第36話 エロ本隠した場所は覚えておけ
深夜、闇に紛れるようにして大型輸送船が森島に到着する。
船を待ち構えていたベヘモス戦闘員たちは、船から下ろされる補給物資を運ぶ。
フォレトスとダイナモは、ビショップより送られてきた巨大な魔獣を見上げていた。
「これが世界樹をへし折れる力を持った魔獣か?」
補給船後部の貨物ハッチから、のっしのっしと降りてくるのは、巨大なトカゲ型の地竜ホーンアリゲーター。全長約15メイルと巨大で、尖った口上のツノと爬虫類のような鱗を持つ。性格は極めて獰猛で、一度食らいつくと引きちぎるまで離さない強靭な顎と牙が武器。
確かに強そうではあるが、魔大陸にはこの程度の巨大魔獣はゴロゴロいるので、ホーンアリゲーター一匹でこの島を制圧できると思っているなら、
「いや、これはただの乗り物らしい」
「乗り物?」
ダイナモの言葉に首をかしげると、ホーンアリゲーターの背には無骨な鎖が固定されており、チャラチャラと金属音をたてて何かを引きずってくる。
鎖に引っ張られて下りてきたのは、鉄板に8っつの車輪をつけただけの簡素な貨物車で、その上に体を少しでも小さくするようにしゃがみこんだ魔獣が乗せられている。
貨物車に乗っているのが、かろうじて人型の巨人とわかるが、体中に拘束具をとりつけられており種別がはっきりしない。
頭部には痛々しく見えるトゲのついた厳重な拘束具を被っており、フォレトスはその風貌が巨大化した4軍のモヒカンみたいだと思った。
「フォレトス様、魔獣の下船完了しました。こちらが魔獣の取り扱い説明書と、モンスターコントローラー、モンコンです」
部下から小冊子と、複数のボタンがついたワイヤレスコントローラーを受け取る。
冊子を開くとコントローラーの使い方と、魔獣の特性が書かれていた。
「魔獣サイクロプス。全長32メイル、重量41ツォン。頭部に巨大なモノアイがあり、高い視力と、魔力を視る力がある。遮蔽物越しにターゲットを見ることが可能。注意事項、目が良すぎるため、陽の光を直接見るなどは厳禁。まずコントローラー中央のMボタンを押して電源を入れましょう。電源がついたら、モンスター頭部のヘルメットが点灯していることを確認してください」
説明書通りにボタンを押すと、リンクが完了したのか魔獣のヘルムにランプが灯る。
「モンコンの操作方法、Aボタンでパンチ、Bボタンでキック、ABで投げ技、↓↘→Aで目からビーム、怒り状態でABBA→→←で超必殺技。またマイク入力で複雑な動きにも対応……」
フォレトスがコントローラーを握りながら説明書を読み上げていると、誤ってAボタンを押してしまう。
すると、今まで死んだように静かだったサイクロプスが右腕を振りかぶる。
搬入を行っていたベヘモスの戦闘員の前に、岩石のような拳が振り下ろされ巨大なクレーターが出来上がった。
「ひぃっ!」
ギリギリで当たらなかった戦闘員は、ガクガクと腰を抜かしながらも、ほっと息をついた。
その様子を見て、悪いことを思いついたフォレトスはニヤリと笑みを浮かべる。
「サイクロプス、そいつをつかめ」
フォレトスがマイクに向かって命令を出すと、握りこぶしが開かれ、腰を抜かした戦闘員を掴み上げる。
「フォレトス様!? フォレトス様助けてください!」
「はは、人間が人形みたいだ」
「フォレトス様! 苦しいです息ができません離してください!」
「握りつぶせ」
ゴキッと全身の骨を砕く音がすると、戦闘員の上半身と下半身がもげた。
間近で血しぶきを浴びたフォレトスはゲラゲラと笑う。
「ハハハ、こりゃすげぇ玩具だ。こいつがありゃ森島の侵略なんて一瞬だな。愉快な悲鳴が聞けそうだぜ。よし行くぜサイクロプス、今すぐ世界樹をへし折りに行け!」
立ち上がるように命令を出すが、サイクロプスは固まったまま動かない。
「なんだ、壊れたか?」
「違う。サイクロプスに餌がいる」
「餌ぁ?」
「見た目通りエネルギーがいるらしい。食い物は、人間でも魔獣でもなんでも良いみたいだ」
ダイナモはコントローラーに浮かんだ、Eと書かれたゲージを指差す。
「なんだこれ?」
「説明書によると空腹ゲージだ。これがなくなると動けなくなるらしい」
「電池切れってわけかよ、ほんとに玩具じゃねーか」
ダイナモの言葉にフォレトスは舌打ちを返す。
「だが、こいつがいれば森島は俺達のモノだ」
勝利を確信したフォレトスは、ベヘモス全員に命令を出す。
「これからこのサイクロプスと共に、世界樹をへし折る! そのために今からコイツの餌になる亜人や魔物を捕まえに行くぞ!」
「「「「ヒーハー!!」」」」
ベヘモスたちは一斉に活気づき、ロードランナーに飛び乗ると鎖を振り回しながら森島を駆けていった。
◇
日中ファームにて――
「ねーなー……」
「どしたのユーリこんなとこで」
俺がナツメの長屋で文献を漁っていると、プラムが後ろから声をかける。
「呪いを解く文献を探してるんだよ。ナツメに頼んで、妖狐族が持ってる本を見せてもらってるんだけど、どうやら目当てのものはなさそうだ」
「呪いってクリムたちの?」
「いや、姫様が呪いにかかってるんだよ。なんとかそれを解かないと、ヴァーミリオンに帰国できない」
「どんな呪いにかかってるの?」
「多分
「なにそのおたふくみたいな呪い?」
「症状は単に乳が肥大化するだけなんだが、進行速度が早くて、すでに10センティ以上でかくなってるみたいだ。俺が言うまで本人も気づいてなかった」
「多分シエルでいる時間が長かったからだよね」
「そうだろうな。元の体に戻る時間が短かったからだろう」
「本人困ってたの?」
「いや、やったぜって喜んでた」
「本人がいいならいいのでは?」
「爆乳禁止法があるんだぞ。下手したら国外追放だ」
「ああいうのって身内には甘いんじゃないの? 庶民はダメだけど、上級国民は馬車で人間轢き殺してもOKみたい事件あったでしょ?」
「OKではないがな。そりゃ政治家や司法はエウレカの乳が100センティ超えてもセーフ! これはセーフです! って言うだろうけど、あいつの兄貴が許さん可能性が高い」
「兄貴?」
俺はエウレカの兄ピエトロが、ペペルニッチに劣らないサイコパスで、彼女が皇位継承権の絡みで殺されかけたことがあると教える。
「可哀想だね。せっかく血のつながった家族なのに」
「ヴァーミリオンの皇帝ってのは、実質この世界の支配者と一緒だ。権力は人を狂わせるんだよ」
「中身が人か魔族かの違いだけで、皇帝も魔王とかわんないじゃん」
「俺もそう思う」
「ボクは世界より、家族一人の方が大事だぞ」
プラムはのそのそと俺の背中をはって、頭の上に乗っかる。
「重い」
「家族の……重みだ!」
「なにちょっと言いながらテレてるんだ」
「うるさいな!」
自分で言って自分で恥ずかしくなっとる。
本人には言わんが、可愛いところだったりする。
プラムをターバンみたいに頭に乗っけたまま長屋を出ようとすると、ちょうどナツメが帰ってきた。
「欲しいものはあったか?」
「いや、どうやらなさそうだ」
「ふむ……火事でかなりの数が燃えておるからな。呪いを解く文献か……」
「どっかに心当たりないか?」
「むぅ、他にもあった気がするが」
ナツメはゴソゴソと本棚を漁ると、漆塗りの箱を取り出す。
「これはなんじゃったかな? 主ら見たか?」
「いや、見てない」
「この中にも何か入れたような気がするが」
ナツメが箱を開けると、中から変な形のひのきの棒と複数の絵本が出てきた。
「なんだこの先が丸っこくなった棒は」
「ユーリ、この絵本女の人がタコに襲われてるよ」
「こっちは全裸のおっさんとおばさんが描かれてるな」
「!」
なんだこれは? 画風がかなり独特だが、もしかしてこれって東のエロ本――
◇
「…………あれ? なんで俺寝てるんだ?」
「むむ? なんでボク寝てたんだ?」
二人で顔を見合わせると、煙管から煙を吐くナツメが目の前で立っていた。
「二人共どうした、急に眠くなったと言って倒れたぞ」
「えっ、そんなことある?」
「ユーリ、さっきの本と変な棒なくなってるよ」
「ほんとだ。ナツメさっきの箱どこやったんだ?」
「箱? なんの話をしとるんじゃ?」
あれ? 夢か? さっき電動ヒノキの棒とエロ本見つけた気がしたんだが。
気のせいかナツメの後ろに、血のついた角材があるんだが。
あれで殴られて気絶させられたとしか思えんのだが。
「そんなことより呪いを解く資料の話じゃろう。世界樹の中に、魔大陸創生から集められた大図書館があるのじゃが、もしかしたらそこにならあるやもしれん」
「世界樹は俺ら出禁くらってるからな」
「あいつら嫌な奴らだ。ボクらのことすぐ下等生物って言うんだぞ」
「爆乳エロフはエロかったけどな」
そう言うと、プラムが俺の頭をギリギリと締めつけてきた。
「奴らは古の昔より、世界樹を守ることを使命とした存在。人間で言うと貴族や騎士のようなものじゃ。しかし魔王様が人間に敗れて以降、己のプライドを守ることと、世界樹が生み出す資源を独占することに終止しておる」
「人間そっくりだな」
「自分たちを神から選ばれしもの、他は有象無象、特に人間の扱いはゴキと同レベルじゃろうな」
「しかしそれじゃ困るな。なんとか本を見せてもらわないと」
「ぶん殴って、ボクらの方が強かったら本見せろって言ったら?」
「蛮族かよ。まぁでも、暴力はよくないが、ルールのある決闘とかを仕掛けてみるのはいいかもしれない」
「確かに奴らは相手に勝ち誇るのが好きじゃから、その手の話には乗ってくるやもしれん」
プライドでガチガチになった鼻っ柱を折ってみるのもいいかもしれない。
そのへんはセシリアが詳しそうだから話をしてみよう。
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