第2話 自分勝手な異世界召喚②
めんどくさ。
色々と察した。ここはとりあえず異世界またはタイムスリップのどちらかだ。中世の街並みの時点でそれは確定だろう。聞こえてくる会話は日本語として聞こえてくる。補正か何かだろうか。
情報収集でもするか。
カズは大きな声で魚を売るおじさんの元へ恐る恐る近づき、徐に口を開けた。
「あの」
「へいらっしゃい!」
店長の目は俺の体を舐め回すように行き来し、それに鳥肌が止まらない。
「貴族さんが何のようだい?」
貴族?
「俺が貴族ですか?」
「違うのかい? そんな正装してるの貴族以外ないだろ?」
カズはそう言われ自然と目線が自分の服装に移動していた。
高校の制服。チェックのズボンに黒のブレザー。これが貴族衣装なのか?
「へいらっしゃい!」
カズが熟考してる間に隣には赤ん坊を抱えた女性の姿。
「今日も元気ね。あそこのエンペラーフィッシュ十五匹お願い」
女性はそういうと、手から銅色の塊を出し、イワシのような魚とそれを交換した。
多分何の手入れもされていない銅だ。
「おじさん。これ使える?」
カズはポケットから五百円を出し、おじさんに見せると、
「何だいこの綺麗な硬貨は。別にいいけど何が欲しいんだ?」
一応買えるようだ。ていうか何も考えていなかった。どうしようか。
カズの目にはマグロの切り身のようなものが目に入った。見慣れていたためにそれを無意識のうちにさしてしまっていた。
「あれください」
「あいよ」
手のひらが埋まるほどの大きさの赤み。これを持ち歩くのは少々気まずいな。
「毎度あり!」
おじさんの声を背後に俺は背中を丸くし、誰にも見つからないように人通りの少ない小道へ入った。
*
「いただきます」
俺は小言でそう言いながら石で作られた階段に腰をかけ、見知らぬ赤身を喉に通そうとしていた。
腹が減っては戦が出来ぬっていうしな。まあ戦なんてしたくもないが⋯⋯。
「どいてー!」
え?
俺の赤身は口に入る瞬間に遠方へと投げ出された。俺は背中から何かに押され、前方へ大きくヘッドスライディング。
最悪だ。
ここに来て持ち物は身包みを除いて全てなくなっていた。財布はレジ袋の中だったためにここに来た瞬間になくなっていた。ポケットに唯一あったワンコインは昼休みのじゃんけん大会の景品。何やってんだ⋯⋯。
「もーどいて――」
「おい、俺の刺身返せ」
俺は顔をあげ、青髪の少女の言葉に言葉を重ねた。
「道端で食べてるあなたがいけないんでしょ?」
あーこいつ俺の嫌いなタイプの人間だ。関わらないのが一番いい。
俺の足はイラつきを察し、勝手に少女から離れるように歩き出す。
「ねえちょっと!」
俺の首元は締まり、これ以上前へ進むことを何かに妨害される。何かと言うまでもないか。
「やめろ」
「嫌だ! 私の邪魔したんだから手伝ってもらう!」
こいつ⋯⋯。
*
「それで何だ」
俺は諦めた。このタイプは初めてだ。話を聞かないが極まれりだな。逃げたとして魔法とか使われて殺されては元も子もない。
さっきの階段に二人で座り、仕方なく話だけ聞いて丁重にお断りしよう。
「いやあ、今魔王軍に追いかけられてるから助けてちょうだい」
「は?」
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