第19話 ゲンブ
「す、すみません。ゲンブ様って、森島のトップなんですか】
【まぁボスだしな】
「魔族の中で偉いんですか?」
【正直めちゃくちゃ偉い】
「砂島の魔将と仲悪いんですか?」
【悪い】
そっか悪いのか。ゲンブ様、質問に簡潔に答えてくれるな。
「ユーリ、地面と会話してるのシュールだよ」
「わかっとるわ。あのゲンブ様は人間殺すって感じじゃないんですか?」
【ない】
「それはなんでなんですか?」
【我は3000年前よりこの地にいる。亀は千年、鶴は万年だ】
ちょっと何言ってるかよくわかんねぇな。
【幾たびの時を超え、人と魔族の戦いなどとうに見飽きた。無益、無意味、無駄、しょーもな】
戦争くっそ見下してるやん。
ゲンブ様からすると、バカ同士がまた喧嘩してるわ、みたいな気持ちなのかもしれない。
「魔族として、魔王様殺されて人間に報復する気にならないんですか?」
【命あるものすべからく滅ぶ。魔王様であろうと我であろうと。それが戦か寿命かなど些末なこと】
達観されてらっしゃる。そりゃ3000年も生きてたら、死人見過ぎて命という概念も、なんかよくわかんない感じになりそうだもんな。
「じゃあ逆に砂島の魔将が人間ぶっ殺しても、あんまり興味ないんじゃないですか?」
【我、あいつ嫌いだし】
「なんで嫌いなんですか?」
【亀遅いって言う。芋虫のくせに……なにが砂王竜だよ、お前虫じゃん……】
3000年も生きてるのに、意外とちっさいことで怒るんだな。
「そうだ、この森島でベヘモスと名乗る人間が悪さ働いてるんですけど、なんとかならないですか?」
【なんとかって言われてもな。我亀だし、背中の上でやられてることはどうにもならんよ】
まぁまぁそうだな、亀だもんな……。
「なんか、こう追い出す方法ってないんですか?」
【体傾けたら上に乗っかってる奴ら全員落とすことはできるけど、そういうのじゃないんだろ?】
「そうですね、ベヘモスよりここで暮らしてる魔族の方が大ダメージ受けそうですし」
ゲンブ様の解決方法が、0か100しかない。
【じゃあちょっと難しいな。お前たちで頑張ってダメなら、また相談しに来て】
「は、はい」
【他に質問ある?】
「プラムなんか聞きたいことあるか?」
「ゲンブ様って強いの?」
【正直めっちゃ強い。勇者一回倒してるから】
すげぇペペルニッチ倒したんだ。
「どうやって倒したの?」
【我無限回復あるから。ただ勇者も一回倒された後、やべぇ天空的な剣持ってきて、回復不能なくらいガッサー斬られてやられたけど】
独特な擬音だな。
「じゃあじゃあボクも強くなりたいんだけど、どうしたらいい?」
【難しいな。お前無限回復とかないもんな】
「ない」
【じゃあ無理かな】
えぇ……っと口を栗みたいに三角にするプラム。
【眠くなってきた、最後なんか聞きたいことある?】
「じゃあ、魔王の呪いってなんとかならないですか? それで苦しんでる子が結構いるんですけど」
【それも難しいな。魔王様の呪いは、魔王様の無念を魔大陸全体にかけた広域呪術魔法だからな】
「よそから来たボクらもかかっちゃうの?」
【長くいると例外なくかかる。発症タイミングは個人差があるから、運がよければ一生発症せんかもしれんけど】
「えぇ、こわっ」
「その呪いは魔大陸から出たら治るんですか?」
【一回発症したら治らん】
「じゃあ発症する前に出た方がいいんだな」
【もう”男のお前以外”全員魔王様の呪いにかかってるから、出てもダメだぞ】
「「「「えぇっ!?」」」」
そんな、既に俺たちはもう全員ゾンビウイルスにかかっているんだ的な展開。
「なんでユーリだけかかってないの?」
「もしかしたら俺には呪いにかからない特別な力が?」
【単純に魔王様の呪いが、女に発症しやすいだけだ】
「なんだ」
「なんだじゃないぞ、どうするんだユーリ、ボク呪いにかかっちゃったんだぞ」
【心配せずとも死ぬ呪いではない。魔王様の怨念は、かなりくだらないものだからな】
「そうなんですか?」
【発症していることに気づいていないものも多い。場合によっては喜ばれることもあるかもしれん】
なんだろう男には効かない、魔王の怨念って?
【眠い、喋りすぎた。もう寝る。来年起こして】
「寝る規模も凄い。俺たちと会話してくれてありがとうございます。お優しいんですね」
【正直結構暇だし。誰も話しかけてこないし】
「あっ、そうなんですね……」
臣下から話しかけられるの待ってる王様みたいだな。
その後ゲンブ様は寝てしまったのか、話しかけても答えてくれなかった。
「ゲンブ様良い人だったね」
「人ではないな。亀だし、魔将だし」
穏健派とあってほんとに気さくで、人間に対しても協力的に話をしてくれたと思う。
「なんかモンスターも結構いろいろ問題抱えてるんだな」
「ボクたち砂島に流れ着かなくて良かったね」
全くだ。魔将に目をつけられて殺されていたかもしれない。
ゲンブ様にとっては、背中の上でベヘモスが悪さしてるとか、本当に取るに足らない出来事なんだろうな。
そんなことを考えていると、セシリアがう~んと唸る。
「ゲンブ様、お話短くなりましたね」
「あれで短いのか?」
「ゲンブ様喋るの好きなので、話し始めたら3時間くらいは止まらないんですけど」
「おしゃべり大好きオジサン、いやオジイサンじゃん」
「あの噂本当かもしれないですね……」
「噂って?」
「ゲンブ様、魔将を引退されるかもしれないんです」
「えっ、そうなのか?」
「はい、歳も歳ですし、その……言いづらいのですが、寿命が近づかれているそうです」
「そうか……」
「勇者にガッサーやられたって言ってたもんね……」
もしかしたら自分の死期を悟ってるから、あんな達観した感じになってるのかもしれないな。
「ゲンブ様が亡くなられると、また人間と戦争が始まるかもしれません」
「砂島の魔将が好戦的なんだったな」
「誰か森島の魔将を引き継いでくれる方が現れるといいんですけど」
「ゲンブ様みたいな、優しい魔族が現れるといいな」
◇
ゲンブ様と話を終え、再びエルフェアリーの里を目指して歩き始めていると、セシリアがあっと声を上げる。
「どうした、近道でも見つけたか?」
「いや、あの……エルフェアリー族って、勝手に侵入者が入ってこれないように結界を張るんですよ」
「結界?」
「はい……この辺多分迷いの結界が張ってあって、実は近づいてるように見えて同じところぐるぐる回るように、方向感覚を狂わせる魔法があるんです」
「お前……まさか」
「はい、わたし達はその魔法に引っかかって、同じとこぐるぐる回ってました……」
セシリアがパンと手を打つと、森の空間が歪み、真っ黒いワープホールが出来上がる。それを見て俺たちの顔が歪む。
「ここから入ってください」
「お前の作った
「今度は大丈夫ですから! ってかここ通らないと世界樹にはたどり着けませんし」
渋々ゲートをくぐると、驚くことに世界樹の目の前へと転移したのだった。
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