第61話 もおおおおおおおお!!
リーフィアたちと合流した俺達は、サイクロプスと一進一退の戦いを繰り広げていた。
いや、見栄を張ったが正確には一進二退……三退くらいだ。
パワーアップした巨人は、背中から生えた木の触手を自分の腕のように扱い、航空部隊のキラービー、エルフェアリー族をはたき落とす。
地上部隊が触手をかいくぐって膝を攻撃するも、奴の毛穴から出る毒ガスによって追い返されてしまう。
その上奴の傷が回復し、俺たちが膝につけた傷もみるみるうちに完治してしまった。
「ユーリ、あいつくっさいし自己再生してるし最悪だぞ!」
「超回復だ。木や土属性のモンスターはわりとよくこの能力を持ってる」
ただ普通の自己再生はじんわり回復してくるのだが、奴のは桁違いで、攻撃したそばから回復していく。
恐らくこれも世界樹から得た能力なのだろう。
本来こういう耐久系モンスターってのは、回復仕切る前にゴリ押しで倒すってのがセオリーだが、サイクロプスの体力はほぼ無尽蔵で、一気に倒し切るのは不可能と言っていい。
「ギャン!」
「クケッ!」
俺たちの隣に、近づくことすらできなかったホムラと灼熱丸が吹っ飛んできた。
「大丈夫か!?」
彼女たちに駆け寄ろうとすると、キュンと軽い音とともに、奴の単眼からレーザーが発射される。
爆炎が森を焼き、熱い風が俺たちの頬を撫でる。
肉の焦げる嫌な臭いがして、また数十へたすりゃ数百この島に住む生物が死んだ。
「あぁ、もう終わりです終わりなんです! この島はあの巨人に焦土にされるんです! そして可愛いすぎるわたしは、敵の性奴隷にされてしまうんです!」
相変わらず厚かましい
やめろハゲたらどうするつもりだ。
「セシリア、お前……いたのか?」
「いましたよ、失礼なこと言わないで下さい! さっきリーフィアさんたちと一緒に降りてきたでしょ!」
「いつもうるせぇから、おとなしいと途端に存在感消えるな」
「わたしがキャラ作りで口数多いと思ってるんですか! 許せません!」
ブチブチと俺の髪を引き抜く抜け毛の妖精。
「今なら妖精族を裏切った族長の気持ちがわかっちゃいます。あんなどこぞの研究所から逃げ出して来たような生体兵器、倒せっこありません」
俺の頭の上で「もう世界は終わりや、みんな殺されるんや」と泣きわめくセシリア。
俺はこの士気を下げるだけの駄妖精に、鎖が繋がっていることに気づく。
その鎖の先を見やると、エウレカに繋がっている。
「お前鎖が繋がってるな」
「さっき族長と戦ってきましたから。華麗に倒してきたわたしを褒めてくれていいですよ?」
「よくやった」
俺は駄妖精を無視して、エウレカを撫でる。
「いや、あのすみません。自分は鎖を繋いでただけで、みなさんが倒してくれただけですので」
「このエルフェアリーたちに生えてる翼はお前の能力だろ? その力を行使して、敵を倒すことができたなら立派なテイマーだ」
「テイマー……そんな……兄上が勇気をくれたから」
「もおおおおおおおお! イチャイチャしないで下さい!!」
エウレカを褒めているとキレだすセシリア。この感覚、飼い犬を撫でている最中、別の犬を撫でるとキレるのと似ている。
「わたしのことをないがしろにすると、不思議な魔法で毛根を死滅させますよ!」
「お前やっぱりハゲの妖精じゃないのか」
こいつとくだらない事やってる場合じゃない。
「あれ、そういやお前巨大化してないのか?」
確かエウレカの鎖特性は、飛行能力付与と巨大化のはず。
「えっ? あぁなんかいっぺんにたくさん鎖を繋ぐと、巨大化しないみたいですよ」
「能力を分配しすぎると、特性が消えるのか」
本来はデメリットだが、エウレカの巨大化能力に関しては消えてくれる方が良いだろう。
「……そうか、ならまた一人に絞れば巨大化するわけだな(チラッ」
俺の視線に気づいたセシリアが、両腕を掲げて怒り出す。
「今わたしを巨大化させて、サイクロプスと戦わせたらいいんじゃないかって顔してましたよね!? 絶対嫌ですよ、わたし花の妖精ですよ! なんで巨大化して化け物とファイトしなきゃいけないんですか!」
「いや、わかってるって。エウレカの能力で巨大化すると言っても精々10メイルから20メイル程度。敵の10分の1のサイズになってもあまり意味がない」
むしろ蹴り飛ばしやすくなるだけだろう。
「だけど巨大化して、お前のフラッシュを使ったら奴の弱点を潰せるんじゃないかと思ったんだ」
「弱点って、あのキモい目ですか?」
「そうだ。お前のフラッシュは今の手のひらサイズでもかなり強烈だ。それが10倍の大きさで発光したら、凄まじい武器になると思う」
戦闘能力皆無なセシリアが持つ、唯一のウェポンスキルフラッシュ。
強烈な閃光で相手の網膜を焼く。例えあのサイクロプスでも有効だろう。
だが、嫌がっている相手にそんな命令を出してはいけない。
それは魔獣使いの基本だ。ただ可哀想だからしないというわけではなく、拒否反応を示している命令は単純に成功率が低い。
まして戦闘慣れしていないセシリアだ、サイクロプスが襲ってきたらパニックを起こしてしまう可能性もある。
「リーフィア、お前確かエルフェアリー族の婆さんから指輪もらってたよな?」
「えぇ、光の指輪でしょ。これが何か?」
俺は白く煌めく指輪を受け取る。
指輪には、高純度の光属性魔力が内包されている。
「あんた何する気?」
リーフィアは俺の企みに気づき、鋭い視線をこちらに向ける。
「この指輪を奴の頭まで運んで光らせる」
「毒ガスはどうする気よ?」
「耐える」
「無理よ。あれを吸い込んだら、1分足らずで人間の肺は焼けるわ」
彼女の言う通り、菌や腐敗、不純物が肺を汚染し、あっという間に壊死を起こすだろう。瘴気とは元々そういうものである。
「モヒカンがつけてたガスマスクをつけていく」
「あんなの役に立つわけないでしょ!」
「エウレカ、奴の目がくらんだら総攻撃を頼む。恐らく数10秒は完全に動きが止まるはずだ。できるだけフォレトスを狙うんだぞ」
「兄上は……」
「その時俺は動けなくなっている可能性が高い」
恐らく瘴気で皮膚は焼け爛れ、眼球は破裂し、呼吸もできなくなっているだろう。
「付き合おう。足が必要だろう」
ワフと俺の隣に立つ人狼族のサイガ。
「いいのか、呼吸器が強い人狼は多分人間より早く死ぬぞ」
「あのようなデカブツ、もとより犠牲なしで倒せるとは思っていないワフ」
俺はモヒカンのマスクを身につけると、サイガの背に乗る。
それに続いてプラムもピョンと飛び乗る。
「ボクを止めても無駄だぞ」
ふんすとスライムなのに、石のように固い意思のプラム。
「止めねぇよ。呼吸器のないお前が、恐らく一番長持ちする。俺が先に死んだら頼むぞ」
「うむ、手ないけど頑張って指輪使うわ」
「エウレカ、お前はサイクロプスを倒せたら国に帰れ。ホムラ、ナツメにすまんかったって言っておいてくれ。バニラ母ちゃんを大事にな。リーフィア、今度は森島の仲間をないがしろにせず、皆で島を再建させるんだぞ」
よし、言いたいことはこんなもんか。
「もおおおおおおおおおお!! やればいいんでしょやれば!!」
俺たちが死地に向かおうとすると、突然ブチギレるセシリア。
「無理しなくていいぞ。これは別にお前が可哀想だからって理由でやってるわけじゃなくて、絶対成功させなきゃいけないから俺が行くだけで」
「その作戦成功しても、絶対誰か死ぬじゃないですかああああああ!!」
「まぁまぁ治癒魔法があるからな。ワンチャン助かる」
「助かりませんよおおおおお! 治癒術って手遅れだと意味ないって知ってますよねええええ!?」
「いや、まぁそうなんだが……」
「わたしが勇気を出せばいいんですよね、出せば良いんでしょ!?」
「そんなキレんでも」
「キレますよ! 目の前でそんな死んだ後の指示なんか出されたら後味悪いでしょおおおおお! そんな……悲しいこと言われたら!」
セシリアは怒りながら目尻に涙をためていた。
「あなたは魔物使いですよね! それならわたしに勇気が出る一言をください!」
サイクロプスに立ち向かう勇気が出る一言か……。
「セシリア……これで勝つと美味しいぞ。多分皆お前を見直して、チヤホヤしてくれる。なんなら働かなくてもよくなるかもしれん」
「えっ……それは魅力的……じゃなくて! もっとこう言ってほしい言葉があるんですよ!」
わかるでしょ!? と付き合って三年目の彼女みたいなことを言うセシリア。
「頑張れ、お前ならできる。俺はお前を信じてる」
わりかし本心でそう言った。
すると目の前をフワフワ飛んでいた妖精は、パチンと指を鳴らし声を弾ませた。
「そうそれ! それがほしかったんです! その指輪貸して下さい」
セシリアは俺から光の指輪を奪うと、魔石のエネルギーを吸収していく。
魔力を失った指輪は光を失い、石灰色になっていた。
「ゲプ、さぁこれでわたしがやるしかなくなりました」
「おぉ、セッシー魔力全部食ったぞ」
「自分を追い込むやっちゃな」
「これが成功したらちゃんと褒めてもらいますからね!」
「わかってる、全力で褒めて甘やかしてやるよ」
さてそうなると、俺たちは全力で覚悟決めたセシリアを守らなければならない。
できることなら巨大化していることに気づかれず、こっそりと事を進めたい。
そのためには敵の注意を引き、尚且光を遮断されないように触手のガードも外す。
「フォレトスには、俺達が捨て身で攻撃を仕掛けてきたと思わせたいな」
「バカのふりするってことだな。ボクは得意だぞ」
「お前は元からバカだからな。リアルさが違う」
プラムが俺の腹に体当たりしてくる。冗談ですやん。
「兄上、それなんですがお話が……」
「……なに? 本当か」
「はい……ってか、相手木ですから」
そりゃ言われてみれば確かに。目からレーザー出すから大丈夫だと思ってたが、盲点だった。
◇
俺は灼熱丸に魔力を注ぎ込んで、人が乗れるほどの大きさにまで進化を促す。
頭の上にプラム、後ろにはホムラを乗せる。
「よし、お前ら火炎放射器は持ったな! 行くぞ!!」
「「「「おーー!!」」」」
俺と灼熱丸を先頭にして、火炎放射器と肩パッドを装備した魔族たちがサイクロプスに最後の攻撃をしかける。
エウレカに教えてもらったサイクロプスの弱点。それは火だった。
「ユーリ、皆にモヒカンの火炎放射器もたせたけど、ほんとに火が効くのか?」
「多分効く。エウレカが見ていて、サイクロプスは明らかに灼熱丸とホムラを警戒していた。奴は世界樹の木属性の能力を得たのはいいが、弱点の火属性も追加されちまったんだよ」
「でもウチらの炎じゃ、さすがにあんなでかい木の触手なんか燃やせへんで?」
「いや、いるだけでいい。それだけで奴はガスが使いにくくなる」
「なんでなん?」
「瘴気って目に見えない塵とか菌みたいな毒性物質が含まれてるんだが、その中には可燃物質がかなりの量含まれている」
「ってことは?」
「ガスに火を当てると爆発する。まぁ勿論、その程度サイクロプスはなんともないだろうが、サイクロプスに乗ってる
「なるほどな。こうかはばつぐんだってやつだな」
「せやったら、思いっきり嫌がらせしたるわ」
ホムラと灼熱丸はサイクロプスに炎を浴びせる。するとガスの放出は止まり、木の触手は火を恐れて怯む。
「うぉぉぉぉ行け行け行け行け!!」
「汚物は消毒だ!!」
モヒカン化した俺達は、津波のごとくサイクロプスに突撃していく。
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