第75話 スタメン
俺たちは現在ファーム近くの浜辺で、バーベキューを楽しんでいた。
砂島から来る熱波が森島を直撃したせいで、現在気温は36度。
もっと灼熱地獄になるかと思っていたが、今年は大分ゆるい気温らしく避難警報を出す必要もなさそうだ。
しかし、それでもじっとしているだけで汗が流れるくらいには暑く、森島に二足ほど早い夏が到来していた。
ファームではこんなに暑いんだし海で遊ぼうぜということになり、ZOMAHONで購入したバーベキューセットと浮き輪を用いて、夏のバカンスにしけこんでいる。
「妖狐必殺バーニングマンダラ!」
火傷しそうな砂浜では水着を纏ったホムラが、ボールが9つの火球に見えるサーブをリーフィアに向かって放っていた。
「甘い、
砂を巻き上げる風のバリアが展開されると、9つのボールが纏っていた炎が打ち消され本物のボールが露わになる。
「サスケ!」
「ウキ」
モコモンキーのサスケがリーフィアの肩から飛び上がると、勢いの落ちたボールを上手く上空へとトスする。
「ナイス、唸れ疾風ストームバレット!!」
リーフィアは砂を蹴り高くジャンプすると、圧縮した風を宿したサーブを放った。
「カッパ、モンキーに出来るんやウチら妖怪の意地も見せたり! 打ち返してトス上げるんや!」
「無茶言うなカピ!! あんな螺旋丸みたいなの当たったら顔面ズタズタになるカピ!!」
コートから逃げようとするカッパだったが、ボールが真横をかすめると衝撃波で錐揉みしながら空へと吹っ飛んでいった。
「カピー!!」
お星さまになったカッパは、数秒置いて海へと着水した。
大丈夫かな、皿割れてなきゃいいが。
一応ビーチバレーのルールは教えたのだが、魔法を使ってはいけないと根本的な事を言い忘れたせいで超人バレーと化している。
しかしそのおかげで運動量が激しく、ビキニのヒモがちぎれそうなくらい爆乳が揺れている。
本来ならそのおっぱいバレーをガン見しているところだが、俺とプラムは少し離れた位置で船の改修工事を行っていた。
「よーし、今日のところはこんなもんにしとくか」
この船は前回海賊たちが使っていたもので、帝国騎士団に接収されそうになっていたところを譲ってもらったのだ。
「なぁユーリ寝室狭ない?」
「仕方ないだろ、船のスペースには限りがあるんだから」
「詰め込んで15人くらいしか乗れなくない?」
「魔導エンジンを外して帆船として利用するなら積載増やせるけど、生活スペース考えると厳しいな」
「せっかく最新式なのに勿体ないよ」
「だよなぁ。貨物室をもうちょっといじるか、調理室を取っ払っちまうか」
この船は鬼ヶ島の海上移動拠点になるかもしれないので、設備は入念に考えなければならない。
「なぁなぁユーリ、この船の名前なににする?」
「キングポセイドン号MK2タイプオリュンポス」
「ダッサ。彼氏が船にそんな名前つけてたら別れるわ」
「じゃあお前は何がいいんだよ」
「んータイタニック号にしょう。昔の沈没船の名前だぞ」
「なんでそんな不吉な船の名前つけようと思ったんだ?」
氷山とかにぶち当たって死にそう。
協議した結果、船の名前は青鬼号に決まり俺たちは船から降りる。
すると試合には勝ったのか、金髪エルフことリーフィアがビーチボールを持って待ち構えていた。
帝国最新モデルのグリーンのビキニはサイズが小さいようで、爆乳が三角の布地から若干ハミ出している。
「ビーチボール3つも持つなよ」
「持ってないわよ! セクハラしね。ねぇ何してんの?」
「船直してる」
「見たらわかるわよ、この船どうしたの?」
「帝国海上騎士団から貰ったんだ。本来海賊船は接収され次第ぶっ壊されちまうんだが、最新の船だからな。壊すの勿体ないねーって言ったら快く譲ってもらえた」
「あんた絶対圧かけたでしょ」
失礼な、ちょっとサイガとゲイツに帝国騎士たちを取り囲んでもらって交渉しただけなのに。
ゲイツが「ぶっ壊しちまうなら、俺様たちが貰っても別にいいよなぁ!? 密猟者放置してたんだからよぉ!?」とパワー系交渉をしていたことは事実だ。
「この船修理してどうすんのよ? あっ、もしかしてみんなで海釣りするの?」
「いや、そのうち俺たち森島から出るからな。その時必要になる」
「えっ出て行くの? 何で?」
リーフィアは予想外だったのか、キョトンとした顔をしている。
「森島はベヘモス残党もほとんど見なくなったし、ZOMAHONっていうビジネスパートナーも見つかって順調だ。これからうまく発展していくだろう」
「ホブロンさんも良い人だし、安定軌道に乗ったよね」
俺はプラムに頷く。世界樹復興などやるべきことはあるものの、大きな危機は回避したと言ってもいいだろう。
「いやでも、やっぱりあんたがいないとまたグチャグチャになっちゃうし。ってか安定してるなら別に出ていくことないでしょ?」
「帝国の流刑先は森島だけじゃないんだよ。別の島にも犯罪者を流してる。これは俺の予想だが、きっとベヘモスみたいな組織が他の島にも存在していると思うんだ」
「……森島みたいに苦しめられてる魔族がいるってこと?」
「きっとな。それに別の島の魔将とはもとから会って話をしたかったんだ。魔大陸って4つの島があって、それぞれに魔将がいるわけだろ? それでいて魔将をまとめる魔王が現在不在なわけだ」
「それって危ういよね。王様不在なのに、四天王だけ生きてるみたいな」
「そうなんだよな。プラムが言った通り、人間でも王は死んでるが有力な領主は残ってるって、かなりの高確率で喧嘩になるんだよ」
残った魔将の中から次期魔王が出てくるのは自然の流れだが、ナツメ曰く魔将同士の仲が悪く、会うと喧嘩になるから現状にらみ合いが続いているらしい。
その状態がいつまでも続くならいいが、魔族は人間に並々ならぬ憎しみを抱いているし、魔王の仇を討とうと考える魔将が出ても不思議ではない。恐らく力を蓄えた奴が均衡を破るのは目に見えている。
「森島としては今のところ人間と事を構えるつもりはないと思うが、別の島の魔将がいきなり戦争を始めたら、それに巻き込まれてしまうだろ。そうなる前に、ちゃんと
「そうすれば、魔将のうち一人が人間に攻撃したとしても残った魔将で止めることができるよね」
俺はよくできましたとプラムの頭を撫でる。
「穏健派の魔将を魔王にしておかないと、いつ第二次魔王大戦が起きるかわからないってことね」
「そういうことだ。しかも魔王不在で戦争が始まると、人間は落としどころが見つからなくて、魔大陸が地図から消えるまで攻撃を続けるぞ」
「強硬派が魔王になったら恐ろしいわね」
「そうだな。そうならない為には誰が魔王になるのが一番いいか、魔将各々の思想を知っておかないとダメだろ」
その上で手を組めそうな魔将がいれば話をつけておきたい。
森島とどこか一つでも手を組める島があれば、大きな抑止力になるだろう。
「ユーリ難しいこと言ってるけど、ナッちゃんから魔将全員おっぱい大きい女だって聞いてやる気出してるんだよね」
「お前それを言っちゃ俺が下心で動いてることがバレるだろ……」
俺の立ち位置が魔大陸の平和を望む男から、一気におっぱいのことしか考えてないクズになった。だけど事実なので否定は出来ない。
「ま、いがみあってないで仲良くしようぜ。森島と
「そんで他の島にベヘモスがいたらぶっ倒すんだよね」
「おう。人間の不始末は人間が解決しに行かないとな」
「ねぇ、あんたの言ってることは正しいと思うんだけど、あたしたちのこと……置いていっちゃうの?」
リーフィアはそれが心配だったのか、チラチラとこちらを見ながら抱えたビーチボールをギュッと押しつぶす。
「ははは、もしかして俺とプラムだけでこの島を出ていくと思ってたのか?」
「場合によっては、その船沈めなきゃいけないかもしれないでしょ……」
さらっと恐ろしいこと言ったなコイツ。
「で、どうなのよ?」
「あくまで俺の本拠地はここだ。他の島の攻略に向かったとしても帰ってくるし、移動する時は仲間を連れて行く。森島の代表を連れて行ったほうが絶対スムーズに話は進むからな」
俺とプラムで皆仲良くしようねって言いに行っても「ふざけんじゃねぇぞ、人間とその手先が!」って袋叩きにされるのは目に見えている。
「リーファンも船の中見たらいいよ。いっぱい人が乗れるように今改造してるから」
「へ、へー。その連れていく代表ってどうやって選ぶの? あんたにとってのスタメンってことでしょ?」
「スタメンつっても、戦闘力だけで決めたりしないぞ。例えば雪島に向かうなら火属性のホムラは有利になるだろうし、場合によってはナツメも連れ出すつもりだ。他にもバニラの怪力や、サメちゃんの水中戦闘力なんかも必要になるだろうし」
「そうね、あたしの風の力なんて特に必要になるでしょうね」
「風か……いるかな?」
エンジンあるからいらんかもと言うと、彼女はゴォっとビーチボールに風を纏わせ螺旋丸を作り出す。
「嘘嘘! 風いる、すごくいる! エンジン壊れた時めっちゃ困るし、偵察能力高いし風最高!」
「わかればいいのよ。しょうがないわね、あんまり森島出たくないんだけどそこまで言うなら力を貸してあげるわ」
「いや、無理にとは言わんが」
「あ゛? 置いていったら許さないわよ」
置いていったらタイタニック号にされそう。
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