第16話 シエルの相棒 後編

 それから1時間後――


 シエルの前に三匹のモンスターが並ぶ。


「この中から好きなのを選ぶと良いんじゃよ」

「…………」

「どしたのシエル? さっきは目が輝いてたのに、めっちゃ濁ってるよ」

「あの……ほんとにこの中から選ぶんですか?」

「多分初心者はこいつらが扱いやすいと思うぞ。これでも元バトルマスターだ、信用してくれ」

「いや、そうなんですが……」


 俺とプラムが苦労して集めてきた相棒候補のモンスターは

 右から沼地などで腐肉を食らう音速バエ。

 ぬるぬるボディで、防御面に優れる羽カエル。

 最後に、2つの葉っぱを高速回転させて空を飛ぶフライ大根。


「ショウジョウ」

「ゲコゲコ」

「ダイコーン!」

「うわあああああん!」


 モンスターの鳴き声を聞いて、突然泣き出すシエル。


「ど、どうした?」

「泣くほど嬉しかったの?」

「全部かっこかわいくない! ドラゴンやコンドルみたいなのを想像してたのに!」

「ドラゴンもコンドルも初心者には敷居が高いって」

「そうそう、絶対言うこときいてくんないよ」

「それでもハエとカエルと大根の中から選べないですぅ!」

「でも選んでくれないと、魔物使いとしてスタート切れないぞ」

「普通最初のパートナーってめちゃくちゃ大事ですよ! こういうのって大体火、水、風のメジャー3属性から選ばしてくれるんじゃないですか!? それで裏に可愛い電気属性とかいるもんですよ!」

「普通はそうなんだけど、シエルは飛行属性限定で、なおかつ低レベルってなるとこいつらが筆頭候補になってくるんだ」

「そうだよ、見ようによってはハエは風、カエルは水、大根は地属性だよ」


 なんとか俺とプラムで説得を試みるが、誕生日にコレジャナイロボを買ってきてしまったようにシエルはギャン泣きする。


「捕まえてきてもらって本当にごめんなさい。自分どれも愛せないです!」

「困ったな」

「みなさ~ん、何をしてるんですか~? わたし抜きで楽しいことをしていたら許しませんよ~」


 3匹のモンスターをリリースしていると、ちょうどいいタイミングで駄妖精がフワフワとやってきた。


「うわ、なんですかプラムさん、キング饅頭になってるじゃないですか」

「セシリア、お前……よくよく考えたら飛行系だな……」


 俺はセシリアの背中についている、透けた四枚羽を見やる。

 多分メインは木属性だと思うけど、飛行も混じってる木・飛行タイプだな。


「えっ、そうですけど?」

「ちょっとシエルに鎖繋がせてやってくんねぇ?」

「えぇ、嫌ですよ。わたしに鎖なんて似合いません」

「花蜜とってきてやるから頼む」

「本当ですか? 少しだけですよ」


 あっさりと買収されたセシリア。


「シエル、不本意だとは思うけどセシリアで我慢してくれ」

「そ、そうですね、ハエやカエルに比べれば……」

「なんですか、わたしその二種類と比べてギリギリ勝ってるレベルなんですか? もう帰りますよ?」

「接続します」


 シエルがセシリアに鎖を繋ぐが、変化はなし。


「なんか力が強くなったとか、頭からツノが生えてきたとかないか?」

「……ん~別になにもありませんが、強いて言うなら少し優しい気持ちになれたかもしれません」

「それは多分マスターの影響だな。鎖を繋ぐと、モンスターはマスターの心理的影響を受けるからな」

「わかるー、ボクもユーリと繋がってると、何も考えずに突っ込みたくなるし」

「それは多分俺のせいじゃない。シエル、魔力を送り込んでみてくれ」

「は、はい」


 鎖が青く発光し魔力が送り込まれると、セシリアがぶるっと震える。


「あ、あぁ~な~にこれ、すっごく気持ちいいです」

「大丈夫か? 体が破裂しそうとかないか?」

「わたし体が弾け飛ぶようなことやらされてるんですか?」

「相性が悪いと、魔核が割れることもある。まぁよっぽど悪くないとそんなことにはならんが」

「大丈夫です、これならいくらでもいけそうです」

「魔力相性は良さそうだな。シエル、もう少し魔力を入れてみてくれ」

「はい」


 更に魔力が送り込まれると、徐々にだがセシリアの体に変化があった。

 さっきのプラムと同じく、体が大きくなり始めたのだ。


「わわわ、なんですかこれ!?」

「多分シエルの特殊能力だ。体が大きくなるんだよ」

「やった! 嬉しいです! わたし仲間内からチビチビって言われてコンプレックスだったんですよね!」


 俺たちは人間サイズにまで大きくなったセシリアを見て、凄い凄いと歓声を上げる。

 だが徐々に異変に気づいて、俺たちは彼女の体を”見上げる”。

 セシリアの体は、予想を遥かに超え5メイルを超えるほどの巨人と化したのだった。


「うわ~、すっごく大きくなった気分です~(野太い声)」

「お、おう」

「って、大きくなりすぎじゃありませ~ん?(野太い声)」

「シエル、魔力送りすぎだ!」

「す、すみません。魔力はもう切ったんですけど、まだ大きくなって」


 ムクムクと成長が止まらないセシリア。

 最終的に巨大化が止まったのは、10メイルを超える巨人鬼ギガンテスクラスのでかさになってからだった。


「おっきくなりすぎですよ~(野太い声)」

「あぁ凄い、でかくなりすぎて声が遠い……」

「これどうやったら治るんですか~?(野太い声)」

「多分、時間経過で治ると思う」


 言っているうちに、プラムの体は元の大きさに戻った。


「はやくなおしてくださ~い(野太ry)」


 完全に巨人と小人の図になってしまった。

 するとセシリアはなにかに気づいて、太股をすり合わせる。


「エッチ、見ないでくださ~い(野ry)」

「そんなもん微塵も意識しとらんかったわ!」


 セシリアの巨大化は3分ほど続いてからもとに戻った。


「戻らなかったらどうしようかと思いました! 気をつけてください!」

「すみませんすみません。まさかあんなに魔力を吸収して大きくなるとは」

「セシリアは花の妖精だから、吸収効率がいいのかもしれないな」

「どういうことですか?」

「これからもっと成長するかもなって話だ」

「それはいいですね、もっと大きくなりたいです!」


 嬉しそうに飛び回るセシリア。

 トラブルはあったものの、シエルの特性を理解する貴重な実験ができた。

 彼に相応しいモンスターを見つけるのはまた今度ということになり、一旦のお開き。

 全員がファームに帰っていく中、森の中に残ったプラムが俺を呼び止めた。


「ねぇユーリ」

「なんだ?」

「シエル、女だよ」

「…………」

「鎖通じて向こうの魔力が流れ込んできたけど、あれ女特有の魔力だったよ」


 魔獣兵の鎖は相手の内面的性格や趣向が伝わってくることもあるが、反対にマスターの情報がモンスター側に流れていくこともある。

 特に男の魔力と女の魔力には明確に違いがあり、直接魔力を受け取ればほぼ99%相手の性別がわかる。


「どうする、言う?」

「なんか事情があるんだろ。気にしておくだけでいい」

「でも、帝国兵の格好で幻影擬態魔法カモフ使ってるって、多分やばいやつだよ」

「シエルが俺たちと同じ執行船に乗っていたってのは確実だ」

「あいつが帝国兵じゃなくて、船に乗ってたならあれしかないじゃん」


 そう、犯罪者である。

 現状シエルの正体について、帝国兵に偽装した重罪人という可能性が一番高かった。


「ボクはユーリ以外の人間を信用しない。変なところで裏切られるくらいなら、ボクが始末するよ」

「やめろ。お前は俺のこと好きすぎなんだよ」

「ち、違うし! そんなんじゃねーし!」


 自惚れんなヴォケがと慌てふためくプラム。


「大丈夫だ。シエルは仲間だ」

「なんで言い切れんのさ」

「セシリアが優しい気持ちになれたって言ってたしな。お前も鎖繋がれて、嫌な感じはしなかったんだろ?」

「そうだけどさ……」

「それにもし犯罪者だとしても、事情は様々ある。俺たちと同じで、爆乳禁止法みたいな、バカな理由で島流しになったのかもしれないだろ?」

「む~……それでいざ裏切られた時、困るのはボクたちだぞ」

「魔物に優しくできる奴に悪い奴はいねぇよ」

「すっかり師匠気取りなんだから」


 呆れるプラムを小脇に抱えて、俺たちもファームに戻ることにした。

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