26 Livin’ On A Prayer
「は、速い!? 速過ぎるでごぜぇますわッ!?」
けたたましく砲身から撃ち出されていく火球と化した砲弾を掻い潜って敵機はライフルを鈍重な砲戦機へと向ける。
「……なっ!?」
黒い敵機のライフルから放たれた閃光は寸分違わずコアリツィアの背部液体装薬タンクを撃ち抜いて爆散させた。
紫電改のサブマシンガンの連射の中でコアリツィアの後ろを取り、かの機体最大の弱点である液体装薬のタンクを撃ち抜いてみせる技量もそうだが、それよりもサンタモニカを驚かせたのが敵機が装備していたのがビームライフルであった事である。
タンタルは撃破される直前に敵機を「震電」とか言っていたが、生憎とサンタモニカはその機種がどのようなものか知らなかった。
だが、その見てくれから雷電や烈風の流れに乗ったトヨトミのバランスタイプだろうと予測を付けていたのだが、震電の異様に素早い動きから高機動タイプかと思っていたところだったのだ。
それなのに武装としてビームライフルを持っている機体もいるとなると話が変わってくる。
高機動タイプはその機動性を発揮するためにジェネレーターの出力を使わざるをえない。
なのに低ランクの機体では静止した状態ですら使う事ができない武装であるビームライフルをあれほどの戦闘機動の最中で使用するなど、どれほどのジェネレーター出力が必要となるのだろうか?
バランスタイプにしか見えない機体が高機動タイプと見紛う動きを見せる。
高機動タイプ並みの動きをしながらビームライフルを使用する事ができる。
つまり目の前の震電とかいう機体はとんでもなく高ランクであるという事だ。
「じ、ジーナちゃん!! マモル君たちと合流を……」
「そんな事を言ったって!?」
これで残るコアリツィアはジーナ機のみ。
サンタモニカの紫電改と合わせてたった2機で12機の震電と戦えるわけがない。
サンタモニカはジーナに前方警戒のために先行していたマモルとゴロツキ乙女との合流を指示するが、自分でもそれが叶う可能性は限りなく低いだろうと思っていた。
マモルもゴロツキ乙女も乗機はニムロッドタイプ。
いかに基本性能に優れたサムソン系の機体とはいえ、所詮はランク4.5と4の機体なのである。
オマケにサブディスプレーのマップ画面を見れば、マモルたちも1個中隊規模の震電と交戦中。
サンタモニカたちがマモルたちと合流できるまで震電中隊の攻撃に耐える事ができるのか?
マモルたちはサンタモニカたちと合流できるまで震電中隊の攻撃に耐える事ができるのか?
両方の確立をざっと計算してみても可能性はゼロに近いと言わざるをえないだろう。
仮に、本当に奇跡か何かが起こって合流できたとしてだ。4機なら2個中隊の震電を相手にして勝てるとでも?
照準を向けるか向かないというタイミングでするりとレティクルから逃れる敵機たちは取り付く島がないとでもいうべきか、本当に倒されるべき敵性NPCがパイロットなのかと疑わしいくらいで、勝算はゼロだと思わざるをえない。
「こ、この……!!」
ジーナもマモルたちがいる方角へ移動を開始しているものの悲しいかなコアリツィアの全速など震電にとっては止まっているも同様。
オマケに事前のレクチャーどおり敵に弱点を晒さないようにジーナは敵へ機体正面を向けながら後退しているのだが、敵は初手の奇襲の後は鶴翼の形になって攻め込んでくるつもり。
つまり、すぐにジーナは側面を取られてしまうだろう。
サンタモニカはジーナ機の液体装薬タンクを敵に狙わせないように自機をジーナのコアリツィアの左に動かしてみるものの、最悪、ビームライフルの火力を考えれば紫電改を貫通したターボ・ビームがそのままコアリツィアのタンクに命中するという事も考えられなくはない。
いや、そもそもビームライフルなら真正面からコアリツィアを撃破できるなんて事も考えられる。
「きゃっ!?」
「ジーナちゃんッ!!」
そのまま呼吸が止まってしまったのではないかと心配になるような短い悲鳴。
移動しながらライフルと主砲の水平射撃で牽制射撃を行なっていたジーナ機の頭部が無くなっていた。
胸部装甲の首に近い部分に融解した後がある事からビームライフルで撃たれたのだろう。
ジーナ機の射撃の精度を落としてから仕留めるつもりなのか、狙ってやったのならば回避行動を取りながらで恐るべき精度である。
いや、砲もライフルもそれぞれ1機にしか向けられないという事はそれ以外の敵はフリーという事なのか。
サンタモニカは歯噛みしながらジーナ機を狙う敵機へ牽制射撃を繰り返すものの、やはり紫電改1機では限界がある。
「弾かれた!? 装甲も硬いって事でごぜぇますの!?」
すぐにジーナ機もメインカメラからサブカメラに切り替えて射撃を再開するものの、やっと出た命中弾も入射角が厳しかったのかあらぬ方向へと弾かれて飛んで行ってしまう。
トヨトミ系のバランスタイプの装甲など、いくら角度が付いていようと命中したなら砕けるか抉り取られるかどちらかだと思っていただけにこれには眩暈のするような錯覚すら覚えるほどであった。
「……しくじりましたわね。ジーナちゃん、諦めてガレージにもどりましょうか?」
ついにサンタモニカの口から諦めの言葉が出た。
マトモに遊ばせるつもりがあるのか開発者に問い詰めたくなるほどの回避行動にライフルの砲弾を弾くだけの装甲。
おまけにHPも馬鹿高いとなれば諦めたくもなるだろう。
きっと自分たちはどこかで間違えたのだ。
きっと震電は戦って勝てるような相手ではないのだ。
きっと震電と戦わないような立ち回りをしなければいけないようなイベントだったのだ。
考えてみれば、このイベントに参加できるのは前回のバトルアリーナイベントで上位100位に入賞した者と、入賞者が連れてきた者だけが参加できるものなのだからそれなりの高難易度のイベントだったのだろう。
ならばクリアできなくとも何の問題があろうか?
「ログアウトを。一時ではなく完全ログアウトを」
「嫌です!」
サンタモニカはジーナに苦痛を与えないようゲームからログアウトする事で自分もろともジーナをガレージへ戻そうとした。
だがいつも聞き分けの良いジーナが担当プレイヤーの指示を拒否する。
「ここで私たちが敵を抑えておけばそれだけマモル君たちは楽に戦えるんです。用事があるとかならともかく、負けたくないからログアウトだなんて嫌です!」
「敵を抑えておけばって……」
「だから、どうせ勝てないなら惨たらしく死ぬまで一緒に戦ってから帰りましょう」
全速で後退しながら敵を抑えているとは物は言いようとも言えないと思う。
マモルたちが楽に戦えるだなんて、自分たちが今現在戦っている相手と同規模の敵を相手にしている彼らが楽に戦えているとかサンタモニカには発想もできない。
そもそもプレイヤーのログアウトの指示を補助AIが拒否するだなんて思いもしなかった。
「勝ちたいなら! 辛くてもしがみついていかなきゃいけないんです!!」
それは戦場に響きわたる砲声に負けないほどの叫びであった。
「私たち、ゲームを始めてすぐの頃はいつも負けてばかりでした。あの頃と今、何かが変わったと思います。きっと勝利に貪欲になる事を知ったから!」
ジーナ機のライフルから弾倉が飛ぶ。
弾切れだ。
マモル発案でライフルに取り付けた防盾も数度の被弾によってもはや装甲の用をなしていない。
その隙を狙って4機の震電が飛び込んでくる。
2機はジーナへ、残りはサンタモニカへ。
「くぅぅぅッ……、このッ!!」
ビームナイフを突き出してきた敵機に対して、ジーナはライフルを盾にして防いでお返しに180mm砲の接射で反撃。
高ランクの震電の装甲も至近距離からの大口径弾の直撃には耐えられずに左腕を肩の付け根から吹き飛ばし、その衝撃で転倒させる事に成功した。
だが、もう迫るもう1機へは打つ手が無い。
装薬分離式のコアリツィアの180mm砲も瞬間的な連射はできないのだ。
「ジーナちゃん!?」
「きゃああああああああッ!!」
サンタモニカも2機の震電に接近戦を挑まれてジーナの救援の援護に行けない。
それどころか敵機のビームソードで左腕を切断されてしまっていて、こちらもピンチ。
だが、ジーナのコアリツィアへとビームソードを振り上げて飛び掛かってきた敵機へ肩からの体当たりを行なった者がいた。
ジーナとサンタモニカにとって馴染みのある雷電陸戦型。
「お、お兄ちゃん!?」
「ジーナぁ! よく言った!! 俺たちゃしがみついて生きていくしかねぇんだ!! 上手くいくかは知らねぇけど、きっと上手くいくって祈りながらな!!」
駆けつけてきたトミーは体当たりでバランスを崩し背面を晒した震電へサブマシンガンの連射を浴びせる。
さしもの震電も装甲の薄い背中への攻撃は耐えられないようで撃破こそできなかったものの、機能不全に追い込んで行動不能へと陥らせたようだ。
だが他の震電の攻撃でトミーの雷電は頭部を破壊されるも、それでも彼の闘志は衰えた様子を見せない。
「ハッハ~~~!! これで兄妹仲良く首無しだなッ!?」
「もう! 何しにきたの、お兄ちゃん!!」
口では兄へと文句を言いながらもジーナは値千金の時間を貰い予備の弾倉を装填。
先ほど敵機からの攻撃で損傷した箇所は幸いにもストック部、内蔵していた予備バッテリーは使えないが機体本体から給電する事で十分に使用可能である。
だが、それ以上にジーナ自身が兄の登場にこれ以上ないほどに嬉しそうな声色であった。
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