25 虎の威を借るマモル君

「ちょ、ちょっと、マモル君ッ!?」

「うるさい!! 逃げたいなら、とっと逃げろよッ!! そんときゃ残った弾は置いてってくださいよ!?」


 ゴロツキ乙女もマモルから返ってきた言葉に思わず困惑する。


 たった1機の竜波タイプが救援に駆けつけてから明らかにマモルの様子は変わっていた。


 何も目に見えて操縦技能が上がっていたというわけではない。


 動きは直線的で読み易く、オマケに減速に時間がかかって射撃体勢に入るまでのラグが長い。


 攻略WIKIに書いてあるとおりの「性格に難がある割に操縦技能も平均より低い」というマモルタイプのAIの動きではある。


 だが、戦意は高い。


 ゴロツキ乙女がβテスト時代から所属しているチーム「闘う貴腐人の会」にもマモルタイプを補助AIとしているプレイヤーは何人かいたが、これほど戦意の高いマモルが他にいたであろうか?


 脚の長い竜波が振り下ろした両の手刀によって両腕を粉砕された震電に対してマモルはバトルライフルの砲弾を撃ち込んで撃破。


「なんちゅ~真似してんですか!?」

「モンゴリアン・チョップっていうちゃんとした技よ!!」

「ああ! もう! なんでもいいですからそんなポイポイ武器捨てないでください!!」


 両手を自由にするために直前に放り投げていたライフルをマモルのニムロッドが拾い上げて竜波へと渡す。


 それができるほどにマモルのニムロッドは竜波と近い位置で戦っていたのだ。


 これもゴロツキ乙女が見た事がないマモルタイプの戦い方である。


 マモルタイプのAIといえば、敵を攻撃する機会を逸してでも敵から距離を取りたがるものだとばかり思っていたが、前へ前へと出ていこうとする竜波の後ろにピッタリと付いていくニムロッドの動きを見るにまるでそこが安全地帯アンチとでも思っているかのようであった。


「そんなポンポン撃ちまくって! もう弾倉、3つ目じゃないですか!?」

「いやいや、これ撃っててけっこう楽しいのよね! 後で試してみる?」

「結構です!!」

「それよりも左ッ!!」

「分かってる!!」


 ならば竜波のパイロットの技量が超一流と呼びべきほどのもので、故にマモルが彼女の後ろを安全地帯だと判断しているのか?


 これはゴロツキ乙女にも判断が付かない。


 竜波が装備している57mmアサルトライフルは単発火力が低い割に発射レートが高く、小口径弾を長い砲身から撃ち出しているために近距離での弾道特性に優れている。

 しかも竜波タイプの堅牢なフレームは連射の際のブレを抑制し集弾性も良好。


 竜波のパイロットが「撃ってて楽しい」というのはこの辺りの特性からだろう。


 だが57mm弾は軽量故に貫通力の距離減衰が大きく、震電相手では中距離以遠では当たっても貫通を期待する事はできない。


 だが竜波は目に着いた敵ならば適当にライフルを撃ちまくり、とても牽制のためとは思えないほどに弾を浪費していた。


 だが竜波が見せる機動の数々はそのパイロットをずぶの素人とは言わせないだけのものを見せている。


 大胆ながら繊細。

 精緻のようで豪胆。


 機体各所のスラスターの強弱とともに原型機よりも長くなった脚を上手く使ってステップを踏んで敵の攻撃を回避しているかと思えば、すぐ後ろのマモルのニムロッドのためにあえて避けずに弾を受けるといったような事すらしてのける。


 さらに正面の敵に気を取られて左側から一撃離脱を狙ってビームソードを突き出したまま突っ込んできた震電に対して、竜波はサッと旋回してライフルの連射を浴びせた。


 これにはゴロツキ乙女も舌を巻く。


 今の旋回、角度でいうならば90度程度の小さなものではあったが、その動きに使った時間は明らかに竜波のカタログスペックを軽く超えている。


 パイロットスキル?

 慣性制御技術?

 増加スラスター?


 いや、そんな小細工でできるような動きではなかった。


 踵を浮かせた左脚をサッと回して敵の方を向くなどという技術、少なくともゴロツキ乙女は聞いた事がない。


 まるでHuMoを使ってダンスをしているようである。


 さらに……。


「私の前で膝を付いたならァァァァァ~~~!!!!」

「またですかァ~~~!!!!」


 連射を浴びて転倒してしまった震電が立ち上がろうと大地へ膝を付く。


 それを好機と見たか竜波はスラスターを全開にして飛び掛かっていった。


 そのまま震電が大地に立てた膝を踏みつけて敵の行動を制して、そのまま回し蹴りで首を刈り取る。


 マモルも勝手に動き回る安全地帯から離れまいとその動きに付いていき、着地した竜波が再び残った敵に対して牽制射撃を始めた時には膝を付いたままの震電のコックピットにビームソードを刺し込んでいた。


「はい、ジュ~~~ッ♡」

「マモル君、初めてHuMoに乗る割に余裕あるじゃない!?」

「今日はお姉さんの後ろに乗ってないだけ余裕ですよ!!」

「言ってくれるじゃない? まっ、そうでもなきゃ自分の後ろにトクシカさん乗せて自分に敵を呼び寄せてポイント稼ぎしようだなんて考えないか!」


 まだ敵はこちらの3倍、マモルとゴロツキ乙女の機体は残弾も少ないというのに竜波のパイロットとマモルは随分と余裕を見せていた。


 竜波のパイロット、マモルの担当プレイヤーである少女が言うようにこれがマモルの初陣だとはとても思えない。


「僕がそんな事をするわけがないでしょ!? お姉さんと違って僕の頭の中には脳味噌が入ってんですよ!?」

「はあ!? 誰の頭が空っぽよ!?」

「空だとは思いませんけどね! 脳味噌の代わりに筋肉が詰まってるとは思ってますけど!!」

「なら良いか……」

「良いんかい!?」


 2人の様子はとてもあの震電を相手にしているとは思えなかった。


 震電というのはいわば“壁”である。


 そこから先は何もないハズなのに進めなくなるような見えない壁があったのでは興醒めだと、代わりにプレイヤーたちにそこから先に進めなくなるように用意されたお邪魔キャラ。


 撃破自体がやりこみプレイになるような強キャラ。


 知らぬが仏とでも言いたいのか。

 竜波の少女とマモルの2人のように軽口を叩き合いながら戦うような相手ではないのだ。

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