第5話 魔大陸英雄伝
「うぉ、人間いるじゃん」
原住民には見えないが、俺たちと同様島流しにあった人間だろうか?
小型ながらも肉食獣竜種で、パワーもスピードもある地竜に跨ったモヒカン達は、先端が輪になったロープを振り回し始める。どうやら何かを捕まえようとしているみたいだ。
獣でも追っているのだろうかと先を見やると、必死に逃げまどう牛の亜人達が見えた。
数は20~30人くらい。ミノタウロスのメスの種で、頭に二本ツノと桁外れな爆乳の特徴から、恐らく
牛柄ビキニを着たホルスタウロスたちは、皆泣きそうな顔で追いまわされていた。
「ヒャー!」
モヒカンがカウボーイのごとくロープを放り投げると、ホルスタウロスの一人が捕縛され地面を引きずられていく。
「爆乳一匹ゲットォ!!」
時速80クロを超えるロードランナーのスピードを全く考慮していないので、ホルスタウロスは激しく地面をバウンドして、皮膚が破け血まみれになっていく。
「ボクあれ知ってる、市中引き回しの刑だ」
「……俺たちは開拓時代にでもタイムスリップしたのか?」
引きつった顔で暴虐行為を眺める。
ホルスタウロスは必死に走るが、ロードランナーとでは圧倒的にスピード差があり、モヒカンたちはすぐに追いついてしまう。
奴らは簡単に捕まえようとはせず、ブルウィップと呼ばれる牛追い鞭でパーンとホルスタウロスのケツを叩きまわしていく。
パンパンと激しい音をたてて叩かれ、彼女たちの尻は赤い筋状の傷跡がいくつもできあがる。叩かれるたびに悲鳴を上げるが、足を止めることもできずひたすら逃げ続けるしかない。その様子を心底楽しそうに見やるモヒカン共。
「オラオラ、乳揺らしてさっさと逃げろ!」
「メスはオレ達に体を捧げろ! オスは皆殺しだ!」
「お前ら全員孕ませて搾乳牧場行きだぁ!!」
「そのでかい乳で一生俺たちに奉仕しろ! 逆らえば殺す!」
モヒカン達の狩りはどんどんエスカレートし、ボーガンで肩を撃ち抜いたり、接近してナイフで致命傷を与えないように斬りつけたりを繰り返している。
傷と疲労で動けなくなったものからロープで捕らえられ、容赦なく引きずられていく。
「おっかしいな、魔物が
モヒカンが跋扈するやべぇ大陸になっている。
ここほんとに魔大陸か? と確認してしまいそうだ。
「ユーリどうする?」
「どうするもこうするもねぇ、助けるぞ」
しかしシエルが慌てて俺たちを止める。
「落ち着いてください。事情もわからずに首を突っ込んでも、事態を混乱させるだけですよ。もしかしたらホルスタウロスさんが悪者で、モヒカンさんが正義という可能性もあります」
「どんだけ薄い可能性追ってるんだよ! 目の前で殺されかけてる爆乳をほうっておけるか!」
「そもそもどうやってあんな遠くまで追いかけるんですか!?」
「それは問題ない」
俺は自身の手の甲に刻まれた獣の刻印をかざす。
刻印から淡いブルーに光る鎖が伸びると、プラムの体内にある魔核に接続される。
「そ、それは」
「
魔物使いのみが使用できるスキルで、鎖が繋がった相棒モンスターを強化したり、魔物使いの魔力をわけ与えたりすることが可能になる。
「行くぞプラム!」
鎖を通して魔力を送り込むと、プラムがぷくーっと風船のごとく人間サイズに膨張していく。俺はその上に飛び乗りスライムライダースタイルで騎乗する。
「キングでかスライムになった……」
「ユーリの魔力で、ボクたぷんたぷん」
「行くぞ、お前も来い!」
シエルを後ろに乗せ二人乗りになると、プラムは「いっくぞ~!」と体を屈める。
「こ、これ何してるんですか!?」
「
「えっ?」
シエルが間の抜けた声を上げると、プラムはゴムボールみたいに地面を盛大にバウンドする。
内臓を全て置き去りにするような浮遊感と共に、草原から景色が一変して青い空が広がる。
「ギャアアアアアア!! 空が、空が近いんですけど!!」
「詩的だな」
ボイーンとバウンドしたプラムは、一回のジャンプで30メイル近く飛び上がったのだ。
「これまさかと思いますけど、このままバウンドしながら追いかけるとか言いませんよね?」
「「イグザクトリー(その通り)」」
プラムのジャンプが最大高度まで達すると、今度は重力に任せて自由落下する。
「ギャアアアアアアアア!!」
美少年兵士のくせにやたら汚い悲鳴をあげるシエルと共に、俺たちはモヒカンへと突撃していく。
◇
「カシラ、森に何人か逃げましたがあらかた捕まえやした!」
「グフフフ、基地に帰る前にちょっと味見して帰るか」
「「「イェー! さすが親分だ!!」」」
「カシラ、空から何かがふってきます!」
「何かとはなんだ、天空城から女の子でも落ちてきたか?」
「そ、それがスライムに乗った男です!」
「スライムゥ? アメーバ程度のモンスターで俺様たちに喧嘩を売るつも——」
俺たちは隕石のような落下の勢いを殺せず、なぜか止まっていたロードランナーをプラムの体当たりで弾き飛ばしてしまった。
「しまった、ストライクショットしてしまった! 許せ地竜たちよ!」
「な、なんだテメーは!?」
カラフルなオウムみたいなモヒカンをした男が、俺を指さしながら震えている。恐らくモヒカンリーダーなのだろう。
「俺の名はユルーク、爆乳を愛し、爆乳の敵を殺す男だ」
「なに……?」
リーダーは辺りを見回すと、吹き出して笑った。
「まさかお前ひとりで来たのか?」
「一人ではない。下と後ろを見ろ」
体を大きく膨らませたプラムが、むんと怒っている。その後ろでシエルが虹色の何かを吐いている。
さっきの
「ぶ、ワハハハハハハハハ! 笑わせるな、でかスライムとゲロ吐き小僧連れて何しにきたんだよ!」
「言ったはずだ、俺はお前らを殺す。爆乳を苦しめるものに死以外はありえん。だが……一応聞いておいてやる、なぜこんなことをする。純粋に可哀そうだろう」
「フハハハハハ、可哀そう? バカなこと言ってんじゃねぇ、ペペルニッチ皇帝が魔王に勝った後、魔族は人間に隷属することが義務になった。それはこの魔大陸でも例外じゃねぇ」
「そんな義務俺は知らん、勝手に法律を作るな」
「いい子ぶるな。先の魔族大戦で人間に負け敗戦者となった魔族は、人間に頭を垂れて生きるしか方法はない」
確かにこいつの言う通り、魔王討伐後生きるのに困った魔族が人間の下で働いている。その中には酷い労働環境で働くものも多いという。
基本的人権保護法は人間には適応されるが魔族には適応されず、それゆえ人間は増長し、際限なく魔族の権利を無視していく。
「お前、見たところ人間だな。くだらねぇこと言ってないで、オレたちと手を組め。爆乳が好きなら一匹やるぜ?」
モヒカンリーダーは、ぐったりとしたホルスタウロスの頭をつかんで無理やり起こすと、牛柄のブラを無理やり引きちぎった。
「グフフ、人間にこんなことをすれば犯罪だが、魔族になら問題はねぇ。ましてここは魔大陸、俺様たちを取り締まるものは誰もいねぇんだよ。略奪を楽しめ。ここはそういう場所だ」
モヒカンリーダーは下卑た笑みを浮かべながらこちらに手を差し出す。
俺はその顔に向かって唾を吐きかけた。
「くたばれ、バカみたいな髪色しやがって」
「フフフッ、おもしれぇ。オイ……殺せ」
命令を受けて斧とナイフ、鎖を持った三人のモヒカン子分が俺の周囲を取り囲む。
「ギャハハハハ! こんなとこでヒーロー気取ってんじゃねぇよバカが、テメェはここで嬲り殺しの終わりのエンドなんだよ!」
俺はプラムの上から下りると、彼女の体が元の水饅頭スライムサイズに戻る。
「スライムもびびって縮んじまったかぁ?」
モヒカン子分が鎖を投げつけると、俺の側頭部に当たり、血がだらりと流れた。
「震えてかわすことすらできねぇじゃねぇか!」
「プラム、水弾」
俺が命令を出すと、プラムはペッと唾を吐き捨てるような動きで水のつぶてを放つ。
目の前で鎖を振り回していた男は、そのまま後ろのめりに倒れた。
「おい、どうしたんだ? 何かぶつかったのか?」
別のモヒカンが確認して戦慄する。
倒れたモヒカンの額に石ころサイズの穴が開いていたのだから。
「し、死んでる! 拳銃で撃たれたみたいに」
「プラムの水弾は圧縮した水を打ち出している。薄い鉄板ぐらい貫通する……頭蓋骨なんか紙同然だぞ」
そこでモヒカンたちは、ようやくプラムがやべぇ奴だと気づいたようだ。
「う、うろたえんじゃねぇ、たかがスライム一匹にビビるな! 囲んで殺せ!」
モヒカンリーダーに鼓舞され、部下たちは手斧やボーガンを握りしめる。
「死ねぇぇぇぇ!!」
「ヒャアアアアア!」
ボーガンの矢がプラムを貫通し、斧が饅頭ボディを叩き切る。
だがプラムは穴が開いても二つに割れてもすぐに元に戻り、不敵な笑みを浮かべていた。
「知らんのか? スライムに物理攻撃は通じんぞ」
一般のスライムなら倒せるかもしれないが、物理耐性と衝撃耐性を持つプラムに武器攻撃はほぼ無意味だ。
「う、うるせぇ! スライムなんか殴り殺し——」
言い切る前にモヒカンが倒れる。プラムが口を尖らせ再び水弾を吐き出していたのだ。
( ・3 ・)こんな頭悪そうな顔したスライムが、まさか頭蓋を撃ち抜くほどの凶弾を放ってくるとは思わないだろう。
「コイツやべぇ、頭を守れ! 即死させられるぞ!」
モヒカンたちは慌ててヘルムを被ったり、剣や斧で頭を守る。しかし
「プラム、アシッド弾」
再びプラムがぺっと水弾を吐き出すと、鉄斧に命中する。
「頭さえ守ってりゃこっちのもんよ、くたばれ!!」
「武器捨てた方がいいぞ」
「はっ?」
モヒカンが自分の持っている斧を見やると、シュウシュウと音をたてて鉄が溶け始めていた。
どろりとこぼれた酸がモヒカンの手に付着すると、皮膚が煙を上げて焼けただれていく。
「ギャアアアアアアッ!! 俺の手が溶ける!!」
「プラムは貫通力の高い水弾と、酸性のアシッド弾をうち分けられる」
「アシッド弾はボクの胃酸みたいなもんだ!」
「頭ぶちぬかれるか、骨まで溶かされたい奴はかかってこい」
俺は口を3型にすぼめるプラムを小脇に抱え、まるでグレネードランチャーのように構える。そのシュールなくせに殺傷能力の高い姿にたじろぐモヒカン達。
「か、かしら!」
「ビビんじゃねぇ、やばいのはスライムだ。男を殺せ!」
「一つ言い忘れたが、俺は魔物使いだ」
「だからなんだ!」
「実はこの場にいるモンスターをコントロールすることができる」
既に俺の手の甲に刻まれた獣の紋章から、魔獣兵の鎖が伸びている。
この場にいるモンスターとは
「グルルルルルル」
「ガルルルルルル」
鋭い牙をむき出しにして迫る、ロードランナー達。
爬虫類特有の縦割れの瞳で、モヒカンたちを威嚇する。
「ひっ」
「俺は魔獣の意志に背いたコントロールは行わない。だが、この地竜達からは、お前たちに対して深い憤りを感じる。おおよそ先のホルスタウロスと同様に、この地竜たちも無理やり従わせているんだろ? 鎖を通じて伝わって来るぞ、こいつらの怒りが」
「か、頭!」
「グルルルルルルル」
「構うな、殺せ!」
モヒカンリーダーは歯向かう地竜に斧を振り被るが、プラムの水弾が斧にヒットし、中空へと弾かれる。
その瞬間地竜たちが、鋭い牙と爪でモヒカンリーダーに食らいついた。
「うああああああっ! やめろ! トカゲ共が! やめろおおおお!!」
よっぽど恨みを買っていたのだろう、モヒカンリーダーの体は四方に引きちぎられ、原型をとどめないほどズタズタにされていた。
「ひ、ひぃ! 頭が!」
地竜が血の滴る口を開け、次はお前だと言わんばかりに子分達に食らいつく。
◇
その後モヒカンは壊走し、ロードランナーはそれを地獄の果てまで追いかけていった。
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