第15話 シエルの相棒 中編

 食後――

 森の中で、俺とプラムは腕組みしながらシエルを眺めていた。


「魔獣兵の鎖の使い方は、さっき言ったとおりだ。鎖は魔物の心臓部ともいえる魔核に直接繋げる。うまく繋げないと怒らせたり、無理やり引きちぎられたりするから気をつけてな」

「は、はい。一時期というか、ここ数年こっそり志していたので使えます」

「魔物使いで一番重要となる相棒バディだが、今回は匠に来ていただいた」


 匠ことドリルビートルさん。

 ちなみに鎖を繋げていないので、ツンデレセリフは聞こえてこない。


「匠は嫌がって鎖を千切ったりすることはないが、ちゃんと命令を聞かせられるかはマスター次第だ」

「はい! 頑張ります!」


 シエルは魔力で編まれた魔獣兵の鎖を、手のひらから伸ばし匠に繋げる。

 匠は拒否反応を示さず、じっとしていた。


「接続は成功。そんじゃ匠に何かお願いしてみてくれ」

「お願いですか?」

「そう、命令を聞かせようとするより、お願いしたほうが最初は聞いてもらいやすい」

「ええぇっと匠さん、空を飛んでみましょう!」

【…………】


 匠はじっとしたまま動かない。


「じゃじゃあ、ご自慢のドリルを回してみませんか!?」

【…………】


 匠は言うことを聞かない。


「で、では歩いてみましょう!」

【…………】


 匠は切り株におしっこをした。


「匠全然言うこときかんな」

「うぅ……どうすればいいんでしょう」

「もう少し意思疎通がはかれるやつにするか」


 次に来てもらった相棒候補はバニラ。


「バニラー、今から鎖繋ぐからうまく命令聞くんだぞ」

「むむ」

「シエル、バニラに声出して命令したらただの指示になるから、声を出さずに鎖を介して命令してみるんだ」

「わかりました」


 シエルが再度魔獣兵の鎖を使うと、バニラの首に首輪と鎖が絡みつく。


「む? む~」


 バニラは鎖を嫌そうにいじっている。


「バニラさん、自分の命令を聞いてください。は~っ……」


 シエルは口を閉じて、多分してほしいことを思い浮かべている。

 だが――


「バニラさん、自分がしてほしいのはこれですよ……」

「む~?」

「は~っ……」

「む~…………くー……」


 バニラはじっと待っているのだが、うまく命令が伝わっていないようで、そのうちコックリコックリと船を漕ぎ始めた。

 俺とプラムはその光景を見守る。


「眠れっていう命令なのかな?」

「絶対違うだろ」


 結局バニラへの命令も失敗に終わり、灼熱丸でも試してみたが同じく失敗。

 フリーダムに木苺を食べている灼熱丸を見て、シエルは涙目だった。


「火を吐いてくださいって命令したのに~」

「ヒトカゲすら使役できない奴、初めて見たかもしれん」

「うわ~ん、習っていた先生からもセンス無いと言われていたんです」


 ここまでうまくいかないとセンス云々ではない気がするな。


「もしかしたら属性相性かも」

「属性相性ですか?」

「人間って絶対得意な属性魔法があるだろ? 自分の得意属性とモンスターの得意属性を合わせるとコントロールしやすくなる」

「えっ、でも先生はマスターの属性マナと、モンスターの属性マナは必ずしも一致しないって」

「その先生に素人は黙っとれって言っておけ」

「は、はい」

「多分だが、自分の得意属性を間違ってる可能性がある。シエルの得意属性ってなんだ?」

「えっと、自分は多分氷だと思います」

「珍しい属性してるな。じゃあ木属性のドリルビートルや、地属性のミノタウロスとは相性があまりよくない。氷モンスターは多分この島にはいないと思うから、氷に近い水モンスターなら相性は良いと思う」

「なるほど」

「ってなわけでプラム、お前の出番だ」

「本当はユーリ以外と鎖繋ぐ気ないんだけどね。ちょっとだけだぞ」

「す、すみません」


 シエルはプラムに鎖を繋ぐ。


「どうだ?」

「ん~……シエル、多分水適正普通だよ」

「ほ、ほんとですか?」

「うん。多分シエルは水得意じゃない」

「それはユーリさんと比較されているからではないでしょうか? ユーリさんは水属性のスペシャリストだと思うので」

「あぁ、俺の得意属性実は闇なんだよ」

「えぇ!?」

「そうだよ。ユーリは闇が得意で、水はまぁ使えるぐらいだったんだよね」

「そう、プラムばっかり使ってたら水も得意になってきたけど」

「そ、そうですか……自分と相性の良い属性はなんなんでしょう……」

「スライム見式で調べよう」

「スライム見式?」

「プラムに自分の魔力を思いっきり流し込んでみてくれ。プラムは注がれた魔力に反応して色が変わる」

「おう、火だったら赤くなるし、光だったら白く光るぞ」

「わ、わかりました! いきます!」


 シエルが魔力を注ぎ込む。

 するとプラムの体が魔力に反応してピカっと光を放つ。

 眩い閃光がおさまると、そこにいたのはフワフワと中空を浮かぶ巨大水饅頭だった。


「「う、浮いてる!?」」


 プラムは空に浮かんでいる上に、驚くほど肥大化していた。

 その大きさ約3メイルほどで、キングでかスライムレベルを超えている。


「これはどの属性なのでしょうか?」

「多分浮かんでるから風だと思うけど、風って普通緑のはずなんだよな。でかくなってるのも気になる」

「飛行系じゃない? 空飛ぶやつ全般。おっきくなっちゃうのはシエルの特性かも」

「ユーリさんがおっしゃっていた、マスターと繋がるとモンスターが特殊能力を得るという奴ですか?」

「そうそう。どうやらシエルはモンスターに、巨大化の能力を付与する力があるのかもしれない」

「でもさ、なんで他の匠や、バニラ達は大きくならなかったんだろ?」

「それは、その……魔力を送りすぎると破裂してしまうのではないかと思いまして。プラムさんなら多分本気でやっても大丈夫かなと……」

「なるほどな、ある程度シエルの魔力をいれないと大きくならないんだな」


 ほんと風船みたいな力だな。


「確かにボク今魔力たぷんたぷん」

「凄いな。プラムっていくら魔力込めてもパンクするなんてほとんどないのに」

「うむ、ボクも初めての経験」


 シエルは並外れて魔力が高いようだ。


「あの、それで自分は何をパートナーにすればいいのでしょうか?」

「飛行っていうと結構広いんだよな。ようは風のマナと相性の良いモンスターだから、代表例だと翼竜ワイヴァーンヘルイーグル悪魔ガーゴイル昆虫系キラービーも悪くはなさそうだ」

「ユーリ、ボクらで良さそうなの捕まえてきてあげようよ」

「そうだな。低レベルで、末永く相棒になれる奴を探してきてやるよ」

「ありがとうございます!」

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