第70話 ZOMAHONがやって来た 後編
「魔物が家族ぅ? 笑わせるな」
「笑わせてねぇよ。心底本気だ」
「オレは宗教に狂って頭がおかしくなった奴は見たことあるが、魔族に狂っておかしくなった奴はお前が初めてだ」
「俺は何も変なことは言ってねぇ、魔族とだって友情や愛情も芽生える」
「友情に愛情? なんだお前は、スライムやドラゴンとお友達になったり恋人になったりするってか?」
「そうだ。俺はどんな魔族でも、人間と同じように接するつもりだ」
「ぶっ、わはははははは! ガキの頃虫が友達と言っているバカがいたが、お前はそれと同じだな。ヤレヤレ魔大陸にいる人間だから、多少イカれてると思ってたが、こいつは本物じゃないか」
「喧嘩売りにきただけならさっさと帝国に帰れ! お前みたいな奴がいるから、魔族と人間の確執が永久に解消しないんだ!」
俺が怒鳴りつけると、事務所の扉が開き2メイルを超える義足の人狼が姿を現す。
「わ、ワーウルフ!?」
「姿が見えぬと思ったら来客かワフ」
「おのれ怪物、このBランクのモーガン様が退治してくれる!」
モーガンは有無を言わさずサイガに斬りかかろうとするが、鋼のような毛に防がれ刃は届かない。サイガは反射的に、太く筋肉質な腕でモーガンの首を掴むと床に叩きつけた。
「ぐえっ!」
モーガンは背中を強打して、「おごごごごご」と変なうめき声を上げている。
「貴様からは不快な臭いがするワフ」
「あーあ、サイガ手加減しろよ。床が壊れただろ」
「これでもしているワフ」
まぁ確かに、サイガの握力なら首の骨を折っていてもおかしくなかった。
「殺しちゃえば良かったのに。ボクは一向に構わんぞ」
「ZOMAHONの護衛が魔大陸で殺されたら、また悪評が広まるだろうが。マスコミが面白おかしく、魔大陸の凶悪魔物に勇敢なる男殺されるとか見出しつけてな」
「それボク知ってるぞ、情報操作って奴だ」
「崖から足を踏み外したおバカさんということにすれば良いのではないですか?」
事故死に見せかけましょうと恐ろしいことを言い出すエウレカ。
モーガンは胸をおさえながら、ゆっくり立ち上がりサイガを指差した。
「ぐぐぐ、蛮族め。やはり貴様らは討滅されるべき存在だ」
「テメェが先に斬りかかったんだろうが」
「どうやらバカが沸いているようだな。話があったが、また後で来るワフ」
「すまんな」
サイガが退出すると、事務所に険悪なムードが流れる。
そんな最悪の空気の中、ホブロンが入れ違いで戻ってきた。
「失礼しました。戻りましたぞ……どうしました皆さん。恐い顔をして?」
俺たちは集めてきた商品を片付け始める。
「ちょちょちょちょ! どうなされたのですか!?」
「どうって、もう交渉は決裂したんで」
「えぇ!? わたくしがいないのにどうやって交渉が進んだんですか!?」
俺たちは全員でモーガンを指さす。
彼は自分の手柄を誇るように説明する。
「任せてくれ。魔族との商談なんぞ、オレが断っておいた」
「はぁ!?」
「オレが鑑定スキルDで調べたが、ここにあるものみ~んなゴミだ」
「鑑定スキルDは、落ちているものに毒があるかないか調べるだけで、物の価値が判別できるようになるのはCからですぞ!!」
俺たちは白い目でモーガンを見やる。
このオッサンめちゃくちゃ適当言ってんな。
「ユーリさん、上層部と話がつきまして、こちらの商品を輸出していただけるのでしたら、ルート確保だけで1000万B払いたいと思いますぞ」
「「「いっせんまん!?」」」
俺とプラムだけでなく、モーガンのおっさんも驚きの声を上げる。
しかもルート確保だけってのは、ZOMAHONに出品するだけで1000万払うということで、商品の値段は別途支払われる。
「少ないですかな?」
「いや、全く逆で、自分で言うのもなんですが全部ガラクタっぽいですが……」
「ここにあるものの中で、イモを除いて10万以下の商品はありませんぞ」
「「うぇっ!?」」
「わたくしは鑑定スキル特級A価格
「「特級A価格・com!?」」
「はい」
ホブロンが炎の実にふれると、中空に6桁の数字が浮かぶ。
「12万B?」
「はい、わたくしのスキルは帝国流通商品連盟に登録されている5000万件の商品と、今触れている品物を照らし合わせ、瞬時に価格相場を導き出すことができます。この炎の実は、魔術錬金協会魔触媒カテゴリー内に登録されていました。炎エンチャントに使う貴重な触媒のようですね」
半分くらい何言ってるかわからんが、多分触ったものが帝国でいくらで取引されているか瞬時に調べるスキルなのだろう。
「特級すげぇな」
「ねぇねぇボクが掘ってきたこのゴミ……じゃなくて化石はいくらなの?」
「この化石は太古のデーモンの化石で、正直私には値段のつけようがありません。帝国博物館に鑑定を依頼しておきました」
「お、おぉ……」
この穴掘って出てきただけの、よくわからん化石が。
「魔大陸は我々の睨んだ通り宝島でございます。是非この帝国ZOMAHONとご契約を。必ず見返りはご用意いたします」
ホブロンはバンっとテーブルに手と頭を叩きつけた。
それに待ったをかけるモーガン。
「待ちたまえ、Bランクのオレが言わせてもらう。魔族と取引なんて危険すぎるだろう!」
「なぜです?」
ホブロンは心底キョトンとした顔をする。
「我々が戦勝国の人間であり、こいつらは敗戦国の魔族だからだ。きっと我々を妬み、品物に毒を塗り込んだりするぞ」
そんなことするか。
「それに取引をするのであれば、もっと安くで買い叩き利益を出すべきだろう」
「敗戦国から不当な値段で仕入れを行う事は、帝国法で禁止されてますが?」
エウレカが言うと、モーガンは首を振る。
「それはあくまで人間に適応される法であって、魔族には関係ない話。魔族なんて人間の家畜奴隷と同じ。家畜に金を払う人間なんていないだろう?」
我ながら良いことを言ったと、軽やかな笑みを見せるモーガン。
「モーガン殿、弊社の上層部に魔族がいるってご存知ですかな?」
全員で「あ……」と声が漏れそうになった。
クライアントの偉いさんを家畜呼ばわりしたのだ、地雷踏んだどころの話ではない。
「我々ZOMAHONは企業理念として、世界で最もお客様を大事にするを掲げております。それは人間や魔族、別け隔てなくお客様は皆等しく大切にするという意味です、はい」
当然そんな企業が、魔族から商品を安くで買い叩いていたなんて知られたら炎上ものである。
なんとなくだが、俺はこの人を信用しても良いのではないかという気持ちになっていた。
「それとモーガン殿、あなたに頼んだのは護衛だけですぞ。こちらの商談に勝手に口を出して破談にしようとしたことは、ギルド連盟に報告させてもらいますぞ」
ホブロンは人の良さそうな顔から一変し、鋭い視線でモーガンを見やると「雇われのたかが護衛が、何をしゃしゃり出てるんだ」と低い声で告げる。
モーガンは言葉を失い、口をパクパクと開きながら青ざめていた。
こうして鬼ヶ島とZOMAHONとの取引が始まったのだった。
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