第2章 ファームは問題がいっぱい

第64話 ファームは問題がいっぱい Ⅰ

  ベヘモスを退けて数日。

 エルフェアリー族の懸命な治療と、他種族の手伝いもあり、世界樹は枯れ散るという運命をなんとか回避した。

 しかしながら、折られた枝、炎上した木皮、なによりサイクロプスに吸われてしまったエネルギーが復旧するまで数十年の時を要するだろう。

 世界樹の守り人である妖精族の、長い戦いは始まったばかりである……。


「のはずなのだが……」


 我がファーム鬼ヶ島にはナツメの転移門を使って、エルフェアリー族が移民してきており、現在妖狐族、ホルスタウロス族が闊歩している。

 俺は事務所(ただの小屋)から、外の様子を眺めつつ首を傾げていると、エルフェアリー族トップの少女が声をかけてきた。


「なにブサイクな顔してるのよ」

「顔は元々だわ。ってか、帝国にいたときはそこそこイケメンで通ってたっての」

「イケメ……冗談やめてよ、アハハハハ、ゾンビみたいな顔してるくせに」


 腹を抱えて爆笑するリーフィア。こいつは後で泣かそう。


「ってか、なんでお前らはシレっと移民してきてるんだよ。世界樹はどうなってるんだ」

「勿論木の治療は行ってるわよ。でもサイクロプスが大暴れしたせいで、世界樹はもう誰かが住める環境じゃなくなってるの」

「まぁあのへん巨神兵レーザーでグッチャグチャだもんな」

「食料の果実も実らなくなっちゃって、あたしたちは外に出るしかなくなったから」

「それなら世界樹の近くに村を作ればいいだろ」

「あんたね、サイクロプスが体から毒撒き散らしてたの忘れたの? あのへんカビだらけで腐海みたいになってるのよ?」

「マジかよ、瘴気こえぇな」

「だから昼間は世界樹の治療と、その周辺の浄化や植林作業をして、夜はここに戻ってきてるの」

「今昼だが」

「一応あんたにも約束したでしょ。エルフェアリーを助けてくれたら、ファームを手伝うって」

「あぁ、そういやそんなこと言った気がするな。でも、あんなもん別に守ってもらえると思って約束したわけじゃないぞ」

「バカ言わないで、ちゃんと守るわよ。ここに住ませてもらうからにはファームもちゃんとやる。二度とエルフェアリー族が、傲慢な種族って言われないようにね」


 こいつ見た目は軽そうで性格も悪いのだが、爆乳で律儀なところには好感が持てる。


「ユーリ、飯だぞ。残さず食えよ」


 頭に木製のトレイと食事を乗せた水饅頭、ではなくプラムが、独房の看守みたいなことを言いながら事務所にやってきた。


「おっ、そこ置いてくれ」

「うむ」

「今日の昼はなんだ?」

「今日はな、芋の水煮に、芋ご飯、なんか乾燥したキモい小魚と、ふかし芋一個だ」

「圧倒的芋率。ほぼ芋じゃん」

「しょうがないだろ。ファームに一気に魔族が増えちゃったんだから。備蓄が一瞬で無くなって、今は米と芋と豆しかない」


 リーフィアは皿の上のふかし芋をひょいと奪うと、パクパク食べはじめた。


「芋だけって貧乏くさくて嫌ね」

「人口爆発の元凶種族がよく言うな」

「雷の実なら山程あるけど食べる?」

「プラムが食って電撃属性がついた奴だな。あれ口の中がビリビリ痺れるからいらん」

「ユーリ、あれ意外と癖になる味してるぞ。シゲキックスって感じだ」

「あれ食って美味いって言ってるのお前だけだからな、悪食娘。リーフィア、他になんか食い物ないか?」

「他には炎の実と氷の実があるわよ。食べたら火傷したり凍傷になって舌千切れたりするけど」

「もうほぼ武器じゃねぇか。あの美味かった桃みたいな奴はどうなった?」

「燃えた」


 くそ、ピンポイントでなぜそれだけ……。


「一応あの木をファームに植林してるから」

「それまた収穫できるようになるのか?」

「わかんない。収穫できたとしても3年ぐらいかかるかもだけど」


 果樹園ができるまで気の長い話だ。


「そういやユーリ、ナッちゃんが備蓄なくなるから農林水産大臣なんとかしナンシーって言ってた」

「誰だ農林水産大臣って?」

「ユーリ」

「あいつ大臣の肩書、全部俺に乗せるつもりじゃないだろうな」


 ただの魔物使いに食糧問題を解決させようとするんじゃないよ。

 そんなことを思いながらパサついた芋飯を食う。



 午後からプラムと一緒に外へと出て、食糧問題を解決するため、まずファームの食料自給率を調べることにする。


「うぉ、さぶっ」

「なんか寒波が来るんだって。ホムホムが言ってた」

「あぁそうか森島の北に雪島と砂島があるからな。風が吹く方角で熱波と寒波が来るんだな」

「そうそう、ヘンセー? ヘントー? ヘンナン? なんかそんな風が吹くんだって」

「どれぐらい寒くなるって言ってた?」

「寒いときはマイナス30度くらい」

「マジかよ、極寒じゃねぇか」

「でも早ければ1日、遅くても3日くらいで過ぎるって」

「マイナス30度の寒波に3日居座られたら、森島の魔族1割くらい死ぬぞ」


 特に昆虫種は死活問題だろう。

 なんとか寒さ対策をして、その間の食料も用意しておかないと。


 俺たちがまず向かったのは、ファームの農園。

 そこには畑のうねに向かって、念を送っているセシリアの姿があった。


「むむむ、のびろ~のびろ~、ついでにわたしの身長ものびろ~」


 セシリアは恐らく成長魔法グローアップを使っているのだろう。

 茶色い土からぴょこっと双葉の芽が伸びる。更に彼女は頭の上で手を合わせ、小さな体を何度も屈伸させる。


「お~きくな~れ、お~きくな~れ♪ わたしの身長もおっきくな~れ♪」


 コンプレックスが含まれた呪文と共に、小さな芽はみるみるうちにツタが伸び、ポンポンと紫の果実を実らせる。

 まぁ成長した作物は全部芋なんだが。


「ふぅ、お仕事完了です。ミッションコンプリート」

「凄いなセシリア」

「あっ、ダンチョー」

「団長?」

「あれ、獣王師団長になったって聞きましたけど?」

「一応聞くけど、俺の顔見て獣王師団長と思う?」

「思いませんね。アンデッド師団のザコって感じです」


 ザコは余計だろザコは。

 まぁ俺の呼び方なんてなんでもいいけどな。


「なぁセシリア、芋以外に作物の成長を早くできないか?」

「枝豆ならできますよ」

「豆か……他には?」

「カイワレとか長ネギとかいけます!」


 腹にたまらん奴ばっかりだな。

 多分、成長速度が速いやつならいけるってことだろう。


「他にないか他に」

「あとは玉ねぎとか……」

「お前ネギ好きだな。ネギの妖精かよ」

「わたしのグローアップは、元々お花を咲かせる用の魔法で、作物用じゃないんですよ!」

「そりゃそうだな。無理言ってすまん」

「でも……なにか甘くて美味しい食べ物があったら、わたしもうちょっと大きい野菜でも成長させられるかもしれません(チラッ」


 ぐっ、こいつ報酬を要求してきてるな。

 いやしかし、魔物使いとして頑張った子に褒美をやるのは重要なことだ。


「わかった。なんとか用意する」

「ほんとですか!? さすがダンチョーですね!」


 ウキウキしているセシリアの為にも、何か甘いものを用意しよう。

 ウチは女の子が多いから、甘いものは何かと喜ばれるだろうし。

 セシリアを甘やかしていると、妬いたプラムがグルグルと俺の足にまとわりついてくる。


「ユーリ、ユーリ、ボクも甘いものほしいぞ!」

「慌てなくても手に入ったらやるって。またバタークッキーみたいなの食いてぇな」

「うむ。帝国のおやつ美味しかったな」


 プラムを頭に乗せ、次に向かったのは牛舎。

 本来ホルスタウロスたちがのびのびするための施設なのだが、彼女たちは牧草地に出て洗濯物を干していた。

 妖狐族やエルフェアリー族の服、牛柄のビキニが風になびいている。

 その中でバニラの母クリムが俺たちに気づき、爆乳を揺らしながらこちらに走ってきた。


「ユーリさ~ん」

「クリム」


 俺の目が揺れる胸に合わせて上下していると、彼女はがばっと抱きついてきた。

 ムニンと潰れる深い胸の谷間に顔を押し付けられ、窒息しそう。


「うっぷ」

「あなたのおかげで森島は助かりました。本当にありがとうございます」

「そう言ってくれるのはクリムだけだよ」

「そんな、あなたたちはベヘモスを追い出してくれた英雄なんですよ? ホルスタウロス族は皆あなたに感謝しています」


 集まってくるおっとりホルスタウロス達。

 爆乳ファームここにありと言いたくなるほど絶景だ。


「ボクもやったぞ!」

「プラムちゃんも頑張ってたの見てたわ。ナツメさんが遠見の魔法で、あなた達の戦いを見せてくれてたの」

「頑張ったね」

「凄いわ」

「いい子ね」


 プラムは、人妻感(☓)母性(◯)あふれるホルスタウロスに抱かれると、胸の上で撫でられる。

 凄い、球体がいっぱいあってどれがプラムかわからない。


「あの話があるんだが、実は食料供給量をあげたいと思ってるんだ。ホルスタウロスのミルクってもっと増やせる?」

「そうですね、やはり体格によって出せる量は決まっていますし、今の食事では限界が……」

「飯に関してはほんとすまん」


 そりゃ三食芋と豆で、高級ミルク出せってのはムシが良すぎだろう。


「あっ、でも簡単に増やす方法があります」

「なんだ? 何かいるものがあったら言ってくれ」


 そう言うとクリムは頬を紅潮させ、自身の指を咥える。


「あの……種付けをしていただけると、多分今の3倍は確保できますが(チラッ」

「プラム、ここは精一杯稼働している。次に行くぞ」


 俺はホルスタウロスのおっぱいをかき分けてプラムを引っ張り出すと、次の施設へと向かう。


「ママなんて言ってたの?」

「ミルク出すには栄養がいるって」


 とても妊娠したら増える本当のことは言えなかった。


「なんかご飯を増やすには、ご飯がいるって話になってきたね」

「そうだな。セシリアの件もそうだし」


 ウチのファームだけで解決するのは難しいかもしれない。

 




――――――

ショートストーリー多めで再開したいと思います。

早速ギフト投げつけてくれた人ありがとうございます。

ありがたく顔面キャッチさせていただきます。

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