第30話 嘘つき

 オレだよオレオレ! と叫ぶオットーに俺は首をかしげる。


「主、知り合いか?」

「知らん」

「首を刎ねよ」

「まてまてまて! 処刑までのテンポが良すぎるだろ!」

「知らんと言っておるが」

「知らん」

「ほれ」

「まてって! 完全に条件反射で言ってるだけだろ! オレだよオレ、船で一緒だったオットーだって!」

「オットー? 知らん!」

「殺せ」

「知ってるだろオイ、なんで急激にバカになってるんだよ! あと、オレの隣で刀研ぐのやめて下さい!」


 ホムラがシャンシャンと音をたて、刀を光らせる。


「これがあんたを殺す刀や。よー見とき」

「恐いってこの村! なんなの、ゴブリン村の方がまだマシだよ!」

「冗談はこのくらいにしておこう。お前生きてたんだな」

「気づいてたなら最初から助けてくれよぅ!」


 オットーの手首を縛りつつ、全裸のまま話を行う。


「今から尋問を行う。嘘をついたら殺すからよろしくな」

「恐いよ! てか、お前はこの数日でこの村のなんになったの!?」

「族長じゃ」


 ナツメが勝手に答える。


「えっ? 聞いてないんだけど」

「何を驚いている? 主を中心にこの牧場を発展させているのじゃから、当たり前じゃろ?」

「そうかな……そうかも」

「ユーリバカだから、もう丸め込まれてる」

「でもばっちゃ、人間が族長ってなんかおかしない? 妖狐だけじゃなくて牛さんたちもおるし」

「別に肩書は村長でも、リーダーでも何でもかまわぬ。主らで好きに考えよ」

「ユーリの呼び名か~、クリムはなんかいいのある?」

「私ですか? そうですね……主人なんてどうでしょう」


 はぁっと艶めかしい吐息を吐くクリム。

 重い。

 明らかに夫を呼ぶトーンで言ってる。

 プラムもそのことを察し、慌てて標的をかえる。


「シエルは、ユーリのことなんて呼びたいとかある?」

「じ、自分ですか、自分は……」


 シエルは頬を赤らめ、ふし目がちにこちらを見やる。


「せ、先生とか、マスターとかがいいんじゃないかと……」


 もうシエルがヒロインでいいだろ。

 素性がわからなくてもいい。男か女かわからなくてもいい。俺が幸せにする。

 結婚しよ。


「ダメですよ、そんなありきたりなの。リーダーですから元首とかどうですか?」

「そんなん可愛くないやん。殿とかよくない? ウチらの国で、王様みたいな意味やで」

「ユーリバカだからバカ殿って呼ばれそう」

「バカ殿の語感良すぎですよ」


 プークスクスと笑うセシリア。あいつは後で灼熱丸の餌にしよう。

 ホムラやプラムたち女子陣が、キャイキャイと変なあだ名を考えている。


「くっそバカにされてるな」

「オレにはくっそ慕われてるように見えるよ……」


 どこを見たらそう思うのか。


「あいつらはいいから、オットーが海に落ちた後の話をしてくれ」

「あぁ、でもオレは別段大きなことはなかったけどな。執行船から落とされて、そのまま流されてこの島に流れ着いた。そっから魔物に襲われながら逃げのびて、小さな街についたんだよ」

「街?」

「ああ、オレたちみたいに訳アリで流された人間が集う、バラックシティって街だ」

「ベヘモスの拠点か」

「どんなとこなの?」


 プラムの質問に、首を傾げながら考えるオットー。


「ん~見た目はゴミを集めた街だな。でもちゃんとギルドとか武器屋とかあって、働いたら金が貰えるんだ」

「ベヘモスだけで社会ができてるのか……。具体的にベヘモスってのはどんな組織なんだ?」

「結構恐ろしいって言われてるけど、中身はゴロツキの多いギルドって感じだな。上納金はいるけど食料の心配はないし、働けば昇進できる。わりかしアットホームな組織だぜ?」


 その言葉にプチっと来たホムラが、オットーの足に刀を突きたてる。


「嘘つくな! あんたらベヘモスが、お金目的でいろんな種族を狩りに行ってんのは知ってんねんで!」

「お、怒らないでくれ! あくまでオレは末端だから、上が何やってるか知らないんだって」

「お前はどんな命令でここに来たんだ?」

「妖狐の村に火をつけて来いって……」

「やっぱ放火魔じゃねぇか!」


 それから俺たちはオットーから、ベヘモスについての情報を洗いざらい吐かせた。

 オットーの知ってる一番上っていうのが、1軍のフォレトスという男で、その下に2軍のダイナモという男が側近でついている。

 彼らは階級の低い3軍と4軍を動かす権限を持っていて、現在このファームに攻撃命令が下っているらしい。


「他には?」

「も、もう何にもないってほんとだって!」

「お前はいろいろ嘘臭い」


 プラムは頭にドリルビートルを乗せて、ジリジリとオットーにドリルを近づけていく。


「わ、わかった、とっておきの情報を話す!」

「なんだ」

「今ベヘモスの本隊は世界樹攻略に向かってる。すごい作戦があるみたいだ」

「抽象的だな。世界樹を落とそうとしてるのか?」

「作戦内容は本当に知らないんだ。マジでこれでオレの知ってる情報全部だから! そりゃ確かにちょびっとベヘモスに手を貸したことあるけど、生きるためにしょうがなくなんだよ! 信じてくれ!」


 オットーは見ていて気の毒になるくらい地に頭をつけて謝る。


「世界樹の話は気になるな」

「でも見た感じなんともないよ」


 プラムは遥か遠方の世界樹を見やる。


「見にいったほうがいいか~?」

「行くのに時間かかるよ。それにボクあそこにいる奴ら嫌い」

「ウチも妖精エルフ嫌いや」

「モウ」


 あの優しいバニラですら嫌いと言っている。


「世界樹は防衛には非常に優れた拠点じゃ。ゴロツキが数百人集まっても、攻略することは不可能じゃろうて」

「なら少し様子見するか」

「なぁユルーク、恥を忍んで頼む。どうかオレを仲間に入れてもらえないか!? 本当はベヘモスに所属するの嫌だったんだよ。勇者になりたいのに悪党みたいなことばっかりやらされて、抜けようとしたら殺すぞって脅されるし。オレ全然、なんにも悪いことしてないぜ」

「…………嘘はついてないな?」

「神に誓ってついてない! 頼む、”心を入れ替えて”勇者になるから! この通りだ!」

「どうすんのユーリ?」

「精一杯謝ってるしな」


 俺もベヘモスが悪者と知らず最初に接触していたら、もしかしたらこうなっていた可能性はある。


「わかった。一応監視はつけるがウチに引き入れよう」

「ありがとうユルーク! お前は恩人だよ!」

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