第69話 ZOMAHONがやって来た 中編
「すみません話を戻しますぞ。我々は事前にリサーチを行っており、この魔大陸には魔物をまとめる人間が存在することを確認しています。ユーリさん、あなたの素性も」
ホブロンは口ひげをいじりながら、意味深なウインクをこちらに送ってくる。
これは別段小太りの中年オヤジから今晩どう? と誘われているわけではなく、俺が元バトルロードであり、今は犯罪者としてこの地にいることも知ってますよと合図しているのだ。
いちいち説明しないのは、ZOMAHONのような大企業が犯罪者と取引するわけにはいかないから。
だが、黙っていればお互い有益な取引ができますよ、
「つまりZOMAHONさんは、誰もやらないなら今がビジネスチャンスと思い、魔大陸に仕入れをしにやって来たと」
「左様でございます。我が帝国ZOMAHON、虎穴にいらずんば虎子を得ず。お客様と仕入先があるのであれば、魔大陸であろうと向かいますぞ」
「凄い商人根性だ」
「ありがとうございます。つきましてはユーリ様、あなたの裁量で帝国に商品を出品してみませんか? 勿論危険な地での仕入れとなります、お値段は言い値で結構」
「お値段て言ってもなぁ」
「ここでお金なんかもらっても意味ないよ」
プラムの言う通り、金なんか貰っても使いみちがない。
「でしたら卸した品物を全てポイントに変換していただき、弊社通販で使用していただいたらどうでしょうか?」
ホブロンはミカンマークの付いた魔導石版を取り出し、俺達に見せる。
真っ黒の石版に光が灯ると、ZOMAHONが提供している通販掲示板が映し出された。
「うぉ、魔大陸でもZOMAHONに繋がるんだな」
「はい、我々は海上にも魔導電波基地局をもっておりますので」
「すげぇなZOMAHON」
魔大陸の特産物をZOMAHONに卸して、その金でZOMAHONから物を購入する。閉鎖された魔大陸で帝国と物々交換ができるとは。
俺はずらっと並ぶ商品の中で、火の魔法石を見つける。
「これは……」
「火力発電などに使われる業務用火の魔法石です。勿論個人用として暖炉にくべるなどして使うこともできますぞ」
ほーん、それだと次寒波が来た時助かるな。
物だけじゃなくてエネルギーまで売ってるんだな。
「ユーリ、バタークッキーあるぞ、バタークッキー!」
「兄上女性用下着もありますよ」
「作物の種に漁船まで売ってるぞ」
「「もうなんでもあるなここ!」」
ZOMAHONのラインナップに驚かされるが、果たしてこの商品は本当に魔大陸に届くのだろうか?
「これ、どれくらいで届きます?」
「離島ですので配達にはお時間を少しいただくと思いますが、弊社の飛行艇便を使って4日でお届けいたしましょう」
「「4日!?」」
帝国から海隔ててるのに届くのが速すぎる。
「ユーリ出品しよう出品!」
「しかし出品と言っても、何を出していいか」
「なんでも結構ですので、輸出出来そうな商品を教えてもらえないでしょうか? こちらで精査いたしますぞ」
「それなら――」
俺はセシリアの芋、妖狐族の反物、ホルスタウロスのミルク、フレアリザードの鱗、エルフェアリーの果実、モコモンキーの抜けた毛、プラムが穴ほったら出てきた謎の化石などを並べる。
テーブルに並んだ品物を見て、ホブロンは目を丸くする。
「や、やっぱ商品にはならんですかね?」
自分で言うのもなんだが、一部を除いてガラクタ感がすごい。
ホブロンは一つ一つ品物を確かめていくが、眉間にシワが寄っている。
この中で価値がありそうなのはホルスタウロスのミルクくらいで、次点で妖狐族の反物か。
「まずいぞユーリ、ZOMAHONの人めっちゃ微妙な顔してるぞ。なんかアピールしたほうがいいんじゃないか?」
「え~っとミルクなんてどうです、かなり栄養価が高いと思いますが」
「申し訳ありません。生物で
ダメだ、切り札が輸出できないとなるとマジでガラクタしかない。
しかし、ここでこの話はなかったことになるのは勿体なさすぎる。
「じゃじゃあ、この炎の実なんてどうです? これならそんなすぐには腐りません。味は食べると口から火が出ると言いますが、本当に火がでるんですよ」
俺は燃えるような真っ赤な果実をカリっとかじると、口からリアル炎の息を吐いた。
「ぐええぇ熱いぃぃ!!」
当然口の中を火傷してのたうちまわる。
「生でかじると、大変危険です」
プラムがオチをつけると、ZOMAHON担当は冷や汗を流しながら「危険物ですな……武器輸入管理局に目をつけられるやもしれません」と爆弾を見るような目で、炎の実を見やる。
「すみません、上層部と相談しますので少々お待ちいただけますでしょうか?」
「は、はい」
ホブロンは魔導石版を手に事務所を出ると、どこかに
「プラム、ホブロンさんなんの伝話してると思う?」
「危険を犯して魔大陸まで来たけど、ゴミしかないんですけど!」
俺もそんな気がする。向こうは護衛に渡航費用がかかってるんだ、最低限それを賄える商品がないとこの話は流れる。
こりゃどうやって丁寧に断るか考えている説あるぞ。
「ユーリ、バタークッキーは?」
「品物に値段がつかなかったらクッキーも買えねぇよ……」
「むむむ……」
がっくりとうなだれる俺達の様子を見て、腕組みしながら壁にもたれかかっていたモーガンが鼻で笑う。
彼は俺たちが持ってきた商品を見渡すと肩をすくめてみせた。
「Bランクの俺から言わせてもらうと、こんなガラクタ見せられて
「んだテメェ。耳の中にショットガン打ち込んで、頭ザクロみたいにしてやろうか――」
すぐキレる激烈毒饅頭の口をふさぐ。
「悪いがファームにいるのは全員俺の仲間だ。例え100億積まれても誰一人として売らん」
「魔族を守りに入るとは人間の面汚しめ」
「魔族人間の問題じゃない。相手を舐め腐って、本当に商売しに来たのかよ」
「ふん、大体クライアントも魔族相手にへりくだりすぎなのだ。こんなゴミ、全部合わせても100ベスタにしかならんだろう」
「お前は鑑定士じゃないだろう」
「オレは鑑定スキルD持ちだ。ここにあるものみ~んなゴミ、これもゴミ、それもゴミ、ゴミゴミゴミ、お前もゴミ」
モーガンは心底バカにした顔でプラムを指さす。
「ユーリ、止めるなよ。ボクは……」
俺はモーガンの指をひっつかむと、垂直に上に向ける。
指からパキッといい音がなった。
「いでぇ!!? なにすんだ!!」
「なにすんだじゃねぇよ。お前人の家族馬鹿にしてると、さすがに温厚なユーリさんでもキレるぞ」
「おぉ……ユーリが珍しくキレた」
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