第12話 ゴブリンの巣穴 中編
仕方ないやるか。俺は直剣を振りかざし、手近なゴブリンを斬りつける。
「グゲェェッ!」
紫の血を吹きながらあっさりと一匹は倒れたが、俺が一匹を殺すうちに背後から別のゴブリンが飛びつきナイフで斬りつけてくる。
「痛ぇんだよ離せオラッ!」
しがみつくゴブリンを地面に叩きつけ、顔面を踏み潰す。その間にまた別のゴブリンが脚にしがみつき噛みついてくる。足を振り払うと、また背中に飛びついてくる。
「無限ループしてくんじゃねぇ!」
近づくものを斬り殺し、飛び掛かってくるものの口に松明を押し付け、のたうち回る者の頭を踏み潰す。
しかし奴らは数に物を言わせ本気で頭蓋骨を潰すつもりで、石や棍棒でぶん殴ってきやがる。
肉を食いちぎろうと、自分の歯が折れても構わず噛みつき、傷口に汚い爪を突き刺してくる。俺の腕や脚には、奴らの爪や歯が刺さりっぱなしになっていた。
「クソ、痛ぇ」
10、いや15は殺した。だが少しも減っているように思えない。
奴らも数は力と理解しており、これだけ仲間が殺されているのにゲゲゲと笑みを浮かべている。
「だからゴブリンは嫌いなんだ」
ゴブリン討伐はギルドの駆け出しクエストでよく見るが、利口な奴ほどこの仕事は受けない。なぜならゴブリン10匹程度の討伐と書かれていたら、大体その3倍は潜伏している。
新人冒険者の死亡率トップが、実はドラゴンやギガンテスなど強力なモンスターではなく、ゴブリンやインプなどの小鬼系の数による波状攻撃である。
「ゲゲゲゲ」
すきっ歯の口を醜く歪め、薄ら笑いを浮かべるゴブリン。今に見てろ、お前らだって無限じゃないんだから、いつかは数が枯れ……。
「あれ?」
俺は群れの中に、さっき頭を切り飛ばした奴が混じっていることに気づく。
それだけじゃない、胸を突き刺し絶命したはずの者も何食わぬ顔で戦列に戻っている。
「は? どうなってる?」
嫌な予感がして、今しがた首を落としたゴブリンの死体を見やると、首のない体がピクピクと動き出し、頭を探し始めたのだ。
体は頭を見つけると、何事もなかったかのように胴体と接着し、普通に歩き始めた。
「チッ、ゴブリンシャーマンがいるな」
昔死の神ハーデスと契約した魔物と戦ったことがあるが、何度水弾を放っても死ななかった。
肉体が死んでも、ハーデスによって魂が現世に戻される不死の呪いがあるのだ。
俺が斬り殺した10数匹のカウントはリセットされ、不死身のゴブリン軍は包囲を狭めてくる。
「実質無限ってことかよ」
「ユーリさん、後ろです!!」
シエルの声が聞こえ慌てて振り返ると、火がついた弓矢が飛んできていた。
すかさず身をよじってかわすが、火矢は俺の目の前で強烈な炸裂音と共に破裂した。
「ぐあっ!!」
触ると爆発が起こるボンバー茸の胞子が塗られた、天然の爆弾弓。
しかも威力を高めるために、矢じりに大きくて砕けやすいガラス岩が使われており、破裂した瞬間破片が標的に突き刺さるという凶悪仕様。
爆発と散弾を同時に食らい、たまらずその場に倒れこんでしまう。
「痛ぅ……そこいらの蛮族よりよっぽど賢いじゃねぇか」
ひときわ大きいガラス岩が膝に突き刺さり、無理やり引き抜くとブシュっと血が噴き出る。
「痛ってぇ……ハァハァ」
「ゲゲゲゲゲ」
「ギギギギ」
「ゲッゲッゲ」
脚やられたのは致命的だな。不死身な上、後衛もしっかりしてる。こりゃ奴らの方が一枚上手だ。プラムがいないとどうにもならん。
「困ったな」
この見渡す限りのゴブリン包囲網からどうやって切り抜けるか。
「逃げて!」
「ユーリさん、あなただけでも!」
「む!!」
クリムたちがゴブリンの気を引こうと、転がっていた枯れ枝で地面を叩いて音を立てる。しかし奴らはそんな子供だましには乗らない。まずはお前からだと俺を見やる。
「誰がお前らなんかに逃げるかよ」
なんとか立ち上がり直剣を構えて一匹を斬り殺す。だが背後から石を持った者が、俺の頭をかちわる勢いでぶん殴ってきた。
「ぐっ!」
やべ、目から火花出る。
歯を食いしばって耐えたが、まずい視界がくらんでグラグラ揺れてる。
軽い脳震盪を起こして平衡感覚を失っていると、その姿が滑稽に映ったのか、ゴブリンたちは真似をするように目の前でフニャフニャと踊りだす。
「ゲゲゲゲ♪」
また別のゴブリン数匹は既に勝ちが確定したと思ったのか、バニラとクリムの体に張り付き、乳を揉み、その頬をベロベロとなめ始めた。
今から戦利品の強姦ショーの始まりだと言わんばかりに、どいつもこいつもいきり立ったナニを露出させ、こちらを挑発するようにカクカクと腰を振って見せる。
「ギギギギギ」
「イギーイギー!」
ゴブリンはクリムの体を押さえつけ脚を広げると、無理やり間に体を押し入れる。また別のゴブリンが彼女の牛柄ビキニを引きちぎろうと手をかける。
「いやあああ! やめてください! お願いします、お願いします!」
「ママ!!」
バニラが叫ぶと、ゴブリンたちはお前の母親が犯されるところを見ておけと言わんばかりに、彼女の頭を掴んで無理やりその光景を見せつける。
「やめろぉ!!」
「ゲゲゲゲ♡」
ゴブリンはその小柄な体とは全く不釣り合いな巨大なモノを取り出し、繁殖行動をとろうとする。
「やめてくださいやめてください、お願いします何でもしますから」
彼女の涙の懇願は、一部でも正しい心が残っていなければ無意味であり、最初からそんなものを持ち合わせていないケダモノはその声を聞いて、さらにいきり立たせるだけであった。
クリムたちにゴブリンが群がり始めると、俺を囲んでいた奴らもこのままではご馳走を食べそびれると警戒を緩めた。
その隙をついて斬りかかることもできるが、不意打ちで4,5匹殺しても無駄だ。どうせ蘇生してしまう。
なんでもいい、力を借りられる魔物がいれば。
その願いが通じたのか、起死回生の存在が、俺のカバンからピョコピョコと姿を現す。
「お、お前は……」
ゴブリンはクリムとバニラの牛柄ブラを引きちぎり胸を露出させると、ヨダレを垂らしながら飛びつこうとした。
「たすけ……」
「イギー! イギ……イギャアアアアアア!!」
しかしその瞬間、洞窟内にゴォっと真紅の炎が舞う。
炎に顔面を焼かれてのたうち回るゴブリン、ほかの仲間が慌ててこちらを振り返る。
「ほんと、お前らみたいなんだと殺すことに躊躇がなくて助かるわ」
俺はチャッカヒトカゲを手のひらに乗せて、奴らに吐き捨てる。
口端から炎を漏らすちっちゃなトカゲは、かわいらしく小首を傾げており、それを見たゴブリンたちがゲゲゲゲと笑い声を上げる。
多分だが「そんなトカゲで何するつもりだ人間」と笑っているのだろう。
多分この翻訳は当たっている。
「トカゲなめるなよ、森ゴキブリども」
俺はチャッカヒトカゲに魔獣兵の鎖を繋ぎ、自身の魔力を送り込む。
チャッカヒトカゲは戦闘経験を重ねると形態が変化する
ちっちゃな体がカッと光に包まれると、次の瞬間その場にいたのは小さなトカゲではなく、赤い炎を背負うオオトカゲ、フレアサラマンダーだった。
フレアサラマンダー
飛竜科、四足歩行、甲殻竜。チャッカヒトカゲの第二グレードであり、本来なら脱皮を繰り返しながら、全長3メイルを超える巨体に成長する。
熱を帯びた真っ赤な甲殻に、爬虫類特有の縦割れの瞳。ドラゴンのような長い口からは鋭い牙が覗く。マッチ程度の尻尾の火は、背中を焦がすほどの猛々しい炎へとパワーアップする。
呼吸器の発達とともに体内の火炎袋が大きくなり、周囲を火の海に変えるほどの火炎ブレスを吐く。
愛くるしい第一形態からは想像がつかないほど戦闘力が上がるが、気性が荒いためBランク相当の魔獣使いでなければ
「ゲゲッ!?」
一見不死身に見えるゾンビゴブリンだが、奴らにも弱点はある。
それは肉体を完全に破壊すること。
例え魂が戻ってきたとしても、肉体の破損が激しすぎると呪いが効果を成さない。
だからこそ
「骨まで焼き尽くせフレアサラマンダー!!」
命令を聞いてサラマンダーは口から灼熱の炎を放出する。ゴブリンたちは次々に体を焼かれ、汚い悲鳴をあげながら洞窟内をのたうち回る。
「グゲー!!」
「ギイィィィィ!!」
薄暗かった洞窟は炎で真っ赤に燃え、肉の焼ける嫌な臭いで満たされる。
その中で、さっきのアーチャーゴブリンが再び俺に弓を構えていた。
「フレアサラマンダー、レッドテール!」
サラマンダーは燃え盛る尻尾を振り回すと火の粉が散り、発射された爆弾弓が空中で引火して爆発を起こす。
ゴブリンアーチャーはガラス岩の散弾が自身に突き刺さり、地面をのたうち回った。
「からのファイアボール!」
サラマンダーは口に炎を溜めると、巨大な火球を吐き出す。
アーチャーゴブリンは、自分の体よりも大きな炎に飲まれ、小人型の消し炭となって消える。
「いや、炎系モンスター面白いな」
プラムにはない、ゴリ押し戦法みたいなのがある。
残ったゴブリンたちは壊走し散り散りになって逃げ出していくが、その背に向かって灼熱の炎が吹き付けられる。誰もこの洞窟から逃げることはかなわず、残ったのは大量のゴブリンの
「はぁ……あっつ」
復活してくるゴブリンは一匹もいない、どうやら全部完全に死んだようだ。
シャーマンが見つからなかったのは気がかりだが、もしかしたら火炎放射に巻き込まれていつのまにか死んだかもしれない。
俺はぺたりと腰を下ろすとフレアサラマンダーは送り込んだ魔力が切れて、元のチャッカヒトカゲに戻っていた。
ヒトカゲは疲れ果てて、べちゃっとその場に脚を広げて伏せていた。
「ごめんな、無理させて。帰ったら焼き羽虫食べさせてやるからな」
「クケ」
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