第13話 ゴブリンの巣穴 後編
俺はヒトカゲを大事にカバンに入れて、三人の元に近づく。
あーあーあられもない姿に。
かろうじてパンツは繋がっているものの、ブラはちぎられておっぱい見えてるし。
一番理解できんのが、シエルも服を破られて襲われかけていたことだ。
「なんでお前ヒロイン枠なんだよ」
「さ、さぁ、なぜでしょう?」
三人を縛っているロープを直剣で斬って解放すると、バニラとクリムがわんわん泣きながら抱きついてきた。
「ん~~~~~!」
「ユーリさん!」
「いや、生爆乳四つくっつけられて魔物使い冥利に尽きるな」
クリムは少し恥ずかし気に、バニラは全く気にせず離れることはなかった。
これでめでたしめでたし。
と思った瞬間だった。白い歯を見せたなと言わんばかりに、洞窟内に暗闇の塊が現れる。
白骨死体に青白い炎を纏ったそれは、リッチと呼ばれる上位のゴーストタイプのモンスターだった。
洞窟の天井まで浮かび上がった幽鬼は、こちらを見下す。
俺は濃厚な死の気配に一歩後ずさった。
「まずい、シャーマンじゃなくてお前が呪いの主かよ」
どうやらゴブリンに不死の呪いをかけていたのは
リッチはガストやシャドウのような低級ゴーストとは違い、アンデッドを作り出して自分の手下とすることができる。
アンデッド種の中ではかなり強力な部類で、
「ユ、ユーリさん、ももももしかして、あれお化けという奴では?」
「そうだ。触られただけで生気を全部吸われて骨にされるぞ」
「あ、あの呪いを受けると頭にカウントタイマーがついて、10秒後に死ぬという」
「多分そんな面倒なことせず、即死魔法連発してくると思う」
「はわわわ」
「むむむむ」
腰を抜かしそうなくらい顔面蒼白のシエルと、わたわたと慌てるクリムとバニラ。
「全員岩陰に隠れてろ。即死魔法は相手を目視してないと発動しない」
「それではユーリさんが!」
「む~!」
嫌だと首を振るバニラ。
「シエル、隙を見つけて二人を連れて逃げろ。ファームに戻ったらプラムを連れてきてくれ、頼む」
俺はヒトカゲの入ったカバンをシエルに持たせると、三人を岩陰に隠れさせる。
一対一でリッチと対峙すると、青白い炎を眼窩から漏らし、むき出しの殺意をこちらにぶつけてくる。
「■■■■■____!!」
「全然何言ってるかわかんねぇ」
顎骨をカタカタ鳴らして何か喋っているが、全く言葉になっていない。
どうせぶち殺すぞ人間とか言っているのだろう。
リッチは骨の指に死の魔力を溜めると、
「やっべ、いきなりデスはやめろ!」
慌てて横っ飛びすると、俺の後ろにいたネズミがデスをくらいポテっと倒れた。
音もなくネズミは絶命したのだ。
あまりにもあっさりと魂を抜き取る即死魔法に、鳥肌がたった。
「そんな反則技使うんじゃねぇ!」
俺は転がっていた爆弾弓を拾い、リッチに向かって矢を射る。
しかし矢はリッチの展開した暗黒の障壁に飲み込まれて消えた。
「なにあのブラックホールみたいなの……」
やめて、俺の知らない技使わないで。
「■■■■■__▼▼__■!!」
リッチは魂をもっていかれそうなおぞましい声を上げつつ、両手を掲げる。
すると炭になったゴブリンの死体から、青白い霊魂が抜けていく。
霊魂はリッチの手の中に集まり、暗黒の球体と化した。
「あれが何かはわからんが、当たると多分死ぬってことだけはわかる」
死者の怨念を粘土にして固めたような、怨念玉。
玉からはオロロロと不気味な声が聞こえ、苦痛に歪んだ顔のようなものがいくつも浮かび上がっては消える。
「■■■■■__▼▼__■」
闇元素が収束した呪いの塊。
まずい、あれはあかんやつだ。着弾したら洞窟全体が呪術汚染される。そうなれば、今いる俺たち全員ゾンビ化して、奴の下僕にされる。
「■■■■■__■■__!!」
リッチは呪詛の言葉と共に、怨念玉をこちらに放り投げる。
暗黒の太陽みたいな怨念玉は、ゆっくりとした動きで落ちてくる。
「ダメーー!!」
打つ手なしでお手上げ状態だったが、光を纏ったセシリアがリッチの怨念玉に立ち向かうようにして割り込んできた。
「セシリア!」
「わたわたわたわたしのせいでこんなことになりました! せ、せせせせ責任は取ります!」
セシリアはガタガタと震えながらも、俺たちを助けに来たらしい。
両手を広げる小さな背中だが、その勇気は大きい。
それにリッチにフェアリーはアンチピックだ。
「あ、あわわわ、助けにきたのはいいですけど、あのガイコツさん怒ってますよね!? あの落っこちてくる黒い玉当たるとダメですよね!? かっこよく来ましたけど、もう帰りたいんですけど!」
「来て早々にヘタレるな。セシリア、鎖繋ぐ。拒否するなよ!」
「え、え、え? なんですか?」
俺はセシリアに魔獣兵の鎖を繋いで、即座に魔力を送り込む。
「あー、なんか入ってくるー!」
「セシリア、全魔力を使って思いっきり光れ!」
「えっえっ? わ、わかりました!」
「全員目つぶって頭下げろ! 失明するぞ!」
その場にいた全員が目をつぶると、セシリアの体がカッと輝き、
全てを白に塗り替える光は、リッチの怨念玉すらかき消し、暗闇の魔力を消し飛ばす。
「■■■■■____!!?」
光が晴れ目を開くと、そこには魔力を失った頭蓋骨が転がっていた。
アンデッド族が、なぜこのようなジメッとして暗いところから出てこないかと言うと、単純に日の光が弱点だからだ。特にフェアリー族は日光を体の中に溜め込んで発光するため、リッチにとっては天敵のような存在と言える。
「た、倒したんですか?」
「お前のソーラービームで、悪霊を消滅させたんだよ」
「えっ、わたしってそんなに凄かったんですか?」
「まぁな、お前の発光に俺の魔力を追加して擬似的な光魔法を作った」
「よくわかりませんけど、これからわたしリッチより強いって言ってもいいですか?」
すぐ調子に乗る。でもお手柄なことは確かだ。
鎖を外してやると、セシリアはボロボロになったバニラのもとに飛んでいく。
もじもじとしていたセシリアは、バニラに向かって深く頭を下げた。
「ごめんなさい! いっつも食べられちゃうから仕返しのつもりでした。それがこんなことになっちゃって」
「む」
「ふふふ、セシリアちゃんバニラちゃんは大丈夫って」
「む……ごめんね、わたしかわいいのすき、だから、ごめん」
バニラの謝罪を聞いて、うわーんと泣き出すセシリア。
「いいんですよ食べてももぎっても、わたしも異種族のお友達いないから距離感がわからなくて怒っちゃっただけなんです! わたしと仲良くしてください」
「ん」
仲直りがすんで、セシリアはバニラの胸の谷間にすっぽりとはさまり、お友達に。
「いいなあれ、俺もちっさくなりてぇ」
チラッとクリムの方を伺うと、彼女ははだけた胸を手ブラで隠していた。
「クリム、その格好で歩くの大変だろ、おんぶしてあげるよ」
「えっ、よろしいんですか?」
「生乳背中に押し付けて、じゃなくて遠慮せず乗ってくれ」
「とてもお優しいのですね……」
100%善意だと思いこんで頬を赤らめるクリム。
すまんな95%くらい下心なんだ。
「よし、いくぞ」
「はい」
あっ、これすごい。デカスライムが背中に乗っかってる。
わざと体を揺さぶって感触を楽しんでみる。
「キャッ」
「すまん、ちょっと足がもつれた」
「激戦でしたものね。どうかご無理をなさらないで下さい」
全く気づかれてないので、このまま揺らしながらファームに帰ろう。
その様子を深淵のような瞳で見つめるスライムが一匹。
「心配してきたらこれだよ。フフッ、あとで殺そ」
スライムはとても優しい顔をしていた。
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