて答えるとにこりと笑う。


一緒に行ける事に本当に良かったといった顔で笑い彼が話す。


それから暫く歩くと途中の森の中で休憩となった。刹那は皆から離れて木陰に腰を下ろし一息つく。


目を閉ざし意識を周囲に向けながら鳥のさえずりすら聞こえないこの地で何かを探る。


「……これほど深く嫌な闇の側には奴等が集まりやすいのか」


そっと独り言を零すと休憩が終わり旅を再開するアオイ達の側へと戻った。


帝国へ向けて歩いていると大きな岩山へと差しかかる。


「この山を越えれば帝国は直ぐです」


トウヤの言葉に皆が岩山の先を見やった。


「なんだかとても嫌な気を感じるわ」


「ぼくもなんとなくだけどここには悪いものがいるような気がする」


アオイが一歩後ずさりして呟くとアレクも真面目な顔をして言う。


「なあ、セツナ。まさかこの嫌な気は「影」ってやつが放ってるんじゃないのか」


「おそらくはね。だけど今まで倒してきた「影」とは質が違う。この地にいる奴等は力をその身に取り込み強くなっているだろう」


「ねえ、ぼくにもよく分かるように教えてよ」


ユキの言葉に刹那が答えているとアレクが教えて欲しいと言いたげな顔で話す。


「そっか、アレクは知らないのよね。実は……」


「ふーん。「影」って実体のない魔物みたいなものなんだ。だけど普通の人には倒せないなんてやっかいな存在だね」


アオイがそう言えばといった感じで話して聞かせる。説明を聞いた彼が納得するも厄介な相手の存在に険しい表情をした。


「だけどセツナが一緒だから大丈夫よ。セツナは「影」ってやつを倒せるの」


「……「影」は普通の人には倒せないのにそれを倒せるセツナって何者なの」


彼女の言葉にアレクが鋭く追及してくる。


「それは――――」


「君達死にたくなかったら下がってて」


それにアオイも困った顔で口を開いたが刹那の言葉に慌てて背後へと退く。


「あれが……「影」」


「今まで出会ったどの「影」よりも大きいですね」


刹那の前には黒い霧が立ち込め始めその渦の中心に亡霊のような姿をした「影」が現れる。


その様子にアレクが冷や汗を流しながら呟くとハヤトも険しい表情になり言う。


「セツナ。おれ達も援護する」


「別にいいけど、絶対に「影」の側には近づいちゃだめだよ。君達は奴が憑依している亡霊を守っている群れを倒すんだ」


短剣を抜き放ち構える彼女へとキリトが声をかける。標的へと視線を向けたまま刹那は答えた。


「この狼達は憑依されてないって事だな」


「そう。ただ単に操られているだけだから君達でも倒せるはずだよ」


キイチの言葉に彼女は答えると亡霊目がけて突っ込んでいく。


「麗奈とアレクは危ないからここで待っててね」


「その前に……皆さんをお守りください」


アオイの言葉に麗奈が言うと腕輪に祈りを捧げる。すると淡い光が放たれ刹那達の体に加護の力が働く。


刹那が「影」目がけて突っ込みいつものように一発で仕留めようとするのだが力をつけた影は拒むように抵抗する。


「……ただ単に切り裂くだけじゃダメって事か」


「えい」


「今だ、ユキ、イカリ。行きますよ」


「はい」


「分かってるって」


そっと小声で今までの「影」との違いに考えを巡らせる彼女の背後で、狼の群れへと向けてアオイが矢を放つ。それに気をとられた狼達の様子にハヤトが言うとイカリとユキが武器を手に突っ込んでいった。


「はっ」


「これでも食らってなさい」


彼等の反対側ではキリトが一匹の狼へと二刀で斬りつけていて、その周囲にいる狼達へとトウヤがチャクラムを投げて攻撃する。


「ほらほら、こっちも喰らえってね」


「私の舞についてこれるかしら」


彼の攻撃に動きを止めた狼達へと間髪入れずにキイチが男の子と女の子の人形でポカポカと殴る。表現は可愛いが以外に威力があり痛い。


そこに鉄扇を構え優雅に舞いながらアゲハが突っ込んでいった。


「本当に普通の狼なのね」


「ええ。簡単に片付いて良かったですよ。「影」の影響を受けて強くなっているとばかり思ってましたから」


「でもさ、こんなに簡単に倒せるのもなんか変じゃないか」


周囲の狼を倒し終えた時アオイがそっと呟く。その言葉にハヤトもにこりと笑い答えた。だがユキがおかしくないかと尋ねる。


「「影」に操られているだけだって言ってたから。力はそんなに強くないんじゃないのか? よくわかんないけど」


「ねえ、セツナはもう「影」を倒したのかしら。いつもならとっくに終わってるはずでしょ」


「そう言えばセツナさん今回は手こずっているようですね」


キイチが適当に答えるとアゲハが刹那の姿が側にないことに皆へと聞いた。それにトウヤも彼女の方を見て話す。


「でももう決着がつきそうよ。ほら、亡霊みたいなのが掻き消えてく」


アオイのいう通り刹那は亡霊の様な存在の心臓を深々と貫いていた。その時どす黒い塊が宙へと昇ったかと思うとすごいスピードでキリトの前へと迫る。


「!?」


「キリトさん危ない。逃げて!」


それに気づいた彼が大きく目を見開くもその場から動かない。その様子にアオイが慌てて声をかけたが、キリトは「影」の目を見たまま動かない。


【分かっているぞ。お前は力が欲しいのだろう? ……国を滅ぼした憎き相手を倒すための力が。わたしがその望みをかなえてやる。わたしの手を取るのだ。そうすればお前が望むものをくれてやる】


「……」


「キリトさん」


「影」が男とも女ともとれぬ声で薄ら笑みを浮かべて彼へと語りかける。キリトは何も答えないがずっとその瞳を見詰めていた。


まるで術にでもはまってしまったかのように身動き一つとらない彼の様子にアオイが必死になって叫ぶ。


【すべてを討ち滅ぼす力があればお前のその恨みも晴らされよう。さあ、力を求める者よ。わたしの手を取るのだ】


「……」


何も答えないキリトへと「影」がそう言って手を差し出し彼の中に入ろうとする。それでもキリトは無言で相手の瞳を見詰めていた。


【ギァアアアアッ!!】


しかし「影」が彼の中へと入る前にその身体を貫く銀の刃が深々と突き刺さり、奴は緑の光の中へと掻き消える。


「……君はどうやら「闇」に魅入られやすいようだね」


「かつてのおれならば相手の言葉に耳を貸してしまっていただろうがな」


「影」がいなくなったその場所には刹那が立っていてにやりと笑い言う。それにキリトもふっと微笑み答えた。


「影」がキリトへと向かった時に彼女はアイコンタクトをしていた。それに気づいた彼は動かずにその場に突っ立っていたのだ。


キリトなら動かないし刹那なら絶対に一発で仕留めるとお互い信頼しきっていたからこそできた連係プレイであった。


「なんだ。相手を足止めするための作戦だったんだ」


「見事な連係プレイでしたね」


ほっとした顔で呟くアオイの横で拍手をしそうな勢いでハヤトが微笑み話す。


こうして「影」を倒した彼女等は岩山を登り夜になると刹那の語る物語を聞きながら帝国へと向けて足を進めた。


最初に物語を話すといった時アレクが不思議そうにしていたがおはなしを聞いたら最初から聞いてみたかったと残念そうな顔をしてぼやいて、アオイ達が自分達が聞いた物語を始まりから順に語って聞かせる。


一回だけしか聞いていないというのに彼女等は刹那が語った物語を全て暗記しており、それを聞いていた彼女は「ちゃんと覚えてるなんて凄いじゃないか」と珍しく皆を讃嘆した。


アレクも今までの物語から今日聞いた話までを通して知れたことで納得した様子で、刹那の語るおとぎばなしはどの書物で読んだものより面白いと笑う。


まるで本当にあった出来事を見てきたかのように語る彼女の言葉に皆物語のとりことなってしまっていたのだ。だからこのお話の最後がどうなるのかを知りたいと思うのと共に、終わって欲しくないと思うのである。


だけど物語はいつか「おわり」がおとずれるもの。刹那の話を聞くにそれはもう間もなく訪れようとしているようであった。


こうして旅は続き数週間後トウヤの案内で街へと到着すると裏道を使い宮殿までの道を歩く。


「こんなところにこんな道があったなんて知らなかったな」


「アレクも知らない道なの?」


トウヤが案内してくれる道はアレクも通った事がない様子で不思議そうな顔で周囲を見回す。その様子にアオイが尋ねた。


「うん。ぼくもまだまだ勉強不足だね」


(逆に知っているほうのがおかしいよ。この道はごく限られた人にしか知らされていないんだからね)


小さく頷き答えた後口の中で呟いていた言葉を聞き拾った刹那は内心で答える。これは預言書を読んでいたからこそ彼女は知っているのであり、でなければトウヤ以外誰も知らなかったことだろう。


そしてこれから起こることを知っているのは自分以外ではトウヤと彼女を見守っている「彼等」だけであろうと刹那は思った。


「でも確かにこの道なら安全かもしれないわね。あら、どうしてって顔をしてるわね。だって人っ子一人通らないところを見るとこの道を利用する人は少ないって事でしょ」


「あ、そっか」


アゲハの言葉にアオイと麗奈が不思議そうにする。それに微笑み答えると姫がそれもそうだねと言った感じで呟く。


「さあ、もうすぐ着きますよ」


「先に北の地へと向かった者達の姿がないけど、本当に大丈夫なのか」


それから暫くすると城の城壁が見て取れてきてトウヤがそう話す。周囲を見回し先に送った兵士達の姿がどこにもないことを不安に思いキイチが尋ねた。


「どこかで時が来るのを待っているのでしょう。アオイ様が宮殿へと入ったのを見ればきっと彼等も姿を現すと思いますよ」


(トウヤがああいう顔をしてる時は大体嘘だ。そもそもここに彼等が来るはずはない。アオイ達が来るのをどこか安全な森の中とかで待機して待ってるだろうしね。それともまだ到着していないかのどちらかだ)


彼の言葉に刹那は内心で声をあげる。トウヤが柔らかく微笑み話している時は大体が嘘をついている時であり、なにより彼の目が真っすぐ人を見ていないのが証拠であった。


しかし彼女以外の誰もがそのことに気付いていない様子でトウヤの言葉に納得して城壁の近くへと向かう。


兵士達がいない壁の前へと忍び寄って行くとそこでいったん立ち止まる。


「この壁をよじ登り中へと入るのです。幸いそこまで高くありませんのでアオイ様やレナさんでも楽に超えられるでしょう」


「待て、おれが先に行く。中に入り誰もいないとは限らないからな」


(やっぱりキリトならそう言うだろうとは思ってたけど。それより少し低い壁だけど麗奈って一般人だよね。登れるのか?)


トウヤの言葉に待ったをかけたキリトが軽々と壁に手を当て勢い良くジャンプし反動で反対側へと乗り越えていく。その様子を見ながら刹那は内心で思ったことを呟いた。


「大丈夫そうですね。アオイ、オレ達も行きましょう」


「うん」


しばらくたってもこちらに何も声をかけない彼の様子にハヤトがそう判断するとアオイを促し二人は壁を越えて城内へと侵入する。


「そんじゃ、俺も」


「僕も行きますね」


「ではおれも続きます」


「……」


(ま、そりゃ驚きもするだろう。普通の人の身体能力とは違うんだからさ。そこはやっぱりこの世界の人の特徴なのか、それとも彼等が特別なのか……僕も人の事は言えないけどね。この様子じゃ麗奈は普通に塀すら超えられそうになさそうだが、大丈夫なのか?)


ユキが言うとイカリも声をあげその後を追いかける様にトウヤも続いた。次々と壁を乗り越えていく様子に麗奈は口をあんぐりと開けて呆けた顔をしている。


彼女の顔を見ながら刹那は内心で呟く。彼女自身も普通の人ではありえない超人じみた身体能力者の一人であるから彼等が軽々と壁を越えていく事に特に不思議には思わなかった。が、だからこそただの一般人である麗奈がこの壁を乗り越えられるのだろうかと考える。


「そんじゃオレ達も」


「ええ」


刹那がそんなことを考えている間にもキイチとアゲハが頷き合うと壁を軽々と越えていってしまい残ったのは自分とアレクとこれを乗り越えられるか分からない麗奈の三人だった。


(アオイ達は壁の向こうで待ってるんだろうけど……麗奈を残していくべきか、一緒に登るべきかさて、どうする)


「ぼくも行くけど、レナ。口なんか開けて何ぼっとしてるの。ちゃんとついてきてよね」


「は、はい」


きっとアオイ達は壁の向こうで自分達が来るのを待っているのだろうと思っているとアレクがそう言って心配そうな顔で麗奈を見てから壁を乗り越えていってしまった。


「僕達も行こう」


「は、はい」


刹那に促されて麗奈もいざといった感じで壁の前へと立つ。


「よ、いっしょ……うっ……」


(やっぱり登れないか)


手をかけて登ろうと必死になる彼女の様子に刹那は考えていたことが当ったかといった感じで内心で呟くと手伝おうかと思う。しかしその時気配を感じたので見守ることを選ぶ。


「そんな所で小さく飛んでカエルかよ。助けて欲しい時はいえって言っただろ」


「何をしている。登れないのなら始めからそう言え」


「す、すみません」


壁の上にはいつまで経っても来ない麗奈を心配したユキとキリトが立っていて彼女へと手を貸し登らせる。


「あっ……」


(やると思った)


様子を見守っていると麗奈は足を踏み外し壁の上から落ちていく。そんな彼女へと刹那は内心で呟くと自分も壁へと飛び乗り降りる。


「さて、みんな無事にこれたみたいだし、先へと進みましょうか」


(アゲハのやつ楽しんでるね。まぁ、僕には関係ないけど)


彼女が地面に着地した瞬間アゲハがにやにやと笑いながら先を促した。その様子に何があったのか大体察した刹那だが自分には関係ないと判断しアオイ達の後に続いて歩いていく。


「ふふ、これは姫ちゃんにとっての強力な好敵手かしら」


(……やっぱり楽しんでるね。そんな事よりもついに四天王との戦いか。さて、僕はどう動こうかな)


背後から聞こえてきた彼女の呟きを聞こえてないふりをする。そんな事よりもいよいよ四天王達との戦いになるのかとそちらの方へと意識を向けながら案内するトウヤの後に続く皆についていった。

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