第48話 悪食
「なんだテメーら、どっから入ってきたんだ!?」
「正面からだよ!」
俺たちは困惑するモヒカンを蹴り飛ばし、螺旋状の大階段を駆け上がっていく。
「うぉー走れ走れ走れ~!」
ボインボインと俺の隣を三段抜かしで飛び跳ねていくプラム。
「兄上、わたしいつまでこのお米様状態なのでしょうか!?」
「この階段を全力ダッシュで蹴躓かず走れるなら下ろす!」
「ご不便かけますが、このまま担いでいってください!」
音速で自走を諦めたエウレカ。俺は彼女を肩に担いだ人さらいスタイルで、ダダダダと階段を登っていく。
「リーフィア、これどういう構造になってるんだ!?」
「世界樹は全部で4層構造になってて、第1層の根の部分は居住区。このまま階段を上がっていくと物資を貯めておく保管庫がある第2層。それを超えると、幹の外に出て食料のある
「玉座なんて、ますますバカが好みそうな場所じゃねぇか」
間違いない。フォレトスは一番上の玉座にいる。
一気に駆け上がりたいところではあるが、天まで伸びてるんじゃないかと思う階段を見て、俺達はげんなりする。
「てか何段あるんだよこの階段! もう1000段くらい登ったぞ!」
「ちゃんと数えたことないけど、最上層まで1万くらいあるらしいわよ」
「「「1万!?」」」
いや世界樹の全長が350メイルはあるだろうから、それくらいあっても不思議ではないが。
「そんなのいっちゃん上までいったら、ウチらゲボ吐いて動けんくなるで!」
「欠陥構造だろ、なんか一気に上まであがる方法ないのかよ!?」
「いつもは空飛んでるから階段使う奴なんかいないのよ!」
そりゃそうか。なんの為にエルフェアリーに羽ついてんだって話だな。
「待て、侵入者!」
そんな話をしていると、下からモヒカン達が追いかけてくる。
「侵入者はあんたらでしょうが!」
ファッ○ューと凸指をたてるリーフィア。
ズドドドドと凄い足音がすると思ったら、あいつらロードランナーに乗って追いかけてきている。
「きったねぇ! 建物の中で乗り物に乗るなよ!」
当たり前だが、ロードランナーと人の足では圧倒的な差がありグングン距離が縮まっていく。
「モゥ!」
「任せろって? ここに来てバニラの頼れる感が凄いな!」
バニラは大斧を大上段に振りかぶると、渾身の力で階段を叩き割った。
ドカーンと足場がぶっ壊され、バラバラと木造の階段が崩れ落ちていく。
危うく俺たちも落ちるところだったが、慌てて上の階段に飛び移る。
「ちょっと待ってバニラちゃん!? 何やってんの!? 反抗期なのかなぁ!?」
「モォ?」
「モォじゃなくて!?」
「でも見てください、後ろのモヒカン達追いかけてこれませんよ!」
セシリアは階段がぶち壊され、立ち往生しているモヒカンを指差す。
奴らは申し訳無さ程度にボーガンを撃ったり、手斧をこちらに投げつけるしか出来ず地団駄を踏んでいる。
中にはロードランナーの勢いに任せて、ジャンプで飛び移ろうとするが、失敗して落下していく者もいる。
「ナイスバニラ、信じてた」
「ユーリの手のひら返しがえぐい。反抗期なのかなぁ!? って叫んでたくせに」
「リーフィア、ここ以外に上の層に上がってこられる階段あるのか?」
「ないわよ、魔法使って飛ばないと足で上がれる場所はここだけ」
「ってことは、大階段をぶっ壊していけば、敵を下の階層に閉じ込めることができるってわけだな」
「それどうやって降りるつもりなん?」
「それは上あがってから考えよう」
後ろを確認していると、プラムが大声で叫ぶ。
「ユーリ、前からも来たぞ!」
視線を戻すと、片手斧を振りかぶったモヒカン数人が「なにしとんじゃワレ!!」と叫びながら階段を降りてくる。
「2層の奴らが降りてきたな。強行突破する! プラム、水
「ブッ!」
俺は即座にバニラからプラムに鎖を繋いで、近距離広範囲の水弾を撃たせる。
敵が怯んだところに、ホムラとリーフィアがダブルニーキックを浴びせてモヒカン共を蹴散らす。
ニーキックをくらったモヒカンは、なぜか幸せそうな顔で後ろに倒れこんだ。
あれは見えたな。
二人は金の髪をなびかせながら、押し寄せるモヒカンを回し蹴りで階下に蹴り落とし、近づくものを体術と刀一本でねじ伏せていく。
「うわ、女の子つぇぇや……」
容赦なく股間に膝蹴りを入れる二人を見て、俺は腹の下がキュッとなった。
「魔力使えんくてもなめんな!」
「魔力使えなくてもなめないで!」
セリフが被って『は? 何被ってんねんお前』と言いたげに、二人はバチッと視線をぶつけ合わせる。
再びホムラとリーフィアの背に映る、犬と猿のシャドウ。
「ユーリ、あれが犬猿の仲って奴か?」
「昔から東西の人間は仲が悪かったりするからな。なんとなくお互い気に入らんのだろう。お前ら遊んでる場合じゃない、先行くぞ!」
「遊んでないわ! ……って被んな羽女!!」
「遊んでないわ! ……って被んな女狐!!」
見事なハモり。実は仲よしなのでは? 同年の姉妹でもあそこまで息あわないぞ。
俺たちはモヒカンの群れを突っ切り、第2層保管庫層へと到着。
「リーフィア、3層への階段はどこだ!?」
「こっから真逆。フロア突っ切って北!」
「よし、このまま一気に3層まで突破するぞ!」
3層に続く大階段へと向かうと、当然と言えば当然なのだが、階段の前にここは一歩も通さんと鎧モヒカン達が大盾を構えて待っていた。
奴らは隊列を組み、隙間なく大盾を並べ、自分たちの身は隠した状態で隙間から槍だけを伸ばす。
「なんやあの亀みたいな陣形」
「
「ユーリ、ボクの水弾でぶち抜いてやるぞ!」
俺は再びプラムに鎖をつなげると、貫通力に優れる水マグナムを発射する。
だが、プラムの水マグナムは大盾を弾き飛ばしたものの、盾を失った者がすぐに後ろに下がり、新たな重装歩兵が前に出て盾を構える。
「むむむ! ボクの水弾がきかないだと? こうなったら全部の盾弾き飛ばしてやる!」
熱くなって口を3形にすぼめるプラムを止める。
「何発撃つつもりだ、お前豆粒みたいになっちまうぞ!」
「待て、侵入者!!」
後ろからも敵の声が聞こえてきた。
まずい、ここを強行突破できなかったら囲まれて終わりだ。
「一旦フロアに戻って、敵をまくぞ!」
幸い目の前のファランクス部隊は追いかけてこなさそうなので、俺達は急遽引き返して適当な部屋へと飛び込んだ。
「奴らどこに行った!?」
「このへんにいるはずだ探せ!」
俺たちが隠れている部屋の前を、ガッシャガッシャと音を立てて通り過ぎていく鎧モヒカン達。
「行ったな……少し待ってから3層に上がるぞ」
「なんか2層に上がってからモヒカン強そうになってない?」
プラムの疑問に俺は息を整えながら答える。
「頭にⅢって書いてたからな。多分この調子だと3層にはⅡ軍のモヒカンがいるな」
敵の数は減っているものの、質が上がっている。少数精鋭部隊になっているようだ。
「兄上そろそろ下ろしてもろて」
「あぁすまん。こっからは自分の足で走ってくれるか? またやばそうになったら抱えていくから」
「はい、できるだけ米俵にならないように頑張ります」
エウレカを肩から下ろすと、若干ふらついていた。
「この部屋なんなん?」
薄暗い部屋を見渡すと、そこには槍や剣、弓などが立てかけられている。
どうやら武器庫に入ったようで、妖精族が作った武器が並んでいる。
「ちょうどいいわ、これ持っていきましょう」
そう言ってリーフィアは、反り返った剣を二本縦につなぎ合わせたような大弓を手に取る。
「そういや妖精族の武器は強力ってばっちゃも言ってたな」
「俺も剣借りるか」
剣立台から、柄に虹色の虫羽の装飾が施された妖精族の直剣を拝借する。
「ではわたしはこれを」
「モォ」
エウレカは槌の部分にサファイアの入った妖精族のメイスを。バニラも同じく妖精族の斧を手に取る。
「ウチは刀あるしいらんわ」
「ユーリ、ボクも武器欲しい」
「お前手ないから武器持てんだろ」
「手ならあるぞ」
これで装備できると、ニュッとスライムボディから人間の手を伸ばす。
「プラムちゃんの饅頭ボディから人の手が伸びると、なんかキモいな」
「ほぼ確実に言えるのが、お前が剣持って戦うより水弾一発打つほうが強い」
「む~確かに」
「この一角獣の兜とかどう? スライムでも装備できるわよ」
リーフィアの持つツノ付きの兜に目を輝かせるプラム。
「うぉ、カッケェ! ユニコーンだ!」
「お前水弾撃ったら体積かわるんだから、ちっこくなったら兜落とすぞ」
俺の言うことを聞かず、一角獣の兜を装備してご満悦なプラム。
「モウ」
そんな中、バニラが武器庫の隅に置かれた箱を持ってきた。
中にはキンキラキンのギザギザした果物が入っていた。
「なんだこの食われることを拒むような形をした果物は?」
「モォ?」
「食い物だ。ちょうどよかったボクおなかすいてたんだよね」
プラムはムシャムシャと謎の果物を食い始める。
「お前よくそんな得体のしれんもの食えるな」
「なんか口の中ビリビリする」
「それ食って大丈夫なのか?」
バニラもプラムにならって果物を食べようとするが、慌てて吐き出す。
「舌……ビリビリ……する」
「お前バニラが吐き出すって相当だぞ。ほんと大丈夫か? ってかお前段々色黄色くなってね?」
「この口の中ビリビリが意外とやめられん」
「なんで美味いカレー食ってるみたいになってるんだ」
すると、それを見たリーフィアが悲鳴を上げる。
「あんた何食べてんの!?」
「ん? ダメだったの? まだいっぱいあるよ(ムシャムシャ)」
「それは
「ふむふむ(ムシャムシャ)」
雷の実を食い終わったプラムは金ピカに変色していた。
「お前ゴールドスライムみたいになったな」
「むむむ、なんか体がバリバリするぜ!」
「大丈夫か、お前体バチッてるけど」
「やばいなんか出るんだぜ!」
「なんだその喋り方は」
「ロックンロールは止められないんやぜ!」
プラムは武器庫を飛び出すと、大階段の方へと飛び跳ねていく。
「あっ、待て! お前ロックなんか聞いたことないだろ!」
「ノーライフノーミュージック! ロックンロールは死なねぇ!」
急激にロックにかぶれ出した、にわかミュージシャンみたいなプラムを慌てて追いかけると、大階段の方へと向かっていた。
階段では今まで一歩も動いていなかったのか、さっきと全く同じフォーメーションで重装歩兵部隊が盾を構えていた。
「ユーリ、シルバーを出せ!」
「シルバー!? あぁ鎖か」
言われるままプラムに鎖を接続すると、水ショットガンを放った。
水ショットガンは近距離拡散威力は優れるものの、重装甲を抜けるほどの威力はない。
しかし発射されたショットガンは、煌びやかな金色を伴った雷属性を纏っており、重装歩兵が被弾するとバリバリっと音を立てて炸裂する。
「あ゛ぁぁぁぁぁ!!」
「ぐああああああっ!!」
「ひぎぃぃぃぃ!!」
重装歩兵たちは次々と感電して倒れていく。
サンダーショットガンによって、階段上にまともに立っているものは一人もおらず、皆ビクンビクンと痺れていた。
「倒したぜ! ぜ? ……なに言ってんだボクは」
体内に溜め込んだ電気を全て放出したようで、プラムのカラーリングは元の色に戻っていた。
どうやらプラムは外部から属性を取り込んで、一時的に自分の能力にできるようだ。
「なんかボク、今変な喋り方してたよね」
「あぁロックンロールは死なねぇとか、わけわかんないこと言ってたな」
属性がかわると性格も少し変化があるらしい。
俺たちは倒れた重装歩兵の上を駆け抜け、第三層へと走った。
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