四章 アオイ達との旅
翌日村を出た刹那達は東の地へと向けて旅を続ける。
「この辺りで少し休憩にしましょう」
「そうだな、おれ達はともかくアオイやレナには休息が必要だ」
ハヤトの提案にキリトも賛同して頷く。
「疲れてるのは俺も一緒なんだけどな……ま、いいや。俺はあっちで休憩してるからアオイ何かあったらすぐに呼べよ」
「うん。分かったそれじゃあレナ。私達はあの小川の近くの木陰に行って休みましょ」
「はい」
ユキが愚痴っぽく呟いたがアオイへと言う。彼女もそれに返事をすると麗奈の手を取り小川の辺へと向かう。ユキは軍から離れるとアオイ達の近くにある大きな木の陰に腰を下ろし腕枕をするなり目を閉ざす。眠ってはいないようだが形だけ眠る体制になったようだ。
ハヤトとイカリもアオイ達の近くの草むらに座り込み休憩する。兵士達もその側で待機していて、何かあったらいつでも動ける体制で休憩しているようだ。
「……」
「待て、何処へ行く?」
周囲が落ち着いたのを見て刹那は動き一人になれる場所を探そうとする。すると一人だけ仁王立ちしているキリトに声をかけられた。
「僕も休憩するだけさ。そんなに気になるんなら付いてくれば?」
「……」
(まさか本当に付いてくるとは……キリトって以外に単細胞なのか?)
キリトに背を向けた状態のまま言葉を返すと再び歩き出す。すると彼の足音が聞こえてきて本当に後に付いてきているようだ。
その様子に刹那は内心で呆れて言葉を漏らしたが表情は無表情のままで歩みを続ける。
そして小川の辺から離れ人の気配も薄らいだ大きな木の陰へと腰を下ろした。
「……」
「君も座れば。旅はまだまだ長いんだからさ、足を休めれる時は休めた方がいいと思うけど」
「貴様の指示は受けない。一日立ちっぱなしなど気にはならん。それくらいで足が棒になるほどやわではない」
「……」
突っ立ったまま彼女を見張るように見てくる彼へと言う。
その刹那の言葉にキリトが淡々とした口調で答える。めんどくさい奴だなって思い声をかける行為をあきらめると木に背を預けてぼんやりと景色を眺めた。
「……」
「……」
暫く鳥のさえずりだけが聞こえる静かな空間に見張られる刹那と突っ立ったままのキリト。もしこの場に他の誰かがいたならばこの異様な空気に耐え切れず何か話しかけていたことだろう。
しかしそんな言葉をかけて空気を換えてくれる存在はおらず、重苦しい沈黙が流れ続ける。
「なぜアオイに近づく? 貴様の目的はなんだ。「影」というやつを倒したいなら貴様一人だけでやればいいだろう。それでもアオイに近づく理由とはいったい何があるんだ」
「いきなり喋ってきたと思えばそのことなら以前話した通りだよ。君達が倒したい帝王と僕の目的である「影」が同じところにいる。同じ場所に行くことが目的なら協力し合うのが一番いいと思ったから君達とともにいる」
先に口を開いたのはキリトの方だった。尋問の様な問いかけに刹那は淡泊に答えた。
「それが本心からの言葉だとは思えん。何か企みがある。おれには貴様の思惑は通じないからな」
(疑い深い性格か……やっぱりめんどくさいな)
鋭い目つきで睨み付けてくる彼に内心で呟くと溜息を零したい思いがこみ上げたがキリトの手前我慢する。
「なら気が済むまで見張ってれば。ま、見られて困ることなんか何もないけどね」
「……貴様の目的を必ずや暴いてやるからな」
彼女の言葉に彼がそれだけ言い捨てるとアオイ達の下へと戻っていった。
「……今のは警告、か」
警戒されることなどどうでもいいことだがいつまでも信頼されないのも困りものだ。
「ユキにしろキリトにしろ攻略が難しい相手は苦手だな」
どんなに難解な問題でも解ける自信はあるが、人の心を解く自信はない。ましてや自分は誰かに信頼を得られるほど言葉が上手でもなければ性格も良くない。
「そう思うと「彼」はいや「彼等」は本当に僕の心の中へとすっと入ってきてしまったのだから凄いよね。どうやったら「彼等」のように人の心の中に入り込めるんだろう」
昔に出会った人々の事を思い出し少し痛む胸をごまかすかのように宙を見つめる。
「ゆっくり時間をかけている余裕なんかないって言う時に限って……面倒な奴が来たものだね」
なにかの気配に気づきそっと呟くと立ち上がりアオイ達の下へと戻っていった。
それから休憩を終えると再び東の地へと向けて旅を再開する。国境の山の中へと入ると途端に辺り一面に黒い霧が立ち込める。
「な、何?」
「この霧は……毒を含んでます。姫様、レナ殿すぐに口を塞いで毒を吸わないようにお気を付け下さい」
その様子にアオイが驚き周囲を見回し霧の原因を探ろうとするとイカリが毒を含んでいることに気付き注意を促す。
「う、うん」
「は、はい」
言われた二人は慌てて袖で口をふさぎあまり毒を吸い込まないようにと気を付ける。
「君達死にたくなかったら下がってな」
「セツナ……この霧の正体がわかるのですか?」
短剣を構え前へと歩き出た刹那へとハヤトが声をかけた。
「これも「影」だよ。一瞬で仕留めるけど、奴を宿している身体の主は死とともに毒を放つ。それを吸い込まないように気を付ける事だね」
「へ、それだと刹那が一番危ないんじゃ?」
「良いから下がって見てなよ」
彼女の言葉にアオイが慌てて声をあげるとそれに刹那は一瞬だけ彼女の方へと視線を投げかけて答える。
そして短剣を構えると瞬く間に霧の奥に潜む標的の下へと跳躍して相手の頭蓋骨へと短剣を深々と突き刺した。
【グルルル……ギャアアアッ】
奇怪な悲鳴をあげて事切れる骸骨の魔物。瞬間相手を緑の光が包み込み消えるとともに紫色の毒霧があたりへと飛び散る。
「これで倒したのね」
「だめだ。まだ近づいちゃいけない」
「えっ?」
敵が倒され安心して先へと進めると思い刹那の側へと近づくアオイに彼女は珍しく大きな声で忠告した。
その言葉に呆気にとられその場に立ちつくすアオイ。
「アオイ危ない。避けろ!」
「へ、きゃあっ」
毒霧の影響で腐敗し折れた大木の枝が彼女の頭上目がけ落下してくる。それに気づいたユキが張り詰めた声をあげるも落ちてくる枝の方のが早くて逃げきれない。
「……? セツナ?」
「……だからまだ近づくなって言ったんだ。人間だって吸ったら危ない毒霧が周囲の植物にも影響を与えるなんてことはあたりまえでしょ。そんなこと考えれば分かることじゃないか」
大木に押しつぶされると思った彼女だが瞬間誰かに突き出され地面へと倒れる。目を開けて見やると刹那の顔がまじかにあり驚く。
そんな彼女へと相変わらずの不愛想な表情のまま淡々とした口調で諭す。
「ご、ごめんなさい。……セツナ大丈夫?」
「あいにくと丈夫にできてるんでね。これくらいの衝撃なんてことないさ」
慌てて謝ると怪我をしてないかと尋ねるアオイに刹那は答えた。よく見ると彼女の足は大木に確りと挟まれていてとても大丈夫には見えなかった。
「た、大変。すぐに助けないと」
「レナこういうことは男のやることです」
「……仕方ないな」
慌てて駆け寄り大木へと手をかける麗奈へとハヤトが言うとキリトを見やる。それに彼が仕方ないといった感じで手伝いに動く。
「へー、あんたが珍しく自分から参加するとはね」
「ユキ殿そういういい方はキリト殿に対して失礼ですよ」
その様子にユキが茶化した様子で言うとイカリがやんわり忠告する。
「どう見られていようが構わないが、今はそんな話しより大木をどかす作業の方が先決だと思うが」
「そうですね。すぐにどかしますのでじっとしていてくださいよ」
それに対して何とも思っていない様子でキリトが今やるべきことを伝えるとハヤトが同意して四人の力で大木を押し出す。
それにより足が抜けた刹那は本当に何ともなさそうに立ち上がると体についた土ぼこりを払う。
「アオイちゃん、セツナさん。大丈夫ですか」
「私は何ともないけど、でも……セツナは足の骨折れてたりしない?」
心配して駆け寄ってくる麗奈にアオイが答えると自分をかばってくれた彼女へと視線を向ける。
「君達が気に病むほど大したことはないよ。僕は怪我をしないからね」
「そんなはずないわよ、だってさっきあんなにしっかりと大木に足を挟まれてたんですもの。ちょっと見せてすぐに水につけたタオルで冷やさないと……あれ?」
淡々とした口調で話す刹那の言葉を信じずにアオイは挟まれた方の足へと手当てしようとズボンの裾をあげてブーツを無理矢理脱がせて診る。しかしそこにうっ血も青あざも何もなく腫れも見当たらない様子に驚く。
「だから言ったじゃないか。怪我をするほどやわな体はしてないって。これくらいの衝撃何ともない。君達みたいにデリケートじゃないんでね」
「でりけぇ? 何ですかそれは」
「デリケートっていうのはですね……」
刹那は触られて少し困った顔で話すと拒絶するように彼女の手を振り払うように数歩下がるとズボンの裾を直してブーツを履き直す。
デリケートの意味が分からず不思議そうに首を傾げるイカリへと麗奈が説明しようと口を開いた。
「誰がきゃしゃであつかいづらい身体をしてるって? それとも壊れやすいって言いたいわけ」
「という意味ですよ」
するとそれを遮るようにユキが腹を立てて怒鳴りつける。その言葉に苦笑して彼女は言った。
「兎に角怪我がないならこのまま山越えできそうですね。さあ、まだまだ先は長いですので張り切って登りましょうね」
「その遠足に行く子供に言い聞かせるようなセリフはやめてよね」
笑顔で励ますハヤトへと刹那は不快な思いで言葉を放つ。
「そんなつもりはなかったのですが?」
「もういい。早く登るよ」
本当に悪意はない様子で言った言葉であり、また彼女のいわんとする意味が理解できていない感じで不思議そうにする彼へと刹那は淡泊に放つとさっさと歩きだし山登りを開始した。
それから暫く歩き山頂に差し掛かったところで木の陰から誰かが飛び出してくる。
「姫様お待ちしてましたよ」
「トウヤ。貴様何しに来た」
傷だらけでよろよろとした様子のトウヤへとキリトが武器を構えて睨み付ける。
「そう警戒するな。おれはもうお前達の敵ではないのだから……」
「怪我しているみたいだけど、それどうしたの?」
かすれた声で答える彼へとアオイがトウヤの怪我について問いかけた。
「南の領主マグダムが死んだのはおれの責任だと帝王様に言われて、殺されそうになったのです。それで命からがら逃げだしてきたというわけです」
かすれた声で事情を説明する彼に同情するアオイとハヤトとイカリ。キリトとユキは何か考えるように一層目つきが厳しくなる。麗奈は知っている通りだといった顔で話を聞いていた。
(……なるほど。予言書(すじがき)どうりに、か)
刹那もこうなることは分かっていたが、表情は相変わらず何を考えているのか分からない面をして話を聞きながら内心で呟く。
「信頼していた帝王様に殺されそうになり、もはやおれには何処にも行く場所がありません。そこで、姫様達の手助けをしたいと思いこうして頭を下げに参りました。姫、どうかこの罪深きおれを許し、貴女の側においてはくれませんでしょうか?」
「そんなやつの言うことなんか聞く必要ない。嘘をついてるかもしれないからな」
「そうだ。こいつはかつて王やおれ達の同胞を何人も殺した。そんなやつの言うことなど信じられん。このままここで斬り捨ててその罪を償ってもらわねば」
彼の言葉にユキとキリトが警戒心むき出しのまま言葉を放つ。
「二人とも待って! トウヤさんは命からがら帝王の下から逃げてきたんだよ。この怪我はどう見たって本当に酷いじゃない。このまま放ってはおけないよ。だから私はトウヤさんの事を信じる。だから私達と一緒に帝王を倒しに行きましょう」
「アオイ、何言ってるんだよ。こいつのせいでお前は危険な目に合ってるんだぞ。それなのにこんな奴を信じるのか」
「アオイは知らぬかもしれないが、この男は信頼を平気で裏切り我が国を滅ぼす密偵として送り込まれた帝国側の人間だ。そんなやつを信頼するなど言語道断。こいつを側に置けばいずれ君に牙を向ける。今ここで斬り捨てるのが一番だ」
慌てて二人を止める様にアオイが声を張りあげるとそれに彼等は信じられないといった顔で彼女へと言葉をかける。
「まあまあ二人の気持ちも分からないではありませんが、この辺りに帝国の兵士が潜んでいる様子もないですし、トウヤからは敵意を感じません。ですから彼の言葉を信じてもいいでしょう」
「ハヤト。お前まで何を言い出す。こいつがしてきたことを忘れたというのか?」
ユキ達の気持ちを一番理解しているであろうハヤトの言葉にキリトがいらだった様子で言い放つ。
「忘れてなんていませんよ。ですが、味方は多い方が良いですし。トウヤが味方になってくれたら帝国側の情報も得られるし良いと思いますよ」
「キリト殿とユキ殿の気持ちもわかりますが、姫様が決めた事に口出しするのはいかがなものかと思います。僕は姫様がそれでいいとおっしゃるのであれば、姫様の意見に賛成です」
彼は小さく笑うと「彼がしてきたことを忘れてはいない。だけど彼が仲間になりたいというのには何か深い意味があるのだ」と言いたげな真面目な顔でそう語る。
そこに今まで黙って話を聞いていたイカリも姫の決断したことに従うのが家臣の務めだと諭す。
「……勝手にしろ。それでなにかあってもおれは知らんぞ」
「アオイがどうしても譲らないって言うんなら仕方ない。……だけど俺はまだお前のこと疑ってるからな。アオイに何かしてみろただじゃおかねえ」
ついに二人はそう言い放ちそっぽを向く。納得したわけではないが姫の命令と、昔から頑として譲らない性格の幼馴染の言葉に渋々と言った感じでトウヤが仲間になるということを呑んでくれたようだ。
「肝に免じておこう。それより我が姫……おれのした罪は免れることも許されることもないでしょ。ですがいましばらくの間は貴女の役にたつためにお側にお仕えすることをお許しくださり有難く思っております。この忌まわしき力が貴女の助けとなるのならば、今はただ貴女のためにこの力を存分に使うことを誓いましょう」
「トウヤさん。これからよろしくね」
膝をつき忠誠を誓う騎士の様に頭を深々と垂れ下げて敬礼しながら語る彼へとアオイが微笑み手を差し伸べた。
(トウヤって誰かさんに似てるよね)
今も『守り人』として見守ってくれている赤い瞳の青年の事を思い浮かべながら、時折胸を締め付ける感情を落ち着かせるようにそっと前を見据える。
トウヤが仲間になったことで帝国側の情報をいろいろと教えてもらえるようになった。まずは東の地についてのことをアオイは尋ねた。
「東の地へと向かうならばそこを治めている領主であり、帝王を守る四天王のうちの一人アイクと彼の主導員であり教育係のシェシルこの二人を何とかしなければなりませんが、今の我が軍の力では四天王の二人に太刀打ちできるとは思えません。ですからこの地の開放は今はあきらめ、まずは西の地を治める領主ヴォルトスを倒しその地を開放することが先決かと思われます」
「四天王が領主だなんてどうしてまた四天王が領主になったの」
「四天王のうちの一人であるアイクはまだ十四歳という若き少年でしてね。いろいろと経験が必要と判断した教育係のシェシルが帝王に話をして東の地を治める領主として経験を積ませているとおれは聞いてます」
彼女が彼の情報を聞きながら歩いていると前方から銀色の髪の少年がこちらへと向けてやってきているのに気づき話を止めて無言で前に進む。
「お姉さん達どこにいくの?」
「え、えっと。東の地に向かっているのよ」
笑顔で話しかけてきた少年にアオイが驚きながらもそれに答える。
「ぼくもちょうど町に向かう途中だったんだ。ねえ、お姉さん達よかったらぼくが町まで案内するよ」
(はなっからこちらに近づくのが目的のくせによく言うよ)
にこやかな笑顔で提案する少年に刹那は内心で呟きを零す。
「どうする?」
「ここで下手に断っては怪しまれますし、それにこの辺に住んでいる少年なら一緒に行動した方のが色々と安全かと思われますよ」
アオイが困った顔で皆へと尋ねるとトウヤがそう助言する。
「それじゃあお願いするわ」
「ぼくはアレクっていうんだ。お姉さんは?」
彼の言葉にそれもそうだと思った彼女は納得すると振り返り少年へと頼む。
それを聞いた彼がそうなることを予想していたといった顔で微笑み自己紹介した。
(本当の名はアレクシル。アレクとは彼が町民達に王子だとバレないために使っている名。それを使ってきたってことはこちらの情報はすでに入手済みって事か。流石はしっかりしてるよ。相手の情報を巧みに引き出しながらも自分の手の内は明かさないなんて芸当ができるんなんて敵に回したら厄介な相手だよね)
「私はアオイよ。アレクよろしくね」
刹那が内心でそんなことを思っているなんて知らないアオイは笑顔で自己紹介する。
「アオイか、透き通るような素敵な名前だね。よろしく。それじゃあ案内するよ」
彼は言うと来た道を戻る様に踵を返して歩きだす。
(麗奈とトウヤは知ってるから除外だけど、来た道を引き返してる時点で怪しむべきだと思うけどね。誰も疑問を持ってないみたいだ。あの疑い深いキリトや人への警戒心が激しいユキすら何も思ってない感じだし。アレクシルの演技は相当レベルが高いね)
「ぼくはね世界中を旅している途中なんだ。アオイ達も見たところ旅人みたいだけど、やっぱり領主様に挨拶しに行くの」
「え、う、うん。この地を通らせてもらうんだもの挨拶しておかないと失礼になっちゃうものね」
「そうなんだ。だけどいま領主様達はいないよ。なんでも帝王様から招集がかかって今は帝国に行ってしまっているらしいんだ」
「そうなの」
刹那が内心で考えを巡らせている間にもアレクとアオイは何やら話をしている。がしかしそんなことはどうでもいいので全て右から左へと聞き流しているようだ。
「領主に会わずしてここを通り過ぎることになりますね」
「それならそのほうがいいんじゃないのか。領主に会えばいろいろとめんどうになりそうだしな」
イカリとユキも安堵した様子でそっと小声で話し合う。しかし刹那はアレクがちゃんと聞き耳を立てていることを知っていたが、それを言う必要性も感じなかったので黙って歩き続けた。
しばらく歩いていると城壁が見えてきて城下町の近くまでやってくる。
「待て、貴様等そこで何をしている」
「帝王様からこちらに反乱軍が来ているって聞いて急いで戻ってきたんだけど、君達が反乱軍?」
殺気だった気配を放った男性と少年が背後から駆けてくると警戒した顔で声をかけてきた。今にも腰にある武器に手を伸ばしそうな勢いで一触即発の状況である。
「オレ達は旅の者で、西の地へと向かう途中でして、この地へと通りかかっただけです」
「大勢の兵士を引き連れてか?」
穏やかな口調で上手くやり過ごそうとするハヤトの言葉に男性が鋭く追及してきた。
「それは……」
「この人達は旅芸人の一座で、あっちの兵士さん達は一座を護衛する傭兵さん達だよ」
アオイがどう答えれば一番安全かと考えながら口を開くが言葉が思い浮かばず困る。その様子にアレクが声をあげると彼女等と男達を隔てるように前へと歩み出た。
「「!?」」
(やはり二人もここに王子がいることに驚いているようだね)
彼の顔を見た二人が驚き目を見開いたのを刹那はしっかり見ていたが声に出して尋ねると余計に事がこじれるため黙っている事を選んだ。
「この地を通らせてもらうために領主様に挨拶に行こうとしていたんだけど、領主様が自ら来てくれてよかったね」
「へ? それじゃあこの人が東の地を治める領主様なの」
にこりと笑い言ったアレクの言葉にアオイが驚いて少年を見詰める。
「うん、そうですよね。アイク様。それにアイク様の部下のシェシル様?」
「そっか、お姉さん達旅芸人の一座だったんだね。ごめんね、変な疑い持っちゃって。ボクはアイク。この東の地を帝王様から任されている領主だよ。こっちはボクの主導員兼世話係のシェシル」
「……」
(アイクは信じ込みやすく扱いやすいどこにでもいる少年って感じだね。警戒する必要はなさそうだ。それよりもシェシルってやつは要注意人物だね。王子の言葉を信じてないってことはそれだけ神経質で警戒心が強いって事だから。見るからに頭もよさそうだし、敵に回すとしたら厄介な相手か?)
目の前でやり取りが繰り広げられている中、刹那は四天王だという二人の事を観察して考えを巡らす。
(普通に敵に回せばの話だけどね。こっちにはとっておきの切り札がいるし問題はないだろう)
そう結論付けると再びやり取りの方へと意識を戻した。
「でもこれから西の地へと向かうならその地を治めている領主には気を付けてね。あいつ結構ひどい奴だから。どうして帝王様はあんな奴を野放しになんかしてるのか……」
「アイク。帝王様のお考えに口出しなど恥を知りなさい」
旅芸人の一座だと信じてくれたアイクがそう言って道中気を付ける様にと話す。その後でぶつぶつと独り言をつぶやいた。そんな彼へとシェシルが怖い顔で睨み付け注意する。
「だって、あいつのやり方ボク好きじゃないもん。お姉さん達急いでるみたいだから今回はあきらめるけど、今度会う時は是非芸を見せてね」
「は、はい」
それに不満げな顔で言い返すとアオイ達の方へと笑顔を向けて話す。彼女はとりあえず話を合わせておこうと小さく頷いて答えた。
「それじゃあ、ね」
「……」
領主達がいなくなるとアオイ達の間からほっとした空気が流れる。上手くやり過ごせたことに安堵したのだろう。
「ぼくもそろそろ行かないと。アオイ、道中気を付けてね」
「うん。アレクここまで案内してくれて有り難う」
領主達の気配が完全に消えたことを確認するとアレクがそう言って別れを告げる。それにアオイもお礼を述べて見送った。
「……何とかやり過ごせましたね。アレクに感謝しないと」
「だが、ここにこれ以上留まるのは危険だ。直ぐにこの町から離れた方が良いだろう」
「そうですね。アレク殿のおかげで一度は難を逃れましたが、あのシェシルという男はまだ僕達の事を疑っているようでしたし、あの者が姫様の正体に気付く前にこの地を離れた方がよろしいでしょう」
ハヤトがほっとした顔で話すとキリトがそう言って先を促す。イカリも同意すると急いで城下町を抜けて国境の森の中へと入っていった。
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