第81話 聖剣騎士(24)
幽霊達に襲われた後、俺たちはようやく夜島へと到着する。
暗闇の中に浮かぶその島は不気味そのもので、いかにも悪魔が住んでいそうな雰囲気だ。
「なぁユーリ、あの光ってるのなんだ?」
「カジノ……だな」
夜島の恐らく中心部だろう、三叉槍のような立派な城がそびえ立っており、その周辺に城下町が広がっている。
おかしいのが本来吸血鬼でも住んでいそうな不気味な城が、なぜか遠目でもわかるほどピカピカと輝いているのだ。
その外観は帝国でも目にすることのあった、カジノハウスの目に優しくない電飾と酷似している。特に目立つ777の看板は7色の光を放っており「なんじゃあれ……」と言わずにはいられない。
「わっちが知っとる夜島とえらく様変わりしておるな」
小狐姿のナツメが術を唱えると、目の前に蒼月を背景にする悪魔城が映し出される。
由緒ある貴族が好みそうな美しい彫刻が壁に施されたゴシック建築で、城というよりバカでかい教会のように見える。どうやらこれが過去の夜島の姿のようだ。
「こっちはラストダンジョン感あふれる城だな」
「うん、魔王出てきそう」
それがどうしてあんなジャンジャンバリバリ言いそうな、パチ屋みたいになってしまったのか。
「これは夜島の魔将がいたときのバエル城じゃ。恐らく
「その引き継いだ奴ってのは大分変わりもんのようだ」
俺たちが島に船をつけると、目の前は恐らく魔王大戦時に焼かれたのであろう廃村が広がっていた。
島の中心部は明るいのだが、周囲は暗い森と荒れ地が広がっており、ここを突っ切らないとカジノ城には向かえない。
村のいたるところに木を十字に組んで地面に突き刺しただけの簡素な墓が見られ、村なのか墓場なのか判断に困る。
「ユーリ、怖ぇカラスがこっち睨んでくる」
「目を合わせるな、飛んできて目玉をほじくり出されるぞ」
「ボクのチャーミングなお目めが……。もう完全に魔界村じゃん。絶対地面からゾンビの棺桶せり上がってくるって」
俺たちが暗闇の島に上陸したのは午後三時。にも関わらず真夜中かと思うくらい暗い。
なんなら月まで出ていて、ほぼ夜である。恐らく島の名前の通り、ここではほぼすべての時間が夜なのだろう。
島の安全を確認していると、マルマン市長たちも同じく船を降りてくる。
不機嫌そうなデブっちょ市長は、葉巻をくわえながら薄気味悪い廃村を見て、たるみシワだらけの顔をしかめる。
「なぜワシが、こんな薄気味悪い島を歩かなきゃならんのだ」
「そりゃあんたのせいで連れ去られた市民が一番思ってることだ。とにかくあの城を目指そう、あそこがデビルズカジノで間違いないだろ」
「しかしあそこまでどうやっていく? 徒歩だと3日はかかるぞ」
サムは島の直径から、カジノ城までの距離を割り出す。
「馬もねぇし歩くしかあるめぇ」
「絶対なんか出るよねこの島」
プラムの言う通り、すんなり歩いてあの城までたどり着くことは出来ないだろうな。
移動手段を考えていると、市長の船からぞろぞろと
「なんかいっぱい出てくるね」
「元帝国の軍船だからな。6,70人くらいは余裕で乗れるぞ。そういやあの殺人鬼シスターどこ行ったんだ?」
市長と同じ船に乗っていたはずだが。
気になって船をぐるりと見渡してみると「おぇぇ……」と、虹色のゲボ吐いているシスターと、背中をさすっているマント騎士の姿があった。どうや船旅で酔ったらしい。
「だ、大丈夫か?」
「うぇ……ぐえっ……おぇぇぇ」
オロロロロと虹色の何かを吐き戻すシスター。
俺は森島製のハーブと薬草を丸薬化した、胃薬を取り出す。
「吐き気にきく丸薬だ。いるか?」
「貰おう」
吐きまくってるシスターにかわり、マントで全身を包んだ女騎士が答える。
透き通るようなブルーの瞳に、ショートカットの凛々しい女性で、サムからは
整った顔立ちに聖剣使いとか、さぞかし帝国では黄色い歓声を浴びていることだろう。
彼女が薬を受け取ろうと手を差し出すと、マントの隙間から重力に反逆する
一瞬目の錯覚かと思ったが、確かに角度のきつい白金のハイレグアーマーに包まれた胸は、確実に100オーバーだった。
俺のパイカウンターは正確無比だし、誰よりも俺自身がこのパイカウンターを信用している。錯覚などという理由で100なんて数字は出さない。
だが、だとしたらおかしい、爆乳禁止法がある帝国で爆乳騎士など許されるはずがない。
女騎士は俺の視線に気づくと、さっとマントを閉める。
「いいおっぱいしてるね(ゲス顔)」なんて言うとトラブルになりかねないので、俺は見なかったことにして薬だけを渡す。
「ねぇねぇお姉ちゃん痴女なの? すんごい鎧着てるね」
プラムがゲス顔でいらんことを口走ると、女騎士は顔を真赤にして怒鳴る。
「違う、これは
呪われとるやんけ。
かの有名な勇者ペペルニッチも
俺が微妙な顔で沈黙していたのが悪かったのか、彼女は握りこぶしで
「くっ……24でこんないかがわしい鎧を着て、痛い女めと思っているのだろう」
「思ってない思ってない!」
こいつ俺より年上だったのか。
「私とてこのような物は若い人間が使うものだと思っているが、選ばれてしまったのだから仕方ないだろう!」
確かにこのままその鎧が脱げず、歳を重ねたらきついことになりそうだ。
還暦でハイレグアーマーとか誰も見たくないだろう。
「いや、全然大丈夫だと思いますよ!」
「急に敬語になるな!」
年上だとわかって敬語に直したことがバレた。
「オロロロロロ……しぬ……しにます……ティターニア、薬を……」
「す、すまない」
大声が響いたのか、シスターのゲボ音が聞こえ、ハイレグアーマー(24)は薬を飲ませる。
俺たちはそのすきにその場から逃げ出すことにした。
こりゃしばらくシスター達は役にたたんな。
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