57 突入、アイゼンブルク
地響きを立てて崩れ落ちる黒のテルミナートル。
その背から飛び降りたミラージュ・シンのコックピットの中でヨーコは何とも言えない後味の悪さを感じていた。
だが、それもほんの一瞬の事。
「ヨーコちゃん!!」
「後は私たちに任せてアグちゃんを!!」
「援護は任せて!!」
火盗改に、駆けつけてきた他の「戦う貴腐人の会」のメンバーも合わせて100機以上のミーティアが戦列を作る。
「突撃ッッッ!!!!」
「済まねぇ!! 皆ァ!!!!」
自分の中でもやもやと燻る言葉にならない何とも言えない奇妙な後味の悪さ。
ヨーコの背を押したのは近くにはいないカトーの言葉であった。
最優先事項はアグの救出。
何と言えばいいのかすら分からない感傷などこの場に捨てていけばいい。
ヨーコをそのように仕立て上げた元凶の1人こそ、つい先ほど仕留めた機体の中にいたとすら知らずにヨーコは機体を浮かび上がらせる。
そのままミラージュ・シンの爆発的な推力で要塞まで突っ込んでいく。
敵も雑兵の数はまだ多いが核となる中ボス連中を撃破され浮足立ったところに白いミーティア群の突撃への対処を余儀なくされ、高速で戦場を駆け抜けていく深紅の小型機の相手をしている余裕は無い。
迷いを捨てたヨーコの意思が宿ったかのように、ミーティア隊の意思に押されて流星になったかのようにミラージュは飛ぶ。
一直線に。
虎Dたちが守る突入予定地点めがけて。
「……へへっ、皆、酷え有り様だなぁ、おい!」
ヨーコの視界が涙で滲む。
ぼやける目でなんとか要塞に辿り着いて、それでも彼女の口から出たのはハイエナらしい悪態であった。
「そっちこそ。随分と小っちゃくなっちゃったみたいじゃないですか!?」
「遅かったじゃないっスか!?」
「もうちょっとでウチの馬鹿、死ぬとこでしたよ」
虎Dの
橋頭保を死守するために多勢に無勢の戦いを続けて被弾を重ねた3機はいずれも砲弾に穿たれ、装甲の至る所がヒビ割れて、あるいは欠落していた。
「悪ぃ、悪ぃ! ちょいとしつこいアマでよ」
「なあに、まだやれるんだろ?」
カトーのレドーム付きのミーティアは一体どのような戦い方をしていたのかヨーコも言葉には出さないが眉間に皺を寄せるほどに焼けただれていた。
白かった装甲は煤で黒く汚れ、機体表面のあちこちは溶けて歪になっている。
「あたぼうよ!!」
「ならば良し。為すべき事を為したのならば儂らからは何も言わんよ」
総理の竜波に至っては機体の上半身の装甲のほとんどが無くなっている。
それも装甲排除機能を使ってパージしたというよりかは無理矢理にむしり取られたかのような……。
総理たち5人は揃いも揃ってボロボロもいいとこ。
だが、生きている。
仲間たちが激戦を無事に生き延びて減らず口を返してきてくれる。
それだけでヨーコの目頭は熱くなるのだった。
しかし彼女たちの目的はまだ果たされたわけではない。
「さあ! 後は打ち合わせ通りに」
「ああ!! 3人とも死ぬなよ!!」
ヨーコの到着とほぼ同時に総理とカトーはHuMo用エレベーターシャフトへの突入を開始する。
それにヨーコも続いて、後に残されたのは虎Dにマサムネ、クロムネの3機のみ。
3機はここで退路を確保する役目となる。
「……それにしても虎さんはもしかして私のミラージュの事を知っていたのかな?」
エレベーターシャフトを昇った先の格納庫でヨーコはふと思った事を口にする。
「さあてな?」
「仮にヨーコちゃんのミラージュがフォトン兵器を装備している事を知らなくても、要塞内の隔壁がクソほど頑丈だって事も知らなかった可能性だってあるじゃろ?」
ミラージュ・シンが格納庫の壁をフォトン・ソードで切り開いているその後ろで総理機の拳とカトー機の刀が敵を撃破していく。
本来ならば機動要塞アイゼンブルク内部の通路は現実世界の古い城下町がそうであるように進行してくる敵を惑わすために迷路のように入り組んだ構造となっている。
だがヨーコのミラージュ・シンにとっては関係無い。
装甲防御を無効化するフォトン兵器は要塞内の内壁を切断してショートカットする事を可能としていた。
イベント用のステージとしての側面のあるアイゼンブルクの壁を破壊するなど運営側も想定外。
ヨーコとその愛機にのみ許された暴挙といえよう。
ヨーコが疑問に思ったのは壁の材質がプラズマ・ビームなどでは切断できないような代物で作られているというのに、何故に事前の打ち合わせでは虎Dはショートカット用のルートを教えてくれたのかという事。
総理とカトーに取っては虎Dが要塞内の情報を知っているのはむしろ当たり前の事であるので適当にお茶を濁して敵を排除しつつ少しずつ3機は前進。
「ええと、そろそろ虎さんの話にあったアグが囚われているんじゃないかってポイントその1、管制室だな……」
HuMoで進める所まで進み、そこからヨーコと総理は機外に降りての行動となる。
事前に線量計で測定してみるとやはり要塞内にも開口部から放射能物質が入り込んでいるようではあったが、事前に3人は放射能除去キャンディーを摂取済み。
とはいえ3人とも機体から降りてしまうと敵に機体を奪われる恐れもあるためにカトーは残る事となっていた。
「……2人の事、頼んだよ」
「ああ、今度こそ守り切ってみせるさ」
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