第89話 宝箱に意味のないものを入れるな
カジノ城の玉座で、監視から送られてくる映像を眺めるリッチ。
そこに説明を終えたベルゼバエが転移してくる。
「参加者、全員スタートしました」
「ご苦労さまデース。賭けはどうなっています?」
「オッズはモーガンという男に集中しているようですが」
「あれが人間のリーダーのようですからね。でも第一ゲームでは参加者の特性がわかりませんから。ベルゼバエ君はこのゲームどう見ます?」
「スタート位置から城まで人間の足では約3日かかります。先行逃げ切り型と、隠密慎重型に分かれるかと」
「どちらも問題がありますネイ」
「はい、先行逃げ切り型は三日間休まず動き続けなければならず、隠密慎重型は鬼をやり過ごすためどうしても時間がかかります」
「イエース。実はその二つの作戦以外に、もう一つ装備収集型というタイプがありまーす」
「宝箱を開けてまわるのですか? しかし宝箱にはブービートラップがありますし」
「はい、島にばらまいた宝箱のうち半分はトラップデース。しかしそのトラップを恐れず装備を収集すれば、鬼を倒せる装備が見つかるかもしれまセーン。それに、今回はミーが当たり箱を増やしてマース」
「当たり箱には一体何が?」
「それは内緒デース。でも役に立つものデース。いずれにせよこの勝負、鬼が解き放たれる3時間が重要となりマース」
ホホホホホと愉快げに笑うリッチ。
◇
転移門が輝くと、俺は一人暗い森の中に転移していた。
悪霊が乗り移ったような、ひしゃげた木々が並び、この中のどれかが動き出しても不思議ではない。
「ここがどこかはわからんが……」
3時間後に鬼が投入され、そいつらから逃げつつカジノ城を目指さなきゃならんのだな。
城までの距離はかなり遠く、恐らく普通に歩いていけば数日かかるだろう。
「鬼ごっこだしもっと早くなるか?」
いや、鬼に追いつかれたら隠れたりするだろうし逆に遅くなるのか。
どっちにしろ水と食料は必要になりそうだ。
「さて行くかプラ……」
ムと言いかけて、いつも隣りにいる水まんじゅうがおらず、俺は唇を尖らせる。
「恥ずかしい。これじゃ、俺があいつがいないと何も出来ないみたいだろ」
俺はわりとプラムがいるから雑に動いているところがある。
心の奥でモンスターが出ようが罠踏もうが、プラムがいるからなんとかなるだろうと思っていたのだろう。彼女がガンガン突っ込んでいってくれるからこそ、恐れも消え、なんなら負けてたまるかという競争心すら芽生えてくる。
それがいないとなると、途端に恐怖心が勝り、危険な森を全裸で歩いている気分になる。
とにかくこの気味の悪い森を抜けよう。
「うぅ……あー」
周囲から聞こえてくるゾンビのうめき声。
近いな。そう思い振り返ると、木々の合間から動く腐敗した死体が姿を見せる。
恐らくこいつらは鬼ごっこの鬼ではなく、最初からいた夜島の住人だろう。
徘徊しているゾンビや野生モンスターに食い殺されても終わりというわけだ。
「全くデスゲームは最高だぜ」
俺は毒づきながら、うすのろなゾンビを無視して先へと進む。
道中、木の根っこに銅色の宝箱が置かれているのが見えた。
「おっ、これはベルゼバエの言っていた武器箱では?」
ナイフでもなんでもいい、あわよくばプラム出てこい。
そう思いながら箱を開くと、いきなりバンと音を立てて何かが破裂した。
俺は肩と腕に突き刺さった釘を抜きながら顔をしかめる。
「主催者性格悪すぎんだろ」
宝箱に仕掛けられていたブービートラップ。爆破の魔石と大量の釘を一緒に入れ、フタを開けると魔法が起動。爆風で周囲に釘が飛散し、箱を開けた人間に突き刺さるという凶悪な仕様。
「毒ガスじゃなかっただけマシか」
あまりダンジョン攻略などには行かないので、罠への意識が低かった。
中身も吹っ飛んでしまったかと思い箱の中を覗き込むと、なぜか爆風に負けず黒のエロい下着が入っていた。
「えぇ……なんで?(困惑)」
参加者の中で誰か下着を入れた奴がいるのか? そんなわけないよな。
パンツを手に取ると、【大当たり。月光の下着、装備すると魔力が大幅アップ】と書かれた紙がぽろりと落ちた。どうやらランクの高い魔装具の一種らしい。
俺は月光の下着を自分の胸に当ててみる。
えっ、つけるの? 俺が?
何をバカなと思ったが、ふと頭に全滅しそうなワンシーンが思い浮かぶ。
リッチと対峙する俺とプラム、ギリギリで敵を倒しきれない熾烈な戦い。
その時、俺が月光の下着をつけていれば。
恥なんてかきすてステータスアップを優先していれば。
そんな後悔が――
いや、ないない、ないから。
例えそれで勝ってもなんか喜べない。
俺たちはリッチを倒した、だが皆には言っていない……俺が服の下にブラジャーを付けていることを。
なんとなくバッドエンド小説を彷彿とさせる。
ってかそのシーンならプラムがつけろ、なんで俺がつけるんだ。
「まぁ一応持っておくか……一応な」
なにがあるかわからんからな。これに命を救われることもあるかもしれない。
この調子で宝箱を開けて、プラムを発見したいところだが。
他にもあるだろと、周辺を探すとありましたありました。
大小様々な宝箱が5個。
「これだけありゃどれか当たりだろ」
最悪武器や食料でも構わない、そう思い罠に気をつけながらオープンしてみる。
「なんでなん?」
宝箱に入っていたのはカラフルなエロい水着だった。
平時ならばちょっとテンション上がったが、今現在はデスゲーム中である。
しかも結構な即死トラップをかいくぐってこれだ。
おちょくられてる感が半端じゃない。
「このパンツをどうすればいいんだよ! 被るのか、被れば良いのか!?」
他の人間に白い目で見られようと、いやいやこれ装備すると魔力上がりますから、素人は黙っててくださいとでも言うのか。
まだ出会ってすらないが、リッチに憎しみが湧いてきた。
途方に暮れていると、茂みからガサガサと音がなる。
敵か? 俺はパンツの両サイドのヒモを引っ張って構える。
有事の際はこれで相手の首を締めて窒息させるしかない。
◇
その頃、宝箱に入れられたプラムはモゾモゾと箱の中から脱出していた。
「ふぅやっと出られた。全くユーリはボクがいないとダメなんだから、早く戻らなきゃ」
プラムは周囲を見渡すが、不気味な廃墟が広がっていた。
レンガ造りの建物に、石で舗装された地面。明らかに最初の廃村でないことはわかるが、それ以外はわからない。
「ここどこだ?」
「うぅ……あー」
廃墟のいたるところから聞こえてくるゾンビのうめき声。
プラムは普段、ユーリがいるから雑に動いているところがある。
心の奥でモンスターが出ようが罠踏もうが、ユーリがなんとかするだろうと思っている。多少のことで命を落とすことはないプラムだったが、ユーリを命綱にしているからこそガンガン突っ込めた。
それがないとなると、途端に恐怖心が勝り(以下略
「ユーリ……ユーリー?」
周辺にいるゾンビなどプラムの敵ではないのだが、彼女はビビりなところがあり、一人だと怯えが先に来てパフォーマンスを十分に発揮できない。
「ユーリー」
か細い声に反応して、振り返ったゾンビから慌てて隠れる。
「目玉飛び出てたな……。ユーリー……どこー? 出てきてー」
捨てられた犬みたいに心底不安になっていると、廃墟の陰からモコモンキーのサスケと、サスケの頭に乗った灼熱丸が姿を現す。
「ウキ」
「クケ」
「おぉぉ!!」
プラムは目を輝かせ二人に近づく。
「ウキウキ(近くにいた)」
「クケ(合流)」
「良かった。よし、これよりプラム探検隊を結成しよう。ボクがリーダーね」
「ウキ(リーダー!)」
「クケ(リーダー!)」
サスケと灼熱丸はプラムに敬礼を行う。
「どうせユーリのことだから、ひどい目にあってぐえええってなってるに決まってるんだ。早く探しに行こう」
「ウキウキ?(どこを探せばいいんだろ)」
「クケ(現在地不明)」
「ユーリがなにかあったら東を目指せって言ってた」
「クケ(東?)」
「んとね、北から見て右側、あれ左側だっけな」
「ウキ?(北どっち?)」
「北は……わからん!」
プラム探検隊、初手遭難。
「とりあえず城めざそっか」
「ウキ(了解)」
「クケ(了解)」
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