第55話 ドキーン
俺達は世界樹から飛び降りると、再びフォレトス、ダイナモと対峙する。
「待ちやがれ、そのコントローラーを渡せ!」
「しつこい奴だ。ダイナモ」
フォレトスに促されて前に出たのは、筋骨隆々の岩石男。
身長は2メートルをゆうに超え、両腕が以上に発達しており、前傾姿勢でゴリラのように手を地面についている。
その眼光は無機質で、生気をまるで感じない。こいつほんとに何者だ?
「お前に用はないんだよ!」
「そうだぞゴリさん。大人しく動物園行け!」
「フン」
ダイナモは両手で大地を叩くと、突然地中から岩が勢いよく隆起する。針山のように飛び出た岩を俺達は横っ飛びでかわす。
「あっぶね! ユーリあいつ土属性だぞ!」
「大地のドラムだ。地面に魔力を帯びた衝撃波を送り込んで、土精霊を怒らせ地裂隆起を引き起こす」
「ちょっと待ちぃや、なんであいつ当たり前のように魔法使ってんの! この辺は魔蝕草があって魔法使えへんはずやろ!?」
俺はホムラの言葉に首を振る。
「見ろ」
周囲を見渡すと、土は紫に、木々や植物は茶色くなり萎れ枯れ果てている。
「うぉ、土が毒沼みたいになっとる。毒ダメ受けそう」
プラムは「わわわ」と、紫の地面から逃げるように俺の頭に乗っかる。
「サイクロプスが世界樹のエネルギーだけでなく、世界樹の根を介して森島の大地のエネルギーも吸い上げてるんだ」
「いつもは森島にエネルギーを送ってるけど、逆のことがおきてるってことかいな?」
「そういうことだ」
「むむむ、そのせいで魔蝕草も全部枯れちゃったのか。ボクらからするとラッキーだな」
「喜んでる場合か、このままだと森島は死の大地になるぞ」
「せやで! バニラちゃん一緒に仕掛けるで!」
「モォ!」
武器を構えたホムラとバニラが、勢いよくダイナモに向かって突進していく。
「あんたなんか刻んだる!」
ホムラが地面から刀を切り上げ、神速九連斬りを見せるが、ダイナモの体に火花が散っただけで傷一つつかない。
間髪入れずバニラが風の斧を振り下ろすも、奴は刀身を素手で鷲掴みしてしまう。
「フン!」
「もぉ~~~~!」
「キャアァッ!!」
鼻息と共に掴んだ斧が放り投げられると、バニラはホムラを巻き込んで後ろにふっ飛ばされてしまった。
嘘だろ、その子パワーだけは森島でもピカイチなんだぞ。
「モモモモォ……」
ピヨピヨと頭にヒヨコを飛ばしながら目を回すバニラ。
「ホムラの攻撃を凌ぐ防御力。バニラを超える怪力かよ」
「ユーリ、ここは物理耐性があるボクに任せろ! かかってこいやダボが! ミンチにしてやんよ!!」
プラムはピューッと突っ込んでいくも、ダイナモのストレートパンチで粉々に砕かれてしまった。
すぐにバラバラになった水塊が集まって、元のプラムの体に戻る。
「痛い」
「ミンチにされたのはお前だったな」
「むぎぎぎ、許せん。もう一回だ」
「よせ、無闇に突っ込んでもやられに行くだけだ」
なにか切り口を変えないと。これじゃ石を素手でぶん殴ってるようなものだ。
「ダイナモ、アースアーマーだ!」
フォレトスが命令を出すと、ダイナモ周囲の岩石が浮かび上がり、ガチガチと音をたてて体に張り付いていく。
ただでさえ防御力の高いダイナモは、岩の鎧を身にまとって俺達と対峙した。
「動く石像じゃねぇか」
「石王ダイナモ。コイツにはちんけな魔法や攻撃は通じねぇぜ」
「はったりや、ウチの炎で鎧なんか着てられんくしたるわ! 行くで狐火!」
血の気の多いホムラが術を唱え、指先から炎の渦を放出する。
紅蓮に飲まれたダイナモだったが、灼熱の中ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。
「ホムホム、ノーダメだぞ」
「んなアホな、石は無事でも中身は蒸し焼きになるはずやのにぃ!」
その通り、あの火力で熱せられたら、普通鎧の中の人間は石焼き肉になるはずだ。
これはタフや我慢強いなんて言葉で片付けられるものじゃない。
「今度はボクがやってやるぞ! 水マグナム!」
「待てプラム、魔力を回す一撃で貫通させろ!」
「がってんだ!」
俺はプラムに鎖を繋ぎ、石の装甲をぶち抜けるぐらいの魔力を送り込む。
「水マグナム発射!」
プラムのいつもどおりなめた顔( ゚3 ゚)から発射される
拳大にあいた胸部の穴から、背後のフォレトスが見える。
「どうだ見たか! あれ?」
俺とプラムは「ん?」と首をかしげる。
確かに胸に穴があいているはなずなのに、流血もせず「なにかしたか?」と言わんばかりに立つダイナモ。
「ククク、ダイナモお返ししてやれ。パンツァータックル!」
フォレトスの命令で、ダイナモは肩を突き出し猛牛のような突進を見せる。
重い石の鎧を纏ってるとは思えない速度で大地を駆け、俺達を蹴散らしていく。
「うぉあっ!? なんであいつ心臓に穴開いてんのに走り回ってんのさ!?」
「奴は人間じゃない!」
ようやく気づいたかと、ダイナモがゆらりと俺を見やる。
そもそも300メイルを超える世界樹から飛び降りて、無傷という時点で人間か疑わしかった。
プラムに撃ち抜かれても死なず、ホムラの炎でも焼けず、バニラを超える怪力をもつ人間離れした能力。
そりゃそうだ人間じゃないのだから。
「お前……人型のゴーレムだな?」
「…………」
「ククク、よく見破ったな。そいつは俺が作り出した土人形に、土精霊をぶちこんだゴーレムだ。なかなか体と精霊の相性が良くて、歴代のゴーレムの中では最高傑作だぜ。だが、それがわかったところで何がかわる?」
その通り、逆に奴には人体の急所がなく、人間が耐えられない炎も耐えられることがわかっただけだ。
ぶち開けた穴には岩石が張り付き、元通り何もなかったかのようにふさがってしまった。
バニラはパワー負けし、ホムラの炎は効果が薄く、プラムの水弾、アシッド弾も岩の装甲に弾かれてしまう。
「さぁ、早くしねぇとサイクロプスが島の生命力全て吸い上げちまうぞ?」
勝ち誇った顔をするフォレトス。事実サイクロプスの体は150メイルを超え、200メイル近くになっている。
このままでは世界樹の身長を追い抜かすのも時間の問題だろう。
「あんた早くウチに鎖つなぎ! 十刀流で切り刻んだる!」
「ボクに繋ぐんだ! ボクのフルパワー水マグナムでふっ飛ばしてやる!」
「モォ! (ぱわーにはぱわー、くさりちょうだい)」
「待てお前ら、安直に鎖に頼るな! 奴は土属性版
「ククク、なら温存したまま轢き殺されろ! ダイナモパンツァータックル!」
凄まじい突進で、俺達は再び吹き飛ばされていく。
「ロックハンマー!!」
「「うぁぁぁぁ!!」」
ダイナモは岩塊のような腕を地面に叩きつけると、衝撃波で地中の岩石を吹き飛ばしてくる。
「ユーリなんとかしろぉ!!」
「このままやと皆やられてしまうで!」
考えろ、不死身のゴーレムをぶっ壊す方法を、奴の死角を。
俺はプラム、ホムラ、バニラを見てはっとする。
「水、火、土……3人共、デルタアタックだ!」
「「「デルタアタック!?」」」
「って何?」
当たり前だが全員首を傾げる。
「岩はな……叩くと割れる」
「何当たり前のこと言うてるんアホなん?」
「いいから、俺の言うとおりにするんだ。プラム今のうちに
「ダブル? いいけど」
俺は作戦を伝えると、全員がダイナモを中央にして三角形のフォーメーションを組む。
「行くで狐火!!」
ホムラの火炎術がダイナモを包む。
「次プラムちゃん」
「水流放射!! ブビー!」
石が赤熱してきた頃炎を止めると、今度はプラムが汚い音と共に、水を大量に吐き出しダイナモに水流を浴びせかける。
ジュワッと白い煙が上がり、赤くなった石鎧が急速に冷却される。
「フハハハ、デルタアタックって燃やして冷やして物理で攻撃ってことか? 冷やしたら意味ないだろ」
「狐火!」
フォレトスの予想は外れ、バニラは待機したままホムラの炎が再び放射される。
「水流放射!!」
「狐火!」
「水流放射!!」
「狐火!」
「水流放射!!」
「狐火!」
炎と水が何度も何度も交代で石の鎧に浴びせられる。
「水流放射!!」
プラムの水が浴びせられた時、俺はダイナモの石の鎧からピシっと音が鳴ったのを見逃さなかった。
「お前……さては熱膨張と冷却収縮を繰り返して、ダイナモの鎧を砕こうとしてるな?」
「ドキーン! ななな、そんなわけないだろ!」
「ククク、無駄無駄甘いんだよ。ダイナモ鎧を入れ替えろ!」
フォレトスの命令で、ダイナモはヒビの入った石鎧を脱ぎ捨てると、すぐに新たな石鎧を身にまとった。
さっきよりも重装甲な石鎧は、至るところからトゲが突き出ており、タックルの攻撃力が増している。
「これで新品だ。無駄な攻撃ご苦労さん」
「ぐぬぬぬ」
「ダイナモ、パンツァータックルで決めろ!!」
ダイナモはトゲのついた肩を突き出して、俺達に向かって突進してくる。
が、
「甘いのはテメェだよ」
ダイナモはズボッ!とぬかるんだ地面にはまると、腰まで一気に土の中に沈下する。
「なっ、落とし穴だと!? いつのまにそんなもんが!?」
「プラム」
俺が呼ぶと、土の中から分裂したもう一体のプラムが姿を現す。
原理は簡単。ホムラとプラム(本体)が火と水を浴びせている隙に、プラム(分身)が土の中に潜り、表面はそのままに見せながら中の土を液化させ泥沼を作る。
落とし穴方向に俺達が移動すると、タックル攻撃の時に液化した地面を踏み抜き泥沼にズボッというわけだ。
「作戦がバレてドキーンなんか言うわけ無いだろうが!」
「ぐっ、火と水は落とし穴のフェイクか!?」
「いんや、奴にはもっと重量を重ねてほしかったから着ていた石の鎧をボロボロにした。予想通りお前は俺の思惑に気づいて、ヒビの入った鎧を脱ぐように命令し、更に重い石の鎧を身にまとった。そりゃそうだ、今度は熱膨張と冷却収縮で割れないくらい分厚い石鎧を纏う」
だからこそ奴は自重で外に出ることができない。
ダイナモの体は、身動きすればするほど泥沼の中に沈んでいく。
「バニラ!」
「モォ!」
俺が叫ぶと、バニラは液化した土の中にはまったダイナモに斧を構える。
鎖を繋ぎ、最大パワーが出せるように魔力を送り込む。
「ゴーレムは核を割らないと何度でも復活する。一気にかち割れ!」
「モォ!!」
バニラはギリギリと力を溜め、大上段に振りかぶった大斧を振り下ろす。最大火力の物理攻撃は、ダイナモの頭から股にかけてを真っ二つに割る。
「ぐぉぉぉ!!」
ダイナモの死体はただの石に戻り、液化した土の中に、半分に割れたゴーレムの魔核が浮かんでいる。
これで復活することはできないだろう。
「ゴーレムのパワーに任せ、相手の属性、地形把握を見誤ったお前の負けだ」
「おぉ凄い、ユーリがIQ3000の魔物使いに見える」
「そんなに褒めるな」
天才過ぎてすまんな。
「アホのくせに作戦が刺さるとすぐイキるんやから」
呆れるホムラ。
「さぁチェックだ悪党、そのコントローラーを渡して森島から出ていけ」
悪王を追い詰め、俺達は手をのばす。
「あーあ、ダイナモもやられちまったか。まっ、時間稼ぎにはなったな」
右腕であるダイナモがやられても、この玩具壊れちゃった程度の反応をするフォレトス。
「でもまぁ俺には新しい玩具があるからな。なぁサイクロプス」
奴は持っていたコントローラーを操作すると、世界樹のエネルギーを吸っていたサイクロプスがズンと音を立てて地面に落着する。
立っていられない揺れに、俺達は膝をつく。
200メイルを超える真っ黒な体躯に、肩や頭から伸びたツノ。
森島全てを破壊しそうな黒鬼は、豆粒程度の俺達を真っ赤な一つ目で見下ろす。
「ユーリ、さすがにドラゴンでも倒すボクだけど、これは無理なんじゃない? プチっていかれて終わりだよプチって」
「俺もそう思う」
敵は完全に怪獣大戦争の登場キャラである。
奴が歩くだけで俺達は死ぬ。
「少し早いが、続きのエネルギーはお前らをぶち殺した後に吸わせてもらうぜ。薙ぎ払えサイクロプス!」
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