第25話 なにか問題でも?(怒)
それからしばらくして、俺たちは村長の家に招き入れられた。
世話にはならないつもりだったが、ホムラやナツメたちと共に囲炉裏を囲って、魚と米の朝食をご馳走になる。
「それで主ら、これからどこに行くんじゃ?」
朝食を食べ終えたナツメが、煙管に火をつけ、一息つきながら今後についての話をふる。
俺たちはファームづくりの件と、ここに来たまでの経緯を話す。
「そうか、そのようなことがあったのか」
「そんでバニラちゃんたちを守るために、ファームを作ろうとしてるん?」
「まぁそういうとこだな。でも俺ら全てにおいて素人だから、全然うまくいかなくて困ってるんだ」
「職人さんに、どうやって家作ったらいいか教えてもらおうと思ったんだよね」
「図面もなしに、おっきな家建てるなんて無茶やで」
おっしゃる通り。
「先にエルフェアリーの里にも行ったんだけど、あっちは門前払いをくらった」
「ボクらなんも悪い事してないのに出禁くらったんだよ。酷くない?」
カルミアを殴り倒したことは棚に上げておく。
「あぁ、あの子ら自分ら以外は下等生物やと思ってるから」
どうやらエルフに関しては、どの種族も同じ認識らしい。
「しかも
「そんな感じする」
「俺たちはそうはいかないからな。職人さんを求めて、この村にはしごしてやって来たわけなんだが、俺らを手伝う余裕なんてないだろ? だからはやめに御暇しようかと思ったんだ」
「…………それも持たずにか?」
ナツメは小さくなったマンドラゴラをキセルで指す。
「この家の玄関先に置かれていた。主が置いていったもんじゃろ?」
「ま、俺らより有用な使い方するだろうと思ってな。多分あと一回くらい使えるだろ」
「……主、時間はある。もう少し自分を語りなんし」
「語るっていってもなぁ……」
「この島になぜ流されたんじゃ? 主は他の悪党とは何か違う」
「あぁそれなら――」
モンスター使いとして世界最強の魔物使いを決める、バトルリーグの大陸代表にまで登ったこと。チャンピオンになったその日の夜に、爆乳禁止法とかいうふざけた罪で捕まり、トントン拍子でA級犯の烙印を押され島流しにされたことを伝える。
「なんやそれ無茶苦茶やん。ウチやったら絶対キレちらかしてるわ。タイミングいやらしすぎるやろ」
「ボクもそう思う。神輿で担ぎ上げられた瞬間、谷底に放り落とされた気分だった」
「ふむ……主ら、いずれはそのヴァーミリオンという国に帰るのが目的なのか?」
「どうかなー帰ってもまた爆乳禁止法で捕まるからな。バトルリーグに出られれば、どこの国に渡ってもいいかなって思ってる」
「ヴァーミリオンから出るなら、ペペルニッチ殺すしかないよね」
不謹慎なことを言うプラムだったが、わりかし本当にそれしか道がない。
どこか別の国が拾ってくれたらありがたいが、俺たちみたいな犯罪者を拾ってくれるもの好きな国は多分ない。
「とりあえずしばらくはこの島でレアモン捕まえながら、武者修行する心づもりでいたんだが、その矢先にバニラたちが襲われてるのを見つけた」
「ユーリ、いい人」
「はい、我々を守ってくださっています」
バニラとクリムが、拳を握ってフォローをしてくれる。
「なんやあんた、聞けば聞くほど良いやつやん。なんで最初にうんこ漏らしたんよ」
「毒ってたからな、俺だって漏らしたくて漏らしたわけじゃねぇよ。そんなわけで、俺たちがここにいても迷惑がかかるし、この里を出ていく」
「ふむ……主ら本当にベヘモスには入らんのか? あそこは実質的魔大陸における人間国じゃぞ」
「女の顔を焼くような国には入らねぇ。いくら争ってても、やっちゃいけないことがある」
そう言うとハクはくわえていたキセルを口から離し、カンカンと音を立てて火を落とした。
彼女は切れ長の鋭い目で俺を見やると、こちらに取引を持ちかけた。
「主ら、わっちらをそのファームに加えんか?」
「なぬ?」
「ば、ばっちゃ? いくら助けてもらったって言うても、こいつは人間やで」
「ホムラ、普通の人間がマンドラゴラを見つけて、見ず知らずの魔族に躊躇なく使うなんてできぬ」
「そ、それはそやけど」
彼女は自身の頬をさする。そこはつい昨日まで火傷があった場所だ。
「それに主はこ奴らがいなければ、わっち含め里の者を皆殺しにしていたかもしれんのじゃ。どのような相手であろうと、助けてもらったことに感謝するべきじゃろう?」
「はい……」
「どうじゃユーリ、ファームを作るのならば必要なのは建築だけではないじゃろう。食事、医療、鍛冶、道具、何より他者に侵略されぬ防衛。わっちら妖狐は建築と鍛冶に関しては、多種族を凌駕していると自負しておる」
「そこまで行くと街づくりだな」
「わっちらは、やろうと思えば城ですら造ることが可能じゃ。勿論東式の城じゃがな」
「ユーリ、ボクなんかワクワクしてきたぞ」
確かに、話のスケールが段々大きくなってきた。
「つまり、俺らのファームの場所に妖狐族が村を建てるってことか?」
「そうじゃ。わっちらはこの村を解体した後、別の場所にまた村を再建するつもりじゃったからな」
「ば、ばっちゃ!? ええのん、そんな簡単に移住先決めてしもうて」
「良い。ここにおって暗い顔をしておると、死者も安心できんじゃろ」
「せ、せやけど……」
「ほんとにいいの? ここお墓あるんじゃないの?」
プラムの疑問にナツメは首を振る。
「よい、あの墓には何も入っておらぬ。わっちらは死ぬと霊体となって現世を去る。死体は残らんのじゃ」
「こっちとしてはありがたいとしか言いようがないが。この里は人間に良い感情をもってないだろ」
俺はチラリとホムラを見やる。火傷跡が消えたとはいえ、彼女は大事な親を人間に殺されている。恐らくそんな負の感情を持った妖狐は、彼女だけじゃないだろう。
「う、ウチはやられたことを絶対忘れへん。所詮は人間の仲間やし、あんたもいつ裏切るかわからんから絶対信用なんかせん。ほんまはさっさと出ていってほしい」
だよなぁ……。
「で、でもばっちゃを救ってくれたし、アホやけど悪人ではなさそうやから、その辺を加味して特別に認めてあげても……」
人間がここにいたら更なるトラブルが起こるもんな。火事の傷が癒えるまで、人間の顔なんて見たくないと思うのは当然だろう。
「わかった。やっぱりこの話はなかったことにしよう。わだかまりがある人間が、一緒にいるべきじゃない」
「仕方ないね」
そう言うとホムラは「え?」と顔を固まらせる。
「ちょちょ、待ち、別にウチはそこまで嫌とは言うてへんで?」
「この村は一度人間に焼かれている。人間に対する嫌悪感は並々ならぬものじゃないだろう。その意見を無視してまで、一緒にいるべきじゃない」
「いや、えっ、ちょっ」
「すまんな、人間皆が皆悪い奴じゃないんだ。それだけはわかってくれ」
「いや、それはわかってるんやって! ちょっと待って締めに入らんといて!」
俺はプラムを小脇に抱えて立ち上がると、ホムラはなぜか眉をハの字に曲げ、あわわわわと困った表情をしている。
「ば、ばっちゃ、えらいことになってしもうた」
「主が悪い。ちゃんと謝りなんし」
「?」
「うぅ……ご、ごめん。出ていかんといて」
なんだ、出ていけって言ったり行くなって言ったり。
「許せ。その子はすぐ思いとは反対のことを口走ってしまうのじゃ。出ていけと言ったのは照れ隠しで本意ではない」
「ほんまは顔の火傷、なくしてくれたん感謝してます」
しょぼんとするホムラ。
「火傷を負った後、毎日鏡を見て泣いておった子じゃ」
「ばっちゃ、言わんといて」
「顔焼かれたら仕方ねぇよ。この村を焼いた奴は、俺が探し出して殺す」
「やったんは人間やで。あんたの仲間やろ?」
「それとこれとは話が別だ。ここにいる人間は法がないから、自分は裁かれないと思って魔族の命を奪ってる。法で裁かれない悪党なら、誰かがかわりにやるしかない。それは魔族が復讐する形になっちゃいけない」
「被害者であるわっちらがやると、負の連鎖が始まるということじゃな」
「そうだ。人間が人間にケジメをつけさせることに意味がある」
「その結果、主らが悪と呼ばれるぞ」
「構わんね。秩序を守る番人がいないなら、悪党を裁くのは悪党になるだろう」
拳を軽くニギニギしていると、ホムラがポカンとしているのが目に入った。
「どした、鳩がボウガンくらったみたいに」
「死んどるやろそれ。いや……なんか昨日里の前でウンコ漏らしてた奴と同じに見えんくて。どっちがほんまもんなんかなって」
「「ウンコ漏らしてた方」」
俺とプラムは即答する。
するとホムラはクスクスと笑いだす。
「なんかあんたらオモロイな。セッシーがくっついていくのがわかるわ」
「それは死ぬほど不本意だが」
ホムラが笑うと、ナツメもクツクツと笑う。
「ばっちゃ、村人にはウチから話しとくわ」
「頼む。ユーリ、主も頼むぞ」
俺はナツメと握手をかわす。
「おう、そんじゃよろしく」
俺はホムラにも手を差し出すと、彼女は赤面しスカートで手を拭いながら握り返す。
「よ、よろしゅうに……」
握手をかわす様子を見てニヤつくナツメ。
「ユーリ、主には期待しておる」
「なにが?」
「わっちら妖狐は獣人の中でも絶滅危惧種じゃ、このままじゃと滅びると思っておった」
ふーっとキセルの煙を吹きかけられる。不思議とその煙は煙くなく、甘い香りすらする。
「だから何が?」
「主……まさか童貞か?」
「童貞だが?」
なにか問題でも?(怒り)
「ふむ、そうか……イチから教えんとダメなんじゃな」
「ばっちゃ?」
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