30 2つの特殊兵装
残る震電は3機。
その内の1機が装備しているビームライフルだ。
ビームが射貫いていった破孔やらスラスターのノズルから溶けた金属が飛び散り、私の左手は握力を失っていた。
「チィっ!? これじゃ弾倉交換ができない!?」
幸い、駆動部が完全にイカれたわけではないのか引っかかりはあるもののまだ
左腕は動く。
だが握力が無くなってしまえばライフルの弾倉交換が不可能。
「お姉さん!?」
「ちょっと! まだ
マモル君とU2型の援護射撃によって敵は迂闊に近づいてきてはいない。
いや、それどころか完全に私から距離を取って戦う構え。
震電はスラスターを吹かしながら機体を左右へ振りつつ後退。
U2型のパイロットが言うように止まっていてはただの的になるだけだと再び私は機体を前進させるものの、増加スラスターを装備した私よりも震電の方が明らかに速度性能に優れている。
つまりどの距離で戦うかの選択権は敵にだけ渡されているようなものだ。
無論、いくらケーニヒスが中距離以遠の射撃戦に弱いとはいっても私にだってまだライフルはある。
だが弾倉に残された砲弾は18発こっきり。
予備弾倉はまだあるけれど、左手が物を握る力を失っていては空になった弾倉を交換する事もできず、かといってすぐ後ろのマモル君に代えてもらえるよう暇など敵はくれないだろう。
私の残りHPは6,000ほど。
すでに半分以下。マモル君のニムロッドを庇うために躱せるものも敢えて受けてきたがこれ以上の被弾はさすがにキツい。
「まっ! こんくらいやってくれないと特殊兵器を試す価値もないってもんよ!!」
敵は私たちの接近を許すつもりはなく。
ライフルも弾切れ寸前。
マモル君たちの援護射撃も離れた敵には命中弾を期待できず。
オマケにこっちは皆揃ってHPはそろそろ無駄な被弾を許容できないってくらい。
むしろこんくらいのピンチでなければそもそも特殊な武器など必要ないのだ。
私のケーニヒスには山瀬さんが2つの特殊な兵装を取り付けてくれていた。
特殊兵装は特殊というだけに汎用性は低い。
だが、そもそもケーニヒス自体がそもそも汎用性とはかけはなれた機体なのである。
私の背部バックパックに取り付けられていた2つのランチャーが起動し、それぞれ搭載していた3発ずつの大型ロケット弾が撃ち出されるとランチャー自体は投棄。
「行くわよ! マモル君、全速!!」
「ああ! もう! 行けば良いんでしょ!?」
ビームが頬を撫で、徹甲弾が脚を貫く。
だが私の
それに敵は先に放った大型ロケット弾の対処のために回避行動を優先するようで火線の密度は目に見えて低下していた。
私は全速力で走る。
それは重武装の兵士が機関銃弾の雨の中を駆けるような一般的なHuMoの走りではなく、むしろ短距離を専門とするアスリートがやるような走り方であったであろう。
ライフルをちょっと重いリレーのバトンのように持ったまま駆ける私の全速力はマモル君のニムロッドから少しずつ距離を離していくほど。
6発のロケット弾の内、2発は対空レーザーに焼かれて空中で爆発するが残りも敵の近くまでとんでいき、同じように爆発。
撃ち落とされたものとの違いといえば、自発的に爆発したものは周囲へ大量の地雷を撒き散らしているという事。
「さあ! どうする?
「じ、地雷!? これから地雷原に突っ込めってんですか!?」
「スマート・マインって言ってんでしょ!!」
撒き散らされた地雷の内の幾つかも対空レーザーで撃ち落とされるが、それでも大半は大地へと設置された。
山瀬さんがケーニヒス・ティーガーに搭載した特殊兵装の1つ目。
地雷散布弾頭を搭載したロケットランチャーは直接的に敵を撃破するためのものではない。
現に地雷を踏んでしまった敵、あるいは地雷の近くを通り過ぎようとした敵は炸裂した地雷の被害を受けてはいるが、そもそもが小型の地雷であるので大した被害は受けていないように見える。
だが脚部スラスターに損傷を負い、あるいはバランスを崩してしまった震電はほぼ止まってしまったようなもの。
その隙に乗じて私たちは一気に距離を詰める。
それこそが山瀬さんの目論見。
格闘戦特化型のケーニヒスを振り切るほどの機動性を有する敵を戦わねばならない時のための敵の足を止めるための兵装だ。
敵味方識別装置付きの地雷は私や味方が踏んでも反応せず、そのまま地雷原に入っていけるというのが嬉しい。
あともう少しで敵に手が届く。
そのタイミングになって敵は空へと逃げる事を選択したようで、スラスターの青い炎とともに高くジャンプ。
「逃すかァァァっ!! マァグネッッットォ! アンカァァァァァっ!!!!」
私はそこで2つ目の特殊兵装を使う。
腰部の左右に取り付けられた短砲身小口径砲のような物がポン! と軽い音を立てて先端に取り付けられていた物が撃ち出された。
地雷散布弾頭ロケットが敵との距離を詰めるための兵装だとするならば、これは敵を逃れられなくするためのもの。
極細のワイヤーが付属した電磁石は狙い通りに飛び上がろうとした2機の震電の脛の辺りに命中。
そしてワイヤ-に塗られた液体金属は電磁石内部のセンサーから発された電気信号によって硬化。
私はライフルを投げ捨てて、右腕に2本のワイヤーを巻きつけるようにしながら思い切り引く。
硬化した液体金属と合わさって太さの増したワイヤーもこれには耐えられず途中で千切れてしまうが、それでも2機の震電は大地へと叩きつけられた。
「いぃよっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!! マモル君ッ!!」
「こっちは僕がッ!!」
これまで散々、蜂の巣のしてくれたお礼を兼ねてというわけで、ブン殴ってオシマイじゃ気が済まない。済むわけがない。
私はプールに入るかのよう倒れた敵機へ向かって飛び込む。
狙うは震電のコックピット。
どうせ握力が無くなってロクに使えないならと左肘を敵胸部装甲に叩き込む。
スラスターの加速付きのエルボー・スイシーダだ。
いかに震電が高性能な機体といえど、ケーニヒスの50t以上ある重量の乗った一撃に耐えられるハズもなかった。
チラリと横目でマモル君の方を見やると、彼のニムロッドは蟻の群れを子供が踏み潰すかのように執拗なストンピングを加えているところであった。
「なら、私はァァァ……!!」
私は全身のバネを使って瞬間的に飛び上がると、U2型のパイロットによって撃ち落とされてきた震電を頭が下になるような形で右腕1本で抱きかかえ、そのまま私の質量も乗せて頭から大地へと叩きつける。
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