第88話 弱ジョブ
生死をかけた
「皆様チームを決める前に、契約書をお渡しいたしますので参加を希望する方はサインして提出願います」
ベルゼバエから契約書を手渡され、中身に目を通すと概ね最初に言っていたことと同じことが書かれている。
後は死んでも自己責任だし、死んでも死体は返さないからねと追記されているくらいだ。
恐らくこのゲームで死んだら、俺もゾンビの仲間入りだろう。
「ユーリ、参加するのか?」
「どのみちバエル助ける為には城に行かなきゃならんからな」
それにゲームを進めれば、主催であり夜島を乗っ取ったリッチに会える可能性は高い。
書きたくはないが契約書にサインを行う。
「全員参加ありがとうございます。それでは報酬を入れる金庫を配らせて頂きます」
ベルゼバエがパンパンと手をたたくと、参加者一人ひとりの目の前に手のひらサイズの宝箱が出現する。
蓋に小さなディスプレイがついており、そこには【0】と表記されている。
「こちら金庫となっております。その中に今手持ちのデビコインをお入れ下さい」
参加者全員がご丁寧に投入口がある、貯金箱型宝箱にコインを入れると、ディスプレイ表記が【1】にかわりズシッと重さが増した。
「重っ」
デビコイン自体は普通の硬貨と同じ重さなのに、宝箱に入れた瞬間5クロくらい重くなった。
「この宝箱は特別製で、中のデビコインの枚数に応じて重さがかわる仕様になっており、箱1個当たり最大50クロまで重量が増加します。尚ゲームクリア時、この金庫を持っているかいないかは関係ありません」
つまり有事の際、重くて邪魔になったら捨てても良いということだ。
だが、金庫を捨てたら手に入れた報酬がなくなり、それまでの苦労が無になることは言わずともわかる。
「これ金庫にコインがいっぱいある奴程不利になる仕組みか」
50クロの箱持って走れとか絶対無理だぞ。
「俺は筋力アップスキルが使える、300クロくらいなら余裕だ。金庫を持てないやつは俺が持ってやるぞ」
「僕は
チーム決めが再開し、各々スキルを生かしたアピールを始めている。
市長含め全65人のガード達はどんどんチームが決まり、その中でも一番最初に声を上げたモーガンのチームは人気で、強そうな奴が続々と加入していく。
「こりゃ俺様たちの勝ちで間違いないな、ガハハハハ」
モーガンは明らかに俺に向けて笑みを浮かべる。
前衛戦士にレンジャー、格闘家など武器がなくても強い連中が揃っており、弱い冒険者たちはなんとか取り入ろうとすり寄る。
「お、俺は槍術士だ。俺も仲間に入れてくれ!」
「ダメだダメだ。武器を奪われた槍術士なんか役に立たん失せろ」
「私はキャスターです、得意魔法は土魔法です」
「
奴の言うとおり鬼が足の早いグールだと、敏捷が低く近接戦が出来ない職業は軒並み弱いと判断される。
「おいシスターと女剣士、お前は俺様のチームに入れてやっても構わんぞ。ガハハハ」
二人はそろって首を振る。
多分教会関係者の二人は、他者とつるむ気がないだろう。
あぶれた者たちはなんとか協力しようと肩を寄せ合うが、どこも新人やキャスターだらけだ。
実質精鋭が揃ったモーガン組と、アンデッド特攻を持つシスター組の二強と言っていいと思う。
そんな中、サムが俺の肩を叩く。
「おい、オレは部下の騎士団員8人を引き連れて参加する」
「他の参加者と組まないのか?」
「即席チームなど信用できるか。バカどもは仲間を増やせばいいと思っているようだが、信頼のない仲間は敵とたいしてかわらん。背中の心配をするのはごめんだ」
そりゃごもっとも。
「あとオレ達騎士組は市長と組む」
「マジかよ、あのおっさん地位以外なんの能力もないぞ」
「奴に死なれると、我々が何しにここに来たのかわからん」
「確かに。犯罪者を守るのも帝国騎士の役目ってわけね」
「それでなんだが、本来ならお前もチームに入れたいのだが市長が嫌がっててな……」
「俺何も悪いことしてないが?」
「お前のサメに手を噛まれかけたことがトラウマになっているらしい」
そういやそんなことありましたね。
「わかった、俺も多分プラム達を回収しなくちゃならん」
あとホムラ、リーフィア、ナツメもどこ行ったかわからんし。
「そうか、魔物使いの魔物は武器扱いんなんだな。一人で大丈夫か?」
「なんとか組めそうな奴を見つける」
「弱くても信用できる奴と組めよ。わかってるとは思うが、金に目がくらんだ奴は何をしでかすかわからんぞ」
「夜道だからやっぱ
俺は若い軽装戦士を見つけ、声をかけてみることにした。
「なぁあんたスカウトか?」
「そうだが……」
「なら俺と組まないか? 他にも人を誘って」
スカウトは俺を頭から爪先まで見た後、プラムに視線を移し首を振った。
「あんた魔物使いだろ……すまない。他をあたってくれ」
「そうか……」
何人かに声をかけてみるが、同じく反応は芳しくない。
なんでこんなに嫌われてるんだ? と思ったが、モーガンと目と目が合う。
奴は困っている俺を見てほくそ笑む。
「おいお前、なんか言ったな」
「別にぃ? 俺様は魔物をとりあげられた魔物使いなんか、クソの役にも立たんと言っただけだ」
「武器を取り上げられたのは全員同じだろ」
「このゲームは武器を拾うっていうランダム要素がある。近接職は大体どんな武器でも使いこなせるが、お前はどうだ? 拾った武器が弓やハンマーでも使いこなせるのか?」
「…………」
「皆弱い職とは組みたくないんだよ。まぁせいぜい仲間集め頑張れよ、魔物がいない魔物使い君――」
「しゃー!(怒)」
「ギャアアア!」
モーガンの足に再びサメちゃんが噛みついていた。どうやら本能的に俺が嫌がらせを受けているとわかったようだ。
俺はその後も総当たり的に声をかけていくが、モーガンが大声で話していたのを聞いていたせいで皆首を横にふる。
残ったのはワッツとベン、こいつらの実力はあまり信用出来ないのだが、フられまくってる俺が言えた義理ではない。
「なぁワッツとベンだっけ? お前らは誰かと組むのか?」
「あ、兄貴」
「その……」
気まずそうに俯いて言葉を濁す二人。もうこの反応だけでわかってしまうな。
ジョブハブりと言うのはよくある話で、依頼内容に適性がない職はハズレ職と呼ばれ爪弾きにされることはある。
まさか助けた新人にすら拒否られるとは思わなかった。
「すみませんアニキ」
「ごめんなんだなぁ」
「いや、いいんだ。気にしないでくれ」
その後ワッツとベンは、裏切られたモーガンに頭を下げてチームに入れてもらっていた。
本来なら二人の実力では入れてもらえないはずだが、恐らく俺へのあてつけでチームに入れたのだろう。遠回しにお前は新人以下だと言いたいのだ。
その様子を見てグツグツと煮えたぎる水まんじゅう。
「うぐぐぐ、怒りで血管ちぎれそう。なんだよアニキアニキって言っておいて」
「お前血管ないだろ。しょうがねぇよ、気にくわなくても力を持ってる人間の下に入らなきゃいけない時はある。俺につくと嫌がらせを受ける可能性もあるからな」
「ボクああいうのを恩知らずって言うの知ってるぞ」
「生存確率を上げてるとも言える」
「差別されてるくせによく言うよ」
結局俺は誰ともチームを組めず、学校でハブられるぼっちみたいになってしまう。
大方のチーム分けが終わると、ベルゼバエが声をかける。
「それではゲームへと参りましょうと言いたいのですが、その前にスタッフー」
ベルゼバエがパンパンと手をたたくと、ビキニにフリルエプロン、メイドカチューシャのサキュバス型悪魔が30人ほど現れる。
ほぼ裸エプロンのエロいメイドの格好をした悪魔は、参加者全員の体をまさぐり、武器と道具を没収していく。
「おかしいぞバエル、部下に美人はいないんじゃなかったのか?」
野良コウモリのフリをしたバエルは『あれが美人? 普通だろ』とのたまった。
こいつの美的センスは今後一切信用しないことにした。
俺のもとにも現れた網タイツが眩しい美人悪魔達は、プラム、サメちゃん、サスケ、灼熱丸をぬいぐるみみたいに抱きかかえて没収していく。
「うぉぉぉ離せー、ユーリはボクがいないと何も出来ない陰キャなんだ!」
プラムが失礼なことを言いながら最後まで抵抗していたが、デビルメイドは笑顔を崩さず我が面白モンスターズと共に消えていった。
「武器、道具は没収させていただきました。スタートまでに宝箱に詰めて、島中にばら撒きますので、自分の武器を探すなり、他者の物を使うなり、ゲームの進め方は各々ご検討下さい」
できればプラム達の箱が近くにあるといいが。
ベルゼバエが指をパチンと弾くと、赤く輝く六芒星の
「こちらのゲートをくぐればゲーム開始です。第一ゲームは鬼ごっこ。ルールは鬼となるアンデッドモンスターから逃げ、殺されずに夜島中央にある城にたどり着けばクリアです。皆様のご健闘を心よりお祈りしております」
緊張した面持ちの参加者は、一人ひとり転移門をくぐって島のどこかに飛ばされていく。
順番待ちをしているとモーガンと目と目が合う。
「テメェの金庫は俺様が奪ってやるよ」
「お前がそういう奴で助かる」
やり返すときに罪悪感を感じなくて済むから。
モーガンの後に俺も転移門をくぐると、視界が歪みスタート位置へと転移した。
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