第86話 冗談は相手を見て言え
「うおおお凄いぞユーリ、一網打尽だ!」
「サスケの電気が生きたな」
「しゃしゃしゃ」
「ウキウキウキ」
ゾンビ共をやっつけたサメちゃんとサスケは、喜びの舞で俺の周囲をグルグルと回る。
助かったガードたちも、やったぜと喜びあっていたがそれも束の間。
地中から新たなゾンビの腕がニョキニョキとのび、不死者たちが這い出てくる。
なんならさっきより数が多い上、中にはオークやゴブリンのゾンビまで混じっている。
「雑草みたいにポンポコ生えてきやがって」
「ユーリ、これ電気ショックで地中にいたゾンビ全員起こしたのでは?」
「その可能性は否めない」
本気でやるしかあるまいと、俺は魔獣兵の鎖を垂らす。すると……。
「代行を開始。目標を駆逐する」
凛とした声が響き後ろを振り返ると、黒鉄の
「汚い鳴き声を上げろウジ虫共が。贖罪の時間だ、神の前に跪け!」
あの華奢な体の一体どこにそんな力があるのか、少女は深いスリットから生足をチラつかせつつ、近づく物を容赦なくハンマーで圧潰させていく。
ブンブンと鉄塊を振り回しゾンビを細切れにしていく姿は、もはやミキサーである。
「
そして隣にはあのショトカの痴女騎士、ではないマントを羽織ったイケメン顔の聖剣騎士。
彼女の握る銃剣(?)だろうか、柄に魔砲銃のようなトリガーが取り付けられており、彼女が引き金を引くと刀身が魔力を帯びて白く光りだす。
「ガリアソード!」
聖剣騎士が剣を振るうと、周囲のゾンビ共の首が次々と吹っ飛んでいく。
これは魔法の類ではなく、本当に剣のリーチが伸びている。恐らく刃がワイヤーのようなもので繋がっており、強く振るうことで鞭のように刀身が伸びる蛇腹剣となっているようだ。
「ユーリ、あの弾丸みたいなの何?」
「わかんねぇ。軍があんなの使ってるの見たことあるな」
「恐らく強化術式が封入された
帝国の魔導器に詳しいサムが解説してくれる。
シスターはパワーでゾンビをねじ伏せ、聖剣騎士の方は鮮やかに鞭のような剣をコントロールしゾンビを蹴散らしていく。
「強い……だが、もう少しで見えそうなんだがな……」
俺は戦いを集中して見るために少し体を屈める。
「ユーリ、剣筋が見えそうなのか?」
「いや、パンチラが」
「あ゛?(威圧)」
先程までのパニックは一体何だったのか、二人は不死の怪物たちを次々に駆逐していく。
その攻撃には一切の手加減がなく、流れ作業のごとく頭を潰し二度と蘇らないようにする。
特にシスターの方は月明かりを背景に、「アッハッハッハッハ」と狂気的な笑い声を上げながらゾンビをぶち殺していくので、もはやどっちが怪物かわからない。
容赦なく、躊躇なく、不死を灰に還す神の代行者。
ゲボ吐いていたときとは完全に別人のバーサーカーだ。
僅か数分でグール達を壊滅させ、周囲にはバラバラになった死体の山が築かれていた。
「パワーも魔力も圧倒的だな……」
最後に立ち上がってきたゾンビに向かって、シスターは胸に下げた十字架を投擲する。
銀のアクセサリーは不死者の目に突き刺さると、汚れた魂を体内から焼く。
頭部が灰になったゾンビはぐらりと崩れ落ち、やがて体全てが灰となり空に散っていく。シスターは亡骸を前に胸の前で十字を切った。
「代行完了」
「これが不死殺しのエキスパートか……」
かっけぇ……俺も代行完了とか言いてぇ。
「ユーリすごかったね」
「あぁ修道服の深いスリットと、マント下に見える痴女アーマーに目が行ってしょうがなかった。やっぱハイレグアーマーは正義、おごあ!」
プラムが無言で俺の鳩尾にドリル体当たりをしてきて、体がくの字に折れ曲がった。
その時シスターの目がこちらに向く。
彼女はツカツカと歩み寄ると、上目遣いで俺を見やる。
病的なまでに白い肌に小顔で整った顔立ちをしており、目の下の濃いクマがなければ美少女と言ってもいいだろう。
彼女は至近距離まで顔を近づけ、スンスンと匂いをかいでくる。
「えっ、何どうしたの?」
「悪魔の臭いがする」
「男は皆悪魔みたいなもんさ。女の子を食べちゃうね」
俺がスーパーセクシーに言うと、シスターは銀色のナイフを取り出す。
おっとちょっと滑っただけで、そこまで怒らなくていいじゃない。
「ユーリはちょっと頭が、度を超えておバカさんなだけなんだ。許してあげて」
俺なんでスライムにフォローされてるんだろ。
「悪魔を飼っている……それをこちらに」
「悪魔って」
このコウモリのことか?
「大丈夫だ、こいつに害はない」
「害はなくとも悪魔は滅ぼさなくてはならない」
「待て待て無害な悪魔だっているんだ。そんなことする必要はないって」
「悪魔は滅ぼす、例外はない」
目をギラつかせ、悪魔死すべし慈悲はないと繰り返す。
「……渡して」
「断る。これは俺のだ」
「悪魔を庇うものは悪魔。……お前もウジ虫か?」
シスターがナイフからガンハンマーに持ちかえる。
どうやらこれ以上ゴネる気なら、お前ごと叩き潰すぞと言っているらしい。
「やる気かよ……そっちがその気なら、こっちも面白モンスターズで対抗するぞ」
「ボクに任せろ」
「しゃー」
「ウキ」
「クケ」
ちっとも怖くないマスコットモンスターたちが、ガオーと両手を上げて精一杯強そうアピールをする。
「そ、そうっすよ。アニキはオレたちを助けてくれました。悪魔の仲間なんかじゃないっすよ」
「あ、兄貴への言いがかりなんだなぁ」
さっき助けたワッツとベンも、やめろぉと俺達に加勢してくれる。
だが、シスターにキッと睨まれた瞬間「暴力反対っすぅ……(小声)」と引き下がった。
そこに先程の聖剣騎士が仲裁に入ってくれる。
「ヴェロニカ、そこまでだ。これと揉めても仕方ない。彼はお前に薬をくれた人物だ。神は恩人に仇討ちせよと言っているのか?」
やっぱり年齢が高いだけあって、こっちの騎士の方がまともだな。
シスターの方は完全にネジが外れちゃってる感ある。
「悪魔が……」
「我らには使命がある」
「…………了解」
シスターは不承不承という感じで引き下がってくれた模様。
ただ気になるのは使命というワード。教会の人間なら十分悪魔殺しは使命に入りそうなんだけどな。
この二人、何か別の目的があってここにいるのか?
そんなことを思っているとバエルから念話が届く。
頭に直接響くハスキーな声は少し怒っているようにも聞こえる。
『そなた、なぜ余をかばった? この体は本体から出た分身。別に消されたところで問題はない』
「魔物使いが自分の魔物売ったら終わりなんだよ。お前の家族殺すから渡せって言われて渡す奴はいねぇだろ」
『…………そなたの立ち位置が怪しくなるぞ』
俺はバエルの頭をぐしっと撫でる。
「新入りが気にするこっちゃねぇよ」
『やめぬか、余は夜魔の王。死をばらまく黒翼の堕天使。馴れ馴れし、く、触る、にゃ』
口ではそう言いつつも、特に抵抗はない。
というか頭を寄せてきてるまである。
『……そなた、契約を少し緩和してやっても良い。契約を結べ』
「だが断る」
『むぅ……』
バエルの値下げ提案をあっさり断ると、どこからともなくパチパチと拍手音が響く。
周囲を見渡すと目の前に六芒星の転移門が現れ、地面から生えるようにして人間サイズのハエ型悪魔が現れる。
燕尾服を着た悪魔は、ハエ頭をこちらに向けて丁寧に腰を曲げると、俺たちを歓迎した。
「皆様、お初にお目にかかります。わたくしリッチ様の従者であるベルゼバエと申します」
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